「この不祥事を公にしては、スペースノイドどもの増徴を招くばかりだ。困難な任務だが、頼む」 「閣下、ご心配なく。憲兵隊の誇りにかけて。未来永劫、GPの名は世に出ません。GPなど、もともと存在しなかったのです」 GP。その名は長く封印されてきた。 ガンダム開発計画。最強の機体を生み出しながら、全てが封印された。 連邦軍史料編纂所のJ。定年による年金支給開始を待つだけの、窓際族だった。 何もしてこなかった、それで満足だった。 たった一つの言葉が、彼の運命を変えた。・・・白バラ。 これは、真実を求め続けた男の 孤独な戦いの、ドラマである。 ♪〜 欠けたピース ジョン・コーウェン 謎の言葉 白バラ 憲兵隊 重営倉送り なぜだ! 本当のことを知りたいだけなのに 除隊 調査 そして、無駄足 特秘命令 敵は・・・! 生き残りを探して 意外な突破口 最後の賭け 封印は 解かれた プロジェクトX 技術士官達 亡霊との死闘 −GP発掘作戦− 「こんど飯を食いに来てくれ」 その日、Jのところに、飲み仲間から電話がかかった。軍保安局の資料課長、窓際同士、うまが合った。「一緒に遊びに行こう」という意味の電話だった。 翌日、公休を取ったJは、博物館に連れて行かれた。「今日のメインディッシュは、掘り出し物だぞ」メカ好きの課長は浮き浮きしていた。 老朽化した戦艦を解体前に特別公開するという。ティターンズ艦隊最初の旗艦「アルビオン」。ティターンズが無理やり博物館に押し付けたものだそうだ。 特別にブリッジだけ電源がつながれ、Jは初めて見る戦艦のブリッジをあちこちいたずらしていた。課長は説明担当官と一緒に機関部へ行っていた。 ディスクが一枚、残されていた。交信記録ディスク、数十年分は記録できるタイプだ。これは、いい時間つぶしになりそうだ。Jは、何気なくディスクをポケットに入れた。 次の日、Jは「アルビオン」関係の資料をそろえた上で、ディスクを自分の端末に読み込んだ。一度もビームを撃ったことのない旗艦。あまり面白くはなさそうだった。 だが、記録にあったのは戦争だった。実戦の緊迫感が、経験のないJにも伝わってきた。デラーズ戦役のようだったが、資料ではその時「アルビオン」は完成前のはずだった。 コーウェン閣下? シナプス艦長? 手持ち資料のどこにも、そんな名前はなかった。デラーズ戦役の教訓から設立されたはずの「軌道艦隊」さえ記録に登場してきた。 どうなっているんだ。Jは困惑し、課長に二人を調べてもらうよう頼んだ。「まあ、どうせひまだからな」 それがどのような結果をもたらすか、お互い考えもしなかった。 「今から来れないか? みやげがあるんだ」Jは勇んで保安局近くの喫茶店へ行った。 「やばいかもしれん。なかったことにしてくれ。もう連絡は、無しだ」 小型ディスクをJに渡すと、課長はすぐに出て行った。コーヒー代はこっち持ちか。Jは釈然としないまま見送った。 機密資料の軍事法廷速記録。Jは、手持ちの資料がすべて嘘であることを知った。 本当にやばい話だ、どうする。だが、結局、Jにはもう、失なうものは何も無かった。 交信記録を詳しく探っていくと、「3号機のいる白バラ」という言葉が、ある時期急に頻度が多くなっていた。白バラが場所の名前であることには、間違いなかった。 かつてのソロモンをコンペイ島と呼ぶ当時の連邦に、秘匿の意識は皆無だった。 必ず、この名前が導いてくれる。Jは、手土産を持って、各局の窓際族たちに接触した。 航路局の宙図課長が、反応した。 「どこかで見た覚えがあるんだが、思い出せないな。古い宙図には間違いないと思うよ」 最近の航宙図に、白バラを連想させる名前は、まったくなかった。 Jは、デラーズ戦役当時のデータにあたらせてもらった。 ? ラヴィアンローズ? 「憲兵隊だ! 動くな!」 突然資料室に入ってきた数人の兵が、銃を構えた。Jは、呆然と両手を上げた。 「保安局からの要請だ。貴官の身柄を拘束する」そう言って、士官はJに手錠をかけた。 あいつが、密告したのか。真っ暗な営倉の中で、Jはそればかり考えていた。 「なぜだ!」はじめての取調べの時、Jは叫んだ。 「軍機だ」それ以上、説明はなかった。Jは、おのれが反政府ゲリラにされていくのを、ただ眺めているしかなかった。 懲戒免職、市民権剥奪、社会的信用のすべてを、奪い取られた。 あれほど楽しみにしていた年金もふいになったが、もうそんなことはどうでもよくなっていた。 本当のことを知りたい。皮肉なことに、何もかも失なってやっと、Jは生きる意欲を感じた。 ディスクも端末も、すべてが抹消されていたが、おのれの記憶は、消去されていない。 探し出してやる。孤独な戦いが、始まった。 (クニイ)スタジオにゲストをお招きしております。Jさん、それまでの生活のすべてを失なったわけですよね。 (J)生活というか、あの時まで、何もしてなかったですから。失なった・・・というより、始まったという感じが強かったです。 (クボジュン)さて、調査を開始したJさんですが、その前には大きな壁が立ちはだかっていました。 軍には、緘口令がしかれていた。 すべての記録や資料は、改ざんされていた。 俺には友だちなど、本当はいなかったんだ。思い知らされた。 興味本位で情報をくれる者もいた。ほとんどが捏造だった。 やばい話は、お断りだ。記者やライターは、必ずそう答えた。貯金が、底をつこうとしていた。職につける見込みは、まったくなかった。 士官学校で一番毛嫌いしていた同期の男から、呼び出しが来た。憲兵隊の防諜課長になっていた。また、逮捕か。食費の心配をしなくてもよくなるが、調査ができないのはつらかった。 「命令だ。アルバイトをしろ。廃棄する書類の整理だ」渡された書類に、GPの名があった。 「これは・・・」 「礼など言うな。これは貴様を監視下に置くための処置に過ぎん。俺は貴様の顔など、見たくもない」Jは、一室を与えられた、監視用の独房として。 書類は、「特秘命令」と題されていた。GPに関連する情報の封印と改ざん、抹消。期間は無期限。命令者のサインは、ジャミトフ・ハイマン大将。 軍のトップから、直接憲兵隊に下された特別命令。ティターンズが存在しなくなっても、命令は残る。それが、官僚機構というものだ。 敵は、過去の亡霊だった。だが、亡霊を守る墓守たちは、過去のものではなかった。毎日整理する書類には、墓守たちの生々しい活動が、記されていた。 休日には、あちこちの老人収容施設に、デラーズ戦役時代の生き残りを訪ねた。監視が3名、ついた。どんなささいな断片でも欲しかった。だが、もう彼らの記憶は、役に立たなくなっていた。 ラヴィアンローズ、その名前は、アナハイムの記録からも、削除されていた。 花の名前、名前だけが、残されていた。人の名前、名前だけが、残されていた。 亡霊との戦いは、虚しさとの戦いだった。憲兵隊が、Jに機密情報を扱わせる許可を与えた意味を、Jはようやく理解していた。拷問以上の拷問。 もう何も、残っていないんだ。何度も何度も、その思いに飲み込まれそうになった。それでも、知りたかった。意欲は、消えなかった。 亡霊と戦う以上に、虚しいことがある。Jは、あるとき、ふと気づいた。そして、その虚しさの持つ意味を、少しずつ理解した。 防諜課長から、呼び出しが来た。 「もう充分わかっただろう。希望があれば、もっと害のない雑用をさせてやるが、どうだ」課長は金属的な声で言った。 「その通りだ、やっとわかったよ。すでに滅び去ったものを守るほど、虚しいことはない」課長の表情が、動いた。Jは小声で続けた。 「俺を逮捕してくれ。不法侵入と、軍機密の漏洩だ」課長の表情が、崩れた。 「俺たちを解放してくれるというのか?」 「こんなことを代々続けたい者など、いないだろう」 課長は無言で部屋の外に出た。Jはあわてて付いて行った。 課長は意外な部屋のドアを開けた。人事考課資料室。 「ここの記録は、百年保管する規則になっている。何をどのように改ざんし、抹消したか。そのすべての記録だ」 課長はパスワードを入れ、データを呼び出した。Jは、息を呑んだ。 「このプログラムは、選択した情報をランダムな数ヵ所へ無理やり送りつけ、一定の期間を置いてから、行った先の端末で同じことをする、こどもだましのウィルスもどきだ」 「君が組んだのか?」 「防諜課の上司が、退役するときにくれた。その上司も、誰かからもらったらしい」 課長は言葉を切り、Jを見つめた。 「このキーを押せば、重営倉に何十年か、くらいこむことになる。実質、終身刑だ。いいのか?」 「かまわない」Jは即座に答えた。うれしかった。Jの笑顔を見て、課長はつぶやいた。 「青い鳥を、一番近くで見つけた、という顔だな」 「違う!」Jはキーを押して、言った。 「青い鳥は、一番遠くにいるんだ」 ♪〜 逮捕されたのは、課長だけだった。 終身刑。軍規は、軍規だった。 Jは、フリーライターとして、ガンダム開発計画とデラーズ戦役について、書き続けている。 憲兵隊の資料でも、はっきりとはわからなかった、幻の4号機。 できれば、死ぬまでに明らかにしたい。 Jはまだ、戦い続けている。 〜♪ プロジェクトX 技術士官達 亡霊との死闘 −GP発掘作戦−    終