予告編                  ( ̄ ̄<     / ̄>                   \  ヽ   / /ソ         プ ロ ジ ェ ク ト\  ヽ P r o j e c t MS    ─────────────────────          技術者たち /|_/ /\engineers                  |   /   \   丶                  \/       \__ノ 「RX-78シリーズを超えろ! 宇宙の蒼の物語」 (エーックス・・・)  地球連邦軍が起死回生の策として世に放ったV作戦。その成果は初の試作汎用MS、RX-78に 結実した。そのRX−78と競い、敗れた幻の機体が有った事を、最早知る者は、少ない。  V作戦の総責任者「テム・レイ大尉」の陰で、一方的に対抗心を燃やす新進気鋭の技術者が 存在した。その名は「アルフ・カムラ大尉」。後にRX-79として採用される機体を作り上げた 男である。男の青春と情熱は、ただテム大尉のガンダムを超えるためだけに費やされた…。                  ( ̄ ̄<     / ̄>                   \  ヽ   / /ソ         プ ロ ジ ェ ク ト\  ヽ P r o j e c t MS    ─────────────────────          技術者たち /|_/ /\engineers                  |   /   \   丶                  \/       \__ノ 「RX-78シリーズを超えろ! 宇宙の蒼の物語」 (エーックス・・・)  地球連邦軍が起死回生の策として世に放ったV作戦。その成果は初の試作汎用MS、RX-78に 結実した。そのRX−78と競い、敗れた幻の機体が有った事を、最早知る者は、少ない。  V作戦の総責任者「テム・レイ大尉」の陰で、一方的に対抗心を燃やす新進気鋭の技術者が 存在した。その名は「アルフ・カムラ大尉」。後にRX-79として採用される機体を作り上げた 男である。男の青春と情熱は、ただテム大尉のガンダムを超えるためだけに費やされた…。 (男の前に右にガンダムのフィギュアと、左に4体のガンダムタイプMSのフィギュア)  「この機体を記録映像で知っている方も多いでしょう。このトリコロールカラーの機体が、   あのアムロ・レイ大尉が最初に乗っていたRX−78−2「ガンダム」です。かの一年戦争で   大戦果を挙げ、その後地球連邦軍の象徴ともなる各ガンダムの雛形となった機体でも   あります。このガンダムの開発主任が…」 (男の背後にテムの肖像写真が浮かび上がる。左半分は暗いまま)  「…テム・レイ大尉です。彼はアムロ・レイ大尉の父親でも有り、連邦のV作戦の原動力と   なった人物でした。この人が居なければ、連邦にMSは存在せず、アクシズが地球に落下   しようとした時でも、押し返そうとしたNTもMSも存在しなかったでしょう。では…」  (ガンダムの左に立つ、ガンダムタイプの4体のフィギュアの中から一体を指す男)  「この機体をご存知の方も視聴者の中には、いらっしゃるでしょう…。RX−79〔G〕、   「陸戦型ガンダム」です。この機体はRX−78の開発時の余剰パーツから製造された   云わば「間に合わせ」の機体とこれまで定説とされて来ました。今回の政府の機密   解除指定により、私たち調査班は定説を覆す新たなる事実を発見することになった   のです。このRX-79〔G〕は、実はこのガンダムと、RX−78の座を熾烈に争った機体   でもありました…。この機体の主任設計者でもあった技術者が…」 (テムの写真の左隣に、鋭い眼光を放つ、眼鏡をかけた神経質そうな長髪の痩せた男の  写真が表示される。まるで両者が睨み合うかのように写真の視線がぴったり合っている。 )  「この、『アルフ・カムラ』大尉でした。彼がこのテム大尉とどんな関係にあったか、V作戦   当時の2人を知る人は口をそろえて言いました。「カムラは彼の生贄になったのさ」と。   今回は二人の「連邦初の汎用MS開発者」の名誉を争う経緯にスポットライトを当てて見たい   と思います…」 (オープニングテーマ:「地上の星」 詩/曲 中島みゆき) 風の中の昴ぅ〜 砂の中の銀河ぁ〜♪   [黄金時代。蜜月の刻][君は優秀だな、アルフ君] みんなどこへ行ったぁ〜 見守られることもなくぅ〜♪   [深い対立、「オレならこうする!」][…お願いがあります、ゴップ将軍] 草原のヴィーナスぅ〜 街角のペガサスぅ〜♪  [コストカット][戦闘機などいらん!] [悪化する戦況] みんなどこへ行ったぁ〜 振り向かれることもなくぅ〜♪   [今この時でも戦場で人はザクと立ち向かってるんだっ!] 地上にある星をぉ〜 誰も覚えていないっ 人は空ばかり見てるぅ〜♪   [技術者の意地][完成・喜び合うスタッフ][そして対決の日…] 燕よぉ〜 高い空からぁ〜♪   [模擬戦でのまさかの敗北][テストパイロットの死亡] 教えてよぉ〜 地上の星をぉ〜♪   [貴様…汚い手をっ!][先に使ったのは君だよ?][失意の左遷] 燕よぉ 地上の星はぁ〜♪   [偉大なる巨人の行方不明][V作戦に復帰してもらいたい][…間に合わん!] 今どこにぃ いるのだろぉ〜♪  [ガンダムを…超えるっ!][亡命者との出会い][宇宙に満つる生命の「蒼」] 1年戦争初期の一大会戦、ルウム戦役。ジオンを上回る兵力を動員していながら 結果はジオンの勝利に終わった・・・しかも総司令官を敵に捕らえられるという大失態 のおまけ付きであった。宇宙軍は完膚なきまで叩きのめされ、制宙権はジオンの物も同然と為った。  この敗北により、連邦軍首脳部は「モビル・スーツ」という新型兵器を打倒する戦略に迫られた…。 0079 4月、MS開発に関する秘密計画「V」が発動する。奇跡的帰還を果たしたレビル将軍は この計画の為、技術将校をジャブロ−に召集した。アルフ・カムラとテム・レイの両技術大尉だった。  「MSを創って欲しい。あの忌々しいザクを遥かに凌駕する性能のモノを! しかも早急にだ! 」  各地で鹵獲されたMSを徹底的に調査する二人の技術将校の姿には、鬼気迫るモノがあったと見るものは 口を揃えている。寝食を忘れ、会話も忘れ、自らが人である事を忘れた様に、彼等は『ザク』のとりこと なっていた。設計に無駄と言う物が無く、可能な限りのコストダウンが図られ、しかも要求性能は満たさ れている。旧時代の『零戦』を思わせる設計方針に、宇宙軍出身のテム・レイ大尉は魅了されたのだ。  アルフ・カムラ大尉は陸軍出身だった。地上でこの巨人達と相対するには火力が必要だと真っ先に思い テムに提案した。しかし、テムは同意しなかった。彼は、得意げに、言った。    「まあ待ってくれ。私に考えがあるんだよ。…自立帰還が可能な脱出カプセルだ。それを組み込んでMSを   創れば、基本操縦系にかかるだろう、コストダウンも見込めるし、操縦訓練期間の短縮にも繋がるのだ。   私の言う事に違論があるかね? …アルフ・カムラ大尉? …まずはそれから始めようではないか」   一理はあった。一番時間が必要なのはやはり操縦員の訓練期間である。しかし、その脱出カプセルが戦闘機 型を予定していると聞いた瞬間、カムラは、黙った。強烈なテムの、いや宇宙軍のエゴを、そこに見たのだ。  「…派閥争いの種をオマエは…わざわざ作る気なのか…? …オマエは後の利権まで食い物にする気か?」  テムは、ニヤリとアルフに笑って見せた。『この若僧が』と言う侮蔑をアルフはその笑いに見た気がした。  「可笑しいかね? そうだろう。君も知っての通り、宇宙軍は創設期間が若い。   むしろ、君達三軍出身者に圧迫され続けていた。今こそ、軍の中で主導権を   握る好機なのだよ。…戦争は連邦の勝利で終わる。君と私が協力すれば、な」  RX−75、『ガンタンク』のプロトタイプ開発は、実はすでに終わっていた。 しかし、脱出カプセルFF−X7、『コアファイター』の開発に難航していたのである。  テムの要求性能が高すぎたのが原因だった。核融合炉2基搭載した、宇宙でも地上 でも運用できる優秀な戦闘機。同時期に開発されたセイバーフィッシュの影響をもろ に受けているのは、どんな素人でも理解できる事だった。アルフは、直言した。  「…こうしている間にも、多くの兵士が…ザクと対峙している…。時には妥協も…」  「偽善ぶるな! 君も夢想しただろう! 潤沢な予算! 優秀なスタッフ! 自由   に振舞える開発環境! 今全てが私達の目の前にある! もうすぐなんだ! 」  テムは、アルフの首を今にでも締めんばかりの勢いで反論した。アルフは、沈黙した。 FF−X7は、一週間遅れて漸くロールアウトした。RX−75は、すぐに再設計された。 砲部分のAパーツと、装軌車両部分のBパーツに分離し、なおかつ装甲強度も要求する無茶 に、テムとアルフは、昼夜を忘れて取り組んだ。結局時間が無くなり、RX−75は、二つの コックピットを持つ機体として成立した。初期型から存在する、頭部のコックピットと、 FF−X7、コアファイターのコックピットである。軍首脳部の返答は、芳しくなかった。 首脳部の返答は、『火力は申し分無い。機動性が、問題だ』と。二人は、歯噛みした。  「人型がお好みか…。私達がどんなに努力したか、凡人には理解出来んらしいな…」  「…ザクと接近戦で渡り合いたいのだろう…。数をそろえてしまえばコレの価値が   解るだろうに…。用兵思想と言う物まで忘れたのか…? 奴等は…? 」  RX−76は他の開発チームが取得していた。二人はRX−77、『ガンキャノン』の設計に 取り掛かった。砲撃専門機体ならば、陸軍出身のカムラの独壇場だったが、2足歩行機 となると勝手が違う。二人の試行錯誤がまた、始まった。その日は0079、5月下旬。  宇宙では、ジオンの宇宙要塞『ソロモン』が完成の日を迎えていた。 クニイ「こうやって、二人の技術者によってMSの基礎ができあがって行きます。」 ゼンバ 「ではここでご紹介します。MS開発に携わった元連邦軍技術大尉アルフ・カムラさんです」 クニイ「時の司令官、レビル将軍にこのプロジェクトを託された時はどういったお気持ちでしたか?」 アルフ「・・・・何故私が?ってのが正直なところでした。しかも高名な宙軍のレイ大尉と     同じ計画で仕事をするとは・・・仰天しましたよ(笑)」 クニイ「コア・ファイターの開発に於いて対立されたそうですが?」 アルフ「私も、若かったんで派閥だのを言ってくるレイ大尉には非常に頭に来ましてねえ(笑)     何とかして彼の鼻をあかさねばならぬ・・・その一心でしたね」 ゼンバ「試行錯誤を重ね、いよいよMSの開発は佳境を迎えます。続けてご覧ください」  RX-77。それはアルフとテムの、持てる技術の絶妙なるハーモ二ーの結晶だった。 砲撃力とビーム兵器と重装甲を兼ね備えた、機動性を持った『動く機動歩兵』の 芸術的な完成形が、疲労の極致にあった二人の前にロールアウトしたのは、なんと 2週間しか経たない6月上旬の事だった。二人は、極上のウイスキーを注いだグラスを 打ち付け、微笑みあった瞬間…同時に気絶した。…二人の、一番幸せな時期だった。  「鈍重に過ぎる! 話しにならん! 君達は一体この一ヶ月、何をして来たのかね」  得意満面で高官達の前でプレゼンテーションをしたテムが受けた衝撃は、筆舌に尽くす には足りなかった。帰ってきたテムを出迎えたアルフは、テムの所業を止められなかった。  これまでに書き溜めたプランや設計図の記録媒体にウオッカをぶちまけ、室内で、焼いた。 涙を、流しながら。アルフも、泣いた。…泣きじゃくるテムの肩に両手を付いて。 自分達の成果が、厚顔無知な高官のために完全否定された事は、明らかだった。  「糞どもに見せてやる! 思い知らせてやる! 本気になった私達の凄さを!   カムラ君! 最早納期は完全無視だ! ザクを時間の彼方へ追いやる物を、   創ろう! 奴等が涎を垂らして阿呆面を並べる様を嘲笑おうでは無いかっ!」    火災を感知し、室内のスプリンクラーの放水や消化ガスが蔓延する中、ずぶ濡れになった テムは、アルフに鬼気迫る顔で吐き捨てた。アルフは、恐怖した。狂気に取り付かれた男に。   地獄の、季節だった。寝ても覚めてもMSが頭の中から離れない。Aパーツと Bパーツ。コアファイター。フレームに装甲、冷却系。既存の蓄積した技術を 一切使わず、新規にプランを書き起こすテムに、冷静に反論するアルフ。  「私の設計に無駄があるだと! 何処だ! 言って見ろ若僧! 陸軍の地べた   を這いずり廻る地虫風情がこの私に一端の口を聞くとは、笑いが止まらん!」   「…オレは歩兵じゃない…技術者だ! …訂正しろ! 今すぐ取り消せ!    古い頭をひねくり回す位しか能が無いくせに、言うッ! 冷却系がマズイと   オレは言っているだろうが! これでは廃熱系が宇宙しか持たないんだ!」 時には皮肉交じりに、時には胸倉を掴み合いながら、そしてまれに拳を交わしながら、 プランは徐々に形を取りつつあった。MSの顔を、人型に近づけ示威効果を高めること。 不慣れな操縦者のための重装甲から、ザクのマシンガンやバズーカを跳ね返せるだけ の特殊軽装甲の開発。砲撃専門機体から、格闘戦もこなせる敏捷さを持つ汎用機体に。 ヒート系の嵩張る格闘装備よりも、より携帯性に優れる白兵戦用ビーム兵器の装備を。 重要なのが、軽量装甲を補う取り回しやすいシールドの開発等等。難問ばかりだった。  幸運な事に、連邦軍のエネルギーCAP技術が、完全ビーム兵装化を可能にしたのが 7月初旬の事であった。二人はその知らせに安堵の余り、一日休んだほどだった。 究極のMSを創ることに、テムとアルフは、文字通り心血を注いでいた。 テムの癇癪を抑える側のアルフは、喀血し、設計に悩むテムは、躁鬱病を発症していた。 血を注ぎ、心を犠牲に捧げたMSは遂に完成の日を向かえ、ロールアウトする。  完全な新規設計から約3週間の異例なスピードで、RX-78-1は、地球に措いて完成した。  0079、7月上旬の事であった。その一日前、新型戦艦『WB』が進宙式を済ませていた。 ゼンバ「ここに用意しましたのは、当時試作された25分の1のRX−77のテストモデルです     カムラさんから特別にお借りしてきました」 クニイ「実際に動く訳ですよね?」 カムラ「ええ。MSの間接構造をそっくりコピーしたので・・・やって見ましょう」 クニイ「おおっ!これはすごい」 カムラ「・・・・・レイ大尉は、テストモデルやモックアップにまで完璧を要求する人でした。     ”プロトだしそんなに神経質にならないでも”と言うのですが・・・     いやあ何度も怒られましたよ(ふと遠くを見て涙をこらえる仕草)」 ゼンバ「RX−77のプレゼンテーションの後、レイ大尉に何か変化みたいな物はありましたか?」 カムラ「まあ彼の場合は、作業に対する執着心みたいのは並はずれてました。     私も彼もかなりの自信がありましたので、あの結果は彼の執着心に拍車をかけたとでも     いいましょうか・・・」 クニイ「つらかったでしょう?」 カムラ「ええ。私も本気で彼をバックアップせねばと決心しました。そして     勝利の美酒をウオッカでと」 ゼンバ「全てが完璧に進んだプロジェクト、そして敗北。わずか1機で     戦局をひっくり返す原動力となった傑作機RX−78がその姿を現します」  しかしアルフには、テムに隠してもう一機の『RX−78』のプロトタイプを創っていた。 それはコアファイターを抜き、機体の剛性を高め、より生産に適した機体であった。 陸軍のゴップ将軍を始めとする主流派の、要求に応えてのものだった。  「宇宙軍にだけ、いい思いはさせてはイカン。そうだろう? カムラ君?」  「…アンタ方も、宇宙軍と同じ穴のムジナと言う奴か…。解った。やろう。   しかし、アンタ方の為では無い! 今この瞬間でもザクと戦い、死んで   行く兵士のためにだ! …その代わり、一切テム大尉には口外しないで   欲しい…。テム大尉から見れば…オレの行為は裏切りだからな…」  テムが寝静まった頃に、ひっそりと自分の機体の進捗状況をオンラインで 確認するアルフの二重生活が、喀血の原因となったのを、テムは知るよしも 無かった。『原型機』があるだけに、作業は早かった。もう一台の『RX-78』 は、不慣れな陸軍工廠が多数の余剰部品を産み出しながらもロールアウトした。 テムの『RX-78-1』の完成から、一日を置いての事だった。  出来た機体は…テムのRX−78の『フェイス』を完全に受け継いでいた。 そして、運命のテムの機体の、デモンストレーションの日がやってきた。  圧倒的かつ画期的な性能を魅せるRX−78−1に、居並ぶ高官達は言葉を失った。 しかし、陸軍の高官の一人は、侮蔑とも取れる微笑を唇の端に浮かべていた。  「まだこの機体に、RX−78ナンバーを与えるのは早いのではないかね?」  テムの機体の背後に、『顔』だけはそっくりな機体が現れ、軽快な運動性を 披露し、次々と現れる標的をそっくり同じ兵装を使って、打ち砕いて行く。  テムの額に太い血管が見る間に浮かび上がった。アルフは、唇を噛んだ。  「我々のこの機体こそ、RXナンバーを与えられるに足りる。そう思わんかね?   アルフ・カムラ『陸軍』技術大尉? 君はとても優秀で、しかもまだ若い!」  テムの燃えるような視線が、カムラを射抜く。テムが声を絞り出すように発した。  「…戦闘機は要らんと言うのは…こう言う珍妙なモノを創るために言ったのかね」  アルフは、応えなかった。その時だった。テムのRX−78−1が異音を発し、煙を 上げ始めたのは。最後の課題の冷却系が解決せず、無理に完成まで持っていったのが その原因だった。しかし、それはテムの機体にとって、絶妙なデモンストレーション と為ったのだった。パイロットは慌てる事無く機体を横たわらせ、Aパーツを離脱。 コアファイターを使い、脱出する。カムラの機体は、AパーツとBパーツの爆発に 巻き込まれ、大破したのである。…テストパイロットはその事故で、死亡した。  面子を潰されたテムと陸軍の高官の決定は、カムラを閑職に追いやる事だった。 R X-79プロジェクト。聞こえは良いが、RX−78のプロジェクトに比べ、予算は 3桁も少なかった。テムはRX−78−1の宇宙のテストに向かう際、アルフにこう 吐き捨てた。…カムラは、黙ってその言葉に耐えた。現場の、兵士のために。  「君の様な者は、私の○○した○○でも喰っている方が、遥かにお似合いだよ。   そう思わんかね、『寄生虫』君? 君には羞恥心のカケラも無いのだからな!」  RX−79。それはRX−78の先行量産機を創ると言うプロジェクトだった。しかし、 用意されたのは質も遥かに劣るスタッフと、数々の余剰部品。報復人事の一端で ある事は誰の目から見てもすぐに解ることだった。  「…オレはオレの機体を作る! 現場でMSを必要とする兵士のために!   軍の面子なぞもう知った事か! 見てろテム・レイ! オレはオレの   やり方で貴様のRX−78を超えてやる! オレ自身のためにもな!」  愛憎半ばする不思議な感情を抱えつつ、アルフ・カムラはRX−79製作に 腐る事無く、熱狂的に取り組んだ。そのひたむきな姿に、事情を知る者は 涙を隠せなかった。陸軍工廠から出た余剰パーツを廻してもらったり、 RX-78のパーツを同情的な技術者仲間に密かに流してもらったり、物乞いの ような真似は、『雲よりも高い』彼のプライドを甚く傷つけた。しかし彼は 諦めなかった。こうして完成した数十機の『RX−79』は、彼の分身とも言えた。  クニイ「・・・・レイ大尉と結局袂を分かつわけですが・・・」 カムラ「・・・今からすれば、若さ故の過ちとでもいいましょうか。何とかして     あのレイ大尉を上回りたかった。只の開発助手で終わるわけには行かなかった・・     結果的に裏切り者と蔑まれても当然のことを犯した。最後には貴い犠牲を負ってしまって」 ゼンバ「レイ大尉のRX−78のどこが不満だったのでしょうか?」 カムラ「あの時点で連邦軍が勝利を収めるには、MSを大量生産し、早期に戦場へ送らなければならなかった     量産効率の面ではあまりに不利でした。確かに性能はザクの数倍の戦闘力を確保はしていましたが」 クニイ「それは、やはり現場の兵士達を思ってのことですか?」 カムラ「ええ。我々がMS開発に手こずってる合間にも同胞が命を落としていく状態はとても嫌でしたから。」 ゼンバ「さて、自らの主義を通し閑職に追いやられたカムラ大尉。転機が訪れます」  8月に、RXシリーズの最終テストがサイド7で開始された。RX-75,77,78-2が順調に仕上がって行く中、 アルフのRX−79の地球でのテストは行き詰まりの様相を呈してきた。…テストパイロットが、居ない。  あの不幸な事故が尾を引いている事は明白だった。あの事故の話に尾ひれが付いたのだ。 「奴の創る物は信用できない。誰も死ぬと解ってて乗る奴は居ない。余程の馬鹿じゃ無ければな!」 テストパイロットの中で、何時の間にかカムラの作った物に対して、根も葉もない噂が、蔓延していた。 確かにパーツはRX−78の製作過程の余剰部品だ。しかし、出来は純正品と同じだ。自信は充分にある。 カムラは自らテストパイロットを説きに廻った。…部隊を訪れたカムラに待っていたのは、冷笑と侮蔑だった。 カムラはこの時、悔しさに、思わず、叫んだ。 「臆病者どもがっ! オレの機体がそんなに怖いのかっ! 誰も乗りこなそうとは思わんのかっ!」 カムラの背後から肩に手を置く者が居た。宇宙戦闘機乗り出身で、『怖いもの知らず』で超有名な、 「Y・G」だった。彼は静かに微笑みながらアルフに、言った。  「言わせておけよ、へタレどもには? 俺が、協力してやる。あの『ガンダム』に乗れるんだろう?」  「『ガンダム』? …なんだ、それは? オレの聞いたことも無い名前だが…? 一体それは何だ?」  「『RX−78』のテストパイロットの付けた愛称だ。いい機体だと、パイロット仲間から聞いている。   アンタはあのRX−75,77,78の設計に噛んでいたそうじゃないか? 俺は正直、期待してるぜ?   ああ、それと事故の件だが、気にするな。死んだ奴が無能だったせいさ。アンタの責任じゃない」  「Y・G」の最後の台詞は、居並ぶ他のテストパイロット達を激怒させるのには充分だった。 アルフは、「Y・G」と共に、乱闘に参加した。2対15の戦いに、二人は45分後、勝利を収めたのだった。  テストパイロットも揃い、機体のテストが着々と進み、問題点が次々と浮かび上がる。 終わりの見えない修正を続けるカムラ達に、2通の文書が、届いた。 「サイド7にてRX−78−2、白兵戦にてザクを撃破」と。 カムラ達は我が事のように喜んだ。自分の名は出ないだろうが、仕事は報われたのだ。 もう一通の内容は、カムラを即、昏倒させた。「テム大尉、行方不明」。  「行方不明…? あのテム…レイ大尉が…行方不明だと!?    嘘だ! 誰か嘘だと言ってくれ! 敵の流した欺瞞だ!」  超えるべき巨人が、目標が、呆気なく、カムラの前から、消えた。 急に自分の足元が、覚束無くなり、よろめいた。 「Y・G」が、すぐに支えてくれた。彼は嬉々としてカムラに、言った。    「…お偉いさんが、大勢で来てる。アンタにどうやら大事な話が  あるらしいな…。どうする? 追っ払うなら、手伝うぞ?」  自分を逆恨みで閑職に追いやった、あの高官も来ていた。 V作戦の、地球に残った関係者達が、押しかけてきていた。 彼らはカムラが姿を見せると、そろって安堵の溜息を吐いた。 …カムラは唇の端を露骨に歪め、彼等に皮肉げに言った。  「…オレには『ガンダム』を創れません。アンタ達はそれを承知で、   此処に、オレの元へわざわざ来た。…どんな気分だ?」  「君が居てくれて…良かった…。恥知らずだが、敢えて言おう。   君にV作戦を引き継いでもらい、RX−78の量産型を頼みたいのだが…」  『お断りだ! オレはテムじゃ無い!』と叫ぼうとしたカムラの口を塞ぐ者が居た。 …「Y・G」だった。その大きな手でカムラの口を覆い、彼は代わりに高官達に応えた。  「『引継ぎを喜んでやらせて頂きます』、と、カムラ大尉は言っておられます…。   が、安心するのはまだ早い! 違うぞ! アンタ達のためじゃあ無いぞ!    コイツは前線の兵士のために引き受けるんだ! ザクと体を張って旧式兵器で   渡り合う命懸けの連中のためになぁ! アンタ達みたいなモグラの頼みでコイツが   動くものかよ! 腐れ禿に頭の狂った出世魚のためになんか、動く奴じゃない!」  「Y・G」は即日で最前線の戦闘機隊に配属が決定した。アルフはV作戦に、復帰が 決定した。別れ際に「Y・G」は照れくさそうに、アルフに言った。  「アンタがコピー品を作るのを引き受けたあの時、ルウムの敗戦隠しで   貰いたくもない勲章の叙勲待ちで、俺は次の間に控えてたんだ。   …全部聞いてた。…アンタの創ったMSに乗れるまで、なあに、俺は   生き残って見せるさ! 俺の腕前、知ってるだろう? …じゃあな…   アンタの心意気に、俺は惚れたよ。…また何処かで、逢おうや」  カムラはテムと袂を分かってから、初めてこの時、男泣きに、泣いた。 (カメラがアップになっているにもかかわらず涙をハンカチでぬぐうカムラ) ゼンバ「では、ここでもうひとりゲストをご紹介します。かつてカムラ技術大尉と共に     MS開発に携わったテストパイロット、ユーリ・ゴルトベルガ−氏です」 カムラ「・・・・・えっ・・・(ふと後ろを振り返る)久しぶりだなぁ?!生きておったか」 ゴルトベルガ−「何とか・・・あなたもお元気そうで!」   (しばし抱擁・・・) クニイ「閑職においやられた後もMS・・・ガンダムの開発を続けていたのはやはり     レイ大尉に対する対抗心からなのでしょうか?」 カムラ「ええ。それは多少ありましたが、自分の蒔いた種は必ず自分で始末しなければならないという・・・意地ですかねえ」     それに優秀なテストパイロットの存在もありましたし(笑)」 ゴルトベルガ−「そんなに優秀でしたか私は?(笑)」 ゼンバ「ところが79年の10月の・・・サイド7での衝突で偉大なる目標     テム・レイ大尉が行方不明となるわけですが・・・」 カムラ「あの時の報告を聞いたときは、嘘であってくれ!と何度も思いました     私にとって、彼を打倒することがモチベーションだったので」 クニイ「情熱が失われたと?」 カムラ「まあ、そういうことですが。もとより打たれ強い方なので(笑)自分を取り戻すのは     早かった記憶がありますな」 ゴルトベルガー「当時の彼の精神的頑丈さを見るに技術屋よりパイロットのほうが向いてるんじゃないかと思いましたよ(笑)」 クニイ「この事故により再びV作戦に参画する訳ですが、どういった心境でしょうか?」 カムラ「彼の・・・テム・レイの無念を晴らすというとかっこいいですが技術屋の本性ですな     思い切って腕をふるうことが出来る。それだけでした」 ゼンバ「さて再び加わったV計画に、思わぬところから協力者が現れます」    V作戦は最終局面に入っていた。いよいよ主題の、MSの量産過程を構築しなければならない。 しかし、RX-78は、哀しくなるほど量産向きの機体では無かった。潤沢な予算を投入し、完成 した部品の数々は、個々の精度には問題は無かったが、その部品を組み立てる際に許される誤差 が、寸分の狂いも、許されなかった。格段の性能を発揮するが、これでは時間が幾らあっても、 足りなくなってしまう。カムラは、悩まなかった。RX−79を再設計する方が、効率的だった。  もともとカムラの創っていたRX−79は「寄せ集めの半端モノ」から生まれた。多少の設計上 の部品の誤差も組みの甘さも、問題にもしなかった。部品さえあれば、いちおう要求性能を満たす 機体を創れる。先行量産機を試作すると言う『閑職』で培った経験が、ここで生きたのである。   量産機はガンダム量産型の「ガンダム・マスプロダクツ」からGMと名づけられる予定だった。 形式はRGMで決まっていた。後に続く番号は…? スタッフの目が主任であるカムラに集中した。  「…78は、却下だ。こんなやっつけ仕事は、凝り性のテムなら怒って引き受けないだろうな…。   …GMは、オレの即席品RX−79から多分にインスピレーションを得て『オレ』が設計した。   …79だ。これに78をつけると言う奴が居たら、オレはその場でそいつをどうするか解らん…」  RGM−79は、こうしてロールアウトを待つばかりとなった。が、ここで思いも依らない問題が 発生した。装甲材やフレーム等に利用する『ルナ・チタニウム合金』の払底である。各地の制海権や 制宙権をジオン公国に握られた連邦軍の物資調達能力が、徐々に低下しつつあった。  「…緒戦の負けが…此処でで響いてくる…この責任はモグラどもの無駄な采配にある…!   RX−75と77を量産して、せめて足止めに使っていればっ…! …糞ッ!」 ルナ・チタニウム合金は宇宙で生産することにより、合金を構成する各金属分子が比重に関係無く、 均質に結合し合い分布するという『均質性』が大きな特徴であった。同じ成分で地球上で生成しても 重力の関係で、部分的にに脆いモノが出来てしまう。これまでの試作機は宇宙で生成し加工したもの を地球に降下させて組み立てていた。ここまで戦況が悪化してしまった今、もうその手段は使えない。  「強化セラミックと、旧式兵器のルナ・チタニウム合金を溶融した、チタン合金仕様で、   RGM−79の再設計を行う! 残された時間はもう無い! 悪いが皆の命をオレにくれ!   期間は一週間! 急げ! ここで負けたらあの世でテム大尉に詫びる顔がなくなるぞ!」  テムの名を出した途端、スタッフの顔が引き締まった。アルフは、じっと、中空を見据えていた。  焦るカムラに、RX−78−2の華々しい戦果が次々と伝えられて来た。 ザクを物ともしない火力、防御力、機動性。正式な整備らしい整備もロクにせず、 『実戦で』活躍する『テムの作品』に、カムラは強い嫉妬を覚えた。  「…テムのRX−78が宇宙や地上でアレだけの戦果を挙げたのだから、   オレのRX−79やRGM−79も実戦では引けを取らんはずだ…! 」  丁度、極東方面軍のイーサン・ライヤー大佐が、試作機を自分の指揮下の大隊に 廻して欲しいとの要望を、オブラートに包んだような言い方でカムラに伝えていた 事を思い出した。カムラは目の前の端末のボタンをプッシュし、言った。    「RX−79とRGM−79の内、すぐに陸戦型に換装可能なものは何機ある?   …実戦データが採れるいい所を思い出したのでな…。そうか…わかった…」  陸戦型ガンダムと陸戦型GMは、こうして淡々と戦場へと送られたのである。 RX−78に比べて、どこか暗く、裏取引の匂いのする、地味なデビューだった。 クニイ「カムラさんの作り上げたMS、RX−79は地球での実戦投入が開始されました      ですが、いっこうに進まない量産計画にご不満はありませんでしたか?」 カムラ「不満・・・・それはありましたが、なにせ実戦データの枯渇は最優先に      クリアーしなければならなかったので、陸戦機ヘの換装、小規模投入に応じることにしました」 ゼンバ「選択は、間違ってませんでしたか?」 カムラ「若干遠回りしましたが、その後の開発効率も上がりましたよ。」 クニイ「さてここにありますのはRX−79の左腕メンテナンスハッチに実際に使われていた部品です。      ・・・・非常に軽いですね。これがMSの装甲なのかと思うとちょっと      信じられない気がします」 カムラ「怪我の功名なのですかね?急場しのぎで作った合金ですが軽量化にも作用しました。      私は神様とかはあまり信じないのですが、今回ばかりは神様に感謝しましたよ(笑)」           クニイ「この戦争は、ニュー・タイプ・・・優れた人類の登場する新たな戦いでもありました。」      それはV作戦にも影響を及ぼします。」              カムラは、後悔した。予想以上の、陸戦型仕様のMSの損耗率に、頭を抱えた。 東南アジアへの補充部品の矢の様な催促が、本筋の量産計画まで圧迫していた。  「パイロットの技量の差か…? オレは何処までもツいていない…!」  ルナ・チタニウム製の装甲の御蔭で、パイロットの死亡は未だ無いものの、その 部品の消耗率は常軌を逸していた。カムラは心の底から、陸戦型のパイロットを、 呪った。パイロットの技量さえ充分なら、ザクごときで苦戦する筈が無かった。  「…そう言えば…あのRX−78のパイロットは一体誰だ? 資料が確か…!」  『アムロ・レイ』。カムラの目に『レイ』の文字が墓標の様にそびえ立って来る 様だった。まだテムと親しげに話せたあの日、思春期を迎えた息子の話を聞いた事 があった。カムラは必死に思い出す。にこやかにテムが自慢していた、将来を期待 していた息子の名前は…! カムラはプリントアウトされた資料を机に叩き付けた。  「またしてもテム・レイ、オマエかッ! 何処までもオレの上にっ…!」   闘志が自分の中に再び燃え上がるのを、カムラは感じていた。コンピュータの端末 から、密かに記録しておいたRX-78の機密資料を呼び出し、閲覧するカムラの脳裏 に、あるアイデアが閃いた。教育型コンピュータの存在である。この『テムの息子』 の叩き出した華麗な戦績を生み出した操縦テクニックや機体運用データは、逐一、 記録されているのだ。これを限定的にRGM以降のMSのコンピュータに反映させれ ば…素人同然の技術を持ったパイロットでも、戦果を上げることが出来る!  「…ク…クックックック…ハァッハッハッハッ!! テム! …あの世でオレに   感謝しろ!! オレを寄生虫と罵った貴様の息子を、オレが有効活用してやる   のだからな! 親子揃って、オレの糧(カテ)となるが良い!」  もはや陸戦型MSのデータなど、今のカムラにとって屑も同然だった。  カムラの狙いは、当たった。しかしそれは、完全では、無かった。 GMにデータを移植したのは成功だった。しかし、GMの挙げる戦果は皆、 『テムの息子』がもたらしたとの評価が付いて廻る事になったのである。 カムラは、荒れた。やり切れなかった。  「ドイツもコイツも…! 量産を成功にまで導いたのは誰の御蔭だと思っている!」  優れたパイロットが必要ないシステム。そんな物はただの夢物語だろうか? そんな時に出会ったのが、ジオン公国からの亡命者『クルスト・モーゼス』 博士だった。博士の開発した画期的なOS、『EXAM』システムに、カムラ は魅了された。システムにより処理される情報量が、連邦製品とは段違いだった。  「今度こそ…オレの手によるMSで…RX-78を…ガンダムを超える!」    試験的に使用したRGMの機体では、最終的にシステムの要求する機動や出力に 対応出来なかった。カムラは自分の持てる全てを叩き込んだ、かなり状態の良いRX−79 を数機、自分の研究用に確保していた。カムラはそれを投入する事に躊躇しなかった。    「コレで…オレは…RX−78を…超える機体を目指す! 見てろよテム・レイ!」  『目』から上だけが、『EXAM』を積んだRGM初期型で、後はRX−79の機体。 RX−79の頭の名残は、『口』の部分に付いている、紅く塗装されたブロックのみだった。  「…何…? 機体を『蒼く』塗る? 別に構わんが…。理由は? 趣味か…。解った…」  『EXAM』を搭載した機体、RX−79はその機体全体を、クルスト博士の『趣味』で 『蒼く』塗装される事に決定された。「RX−79BD−1:ブルーデスティニー1号機」 はこうして誕生したのである。GMの量産により、戦局は連邦に有利に傾きつつあった。   カムラは、この蒼い機体の示す性能に、魅惑された。自分の手で創った機体だとは、 とても信じられなかった。正に戦うために生まれたのだ、と言い切れるMSだった。  「おお…オレの…ブルー…。凛々しく、そして、美しい…。機能美溢れる破壊の女神よ…」  機体の固定兵装として、武装胸部バルカンを2門、腰部に小型ミサイル発射機を2門。 ビームサーベルを腰部に2基、装備し、ジェネレーター出力をUP。さらに技術工廠 の人脈を使い、試験的に各部のアクチュエータのマグネット・コーティング技術の導入 までやってのけたのである。その気になれば、RX−79用のビームライフルさえ運用可能 なエナジーゲインを誇っていたが、EXAM運用のためにそれはあえて装備させなかった。 その代用品として実体弾を使用する100@マシンガンを、マニピュレータに装備させた。    「…オレの心血を注いで創ったモノが、テム・レイの創ったモノに負ける筈が無いのだ!」    『EXAM試験機』それは連邦の高官たちにとって大きな意味を持つMSとなって行く。 ジオン公国が掲げる、『ニュータイプ思想』は、彼等にとって大きな頭痛の種だった。 実戦にニュータイプ兵士を投入すると言う情報が飛び交い始めたとき、それに匹敵する能力 を普通の兵士でも発揮できると言う『EXAM』に、彼等が飛び付いたのも無理は無かった。  『GMプロジェクトは君の御蔭で軌道に乗った。次は『EXAM』実用化に   向けて優秀な君の力を最大限に発揮してくれ。…君をこのプロジェクトの   専属技術者とする。必要な予算や人員は君の要求する通りに、当方で可能   な限り差し出そう。逆境の中、這い上がった君の力を我々に見せてくれ!』  ゴップ将軍が小さな端末の画面の中で軍帽を取り、その頭を下げた時、カムラは不覚にも涙を 抑え切れなかった。ついに、此処まで自分は上り詰めたのだと、始めて実感したのだった。 クニイ「学習型コンピューターの導入によってカムラさんの開発したMSは      飛躍的進化を遂げることになります。カムラさん自身はニュー・タイプ      という存在はどのようにお感じになりましたか?」 カムラ「・・・突出した人間というのはどこの分野、どんな環境に置いても存在しうる物である      という認識ですね。しかし、あの78型ガンダムのパイロットにおいては当てはまらない      事例ですな。わずか17歳の民間人があの戦果ですから・・・」 ゼンバ「運用データの礎になった78型ガンダムのパイロット・・17歳の青年があなたのライバル、テム・レイ氏の      ご子息と解った時には、どういった心境でしたか?」 カムラ「・・・・・・あの時の私はテム・レイの78型ガンダムを上回る機体を作る      それだけでした。ただ、親子そろってよくも私に絡むもんだと思いましたよ(笑)」 クニイ「ジオンからの亡命者によって新たなる技術”EXAM”がもたらされました。      敵の技術を流用するのに抵抗みたいのはありませんでしたか」 カムラ「ないですねえ。やはり一日の長があるジオンのMS技術力、利用しない訳には      いきませんでした。逆に、感謝してるくらいですよ。」 ゼンバ「ここに、EXAMシステムを搭載したMS、RX−79BD−1つまり      ブルー・デスティニーを撮影した数少ない写真を用意しました。 クニイ「白ベースの連邦系量産MSを見慣れてる私にとっては、この”蒼い”機体は      非常に新鮮に映りますねえ」 ゴルトベルガー「宇宙空間なら解りづらかっただろうね」 カムラ 「成る程なあ・・・・今頃気づいたぞこの蒼の意味に(笑)」 ゼンバ「GMの大量投入が功を奏し、戦局は連邦の勝利へと傾きます。そして     カムラ技術大尉のMS開発と言うもう一つの長い戦いも終焉へと向かいます」   しかし、好事魔多しとはよく言ったモノで、カムラにとって『EXAM』は正に鬼門となった。 テストパイロットが、『EXAM』によって送り込まれる情報に耐え切れず、次々と発狂若しくは 廃人と化していった。『女』の声を聞いた、或いは『少女』が訴えかけるとの報告に、周囲の人間 は徐々にプロジェクトの中止をカムラに求め始めた。何か得体の知れないモノが、ブルーに宿って いるのだ、と言うスタッフを、カムラは一笑に付した。  「…優れた物を求めるのには代価が必要だ…。求められる代価が大きい程、オレのブルーは   より大きな輝きを放つ…。きっとブルーは、捧げられる犠牲が多ければ多いほど、優れた   MSと為るだろうよ…。…ブルーのテストは続ける…。…中止など論外だ…」  事実、『EXAM』の暴走は止む事は無かった。暴走したが最後、ブルーは戦場に動く者が 無くなるまで破壊を続け、機体が稼動限界に達するまで、敵や『味方』の区別無く、殺戮を 続けたのである。敵や味方の識別を続けられなくなる理由は、『EXAM』が予測する戦闘 情報を絶え間無く送り続けられたパイロット自身の情報処理能力の限界を超えて、過大な処理 を彼の精神や肉体に強制するのが原因だった。つまりは、システムの要求に人間が『耐え切れ なく』なるのだ。パイロットには、それを拒否する事が実質、出来ないのだ。  『EXAM』は、戦闘に際し最適だと『システム自身』が判断した行動を、パイロットに 提示する技術だと聞いていたカムラは、まず最初にテストパイロットの無能さを呪った。  「…オレのブルーに『乗り潰される』パイロットは、所詮それだけの器に過ぎん…」  テムと別種の狂気を、居並ぶスタッフは今の『アルフ・カムラ大尉』に見出していた。  結局カムラは、リミッターを機体と『EXAM』の間に噛ませる事でスタッフと妥協した。 『テストパイロット殺し』の名を、自分の最高傑作である、この『ブルーデスティニー』に 冠されたく無かったのが原因だった。…しかし、それでもブルーの暴走は止む事は無かった。  「…クックックック…。ブルー…。偉いぞ…? よくオレの元へ還って来た…」  敵、味方の部隊を幾度も全滅させ、パイロットを発狂させ、帰って来るブルーにスタッフは 恐怖した。正に『呪われたMS』だった。暴走時に、RGMのゴーグルタイプのメインカメラ の奥より放つ紅の両眼(ツインアイ)の輝きは、アルフだけを興奮させ、周囲の人間を戦慄の 渦に叩き込んだ。ブルーにはいつしか、『蒼い死神』という綽名が囁かれる程に為っていた。 しかし、圧倒的な戦闘力を誇る『死神』のコックピットをGMで撃破したパイロットが現れた。  「オレの…ブルーを…あの『GM』で、だと?! 誰だ! 誰の仕業だ! 」  撃破したのが、第十一独立機械化混成部隊所属の『ユウ・カジマ少尉』である事が判明するのには、 多くの時間を要しなかった。『MS実験部隊』はアルフ達のチームだけとは限らなかったのである。    「…オレのブルーの性能をMAXまで引き出せるのは…奴が適任かもな…」    アルフは彼こそがブルーのパイロットに適任だと直感し、第十一独立機械化混成部隊に、ブルーごと  移籍を希望し、叶えられた。その後紆余曲折あって、『モルモット隊』と綽名されたこの混成部隊で 『ユウ・カジマ少尉』がブルーデスティニーのパイロットとして任命され、多大な戦果を挙げたのは、 その後の記録が示す通りである。が、その栄光に満ちた日々は長くは続かなかった。  ジオンにも、『EXAM』を搭載したMSが存在したのである。アルフの心血を 注いで完成させた『RX−79BD−1』は大破し、搭載していた『EXAM』は 破壊された。しかし、その頃既に、宇宙用に換装された『BD−2』と『BD−3』 がロールアウトしていたため、カムラの受けた衝撃は微々たる物だった。  「遂に…オレのブルーが、宇宙に…! テムゥ! 見ているが良い! 」  しかし、事はスンナリと運ばなかった。ジオン公国軍の手で、宇宙用に換装 された『BD−2』は奪取されてしまったのだった。『EXAM』の産みの親 である『モーゼス・クルスト博士』もその際に死亡し、『EXAM』の全容を 知る者は居なくなった。『EXAM』は最早、量産不可能なシステムとなった のだった。奪取された『BD−2』を追跡するため急遽調整された『BD−3』 は蒼く塗装されること無く、あの『RX-78』に施された塗装と類似したものに 為っていた。『BD−3』と宇宙に上がったアルフは、落胆した。  「所詮…テムをオレは…超えられんのか…? その程度の…器だったのか…?」  その時、コンテナ船の格納庫で歓声が上がった。アルフは、そこへ向かった。 『BD−3』の周りで、兵士達が騒いでいた。宇宙に行く前にアルフが手に入れた、 『テムの息子』の乗った『RX−78−2』と対戦できるシミュレータが稼動していた。 これまで連邦軍の中で勝てるパイロットや機体は、存在しなかった代物でもあった。  「…どうした? 何があった…? !! そ、それは…本当なのか!? 」  手近の兵士を捕まえて聞いたアルフは、驚愕した。なんと、『ユウ・カジマ中尉』が 『ガンダム』に『BD−3』で勝利したと言うのだ。…カムラの目に、じわりと涙が溢れた。  「…テムに…勝てた…! オレは…勝てたッ…! 見たかテムゥゥゥゥゥ!! 」  突然叫びだしたカムラに、兵士は驚いて離れていった。アルフは群集の中を掻き分け、 ユウ中尉の前に出て、彼の両手を握り、振り回し、感極まって、力強く、抱き締めた。  「…有難う…! …オマエの御蔭でっ…オレはッ…オレの仕事は…報われたッ!!」  その後BD−2、BD−3は大破し、EXAM搭載機は再び世に出ることは無かった。 アルフはその後、ムラサメ研究所に志願する事になる。『EXAM』があるニュータイプ少女 の精神パターンをコピーしたものだと判明したのがその大きな理由であった。  (四体のフィギュアを順に指す男)これが…BDの原型機とも言えるRX−79で…。 この蒼いGMの頭部に似た機体が…BD-1。この蒼く塗られたガンダムヘッドがBD-2、 そして、このRX-78-2に酷似した機体が、BD−3という訳ですね? カムラさん? カムラ 「その通りです・・・・」 クニイ 「試作機の強奪、ジオンの技術者の死と連続して悲劇が起こり”EXAM”      は事実上の終焉と相成るわけですがライバル、テム・レイの打倒という      目標は達成されたと・・・思いますか?」 カムラ 「(何を思い出したか、涙を流しハンカチで拭き取って)      ええ・・・何度と無く辛酸をなめつつもここまでやってきたのは・・・      テム・レイのRX−78型ガンダムの打倒、それこそが私の原動力でしたから       そして、シミュレーター上とはいえ、テム・レイの78型・・・そして彼の息子を      倒すことに成功した・・・何事にも代えられない喜びでしたね」 ゼンバ「ではもし、あなた一人で開発に携わっていたら・・・?」 カムラ「ここまでの成果は、無かったでしょうね。”競作”という手段を79年の時点で選択した     レビル将軍はこのことを認識していたのでしょう?」 クニイ「終戦後のカムラ技術大尉のその後を振り返りつお別れとさせていただきます」   ♪かた〜りつぐ ひとも〜なく〜  『宇宙は、命に満ちている…』BD−3から奇跡的に脱出を果たした『ユウ・カジマ中尉』は アルフ・カムラ大尉にこう語ったと言う。『宇宙は、暗黒の世界ではない。宇宙には『色』が あるのだ』と。カムラ大尉はその時、真っ先に、BD−1の機体の色を思い出したそうだ。 『あの、蒼色か…?』ユウ中尉は黙って頷き、言った。『マリオンが、言っていた』と。  カムラ大尉は廃棄されたサイド5の研究所で、資料を読んでいた。EXAMが起動した瞬間、 一人の少女が意識を失ったと。その少女の名をユウ中尉が口にしたことを、カムラ大尉は自然に 受け入れていたのだ。『命の…蒼…か…』己を振り返ったカムラ大尉は、『蒼』に別のイメージ を抱いていた。一年にも満たない期間を、駆け抜けていった出来事や、忘れられない人間達の事を。  「…オレの戦争に捧げた、短い青春は、終わったよ…。ブルーと共にな…」  戦争を始めるのも終わらせるのも、全ては『人』の『繋がり』だった。それが可能な『人の革新』に アルフ・カムラ大尉は自らの次に求むるべきモノを見出したのだ。ムラサメ研究所での、カムラ大尉の 研究は未だ軍事機密により明かすことは出来ない。しかし、もう私たちは知っている。         カムラ大尉が、真摯に自らの求めるモノを、追いかけた事を。         END