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もうすぐ私は消えるのだ。
誰に言われたわけでも無いが、そう感じた。目の前には何も無い。何時かは分からないが、近い未来に間違いないだろう。
こうなることは、分かっていた。分かりたくはなかったが。所詮は私は贋物なのだ。どんなに頑張ったところで、アリスにはなれない。
私自身のことなどどうでもいい。気がかりなのはお父様のことだ。私なんかを作って、お父様は幸せだったのだろうか。
贋物で、アリスになれない。出来損ない。どうして私を作ったのか。私には分からないが、望みを叶えてあげられなかった事は確かなはずだ。
お父様は悲しかったはずだ。どんなに精巧に作っても決してローゼンメイデンになる事のできない私。
そんな私を、口数こそ少なかったが、優しく見守ってくれた。私には最高のお父様だった。
そういえば、夜中に工房に一人でいる姿を何度か見たことがあった。お父様の背中を思い出す。
泣きたくなった。けれども涙はでない。余計に悲しくなった。
短かかった。
だけど、楽しかった。
ローゼンメイデンの皆には迷惑をかけてしまった。私が謝るのも何だし、今更謝ったとこでなんの意味は無いが、謝りたいと思っている。
そういえば、私が奪ったローザミスティカはどうなったのだろうか。戻っているといい。いや、戻っていてもらいたい。彼女達にはアリスゲームがある。
私が言えることではないかもしれないが、最後まで頑張って欲しい。そう思う。
不思議と消えることに恐れは無かった。消えることを考えたことは無かったが、心は妙に落ち着いている。来るべき時が来たな、そんな感じだ。
もしかしたら、私はこうなることを予測していたのかもしれない。
生まれてよかった。
お父様に合えた。
いけ好かないやつだが、ラプラスの魔も悪いやつではなかった。
私は、幸せだ。
種類はあるだろうが、皆私を見てくれた。誰にも見られなよりは、はるかにいい。
私という存在が、世の中に残った。それだけで満足だ。なんて素晴らしい。
ふと、体が希薄になった気がした。
もうすぐ、なのか。未来というか、直ぐ先ではないか。予想外に早くて、ちょっと動揺してしまった。
何も見えなかった視界に、薄っすらと何かが浮かんだような気がした。無駄だとおもったが目を凝らす。何も見えない。
当たり前のことだが、少し、残念だった。最後くらい心静かに眠りたい。神様は意地悪だ。
そんなとき、
――――薔薇水晶。
声が聞こえたがした。頭に響くような、脆弱で脆いが、同時に強く美しい声が。
「お父様……?」
幻覚だろうか。いや、私のいる所は、そんなものを越え場所だ。
なら夢か。
「お父様……、私は……」
声が擦れる。少しずつ自分が消えていくのが分かる。
姿は見えない。だけど、存在を感じる。
「私は、お父様の……ために生きる事ができましたか……?」
その手が、私の頬に触れた。
暖かい手だ。
たとえ夢でも、いい。また触れてもらうことができたから。
お父様の顔が浮かぶ。
いつもと同じで無表情。
だけど、私にはとても穏やかな表情に見えた。
足が、腕が、体が、顔が、動かない。全てが、軽い。密度が無くなっていく。
ああ。
お父様、ラプラスの魔、水銀燈、金糸雀、翠星石、蒼星石、真紅、雛苺、ローゼンメイデン、アリスゲーム。
私は、幸せだ。