プロジェクトX 〜技術士官達〜   「地上を網羅せよ!ジオン初の陸専用MSグフ開発記」 一年戦争初期 ジオンは華々しい戦果をあげつづけてきた。 コロニー落とし以降の電撃戦により、ジオンは地上の約3分の1を掌握していた。 そんな折、少しづつではあったが、ザクの地上戦での運用問題がでてきた。 降下作戦後、地上での運用を目的としたJ型が開発された。 それにより地上戦力の中心はJ型が担うようになり、上層部もそれで十分と考えていた。 しかし、それに一人異を唱える者がいた。 MS開発企業の開発技術部門にいるUだった。 Uは言った。 「確かに現在の状況ではそれで十分でしょう。しかし、もし戦争が長引けば 連邦も新たな戦力を開発、投入してジオンは劣勢に立たされるでしょう。」 幹部達はUの言ってる事が理解できなかった。 Uは続けていった。 「MSです。じきに連邦もMSを開発し、我々と対等の立場に、いや、それ以上の ところに立つと言ってるんです。」 幹部達は皆、鼻で笑った。 釈然としないまま、1ヶ月が過ぎた。 いつも通りの朝を迎えたUに、突然上司から連絡が入った。 「今、軍の幹部から地上用のMSの開発要請がきた。早くこちらに来い。」 着の身着のまま、Uは会議室に出向いた。 そこでジオン軍の幹部の一人が言った。 「どうやら連邦がMS開発に乗り出したらしい。無論ザクをベースにしてい るのだからザク以上の性能が予想される。至急貴様に地上用のMSを開発し てもらいたい。資金は気にするな、軍が全てもつ。」 Uは完全に目が覚めた。 それから2日後、Uは自分の部下を召集し、加えて他の部門からも技術士を 集めて開発チームを結成した。 それぞれの紹介が済んだ後、Uは皆に一言言った。 「ザクを超えよう。そして、連邦の開発しているMSも超えてやろう。」 皆、心の奥底から涌き出る闘志を、抑えることが出来なかった。 開発期間の目標は、2ヶ月だった。 事の急さにUはすぐに対応はしきれなかったが、データを見比べるために 軍からザクを借りることにした。 まず先にUが知りたがったものは、J型の使い勝手だった。 J型の性能は、Uの思っていたものより良いものだった。 そこで、Uはチームの会議で大まかな開発予定の機体のコンセプト発表した。 最初に書いてあったのは、「ザクの万能性の継承と総合的な性能の向上」だった。 次に書いてあったのは、「水陸両用の実現」だった。 これに対し、一人の男が反論した。 軍から派遣された技術士官のCだった。 CはUや他の者たちに水陸両用の難しさを説明した。 Uも引かなかった。 2時間にわたる議論の末、Uは折れた。 最後にUが提示したもの、それは「ザクの生産性保持とエースパイロット機開発」だった。 これには誰も難色を示す者はいなかった。 開発作業は順調に進んでいた。 しかし、皆共通の壁に突き当たっていた。 ザクの性能の優秀さであった。 様々な用途で使えるザクは、越え難い壁だった。 皆がうろたえている中、Uは動じなかった。 それどころか「こんな良い機体を超えた機体を作るなんて胸がぞくぞくする。」 と言って日々開発作業に没頭した。 そのUも、一つ悩む点があった。 それは武装の問題だった。 幾日にもわたる議論の後、初期生産タイプはザクの装備をシフトさせ、改良を 加えるに値した時に装備を考えることにした。 その後順調に作業が進み、それ程大きな壁もなく、試作機が完成した。 部下達は喜び、軍部もその性能に満足していた。 そして、若干の改良を加えたところで量産期が完成した。 実戦のデータを取る為に、10機をキャリフォルニヤベースに配備した。 Uはその機体の性能に自信を持っていた。 当然良い実戦報告を聞けるものと思っていた。 しかし、現実に届いた報告書に、Uは目をそらすことが出来なかった。 実戦での有効性がほとんど無かったのだ。 「シールドが無い装甲だけの機体、複雑過ぎる操作」 兵達には、受け入れられなかった。 ザクを超えられなかった敗北感と屈辱感が、チームを包んだ。 「試合に勝って勝負に負けた。」Cが言った。 誰もが、落胆した。 その日Uは会議室に顔を見せることはなかった。 追い討ちをかけるように、生産の一時中止が言い渡された。 チームは、失意のままに解散した。 一週間後、完全に自信を失っていたUにある人物が訪ねてきた。 「青い巨星」ランバ・ラルだった。 ラルは「あの機体」に高い評価を置いていた。 「確かに操作性は良いとは言えん。しかしあれは新兵が扱うには難しいがベテラン が扱うにはちょうどよい。」豪快にのたまうラルに、Uは驚いていた。 『自分が、チームの皆が自信を持って作った機体。だがそれは受け入れられず、結局 生産中止になってしまった。しかしそれをこの男はこれほどまでに熱く語ってくれる。』 Uの心に、少しづつ自信の2文字が湧いてきた。 帰り際にラルは言った。 「あの機体を私専用にカスタマイズしてもらえぬだろうか?」 Uは、硬直した。 しかし、なんとか返事をしようと精一杯の声を振り絞って言った。 「わかりました」と ラルの後姿を見送った後、Uはいても立ってもいられなかった。 その日のうちにUは、上司の所へ行ってランバ・ラル専用機の開発を嘆願した。 あまりの迫力に押され、上司も明日の会議でそれを提案してみることを約束した。 執念の歯車が、再び回り始めた。 突然の召集に、元チームのメンバー達は、動揺を隠し切れなかった。 解雇されるのではと思った者もいた。 落ちつかない会議室にドアの開く音が響いた。 皆、静まった。 Uだった。 久しぶりに見るUの顔は、チームが結成された時の顔と寸分違わぬ顔だった。 Uは静かに言った。 「諸君、久しぶりだ。早速だがこれより開発会議を始める。」 動揺する中、Cが言った。 「どういうことです?」と Uは答えた。 「あのMSを改良して青い巨星ランバ・ラル専用機を作って欲しいと本人から頼まれた。 安心しろ、上司の許可も、軍からの許可も得ている。これは復讐戦だ。」 一言発せられる毎に、皆の目に希望の色が宿っていった。 「やりましょう。」 誰かが言った。 「やりましょう。」 また、誰かが言った。 皆、湧き上がる闘志を抑えられなかった。 新たな闘いが、始まった。 翌日から、寝る間も惜しんでの検討会が始まった。 設計自体を見直すのか、全般的な改良にとどまるのか。 部屋から声が絶えることは無かった。 しかし、1番問題になった点があった。 装備についてだった。 当初の開発の時、皆は改良の余地があれば武装を考えると決めていた。 それが今、やってきたのだった。 いくら議論しても結論は出なかった。 同じ壁が、またしてもチームの前に立ちはだかった。 何度議論しても、決まらなかった。 次第に、対立が生まれていった。 誰もが引かなかった。 Uも悩みに悩んだ。 Uは、この事をある男に相談した。 Uの親友であり第一時地球降下作戦時にオデッサ攻略に従軍していたGだった。 GはUに言った。 「シールドを付けたらどうだ?お前はわからんだろうが前線にいるザクの中で 肩のシールドを加工して手で持てるようにしているやつをけっこう見るぞ。」 それは盲点だった。 「なるほど、だがそれでは武装に制限がついてしまう。だめだ。」 すぐにGは返した。 「だったら武器も備え付けにしてしまえばいいだろう。武器の開発コストを 下げることもできるし、補給も弾薬だけでいい。」 Uに雷が走った。 「これだ!」 Uは立ちあがり、簡単な例を言うとすぐに家へ帰った。 今だ対立の続く議論の中、Uは言った。 「このCGを見てくれ。」 映し出されたCGに、一同は静まりかえった。 「左手に武装の全てを備え付けにし、右手を自由にし、シールドも付ける。そして 丈夫である程度の伸縮が利く金属で、中心に電気ケーブルを通し、それぞれ結合す る事によって棒状の格闘戦武器になる『ヒートロッド』を右手につける。これでど うだ?」 誰も、何も言わなかった。 それは、無言の了解だった。 全般的な運動性能や、センサーの改良後、武装の取り付けにかかった。 射撃武器には、75mmバルカンが採用された。 「これによって、左手の指の可動はほとんど出来なくなるものの、それを シールドでカバーすることで解決し、両手に武器を持ちながらの戦闘を 可能にする。」 それがUの考えだった。 しかし、出来あがったヒートロッドは、Uの予想を遥かに外れたものだった。 重力に耐えられず、倒れてしまったのだ。 動揺を隠せないUにCは言った。 「これはこれで良い武器です。これをもっと長くし、射出できるようにすれば 鞭として使う事が出来るのではないでしょうか?」 Uは言った。 「時間がない、それでいこう。それに、良いアイディアだ。」 Uの予想とはだいぶ違うものとなってきたが、「それ」は確実に完成しようと していた。 90%が完成した頃、Uは簡単な可動テストをした。 それを見守りつづけている中、色々な動きをするたびに、Uは不自然な点に気づかされていった。 右手と左手のバランスが悪かったのだ。 Uは当初から、武装のバランスを考え、左手を中心にジェネレーターを調整していた。 しかし、左手の方ばかりに偏ってしまったため、両手の動きが合わなくなって しまったのだった。 そこで急遽、バルカンの弾数を減らしヒートロッドの長さを足し、再度確認をした。 だが、今度は右手の方に重量がかかった為、もっと質の良いジェネレーターを使用 しなければならなくなった。 苦戦をしているところに、ランバ・ラルが訪ねてきた。 「これがそうか、よし、ちょっと試運転をしてもいいかね?」 ラルは言った。 Uにとっては好都合だった。 『本人の意見を聞くことでもっと洗練されたものが作れる。』 そう思っていた。 数分試験場で動かした後、ラルは満足そうに言った。 「まずまずだ。少々手のバランスが悪いが調整しなおすと良いだろう。」 ラルの意見を参考に、改めてバランス調整にかかった。 しかし、どうやっても左手に比重が偏りがちだった。 何度も調整したが、それは直らなかった。 Uはしばらく悩んだ後、格納庫からある物を持ってきた。 巨大な剣だった。 「これを持たせてみろ。」 Uの指示通り、MSに剣を持たせた。 すると、不思議と、両方の偏りが無くなった。 皆、驚き、Uを見た。 最大の壁は、崩れ去った。 最後の微調整と、フル装備時の活動時間の計測が終了した。 Uはラルに完成を報告した。 試運転をそこそこに、ラルはUに聞いた。 「このMSは何と名前がついてるのかね?」 Uは、「まだ名前はありません。」と答えた。 続けざまにUは言った、 「名をつけてください。」 MSを見上げ、ラルは言った。 「グフ・・・グフはどうだ?」 何も言わず、Uは頷いた。 ラルの出発日に、Uやチームの面々はザンジバルに来ていた。 別れ際に、Uは言った。 「ありがとうございます。あなたのお陰です。」 ラルも答えた。 「これで連邦に恐怖を植え付けてやろう。ザクとは違うところを見せてやる。 これまで無理を言って済まなかった。礼を言うぞ。」 乗りこもうとしていたラルにUは大声で言った。 「全体!敬礼!」 ラルも敬礼をし、ザンジバルに乗り込んだ。 ザンジバルが発進するまで、誰も動かなかった。 全員の心に、充実感が満ち溢れていた。 その後、グフの性能に目をつけた企業と軍の上層部達は、グフを量産期として生産した。 他の上官やエースパイロット達の専用機も製造し、U達は有頂天になっていた。 『これからグフの時代だ。』 誰もがそう思った。 だが、それは1ヶ月もしないうちに取って代わられることとなった。 U達の所属しているジオニック社とはライバルをなしている会社、ツィマッド社も U達と平行して新たなMS開発に着手していた。 それはU達の作ったMS「グフ」よりも遥かに強力なMS「ドム」だった。 ツィマッド社の「ドム」は、グフより操作が簡単で高機動の重MSだった。 打ちのめされるU達にとどめを刺すかのように、ランバ・ラル戦死の知らせが届いた。 ランバ・ラルは連邦のMSに負けて死んだ。 それを聞いたUはショックを隠せなかった。 『自分たちが連邦の開発しているMSを超えようとして作ったものが、それも ランバ・ラルほどのエースが駆ったグフを、連邦のMSは倒した。』 U達にとってこれほどの屈辱はなかった。 Cが呟いた。 「また・・・また負けたのか」 誰も、否定は出来なかった。 「・・・・・ちくしょう」 誰かが言った。 翌日、落胆を隠せないUは、会議室に赴いた。 チームを解散させるためだった。 集まった者たちに、Uは静かに言った。 「君等はよくやってくれた。君等の働きを私は一生忘れない。よくやってくれた。 今まで私に付き合ってくれてありがとう。」 自然と、涙を流していた。 皆も、泣いていた。 それは敗北の涙ではなかった。 まして屈辱の涙でもなかった。 自分たちの成し遂げた事を称える涙だった。 誰一人、会議室から出ようとはしなかった。 数日後、Uは軍人墓地へ来ていた。 ある墓の前で、じっと墓を見ていた。 しばらくして、そっとカードを挟んだ花束を置いた。 カードには、こう書かれていた。 『グフはあなたのためだけの最高のモビルスーツです。』 墓地を去るUの顔は、技術士としての、職人としての誇りに満ち溢れていた。 Uはそのまま、自分の会社の方向に歩いていった。 去っていくUを確認したかのように、風が吹いた。 エピローグ 数ヶ月後、戦争は終わった。 ジオンの負けだった。 戦争後、ある連邦軍兵士が言った。 「ゲルググもドムも強かった。しかし、1番恐ろしかったのは格闘戦になった 時のグフだよ。」 ある旧ジオン軍兵士が言った。 「ほとんど腕の立つパイロットはグフを使っていた。なんでかって?答えは簡 単さ。どんな局面にも使えるし、相当熟練してなきゃ使えないからさ。」 戦争は終り何年もの時が過ぎた。 だが、今もなお、その武勇伝は語られている。