一口、コーヒーをすする。まだ、コップに半分ぐらい。窓の外を、人が通り過ぎていく、どんどんと。人通りの多い街。このカフェにも、ほとんど空席が残されていない。
コーヒーを飲む以外には、目に付く動きをしない。目玉だけが、窓の外を通り過ぎていく何かを追いかける。確かに、眺める人。その対象に対して、なんらかの意味はなく、ただ、通り過ぎていく何かを目で追っているだけ。
時間が、流れ続けている、窓の外側には。そして、勿論、内側にも、ほとんど同じように。制御不可能なものとして。通り過ぎていく何か、方向も、服装も、早さも、集団を構成する人数も、その集団の絡まり具合も、それぞれに異なっていて。それぞれが重なり合った効果なのだろうか、まるで、時間が永続するかのように、その時間と同じように流れている。
また、コーヒーをすする。いつまで、耐え続けることが出来るだろうか。何かが、落ち着きを奪おうとする。隔離されているはずの場所、いや、隔離などされていない場所。どこかで、繋がっていて、しかし、時間から隔離されたかのように感じる状態。
徐々に天気が悪くなってきた。家を出るときは、まだ晴れていたのに、いつの間にか空は雲に覆われて、今にも雨が降り出してきそうだ。しかし、傘を持ってきていない、こんな時に限って。もう、ここを出るべきかもしれない。あと、コップに四分の一ぐらい。時間の流れと同期をとる。
目つきが少し強くなる、焦点を絞り込む。じっくりと窓の外を見る、空を見る。客の出入りによって開いた扉から入り込む外側の音に耳をそばだてる。傘が開き始めている、窓の外。雨はもう降り出している。走って行けば、何とかなるかもしれない、まだそれほど雨は強く降っていない。
あわただしく家を出てきたから、かといって、それほどあわただしくするほどのこともなかったのだが、傘を忘れてしまった。傘があれば、もう少し、ここに落ちついて、窓の外を眺めていることが出来たかもしれない。しかし、安定の平面が移動してしまって、今は雨に気をとられている。雨でなければ、それとも、ここが家であるとしたら、それとも、全く家を持たないとしたら。
雨の中を小走りに進む。君が待っている。かつて、私も待っていた、駅の改札の横で、私が、背中にしがみつく、自転車の後ろの荷台に座って、びしょ濡れになりながら家に向かった時のよう、遠い過去。迎えに行く、駅の改札の横の庇の下で待っている君、だけれども、傘を持っていない私は、役立たずで、おまけに自転車もない、一緒に家に向かう、雨に濡れながら、少し弱くなった雨、しっとりと張り付いてくる。私に残された最後の確信かもしれない。君はわからないだろうか、私はうまく隠蔽しているだろうか。
少しの間、あなたを見つめていたくて。あまりに奇妙な注文。いいだろうか。別にいいけれど、どうかしたの。うまくいえないのだけれども、そうしていたい心境で。ときより、ひどく濃く伸びる影に気がつく、近づけば近づくほど、大きく伸びる影、その影の中でゆっくりと昼寝をするのが、とても心地よいのかもしれない、きっと、そう感じる、今は。
それは、いつなのだろうか、どこなのだろうか、何故なのだろうか。その目的はと問うてみても。
もう、コップは空。眺められる側の流れの一員になる。