消滅

 

駅を降りるとすぐに目に飛び込んできたのは、地道と畑と点在する建物とその向こうに広がる山脈だった。空は晴れているが、太陽がない。風はほとんど吹いていない。青い空が半分茜色になっている。乾いた土のうえを歩いていく。さっきまでの都会の喧騒が嘘のようだ。別世界にきたような感覚に浸っていると、記憶がなぜかおかしいことに気付いた。あれっ、どこの駅から電車に乗ったのだろう。何故この駅で降りたのだろう。思い出せない。今この瞬間記憶していたように思うのだが。かすかに記憶の映像やら騒音が頭の中に残っているような気がするのだが。そうしているうちにも、どんどん思い出せなくなっていく。音もなく高層ビルが崩れ落ちていくように、消音されたテレビ画面をみているようにスローモーションで記憶が薄れていく。消えていっているのにそれが映像になっている。完成された絵の上に白のペンキで白い画面を完成させようとするかのように。  

突然背中の方で、ごぅーっという音が響いたような気がした。振り返るとさっき降りたはずの駅が跡形もなくなっているではないか。そこには、大きな川が横たわっている。線路に沿うように右から左に流れている。右からきたのか、左からきたのかもう既に忘れている。川上の右のほうに視線を向ける。山脈が終わっているところから、川が流れてきている。その辺りの空はなくなっている。川も山もなくなりかけて、うっすらと白い霧がかかっているようだ。少しずつ消えていっている。あの辺りからきたのだろうか。再び、向き直る。あれっ、建物が畑が道が消えている。広大な土地に一人立っている。向こうの山脈と完全に茜色になった空はまだ存在していた。しかし、そのうち消えてしまうだろう、なぜかそう思った。山脈の上部が次第に茜色に染まっていく。完全に空の色と同じになり消えた。足元をみると空と同じ色になっている。一人佇む。静寂の中。やがて川の流れる音が聞こえてきて、それが次第に大きくなっていく。そして、轟音になった。  

バッバッバッ、辺りの空気がフラッシュした。今辺り一面全てが川の流れになっていて、その流れの上に立っていた。足元の30センチ下のところで川が流れている。轟音をたてて流れはますます速くなってきた。空も地面もなくなっていた。轟音と流れのみの世界。視界が薄れていく。  

バッバッバッ、頭の中でフラッシュした、帰りの満員電車の中、少し眠ってしまったようだ。