♪〜 遅れて来た名機 ジオンの生命線 生産の鬼 はぐれ者小隊 自殺機など、許さん! いや、やってもらおう 水面下の決意 錯綜する命令 混乱する現場 上には、わからんよ スネークル! スネークル! 脱出 絶望 そして、 Good Luck・・・ (エーックス・・・) 宇宙要塞ア・バオア・クー。 「勝利の塔の守護者」の名を冠するこの要塞に、軍需財閥各社から出向した技術者達の一画があった。 「遅れて来た名機」ゲルググ。 連邦の主力モビルスーツ、ジムを圧倒する性能を持つ、一年戦争最強の量産機。戦局の逆転は、このMS抜きにありえなかった。 生産効率を上げるため、軍の指導により各社共同生産が決まり、その場所に、もっとも安全なこの要塞が選ばれた。 安全な、はずだった。 ゲルググ生産主任、T大尉。妥協が嫌いで、生真面目な男。初めての大役に、はりきっていた。毎日生産ラインをチェックし、毎週少しずつ、生産効率を上げた。 「生産の鬼」と呼ばれた。10月に生産を開始してから、ほとんど寝ていなかった。 オデッサ陥落のニュースにも、資源割り当てに減少がないかどうかを確かめるだけだった。 ゲルググ生産設備警備部隊、スネークル小隊。技術者達から「お飾り部隊」と呼ばれる、高機動ザク3機の小隊だった。 小隊長のW中尉は、座学をまるでする気がなく、士官学校を退学させられた札付きの男。不思議なカンで、手柄をあげてきた。 パイロットのGとIは、しらふの時はおとなしかった。2人とも、飲むのが趣味だった。 誰も、彼らには期待していなかった。 ソロモン陥落。だが、テスト中のゲルググを強引に奪い取ったエースパイロットの活躍で連邦の艦多数を撃沈。 その報に、技術者達は、歓声を上げた。 「なあ相棒、こいつら、アタマおかしくないか?」Iが、酒臭い息でGに言った。 「今ごろ気付いたのか?」Gは手にした小ビンを、一気にあおった。 「こんなところで、飲むな!」いきなりTが駆け寄り、平手打ちを食わせようとした。 空を切った。 「ふーん。やっぱりなあ」Iは何もなかったように歩き出した。 「何が、やっぱりだ?」Gはもう一度あおって、ビンをポケットにしまい、歩き出した。 「いや、なんとなくさ。じゃあな」Iは、あくびをしながら自室に戻った。 よくある光景だった。 生産現場は、殺人的な忙しさになっていた。 Tは、司令部付参謀のM少佐に呼び出しを受けた。いやな感じがした。員数合わせのM。無茶で、非情な男だった。学徒兵の大量採用計画を発案し、その責任者になっていた。 「完成したばかりの機体に、調整なしで素人パイロットを乗せる? 正気で言ってるのか!」Tは、激怒した。完成した機体は、最低でも2,3日の調整が必要だった。 「最低限、アンバックの調整をしないと、着艦すらできないんだぞ!」Mは、薄笑いを浮かべたままだった。 「発艦ができればいい。どのみち、学徒兵たちは、アンバックの訓練を受けていない」Tは、平手打ちを食わせた。Mは、薄笑いのまま、メガネのずれを直した。 「要塞周辺の移動砲台になってくれればいい。まぐれ当たりだって、あるだろうし」 「自殺機など、許さん!」 「いや、やってもらおう」 結局、階級の違いには逆らえなかった。Tは、肩を落として自室に戻った。ソロモンを落とした連中が、すぐそこまで来ているんだ。Tは、確信した。 翌日から、あどけない顔の少年たちが機体を受け取りに来た。 「壊すなよ!」無理に笑顔を作るTの顔は、やつれていた。 レビル将軍率いる連邦の大艦隊が来るという噂は、一撃で敵を壊滅させる究極の新兵器の噂にかき消された。 新型機長期運用試験のためという名目で、Tから発注を受けた備品課長は、少し首をかしげた。 大量の輸送用コンテナ、水と食料、2隻の補給艦。だが、Tに対しては、最大限の便宜を図るよう、命令が出ていた。まあいいか、補給艦なんか、どのみち役に立たないんだし。 生産現場は、Tの命令で、3交代24時間稼動態勢になった。Tの子飼いの部下だけが、ぶっ通しで生産ラインの間引き作業を行なっていた。極秘の新兵器を秘密の場所で開発するらしい。そんな噂が、流れた。 生産ノルマは日に日にきつくなり、エースパイロットへのカスタム機製作など、様々な命令が場当たり的に下された。Tは、間引きされた生産ラインと人員で、ノルマを達成していった。必死だった。 その日、ギレン総帥の演説が流れた。敵の半数以上が壊滅だって? コロニーレーザーなんて、可能なのか? 技術者たちのひそひそ話が、耳に入った。 「敢えて言おう、カスであると!」嘘だ。Tは敗北を確信した。やがて、ミサイル一斉発射の震動が、要塞を揺るがせた。 Tは、補給艦の出動を要請した。間に合うだろうか? 「今、それどころじゃないよ! なんとかするけど、あてにしないでくれよ」そっけない言葉が、返ってきた。 Tは司令部命令として、疎開の準備を始めさせた。皆、だらだらと支度をした。危機感など、まるでなかった。 早く来てくれ。Tは、泣き出したいほどの焦りを感じていた。 ベイに補給艦がついたという知らせが、ようやく来た。 Tが技術者達を向かわせようとした時、 「どちらへおでかけかな?」M少佐が、2人のMPを連れて、出口に立っていた。 「敵前逃亡は銃殺。裁判は不要だ」MP達が銃を構えた。Tは、目をつむった。銃声。 狐につままれたような面持ちで、Tは目を開いた。MP達が、倒れていた。 「大人しくしてないと、ホントに殺すぞ」Iが銃を構えたまま、言った。 Gは、銃を持ったまま、酒をあおった。 「T大尉、上には、わからんよ。現場の苦悩なんてのは」W中尉は、Mのところへ行くと、短銃をMの頭につけた。 「貴様、叛乱するつもりか!」Mの精一杯の虚勢に、Wはあくびで答えた。 「そのつもりだ。こんな害虫なら、駆除してかまわんだろ?」 「いや、殺さないでくれ」Tの言葉にWは笑った。 「おやさしいこった。まあいい。おいG、こいつら縛っとけ。Iはザクで、コンテナ運べ」 「隊長、俺の機体はバズより重い物は持ったことないんですぜ」 「つべこべ言うな」Wのハンディトーキーが鳴った。 「スネークル小隊、状況を知らせよ」 「わが小隊は、優勢なる敵軍と遭遇、ザク3機をもって、突撃を敢行せんとす。もとより生還は期せず。ジオン公国に栄光あれ」 「スネークル! スネークル!」Wはトーキーを放り投げると、短銃で撃った。命中した。 「相変わらず、隊長のジョークは笑えねえや」Gがあきれて言った。 やってきた補給艦はパプア1隻だけだった。足の遅い定員オーバーの旧式補給艦。 敵の攻撃はますます激しさを増していた。Tは神に祈りたくなった。 「おい」Wが何かを放ってよこした。コインだった。 「それは幸運のお守りだ、それを持っている間、戦友はけが一つしなかった。俺もな」 「中尉」 「ザクで先導する。全速で逃げ出せ。何とかなりそうな気がする。こんな時は、大丈夫だ。きっと」 幸い、脱出直後の敵の砲火は薄かった。だが、 「サラミス、接近!」 「待ち伏せをかける。敵の砲塔がこちらへ動き始めたら、急接近してブリッジをつぶせ。3機がかりなら、なんとかなる。無駄死にはしない」 「相変わらず、笑えねえジョークだな」 「何か言ったか」 「いえ!了解であります」 Tは遠ざかっていくザクを見つめていた。 「小隊長機より、発光信号です。・・・・Good Luck」 Tは、コインを握りしめ、もう片方の手で敬礼した。 「隊長、サラミス、変針! 反転します!」 「よし、逃げるぞ」 サラミスは、要塞から急発進してきたザンジバルに狙いを変えた。ザンジバルの撃沈で、要塞の表面が見えなくなった。 Tは、生き延びることができた。 ♪〜 Tは、戦後、中立の救助組織を設立した。それは、かつての地球で、赤十字が行なっていた活動だった。 中尉にもらったコインを返したかった。御礼を言いたかった。 その代わりの活動だった。 コインは返せただろうか。組織で救助をするたび、Tは心の中で中尉に語りかけている。 ♪〜 生産ラインを守れ! ―たった一小隊の叛乱―        終 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (クニイ)Tさん、お疲れ様でした。 (T)いえ、結局、中尉には何もお返しできなかったですから。せめて中尉のことだけは、語り残したいと思いまして、それだけなんです。 (クボジュン)は? あ、あの、ディレクターから、Tさんにお電話だそうで、Wと名乗っておられるとか。 (T)中尉!中尉なのか! (W)あのコインはなあ、戦友の形見でもなんでもない。ただの気休めだ。それを言いたかっただけだ。じゃあな。 (T)中尉! 相変わらず、ジョークの笑えない男だった。