−予告− 忘れられた戦線と呼ばれたアフリカ戦線。 想像を絶する地球の自然環境との戦いに、勝利し続けたジオンの整備兵たちがいました。 次回は、「スイーパー」と呼ばれる隊長に率いられた独立工廠隊、 「マザー・ネセシティ」の活躍を描きます。 (エーックス) 一年戦争当時、連邦から「MSの墓場」と呼ばれたアフリカ戦線。 激しい気温の変動。容赦のない砂・砂・砂。連邦の整備兵たちの多くを、発狂寸前に追い込んだ。 地球環境を知らず、より不利な立場にあるはずのジオン軍。切り札があった。 ジオンアフリカ軍団独立工廠隊「マザー・ネセシティ」。「クズ拾い部隊」と揶揄された、元ジャンク屋たちの部隊。 実に3年に及ぶ悪夢のような地球そのものとの戦いに、勝利したのは彼らだった。 これは、絶望的状況で希望を失わせなかった男たちの、戦いのドラマである。 ♪〜 小話の男 ジョン・キニー 昔話の男 父の思い 息子の憧れ 「学者閣下」 ZAK 「結論:決戦なき地獄の持久戦」 俺たちにしかできないことを、やろう 砂の海 3時間の壁 「廃兵院」の「引きこもり」 魔法のグリース ザクタンク・バリエーション 思わぬ副産物 独立自給態勢 「そこにあるじゃないか」 キンバライトの方舟 洪水が 来た 戦力比 1対3 稼働率 9対3 蟻地獄の中へ 偽りの武装解除 最後の打ち上げ そして最後の意地を プロジェクトX〜技術士官達〜 絶望との戦い −「スイーパー」と呼ばれた男− ジョン・キニー大尉。アフリカ戦線のジオン兵士たちの間で、ジョークに最も多く登場する男。「スイーパー」<掃除屋>と呼ばれていた。 「ある時、大激戦があってな、デザートと陸式が、あわせて12機、MNに担ぎこまれたんだと。  ところが掃除屋の大将、はりきっちまってよ。ありったけの余剰部品出して修理したら、全部直った時には15機になってたとさ。  で、この話を聞いたやつが、よしゃあいいのに、大将に聞いちまったんだよ。そんなに部品余ってませんよねって。  大将、いつものように眉間にしわ寄せて、全部使えば20はいくだろう、だってよ」 明るい笑い声が、陰鬱なアフリカ戦線を、かろうじて支えていた。 笑い声の源はMN:マザー・ネセシティ、一部のジョークでは、マジック・ネクロマンサーと呼ばれる、司令官直属の独立工廠部隊。 部隊全員がジャンク屋。キニーも、親の代からの修理屋だった。 気難しい男だが、父親の話をする時だけ、明るい顔を見せた。 「名前のことで親父に駄々をこねたことがある。ジョンみたいなつまらない名前じゃなくて、  ベルンハルトとかヨアヒムとか、そういうかっこいい名前にどうしてしてくれなかったんだ。  そしたら、親父が一番尊敬してるご先祖の話をしてくれたよ」 幾重にも包囲されたちっぽけな島で、残された数機の戦闘機を必死で修理し続け、ついに敵を撃退した整備兵、ジョン・キニー。 だが、父の思いには関係なく、息子は「海」という想像し難い空間に心を奪われてしまった。 父の跡をついで、修理工場の経営も順調だったのに、キニーは軍に志願した。第一次地球降下作戦が行われている最中だった。 海を、果てしなく遠くへ広がる水だけの空間を、見てみたかった。 アフリカ方面軍司令官、ノイエン・ビッター少将。ジョークでの呼び名は、「学者閣下」。 司令官に任命されるまで、戦史研究が専門の予備役だった。 誰も見向きもしない、宇宙世紀以前の戦争のありようを、熱心に研究していた。 「わたくしが、ですか?」 司令官就任の打診に対し、納得がいかなかった。 だが、例え中世紀の事例であれ、砂漠での戦闘方法などを、本の中の話であっても、 秩序立てて説明できる者は、スペースノイド全体を探しても、彼とその研究仲間しかいなかった。 同じ理由で独立支隊の隊長になった研究仲間の中佐と、ビッターは検討を重ねた。 士気の問題、整備の問題、補給の問題、様々な問題点が、机上の議論においてすら、次々に現われてくる。 「結局、士気の問題になってくるのではないか」砂漠の絶望的な単調さ、それを乗り越えない限り、他の問題点をクリアしても軍は瓦解する。 「シンボルぐらいしか、与えられるものがありません」中佐が苦しそうに答えた。 「特別なシンボルならいいだろう。アフリカの王者という気持ちになれれば」 「つまり?」 「降下作戦前の段階で、『ジオンアフリカ軍団』としての意識を植え付けたい」 「『ZAK』? まぎらわしいですな」 「それもまた、ご愛嬌というものだろう」ビッターは乾杯のときのようにワイングラスを捧げ持った。 「気休めでも、ないよりましですか」中佐も同じようにした。 「君の方は、どうするんだ?」 「そうですね、気休めに、砂漠で最強の指揮官の名前でもいただきましょうか」 「それならロレンスよりロンメルだろうな。デザート・フォックスというやつだ」 「フォックス? 狐ですか? いいイメージではありませんな。それ以外をいただきましょう」 発:アフリカ方面軍司令官 ノイエン・ビッター少将 参謀本部宛報告 「アフリカ戦線構築の戦略的意味と問題点」 盲目的戦線拡大が、各個撃破による戦線崩壊という結果につながりやすいのは、 戦史の明らかとするところである。 にもかかわらずアフリカ戦線を構築せんとする参謀本部の見解は、本官の理解するところ、次の通りである。 1.オデッサ周辺の後背地の確保(地中海の完全確保が前提条件) 2.鉱物資源の確保 3.インド洋制圧拠点の獲得 上記の目的は常識的判断ながら、アフリカ戦線構築の決め手にはなりえないというのが、 本官の見解である。アフリカ戦線の存在に戦略的意味を持たせるためには、以下の要素が不可欠である。 1.砂漠戦用兵装への特化 2.整備修理部隊の充実 3.防衛拠点の不拡大と連絡線の堅持、長期持久体制の確立 上記要素を満足させるならば、アフリカ戦線は、連邦の膨大な戦力を吸引し、戦わずしてその大部分を稼動不能に追い込むことが可能になる。 砂漠という、あらゆる機器に最大限の負荷を与える環境を活用した戦線の構築だけが、アフリカ戦線の存在に意味を与える。 結論:決戦なき地獄の持久戦へと連邦を引き込む 参謀本部よりの最大限の支援を期待する。 参謀本部からの目立った反応は、なかった。 砂漠戦用に試作されたデザート・ザクこそ、「他に使い道がない」という理由で 優先的に配備されることが決まっていたものの、整備修理部隊への技術者の派遣は、「新兵器の開発が最優先」との理由で 却下された。新型MS開発にしのぎを削っている各社からも、派遣は同じ理由で拒否された。ビッターは、焦った。 「志願兵に、変わった経歴の持ち主がいますね」司令部付士官、ヴァール大尉の何気ない一言が、道を開いた。 ジャンク屋、予想もしていなかった可能性だった。だが、不確実性が支配する砂漠の戦場には、もっとも適した選択ではないか。 ビッターに協力を懇願されたキニーは、ただただ面食らっていた。ただの新兵の俺に、なんで司令官が。副官がたまりかねたように言った。 「閣下、たかがクズ拾いにそのような・・・」 ビッターは、冷たい目で副官を睨んだ。 「貴官を解任する。ヴァール大尉、君が後任だ。この役立たずを営倉に放り込め!」 自分でも信じられないほどの熱意で、キニーはジャンク屋仲間を説得して回った。 「あふりか? そりゃいったい、どんなとこなんだ?」キニーも、知らなかった。 気が付くといつも、彼は同じ言葉を口にしていた。 俺たちにしかできないことを、やろう。15人が、集まった。 「君の名前を、どこかで見た覚えがある」 キニーの報告を聞いて、ビッターはそう答えた。キニーは、父の話をした。 「思い出したよ。できれば、君の御先祖にあやかりたいものだな」 部隊名が、決まった。父も知らなかった、先祖ジョン・キニーのもう一つの名前。 ジオンアフリカ軍団独立工廠隊「マザー・ネセシティ」。 さっそく、兵士達から「クズ拾い部隊」の名がついた。 青い海は、なかった。 キニーの前に、果てしない砂の海が、広がっていた。 これが、以後彼が戦い続ける本当の敵の姿であることを、まだ知らなかった。 ノイエン・ビッター、頭を抱えていた。 トライデント作戦。中東の連邦軍を一掃し、オデッサとの連絡線を確保する。 アフリカ軍団が南から、ロンメル兵団が西からスエズを目指し、オデッサからの部隊と合流する「三叉の矛」。 戦略的には正解だったが、支援火力が絶望的に不足していた。 支援砲火の中心を担うはずだったマゼラアタック、足回りが、使い物にならなかった。 大きさがまったく不ぞろいな砂の粒、コロニーの技術者たちには、想像もできない代物だった。 マゼラベースの改造は可能だったが、作戦開始には、間に合わない。 どんな手を使ってでもかまわん、3日でどうにかしてくれ。キニーは、無言で敬礼した。 長距離飛行をさせるため、マゼラトップに増槽をつけると、バランスを崩して射撃どころではなくなった。 誰もがあきらめかけていた。キニーは言った。俺たちはジャンク屋だ、スクラップからはじめようじゃないか。 ビッターが試験の視察に呼ばれたのは、命令から2日後のことだった。 キニーの乗る、運搬用のザク氈A手に持っていたのは、マゼラトップだった。 エンジン、コックピット、燃料タンク、必要のないすべてを取り外したマゼラトップを、ザクは軽々と動かした。 射撃、ランドセルに付けた予備の弾倉の装填、何もかも順調だった。 ビッターは、キニーの両肩をつかんだ。身体が、震えていた。 「ありがとう」キニーは、無言で敬礼した。彼は、少尉から大尉になった。 成功に終わったトライデント作戦。ドップの集中投入により航空優勢を確保したおかげで、 心配されていた敵航空機による損害は、わずかなものだった。だが、意外な兵器が、ジオンに大きな損害を与えていた。 退却前に連邦軍が、やけくそのようにばらまいた対戦車地雷。 MSは、わずかな脚部の損傷でも、凹凸の激しい砂漠での歩行が著しく困難になった。 予備部品はすぐに底をついた。大将、どうします? キニーは眉間にしわを寄せながら考えていたが、やがて言った。 「車椅子に、乗せてやろう」指さした先に、改造中のマゼラベースがあった。 ザクタンク。回避能力は激減したが、砂漠での運動性は飛躍的に向上した。 キニーも、廃棄処分になるはずの06Cを元に専用のザクタンクを作り、戦場から敵味方なく兵器の残骸を運んだ。 いつからか、皆は彼のことを、「スイーパー」と呼ぶようになった。 ビッターの内政は、地域住民の大歓迎を受けた。 水蒸気凝結装置ほか、コロニーでは当たり前の技術が、地球では珍しいものだった。 基本的に宇宙への棄民政策を取る連邦は、民生に無関心だった。装置や技術の供与と引き換えに、 資源や食料、労働力の提供を受けられることが決まった。 状況は少しずつ好転していた、今のところは。 ツィマッド社の営業次長が、エンジニア3名を連れてやってきたのは、トライデント作戦後の撤収作業が、 一段落ついたころだった。ライバルのジオニック社は、06Jとデザート・ザクの運用データを元にして、 「地球の全環境を征服する!」という売り文句で、新型機グフの猛烈な営業活動を行なっていた。 新興のツィマッド社が社運を賭けた試作機を、地球で最も苛酷な環境でデビューさせ、完成後の営業の助けとする。 それが彼らの目的だった。 キニーたちが見学にきた時、次長は汚物を見るような目つきをした。「クズ屋どもか」 「さわるな、大事な機体を壊されちゃかなわん」エンジニアが、追い払うようなしぐさをした。 「足が細すぎるようですが」キニーの発言は、無視された。 翌日、ビッターを含む司令部全員の前で、デモンストレーションが行なわれた。 ホバーを利用した画期的な運動性能について、次長がセールストークを述べた後、全力走行実験が行なわれる予定だった。 「おい、あんな物体があったんじゃ、めざわりだ、どけてくれ」次長が、遠方で待機しているザクタンクを指さした。 「コースをふさいではいません。必要なのです」キニーは取り合わなかった。 実験が、始まった。司令部の全員が、そのスピードに、声をあげた。3分後、次長が声をあげた。 右側のホバーが停止し、バランスを崩した機体は、砂の中に突っ込んだ。待機していたザクタンクが救出に向かった。 「もう少しは進むと思っていましたが」キニーは、残念そうに言った。 「こうなるとわかっていたとでも言いたいのか!」次長が怒鳴った。 「足が細すぎます」次長は無視したが、エンジニアたちがキニーを取り囲んだ。 お願いです、教えて下さい。会社の運命がかかっている機体。プライドどころではなかった。 ホバリングの効率を上げるために、垂直に近い取り付け角度にしたことで、吹き上げられる猛烈な砂煙をもろにかぶる格好になり、 エアインテークがやられる。故障の原因は、キニーの言った通りだった。 「これは、素晴らしい機体です。もう少しの改良で、この環境にも対応できるでしょう」その言葉に、次長は頭を下げた。 「大変申し訳ない。おわびとして、私にできることはありませんか」 「使わなくなった旧型機や故障機などを、送っていただけるとありがたいです。しょせん、我々はクズ屋ですから」キニーは真顔だった。次長は、穴があったら入りたいような顔をした。 それから、ツィマッド社は試験のために次々と改良試作機を送ってきた。満載の壊れた機体と一緒に。 その光景は、常にピカピカの新型機が送られてくるオデッサとは、正反対のものだった。 次々と送られてくる試作機。稼働時間は、3時間を越えなかった。 砂と温度。原因は単純ながら、越えられない壁だった。次々に、廃棄処分になった。 部品用倉庫に、並ぶ機体。倉庫は「廃兵院」、機体は「引きこもり」と、呼ばれた。 「これを使ってみてください」キニーがツィマッド社のエンジニアに渡したのは、軽石だった。 高い耐熱性と通気性を持った素材。それ自体はあくまでも、その場しのぎでしかなかったが、ヒントとしては的確だった。 ツィマッド社は、同じ性質を持った流体の開発に成功。「魔法のグリース」と呼ばれた。 MS09ドム、制式採用の、決め手になった。 ザクタンク。急場しのぎの機体のはずだった。マゼラアタックをはるかに越える耐塵性を、示した。 激しい砂嵐の中でも、100%確実に稼動できる機体は、他になかった。 いずれ確実に来る連邦の大規模侵攻。大量の航空戦力をやり過ごすための地下城砦線、その建設のために、用いられた。 ザクの持つ究極の汎用性が、あらためて証明された。ブルドーザー、クレーン、様々な建築土木用重機が、ザクタンク化された。 最初に開発された長距離支援用のザクタンクを見て、思わずキニーは言った。 「おい、ありゃ何だ? 戦闘用のザクタンクなんて、あったのか?」 格好の、ジョークの種になった。 クレーターのように、山頂から削られていた山、予備の打ち上げ基地になることが決まっていた。 運び出される土砂を処理していた労務者が騒ぎ始めた。ダイヤの、原石だった。 ダイヤ鉱山の発見で資金に余裕ができ、大量の労働力の動員が可能になった。ビッター自身、完成不可能と思っていた地下城砦線が、間に合うかもしれなかった。 朗報に沸く司令部に、冷水を浴びせるような報せが届いた。 連邦軍、大西洋岸に上陸。敵軍はMSを多数含む模様。繰り返す。MSを多数含む模様。 敵の狙いは、新型機の試験運用を兼ねた威力偵察、真の狙いはおそらく、オデッサ。 連邦の意図を正確に読み取ったビッターは、全力出撃を命じた。敵に運用データを与えてはならない。一機も生かして返すな。 ロンメル兵団から派遣されていたパイロットが、2人いた。 こいつらはタマを使いすぎて困る、そちらで面倒見てくれ。 抜群の撃墜数だった。通常3機編成のところ、2機で出撃して、通常以上の戦果を常にあげていた。 伊達男のハンス、口の聞けない少年と、いつも一緒だった。 俺の後ろを守れるのは、こいつだけだ。ハンスは少年を「バロン」と呼んだ。 出撃から戻るたび、俺の落とした数を自分が落としたみたいに、嬉しそうに指で示すんだ。こいつはとんだホラ男爵だぜ。 彼らには、ツィマッド社から送られた実験機2機が与えられた。 後に、ドワッジと呼ばれる機体。初めての実戦運用だった。 連邦の前進拠点への攻撃、実験機が高速で前線を突破し、敵の混乱に乗じて包囲殲滅する作戦。奇襲攻撃が開始された。 前進し始めるや、右側の機がバズを撃ち出した。 早過ぎる、無駄ダマだ。だが、応戦する敵のビームや砲撃は、みるみる数を減らしていった。 当たっているのか? あの距離で・・・。 後続の隊が思い出したように前進を開始したのは、敵が退却を始めてからだった。 基地に戻ったハンスはシガーをくわえ、バロンは両手を一杯に広げてはしゃぎまわった。 緒戦で惨敗を喫した連邦は、沿岸の橋頭堡に立てこもった。 敵機の残骸をすべて回収すると、ビッターは退却を命令した。敵の出方を見たかった。 海上から次々と敵MSが輸送されているが、敵は思い切った前進をしかねているようだった。 敵機の残骸を調査していたMNからの報告が届いた。 敵歩行型MSに、長時間の砂漠踏破能力なし。それが結論だった。 我々を宇宙人と呼ぶ連邦の将官達よ、お前達は本当に地球人なのか? ビッターは皮肉な笑みをもらした。 最後の拠点は、砂の海の中に作ろう。地図を見つめるビッターの目が、一点で止まった。 キンバライト。例のダイヤモンド鉱山だった。 敵の大規模侵攻が近いことを警告されたマ・クベ大佐は、いつも以上に不機嫌そうな顔をした。 諸君らに心配してもらう必要はない。アフリカ戦線など、資源の無駄遣いなのだ。他の心配などせず、鉱物資源の打ち上げに専念したまえ。 キニーは、長期間の自給体制について研究するよう命じられた。食料や必要な資源の備蓄態勢は整い始めているようだったが、 消耗部品の自給など、考えるまでもなく、不可能だった。 複雑な工作機械などは、すべてオデッサにあり、連絡を遮断されれば、手持ちの部品に頼る以外にない。 キニーは、「廃兵院」の機体を眺めながら、あてもなく考えあぐねていた。 なんだ。そこにあるじゃないか。 「連邦の部品の流用?」誰もが、大将の気が狂った、と思った。 一人だけ、ジャンク屋らしいですね、と笑った。 やってみると、まさにジャンク屋の仕事だった。 ジオンも連邦も、ぎりぎりの規格で勝負していた。部品の大きさは、驚くほど近かった。 ハンスとバロンには、「狩り」の任務が与えられた。前線の連邦基地を襲撃し、回収部隊が残骸を回収するまで敵の反撃を防ぐ。 自分達が連邦から「ベドウィン」と呼ばれていることを知ったハンスは、一日中イライラしていた。 なんで、「アフリカの星」じゃないんだよ。以後、酔っ払うたびに、ハンスはそう叫んだ。 ありとあらゆるものが、キンバライトに運ばれていった。やがて来る洪水の時に備えて。 オデッサ陥落。 連邦軍首脳の目は、宇宙に向けられた。 だが、連邦戦力の大半が向かったのは、アフリカだった。 終戦をにらみ、残しておいても無駄なだけの地上戦力に最後の花道を歩かせる。 その程度の認識だった。数的な圧倒的優勢、3倍以上の戦力差で、苦戦のありえようはずはない。 彼らはルウム戦役から、何も学んでいなかった。 ビッターは、あきれていた。敵MSに、砂漠を歩かせる。それを目的として、輸送機やトレーラーによるMSの輸送を妨害するように、 地雷とマゼラアタックを前線に配置したのだが、敵のMSは、初めから歩いてきた。 ベテランパイロットは、皆、宇宙に出ているらしく、歩き方もぎこちない機体ばかり。 連邦の先発隊は、戦闘らしい戦闘を行なわないまま、半数を砂の中に失なった。 ハンスとバロンは、最後の狩りを楽しんでいた。大西洋岸の連邦部隊は、エジプト方面から南下する連邦の大軍団に押し捲られているはずの アフリカ軍団が、攻撃を仕掛けてくるとは少しも思っていなかった。たった一日の奇襲で、連邦の5ヵ所の前進拠点が壊滅した。 連邦の混乱は、アフリカの全戦線に波及し、キニーたちは何の危険もなく、狩りの獲物を回収することができた。 回収を済ませると、皆、愛機と別れ、キンバライトへ向かった。 運搬用、建設用等の用途を問わず、すべてのザクタンクは、敵の足止め用に地中に埋められ、 砲台の役を果たすことになっていた。パイロットは戦闘の後、早めに脱出し、脱出用トンネルで回収ポイントへ向かうてはずだった。 決戦と意気込む連邦に損害を与えていたのは、結局、砂だった。だが、それでも圧倒的な数の力によって、連邦軍は南下を続けた。 奇襲部隊が、キリマンジャロ基地に戻ってきた。連邦は数ヵ所で足止め部隊を突破し、基地を包囲し始めていた。 「閣下、マザー・ネセシティの連中からの、贈り物です」ヴァール大尉が、嬉しそうに言った。 キリマンジャロ攻略戦で、ボロボロになったはずのビッターの乗機06S、まったく別物に改造されていた。 「これを傷つけるのは、申し訳ないな」ビッターは、目を細めた。出撃は、夜明けに決まった。 ジオンアフリカ軍団は、キリマンジャロ防衛戦で壊滅した、そう連邦に信じ込ませるための、最後の決戦だった。 ハンスは、バロンに言った。「頼むぜ、『レッドバロン』」バロンは、うなずいた。 いつものように、2機の実験機が先頭を進んだ。前の機体がはるか遠くへバズを撃ち始めた。 突然、前の機体が左にスライドし、そのすぐ後をビームが貫いた。後ろの機体に、直撃した。閃光。 「止まるな! 突破だ!」叫びながら、ビッターは思った。気の毒に。まだ子どもなのにな。 失なったのは、5機だけだった。 キンバライトに着いて、実験機のコックピットが開いた。バロンだった。 キリマンジャロ基地は、降伏した。 武装解除に臨んだ連邦指揮官は、息を飲んだ。 「我々も手痛い打撃をこうむったが、ジオンの損害は我々以上だったのだな」 「廃兵院」の「引きこもり」たちだった。使える部品の残っていないハリボテたちは、最後の役目を果たした。 「素晴らしいプレゼントを、すまない」ビッターは、キニーに言った。キニーは、首を振った。 「私からのお返しだ」ビッターが合図をすると、丸い機体が降りてきた。連邦のデッシュ連絡機だった。 「閣下、これは?」 「海を見たくて、軍に志願したそうだな。ここから二時間も飛べば、港に着く」 「閣下! 私は」ビッターは、取り合わなかった。 「それから、この子をよろしく頼む。もうMSには乗りたくないらしい」バロンだった。 ♪〜 キンバライト基地、3年の時を、持ちこたえた。 マザー・ネセシティ、最後の出撃前に、解散した。 ノイエン・ビッター、記念に贈られたブースターを背に、玉砕した。 最後まで残っていた10機のMS、稼働率は、100%だった。 港に住む、手先の器用な男、海を見るのが好きだった。 彼と一緒に海に来る子ども、必ずモリの先には魚があった。 それは、どこにでもある、平和な光景。 〜♪ プロジェクトX〜技術士官達〜 絶望との戦い −「スイーパー」と呼ばれた男− 終