書きかけで放置した未完成記事の御開帳 (1)  無限に広がる大宇宙。そこを人類の生活の場とするべく、かつて 宇宙移民計画が実行された。何万人もの単位で人間はおろか家財道 具一式を宇宙に運ぶため、化学燃料で飛び立つロケットなどに替わ る新たな移送手段が必要だった。  これは人類初の試み、重量物打ち上げのためのマス・ドライバー 建設に関わった熱い男たちの物語である。                 ( ̄ ̄<     / ̄>                   \  ヽ   / /ソ         プ ロ ジ ェ ク ト\  ヽ P r o j e c t MS    ─────────────────────          挑戦者たち /|_/ /\challengers                  |   /   \   丶                  \/       \__ノ      (地上の星)   宇宙移民計画発令  オーダーは1日平均9万人規模     コスト、効率、安全性  相反する命題のジレンマ       極東の新興重工業会社  社運を賭けたプロジェクト         行く手を阻む大国の思惑 「届け、第一宇宙速度」〜宇宙に架ける橋、マス・ドライバー建設 物語〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━ (2) 【国井】  こんばんは。国井雅比古です。 【膳場】  こんばんは。膳場貴子です。 【国井】  今夜のプロジェクトXは、宇宙世紀黎明期に発令された『宇宙移 民計画』に端を発する、マス・ドライバー建設に関わった方々の物 語です。マス・ドライバーとは…こちらをご覧下さい、これはヨー ロッパ大陸とアフリカ大陸を繋ぐ玄関口のジブラルタル海峡に作ら れたマス・ドライバーなんですが、長大なレールで貨物を加速、そ のまま宇宙に放り上げるシステムなんです。 【膳場】  すごく長いレールですね〜。何キロもありそうです。 【国井】  これを作るのは、本当に大変でした。前代未聞の大規模工事に加 え、天災、人災、そして反対勢力の妨害工作が行く手を阻みました。  宇宙世紀元年、スペースコロニーへの宇宙移民計画が発令された。  最初こそ宇宙往還シャトルによるピストン輸送で年間3万5000 人を宇宙にあげたが、そのために年間数十兆ドルという費用がかかっ ていた。コロニー建設に従事する技術者が大半だったため、やむを 得ない出費と考えられていたが、このままでは経済的に立ち行かな くなることを地球連邦政府は認識していた。頻繁に行き来する宇宙 往還シャトルの出す過剰な排気ガスは、大気上層のオゾン層にも悪 影響を及ぼしていた。  事態を重く見た連邦政府は、世界中の有識者の集まる定例会議で 議題として提出した。出された低コスト移送案は、ごく一部の実現 できそうにもない案を除いて、2つに集約された。「軌道エレベー ター案」と「マス・ドライバー案」である。  軌道エレベーター案とマス・ドライバー案には、どちらにも長所 と欠点が存在していた。  軌道エレベーターは地上に近い一点から静止衛星軌道まで一本の ロープを張り、その両端に充分な重さのウェイトを配置して、その ロープを伝って登れば低速度で宇宙空間まで辿り着ける、というも のだった。もちろん利点は運用コストの極端な安さだったが、欠点 はそれを上回った。物資の運搬に使うには規模が大きくならざるを 得ず、初期費用が天文学的数字になってしまうこと、そして新技術 や新材料の投入が不可欠で確実性に欠けること、しかも両端の重量 バランスがとても重要になるので、天災やテロリズムなどによる破 損に対して極端に弱く、破損してからの補修は不可能なこと、それ を克服するためにオービタル・リングを配置するにはさらに天文学 的な予算と資源を上乗せしなければならないという欠点だった。  一方マス・ドライバー案は、軌道エレベーターのような目から鱗 が落ちるほどの安さは得られないが、それでも宇宙往還シャトルよ りは割安になった。建設も軌道エレベーターよりは現実的で、初期 費用は概算で軌道エレベーターの10分の1以下だった。技術的にも、 大電力の供給施設以外は既存の枯れた技術で十分対応できた。強い て言えば、場当たり的な中途半端さが欠点だった。  議会は、短期的に見て予算と資源が節約できるマス・ドライバー 案を決定した。軌道エレベーター推進派からは怒濤のような反論が 巻き起こったが、軌道エレベーター方式は将来に実現させる方向で 検討する、と結論づけた。  どちらが現実的かという選択で勝利したマス・ドライバー案であっ たが、一般的な感覚から見るとマス・ドライバー案のコストも充分 常軌を逸していた。しかし既に地球の人口は90億人を突破し、な お加速度的に増え続けることが示唆されていた。後戻りは、できな かった。 【国井】  この当時、増えすぎた人口をいかにして宇宙に移民させるか、そ していかに快適な暮らしを送れるようにするかが、地球に暮らす市 民にとっての共通課題だ、という認識が一般的でした。 【膳場】  まさに全人類が一つの目標に向かって叡智を結集していた時代、 ということですね。 【国井】  そうなんです。確かに各地で紛争や内戦はありましたが、そんな 中でも一人ひとりが何かしら考えを持っていたんです。事実、地球 連邦政府が直轄する唯一の税金として「宇宙開発税」というものが 存在しましたから、文字通り一人ひとりが宇宙開発に貢献していた のです。現在、団結という言葉を使うこともまれになった我々にとっ て、何とも羨ましい時代でした。 【膳場】  その背景には、旧世紀から引き継いだ負の遺産である環境汚染や 環境破壊、そして地球温暖化と各地の砂漠化などの諸問題がありま した。そんな疲れきった地球の資源だけでは、とても食べていけな いほどの人口を、人類は抱えていました。  スペース・コロニーを建設、そしてマス・ドライバーを建設、し かも小惑星帯から資源衛星を曳航するなど、まさに宇宙開発の黄金 期を迎えていたのです。 http://www.mytangledweb.co.uk/bloom.htm http://www.infosakyu.ne.jp/~sekkan/ichiran/maker.htm  マス・ドライバー案を採択した地球連邦議会は、すぐさまプロジェ クト・チームを立ち上げた。世界中の政治家の中から選ばれたチー ムリーダーは、マルコム・ブルームという男だった。映画スターだっ た祖父から受け継いだ、甘いマスクを持つイギリス人だった。  ブルームはまずマス・ドライバー建設のための見積もり業者を選 定した。しかし前代未聞の土木・建設工事に、尻込みする業者が続 出した。そんな中名乗りを上げた企業があった。日本のヤシマ重工 だった。  ヤシマ重工は、元々建設会社から派生した、建設に関連した重工 業を行う新興の会社だった。ヤシマ重工の社長、八島大輔は建設会 社勤務時代、他社のやらない難しい物件の見積もりを行った経験が あった(現在でもそれらは読むことができる。「ttp:// www.maeda.co.jp/fantasy/」にアクセスされたい)。新入社員 であるにも関わらず企画に参加し、実際に見積もりも行っていたエ リートだった。実績は充分だった。  ブルームは八島を地球連邦政府のあるニュー・ヤークに呼びつけ た。見積もりの前に人となりを見極めるためだった。マス・ドライ バー計画はややもすると人類存亡の危機に関わる。しかも名乗りを 上げたのがヤシマ重工ただ一社なので競争入札さえもない。うかつ な人間を登用する訳にはいかなかった。 (当時のインタビュー映像・マルコム・ブルーム)  「・・・八島氏は、最初は日本人に特有の腰の低いだけの人物か と思っていたんです。ですが彼のテクノロジーへの造詣やそれを自 らの仕事の範囲に当てはめる能力というものは、特に傑出していま した。そして腰が低いながらも仕事に対する真摯な姿勢は、誰の目 にも明らかでした。」  UC0002年初頭、八島からの見積書がブルームの手に届いた。総 工費は40兆ドル。端数はサービスだった。地震にも強風にも強く、 大荷重を頻繁に受け止めるために耐久性を重視した結果、高架橋を 使わず人口の山脈を作って支えるという工法を採用した。総工費は マス・ドライバー建設に付随する施設(宇宙往還シャトル着陸用の 滑走路、大電力供給用の核融合炉、管理施設、職員の居住施設、ジ ブラルタル市街地間を結ぶ道路など)は除いた数字だったのだが、 ブルーム、見積もりを快諾した。  しかし条件を付け加えた。UC0017年内の営業開始厳守の確約だっ た。  宇宙移民人口の推移を将来50年に渡ってシミュレーションした 結果が出ていた。UC0050年までに総人口は100億人を突破するは ずであるが、そのうちの50%を宇宙へ移民完了し、スペース・コ ロニー内で自給自足ができる範囲までの設備を整える・・・つまり 地球人口を50億人におさえることが、地球環境を破壊に追い込ま ないための最低ラインだった。理想を言えば、地球環境を観測・管 理する係官、原始生活を送る少数民族、地球上であることが密接に 関わる無形文化財の継承者など、全人口の5%未満の例外を除いた 全人口がスペース・コロニーに移住するべきだった。そのためには、 その時々の出産可能年齢層を優先的に、年間平均約1億5000万人 を宇宙に上げることが必要であった。  マス・ドライバーはジブラルタルのものを含めて4つ作られる予 定であったが、他の3つ(キリマンジャロ、チベット、アンデスと 赤道に近く標高の高い山岳地帯が内定していた)に先駆けて施行さ れ、ノウハウを確立する役目もあった。  完璧な安全性と耐久性、そして迅速な完成が要求される仕事だっ た。失敗は許されなかった。  八島、身震いを感じた。 【膳場】  本日は、元宇宙引っ越し公社史料編纂室室長で作家のリョウ・フ クダ氏をお迎えしています。 (白髪の小柄な男性がステージに上がる。大きな眼鏡が印象的な紳 士) 【国井】  フクダさんが入社なさったころには、ご紹介したブルームさんと 八島さんはすでに他界していて直接の面識はないとお聞きしていま すが、どのような方々だったとお聞きしていますか? 【フクダ】  ブルーム氏はハンサムな外見から優男ととられがちですが、かな り骨太な方だったと聞いています。一方八島氏も典型的なジャパニー ズ・ビジネスマンな立ち振る舞いでしたが、プライベートでは陽気 で、結構な趣味人だったらしいです。 【国井】  そうだったんですか。八島氏の旧世紀ジャパニメーションのコレ クションは膨大な数に上っていますし、その筋では有名な方でした ね。 【フクダ】  彼の若い頃にはすでに、趣味人のなかでも最上位に位置する「オ タク」という称号を得ていたそうですね。 【国井】  ジブラルタル、キリマンジャロ、チベット、アンデスと、それぞ れ宇宙世紀の歴史上重要な地点、ダカール、キリマンジャロ、ラサ、 ジャブローに地理的に近いと思うのですが、マス・ドライバーの存 在がその時々の権力中枢を周りに配した、と想像できるのですが、 実際どうなんでしょうか。 【フクダ】  ええ、マス・ドライバーは権力や軍事力とは一切関わりがない人 類全体の財産であるという認識は正しいのですが、逆にその存在を 盾に取ってマス・ドライバー近辺に重要施設を建設し、大規模破壊 兵器の使用を封じるという動きがありました。 【国井】  なるほど、もっともチベットのマス・ドライバーは過去にネオ・ ジオンの5thルナ落としによって、ラサの街とともに壊滅してしま いました。 【膳場】  それらマス・ドライバーの祖となったジブラルタルのマス・ドラ イバー、いよいよ実際の建設のお話です。しかし様々な逆境が建設 スタッフを苦しめます。  UC0002年夏、現地の測量・地盤調査と並行して、設計が始まっ た。マス・ドライバー建設の音頭をとったヤシマ重工は、マス・ド ライバー方式反対を表明していた中国以外のアジア系、アフリカ系、 中南米系・・・いわゆる途上国で人口過多に苦しむ国々の建設会社 に協力を仰ぎ、プロジェクト・チームを結成した。やがて提出され た設計図では、見積もりの通り10kmの電磁カタパルトが、人工的 な山脈の尾根を通って一直線に天を向いていた。  周囲の景観のCGも提出された。元々あった景勝地の「ロック」 と、それとは90度角度を変えたアーティ・ジブラルタル。2つに増 えたその偉容は、旧市街地とも調和を見せていた。将来拡張がなさ れる場合にも充分な用地面積を確保してあり、全く文句のつけよう がない、いい仕事だった。  その頃、工事区画住民の立ち退き交渉が始まった。住民は、全人 類の行く末に関わる大事業という自覚があったため、素直に交渉を 受けた。工事着工予定のUC0010年には用地買収が全て完了する目 算が立った。  ある日のことだった。状況が一変した。  住民の20%が、とある環境保護団体に土地を売り渡していた。 立ち退き交渉が、ストップした。  八島は、その団体がどういう団体なのかを追跡した。エージェン トに依頼をし、ブルーム議員にも連絡をした。  恐るべきことが判明した。その環境保護団体はアメリカ合衆国の 有志企業連合体、軍産複合体から資金が来ていると思われた。八島 とブルームは、思い当たる節があった。  軌道エレベーター案を強力に推進していたのはアメリカ合衆国、 カナダ、中国の議員だった。彼らの言い分は、環境汚染を最低限度 におさえ、しかも低速度ゆえに安全、かつランニング・コストの極 端に低い軌道エレベーター方式なら、UC0050年に至るまでに、工 事費を補填するだけの差額が得られるというものだった。  しかしその本音は、いわゆる途上国への工事施工依頼を阻止し、 自国に利益がもたらされることを期待するものだった。  高度な技術力の必要な軌道エレベーターは、施工のできる企業ま たは国が限られた。しかも技術的な問題と理由づけて自国の領内に 軌道エレベーターを誘致すれば、2本目以降の軌道エレベーターは、 既存の軌道エレベーターで資材を宇宙に上げて真横に同じものを作 ることになるので、軌道エレベーターを自国内で作ってから各地に 曳航するという、貿易が成立することになった。マス・ドライバー は、地球の自転による遠心力や高海抜の山岳地帯を不可欠としてい たが、それを必要としない軌道エレベーターは、技術力はあるもの の比較的高緯度にあるそれらの国々にとって、理想的だった。当然 宇宙移民のために人が集まれば、その周辺に経済効果も得られる、 まさに金のなる木だった。  そのために立ち退きの予定される区画の土地を買い占め、時間稼 ぎを行ってマス・ドライバー計画の進行を遅らせ、その間に軌道エ レベーターを作ってしまえば、タイム・リミットの迫る地球生態系 や食料問題への配慮の関係で、地球連邦政府も軌道エレベーターを 採用するほか宇宙移民の手段が無くなるという読みだった。  自由競争経済の時代ならともかく、人類の存亡に関わるこの時期 には、あまりに不謹慎な考えだった。そして軌道エレベーターが生 み出す利権のために地上に留まる人数を考えると、到底容認はでき なかった。しかし確実な証拠はなかった。  ただし、かかる手間も資材の量もそして新技術の種類も、マス・ ドライバーに較べて一ケタ多い軌道エレベーターは、そう簡単に作 れる代物ではなかった。  根比べになる。ブルームはそう八島に説明した。地球連邦裁判所 で争うことになった。  UC0010年、住民立ち退きは団体の所有する20%を残して全て 完了し、土台の人口造山生成に着手した。団体の所有する土地は旧 市街地に固まっていたため、山岳地帯の工区をまず完成させること にした。  山を作るための大量の土砂は、周りの山を削って直接ダンプで運 び込んだ。資材は全て船で運び込まれた。物資の搬入は、順調だっ た。    地中海は、ヨーロッパ大陸の下にアフリカ大陸が潜り込む地震帯 だった。そのため頑丈な基礎を作らなければならない。ヤシマ重工 製の重機は、アフリカ系技術者によって効率よく運用され、次々と 地形を変化させていった。パイル打ちやコンクリート吹き付けなど は中南米系の技術者が担当した。現場から寄せられる様々な問題の 対策を打ち出し、設計図に変更を加える作業は東南アジア系の技術 者の手で昼夜わかたず行われた。それらをサポートする資材運搬の ための船舶は東アジア系にまかされた。  そしてヤシマ重工の管轄ではないが、周辺施設もヨーロッパと中 東・アラブ系の建設会社の手で着々と進行していた。現場を仕切る 総監督は、八島の子飼いの部下、北本だった。順調な進行は、手際 のいい北本の手腕に負うところが大きかった。  しかしやはり20%の土地を押さえられた弊害が姿を現してきた。