宇宙世紀0070年 ジオン・ダイクンが死に、スペースノイドとアースノイドとの角質が絶対的になってきた時期であった。 デギン・ザビが主導するサイド3に対抗せんとし、連邦軍も新兵器の開発に躍起になっていた。 そんな中、一人の男が連邦軍技術開発部に配属された。 彼の名はS 後の一年戦争後も長く使用された名戦闘機、セイバーフィッシュの開発者であった。 [83] セイバーフィッシュ sage 03/06/20(金) 01:01:00 ???                  ( ̄ ̄<     / ̄>                   \  ヽ   / /ソ         プ ロ ジ ェ ク ト\  ヽ P r o j e c t X    ─────────────────────          技術者たち /|_/ /\engineers                  |   /   \   丶                  \/       \__ノ 〜トリアーエズを超えた航空宙両用戦闘機・セイバーフィッシュ開発史〜 Sが配属された部署、それは連邦軍重要拠点のキャリフォルニアベース航空戦闘機開発研究部であった。 そこは主に当時の主力戦闘機「トリアーエズ」の改良を目的とした部署であった。 当時の状況として、トリアーエズはあらゆる局面で使用できる画期的な戦闘機であった。 特に優れた面は航空、航宙の両局面で使用でき、まったく無駄のない戦闘機であった。 しかし、その無駄のなさゆえの欠点が多く、代表的なのは装甲の薄さだった。 それらの欠点を解消すべく、数年前より改良研究を進めてきたが、いまだに何も解決策を見出せずにいた。 ジオン側に先を越されるのを恐れた上層部は、トリアーエズの開発にも携わっていた老練のSを投入し、なんとしても突破口を開こうとしたのだった。 技術開発部長より全権を委託されたSは、すぐに全技術士を集めて言った。 「私はトリアーエズを改良する気はさらさらない。本日限りでここは解散する」と。 みな、驚きの表情でSを見た。 続けてSは言った。 「我々は0から何かを創るためにここにいるはずだ。改良なんぞやってられるか。ここをいったん解散して、新たに新型戦闘機を開発するための開発研究室をここに創設する。」 そこにいる者全てが、技術士としての魂を揺さぶられた。 一人の士官が異を唱えた。 「今のトリアーエズ以上の多様性を備えた航空機を作るなんて不可能だ。」 Sは間髪いれずに答えた。 「我々の創るものは戦闘機だ。攻撃機ではない。あくまで最強の対航空戦闘力を持つものを創るのだ。多様性などは求めん。」 その日から、Sの闘いが始まった。 Sは一旦、ジャブロー本部へ赴き、トリアーエズの詳細設計図を取りに行った。 上層部の信頼も厚かったSに、すんなりと極秘資料が渡った。 トリアーエズを超えるための最初の難関となったものは、宇宙でも通用するエンジンだった。 トリアーエズよりも高出力のものでなければならない。 当たり前のことであったが、簡単なものではなかった。 そこで、Sは一人の男にこのことを相談した。 高校時代からの友人であり、トリアーエズのエンジンを開発した企業「PONDA」の開発部長でもあるPだった。 Pは言った。 「トリアーエズのエンジンは性能面では他のものと同じくらいなものだ。一つ違うのは燃料の使い方だ。他の航空機、航宙機は燃料の消費量がまったく違う。 こと航宙機は姿勢制御が必要になるだけに酸素を含めてかなりの消費がある。それを打破するために燃料の絞込みをしたんだ。」 Pの説明によると、トリアーエズのエンジンは、スイッチ一つで重力下、無重力下と燃料の使用量を変更できる。というものだった。 エンジンの担当ではなかったため、基本的なことしかしらなかったSは、しばらく聞き入っていた。 SはPに、今回の開発機の趣旨を言った。 Pからは意外な答えが返ってきた。 「今、緊張状態にあるジオン公国と戦ったとてやつらは地球まで侵攻できまい。いっそのことトリアーエズの後継機をつくったらよいのではないか?」 Sは一度は頷いたが、反論した。 「もし奴らが降下作戦をやってきた場合、HLVを打ち落とせる強力な戦闘機が必要だ、宇宙はトリアーエズに任せればいい。」 そう言って半ば強引に、Sはその場を離れていった。 Sは恐れていた。 P達とともに作り上げたトリアーエズが超えられることを。 しかし、Pの話を聞き、心が躍るように落ち着かなくなっていった。 自分たちが最高傑作と謳ったトリアーエズを、さらに自分の手でより強力なものを作る。 Sにとって、これほど魅力的なものはなかった。 帰りの飛行機の中、Sは自問していた。 「あれを超えられるのか・・・いや、超えれるのか・・・違う、超えるんだ。」 顔を上げたその目には、数年ぶりに輝きが宿っていた。 キャリフォルニアベースに帰ったとき、Sは基地の飛行場にいた。 模擬戦闘の最中だった。 基地より50キロ離れた戦闘訓練場の映像をただじっと見つめていた。 ふと、声が聞こえてきた。 「無駄、無駄、無駄、・・・・・」 隣に男が立っていた。 男は、Sの方を向いて言った。 「トリアーエズはまぁ優秀なのはわかる、だがそれゆえに無駄が多すぎる。そう思わないか?」 Sは応えた。 「お前ならその無駄を省けるのか?」 「もちろん」 間髪いれずに答えた。 男の名はJ ジャブローの開発研究所の日陰者の一人だった。 「一緒に新しいものを創らないか?」 Sの言葉を聞き、Jは歩き出した。 その先には、Sたちの研究室があった。 翌日、JはSに改善点のメモを渡した。 ・対宇宙戦艦用の強力な武装 ・スペースデブリ(高速回転する細かな宇宙ゴミ)を弾き飛ばせるような装甲への強化 ・それに伴うエンジン出力の強化 と、殴り書きで書いてあった。 Sは即座に言った。 「君はエースパイロット専用機でも作るきか?エンジン出力の強化はわかるが対艦装備なんて必要はない。」 この当時、サラミス、ムサイなどの宇宙艦による戦闘の常識とすれば、戦闘機の役目は戦艦の対空機銃をすり抜けてのブリッジへの一撃離脱戦法、 または艦砲射撃後のダメージを負った箇所への追い討ちというぐらいの戦法しかなかったのである。 つまり、戦闘機は戦艦の補助でしかなかったのである。 Jは答えた。 「A.D.世紀での戦闘を考えてみろ、戦闘の要は空母にあり、空母を失うことが敗北につながった。なぜか?戦闘機が主役だったからだ。 私はまた戦闘機が主役になる必要があると思っている。それに考えてみろ、戦艦が主役になっている限り莫大な費用がかかる。それが戦闘機ならば半分以下に抑えることもできる。君らがそこまでする勇気がないのであれば私は降ろさせてもらう。」 Sは、まったく反論ができなかった。 Jの言うことに怪訝の表情を見せたが、Sも薄々気づいていた。 もう戦艦補助としての戦闘機の役目が限界であることに。 長い沈黙の後、Sは口を開いた。 「わかった。君の改善点を書いたメモを優先事項とし、主役とする戦闘機を創ろうではないか。」 顔に脂汗を浮かべながらも、答えた。 Sにはそれほど大きなことであった。 しかし、この決断が、戦闘機史に残る最高の名機の誕生の始まりだったことを、まだだれも知らなかった。