0 「はあん、はあん、はあん、はあん、ぁぁぁぁぁあああああ!!」
「ジュン君!ジュン君!どうなの!気持ちいいって言いなさい!!」

 地獄だ・・・・・・・・・・・・・・・。

 桜田ジュンは一人、胸の内に呟く。
 いま、自由の利かない彼の身体には、二人の女性が取り付き、白い蛇のようなその裸身を絡みつかせ、容赦なく精を搾り取っている。
 連日連夜容赦なく、まさしく容赦なく繰り返されるこの淫らな宴のために、彼は心身ともに疲れ切っていた。

「ぁぁ・・・・・・・・もう、もう・・・・・・・やめ」
 やめてと言おうとしたその口に、ほっそりとした指が差し込まれ、文字通り彼の口は塞がれる。
 塞いだのは、彼の身体の下で、もう一時間も前から彼のものを受け入れ続けている、ほっそりとした少女。
「・・・・・・・・だめよジュン君、今日はまだ四回しかしてないじゃないのぉ」
 耳元でそう囁いたのは、彼の背後に回り、もう一時間もその肛門に指を這わせ続けている、ほがらかな笑みを浮かべた少女。

 桜田のり。
 柏葉巴。

 それが彼女たちの名前だった。              

「・・・・・・・はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、・・・・・・・」
 激しい息使いとともに、ジュンは巴の胸に突っ伏した。
 もう何も考えられない。
 何も考えたくない。
 数時間の間に五回の放出を強いられた肉体は、いや、そのペースを連日強制されている肉体は、もうとっくの昔に悲鳴を上げている。その悲鳴が口をついて出ないのが彼自身には不思議で堪らない。

「桜田君、大丈夫?」
 フルマラソンを走り切ったランナーのように、全身で疲労を訴えるジュンに、巴が物静かな、それでいて優しそうな、心配そうな声で尋ねる。
「・・・・・・はぁっ、はぁっ・・・・・・うん・・・・・・・」
「大丈夫よ巴ちゃん、ジュン君はこう見えても強い子なんだから」
「ああああああああ!!!!」
 可愛らしい丸眼鏡を付けた彼の姉が、ジュンの背中越しに巴に答える。同時に彼の菊門深く侵入した指の動きを再開させながら、だ。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!もうやめて!もうやめ・・・・・・・・ああああああああ!!!!」
「だらしない子ねえ・・・・・・・」
 のりは後ろ手に縛られた弟の脇腹に手を伸ばし、充血した乳首に爪を立てる。
 へとへとになっているはずのジュンの身体に、再び電流のような刺激が迸る。濃厚な快感さえ含んだ高圧電流が。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
「そんなだらしないジュン君、お姉ちゃんは嫌いよ」
 思わずのけぞる弟を、姉は乳首と肛門を支点に、巴から引き剥がした。
「あっ、桜田君!」
「今度はお姉ちゃんにも頂戴。ジュン君の熱くて硬いもの・・・・
「ひゃああ・・・・・・もう、もうゆるし・・・・・・・・ひぎゃぁぁぁ・・・・!!」
 半萎えだった彼のペニスは、姉の巧みな前立腺への刺激で、みるみる硬度を取り戻してゆく。

 ジュンは泣いていた。肉体も精神もボロボロになるまで犯し抜かれ、彼はただ泣く事でしか自分の意思を表現できなかった。
 のりも巴も、その涙をとてもとても美しいと思った。
 そして、その涙を踏みにじる行為に、ただならぬ興奮とカタルシスを覚えずにはいられなかった。
「巴ちゃん、手伝ってくれる?」
「はい・・・・・・・・」

 二匹の雌蛇は、再び彼の身体に取り付いた。
 
 不登校を決め込んでいるとはいえ、桜田ジュンは14歳の健康な、どこにでもいる少年に過ぎない。
 女性への興味も人並み程度にはあったし、人形どもの目を盗んでトイレでオナニーをするくらいは平気でしていた。
 しかし・・・・・・・・。
 エクスタシーが、人間の精神と肉体にこれほどの苦痛を与えるとは、全く想像も出来なかった。 

 何でだ?
 何でこんな事になったんだ?
 以前には、想像もしていなかった現実。
 発端は、一週間前にあれを見た時、だったかなぁ・・・・・・・・。

「はぁぁぁぁぁんん!! ジュン君!そうよ!そうそう!!」
 今、彼の身体の上には、実の姉が嬌声を上げながら乗っかり、彼の股間を軸にしがみつくと、まるでロデオのように暴れ回っている。
 桜田ジュンは、ペニスを中心に絶え間なく続く快感という名の苦痛に、ほぼ心神喪失状態に陥っていた。
 不意に訪れる、優しいキスの感触。
 薄目をあけると、柏葉巴が聖母のような微笑を浮かべながら、己の股間に双頭のペニスバンドを挿入している。
「柏葉・・・・・・」
「なに?」
「それで・・・・・・・・ボクを、犯すの・・・・・・・?」
「そうよ。・・・・・・・・今から桜田君は女の子になるの」
「でもボク・・・・・・もう、壊れちゃう、よ・・・・・・・・?」
「大丈夫よ・・・・・・」
「な、んで・・・・・・・?」
「だって、壊れないように気をつけるもの。明日も、明後日も、これからもずーっと壊れないように気をつけるもの」
「柏葉ぁ・・・・・・・・」

 もうジュンには、涙で巴が見えなくなっていた。


 ジュンが解放されたのはさらにそれから一時間後、のりと巴に強烈なサンドイッチ・ファックを敢行され、文字通り失神した後だった。
 ほぼ腎虚になるまで発射し尽くした彼の精嚢は、もはや一滴のスペルマを出す事も無く、前立腺とペニスを同時に襲うその刺激は、ただ絶え間ない射精感のみを伝え、発狂せんばかりの快感の渦の中で、彼の意識のヒューズは弾けて落ちた。
 巴の言った通り、彼はあたかも強姦魔にレイプされた少女のような泣き声を上げ、その涙も声も、全て彼女たちのための供物となった。
 瞼に焼きついたのは、姉と幼なじみの魔女のような微笑。
 恐らく、ジュンが失神しなければ、この拷問は、さらに数時間続いたに違いない。

「・・・・・・・・ジュン君、ジュン君、晩御飯の時間だよ。そろそろ起きて」
 毛布を剥ぎ取られ、肩を揺すられる感覚。
 重い瞼を必死になってこじ開ける。眼前に蒼星石が心配そうに覗き込んでいるのがジュンには見えた。
「・・・・・・・・・もう、こんな時間か・・・・・・・・」
 時計を見ると、もう午後八時。
 起きようとすると身体が痛い。
「ちょっ・・・・・・・・・ジュン君!!?」
 その時初めて、ジュンは自分が全裸のままであるという事実を知った。
「あわっ!!! ちょっ・・・・・見るなっ!!」
 慌てて毛布を身体に巻きつけるジュン。
「ごっ、ごめんっ!!僕、先に行くから、早く下りてきてねっ!」
 顔を真っ赤にした蒼星石が、あわてて部屋から飛び出して行く。
「あっ、待って、蒼星石!」
「えっ・・・・・・・・?」
「先にシャワー浴びて行くって、お茶漬けノリに言っといてくれよ。寝汗でベタベタで気持ち悪いんだよ」
 その一言に他意はなかっただろう。だが、そのジュンの言い草は、いかにも言い訳がましいものに蒼星石には聞こえたのも事実だった。

「・・・・・・・・べとつくのは寝汗だけかい?」
「え・・・・・・?」
「こんな事はあまり言いたくないけど・・・・・・ジュン君、もういい加減にした方がいいんじゃないか?」
「蒼星石・・・・・・・」
「・・・・・・もう、みんなが気付くのも、時間の問題だよ・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・」

 そういい捨てると、彼女は部屋を出て行った。
 その後姿に、ジュンは自分が、この世で最も不潔で惨めな存在に成り果ててしまった気がした。


 ジュンがシャワーを浴びてる音がダイニングまで聞こえて来る。

「あらジュン君、先にお風呂入っちゃったの?・・・・・・・いけない子ね。折角のシチューが冷めちゃうじゃない」
 のりが人形たちの分のシチューを器に注ぎながら、やれやれといった顔をする。
「まあ、いいじゃねーですか。薄汚いまま隣に来られても、迷惑なだけですぅ」
「あら翠星石、その心配には及ばないわ。ジュンが座るのは貴女じゃなくて私の隣だもの」
「へっ!なぁにを言ってやがる、このトウヘンボクですぅ。最近あのチビ人間が、妙に私に優しいのに気付いてないのですかぁ?」
「知らないわ」
「さすがの真紅も知らぬが仏ですぅ。あのチビ人間、絶対この私に気がアリアリですぅ」
「安心なさい翠星石、それは錯覚よ」
「ムッキィー!!そんな事ないですぅ!!」

 最近、ジュンをめぐっての姉妹たちの諍いが、徐々に表面化しつつある。
 蒼星石がチラリとのりを見上げると、いかにも幸せそうな笑みを浮かべた彼女がそこにいた。たった一人の弟が、他者にモテているという事実が嬉しくて仕方ない、という微笑。
(・・・・・・・・・いや、違う)
 これは優越感の笑顔だ。人が勝利を確信した時に浮かべる、そして敗北に未だ気付いていない敗者に送る、満面の嘲笑いだ。
 なんとなれば彼女と柏葉巴の二人は、桜田ジュンという少年を、己が望むままに犯し、嬲り、弄び、蹂躙し尽くしているからだ。
 気があるどころの話ではない。
 錯覚どころの話でもない。

 今のところ、その事実を知っているのは蒼星石だけだ
 何故なら、彼ら三人の逢瀬は、常に三人のいずれかの夢の世界で行われ、その扉を開くのが蒼星石の役目だったからだ。
 蒼星石とて、喜んで頼まれている訳ではない。
 ジュンに直接頼まれていなければ、その場で拒絶しただろう。彼女は姉妹たちの中でも、群を抜いた道徳的潔癖感の持ち主なのだから。
 それでも断り切れなかったのは、やはり蒼星石なりに、ジュンを愛していたからなのかも知れない。


 シャワーを浴びて、湯船に飛び込んだジュンは、一週間前の事を思い出していた。彼が実の姉と幼馴染みの二人とただならぬ関係に陥った発端を。

「違うの桜田君!これは、その・・・・・・・・・待って!!」
「ジュン君!待って!待って頂戴!!」
「何故なの桜田君・・・・・・何故そんな怯えた目で私たちを見るの・・・・・?」
「・・・・・・・・許さないわ!いくらジュン君でも、お姉ちゃんをそんな目で見るなんて、絶対に許さないんだからね!」

 駅前の本屋で参考書を買って返って来たジュンは、見てしまったのだ。
 姉の部屋でともに抱き合い、口付けを交し合う二人の少女を。
 カーテンから洩れる光を背に互いの身体を愛撫しあう彼女たちは、淫靡どころか、この世ならぬ神々しさに満ちていた。
 彼の視線に気付いてからの狼狽振りとの落差が、さらに凄まじかっただけに、状況を把握し切れなかった思春期の少年の目に恐怖の光が宿っても、これは止むを得ないといえるだろう。
 そして・・・・・・・・逃げようとしたジュンは二人に捕らえられ、巴の竹刀で鳩尾に一撃を喰らい、縛り上げられたところを・・・・・・・・・・・犯された。
 繰り返し何度も何度も。
 あたかも、最初から桜田ジュン本人が標的であったかのように、執拗に、貪欲に。泣いても喚いても、のりも巴も彼を放さなかった。
 人形たちは全員、蒼清石姉妹のマスターである老夫婦に連れられてピクニックに行っていたという事もあり、数時間もの間、何の邪魔も入らずに、ジュンは二人に嬲り尽された。
 それが一週間前の出来事だった。


 それからは・・・・・・・・・もう、なし崩しだった。
 ジュンは、姉たちに呼び出されるままに、人形たちの目を盗み、巴の家に出向き、その都度自由を奪われ、犯された。
 健康的な14歳の少年に性欲が無いわけが無い。受身の立場とはいえ、楽しもうと思わなかったと言えば嘘になる。
 だが、この二人の貪欲さは、少年の体力の限界を遥かに凌駕していた。
 行為に伴う快楽は、たちまちのうちに快感という名の苦痛となり、肌の温もりも体液の感触も、耐えがたい嫌悪を催す存在となった。
 にもかかわらず、彼は二人に逆らえないのは、ひとえに恐怖のためだった。

 特に、桜田のり。
 この少女に対する恐怖心は、もはや抜き差し難いものになりつつあった。
 彼女は姉なのだ。
 仮りでも義理でもない。桜田のりは正真正銘、ジュンの実の姉なのだ。
 にもかかわらず、のりには、ジュンとの行為に対する躊躇はまるで無い。
 無いどころか、非近親者であるはずの巴の数倍に及ぶ執拗さで、ジュンとの行為に執着する。まるで実の弟の子種を孕む義務でも有しているかのように。
 どんな時でも消える事無い、あの母性の象徴のような笑顔を浮かべ、ともすれば腰が引けがちになる巴を励まし、ともに手を携え、実の弟を辱め、その性感を開発してゆく。

(まるで堕天使だな・・・・・・・・)

 何よりジュンが恐れているのは、自分の身も心も、その堕天使のごとき姉の虜となってしまうことだった。
 いや、もう、兆しは在る・・・・・・・・・。
 ボクは、姉ちゃんにムチャクチャにされるのを待っている・・・・・・・。
 どんなに騙そうとしても騙し切れない自意識。

 ジュンが、蒼星石に夢の扉を開いてもらったのは、せめてもの彼の抵抗だった。
 自分たち三人の背徳の宴が、せめて現実ならぬ精神世界ならば、「これは夢なんだ」と自分に言い聞かせる事が出来るかもしれない。
 何より、姉や巴に万一の過ちがあってもならない。
 そう思ったからだ。


 PM9:00
 一触即発状態のダイニングで、ジュンは真紅でも翠星石の隣でもなく、雛苺の隣で食事を終え、自室に入ると、そのまま泥のような眠りについた。
 彼は疲れ果てていた。
 いくら休んでも癒される事の無い疲労だった。
 その寝顔を見つめる人形たちの表情はまちまちだったが、やはり彼女たちは9時になると、それぞれの鞄に入り、それぞれ眠りについた。

 AM0:05
 一つの鞄の蓋が開いた。
 翠星石。
 夢の庭師の名を持ち、人が誰しも持つ「自我の樹」に養分を与える事の出来るドール。
 
 ジュンの寝顔は苦悶に満ち、息は荒く、何かから逃げようとするかのように身体をくねらせ、誰が見ても悪夢の真っ只中のようだった。
 今日に限った事ではない。ここ数日、彼は眠りの度にずっと悪夢に苛まれている。
 もっとも翠星石は、彼の夢世界で連日繰り広げられている、三人の魔宴の事までは知らない。
 しかし、ここ最近、ジュンの様子がおかしい事は、いずれの人形たちも気付いていた。
 事態は静かに、蒼星石の危惧した通りになりつつある。

 翠星石は人工精霊を召還し、ジュンの夢へと続く扉を開けると、おもむろに飛び込んだ。
 彼の変調は、その精神的なものに由来するのではないかと、夢の庭師としての勘が判断した行動だった。


「んむぅーー、あのチビチビ人間め、一体どこにいやがる、さっさと出て来やがれですぅ」
 独り毒づく翠星石は、その瞬間気付いた。

(・・・・・・・・くさい。何ですか、この臭いは?以前ここに来た時は、こんな厭な臭いはしなかったですぅ)

 翠星石は、懸命に嗅覚を殺しながら、徐々に悪臭の強くなる方へと進んだ。
 この、ただならぬ臭いの根源にこそ、ジュンの本体がいるという確信が彼女にはあった。 
 そして翠星石は、ついに彼、桜田ジュンを発見した。

 彼はいた。
 あるいは地平線、あるいは水平線、あるいは雲海の彼方から伸びる鎖に四肢をつながれ、その全身に8人の裸女がまとわりついていた。
 唇に巴が取り付き、
 右乳首にのりが取り付き、
 左乳首に巴が取り付き、
 首筋に巴が取り付き、
 背中にのりが取り付き、
 菊門に巴が取り付き、
 最後にペニスの両側から、巴とのりが二人同時に取り付いている。

 翠星石は不意に気付いた。
 この臭いは、汗の臭いであり、涎の臭いであり、精液の臭いであり、愛液の臭いであり、それらの臭いの混合臭を数十倍、数百倍に濃縮したものであると。


「ん・・・・・・・っひぃ・・・・ふひゃあ・・・・・・ぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!」
 ジュンはもう声も出ないようだった。
 巴とのりは、普段の様子とはうって変わった乱れ様で、ジュンの身体を貪り、舐めすすっていた。
 それだけではない、さっき顔を伏せたのりが、顔を上げると巴になり、その巴が振り返るとのりになり、8人全員が巴になったかと思えば、8人全員が一体誰なのか分からない、巴とのりの中間の人格になる瞬間もあった。
 彼女たちが舐めまわす少年の身体は、少しずつだが、徐々に溶け始め、二人の少女はさらに歓喜の表情を見せ、その白い液体を夢中になって、一滴残らず飲み干そうとしている。

 翠星石は、その悪臭すら忘れて、呆然と立ち竦むしかなかった。
  

「スッ、スッ、スッ、・・・・・・スイドリームッ!!!」
 その瞬間、翠星石の人工精霊が唸りを上げてジュンたちに襲い掛かった。
 普段はホタル程度の発光物質にしか見えない精霊が、まるで主の想いがそのまま乗り移ったかのように、まさに紅蓮の炎となって牙をむく。
 8人の妖女たちは、悲鳴すら上げる暇も無く、たちまちのうちに消し炭と化した。
 翠星石が嫉妬に任せて、それほどの高温で精霊を操りながら、ジュンが火傷一つ負わなかったのは、まさに奇跡としか言いようがない。
「ジュン!ジュン!!しっかりするですっ!!いま助けてやるですぅっ!!」
 返す刀で、両手両足を縛る鎖を焼き切ると、白濁液にまみれた彼の身体を翠星石は抱きとめ、ジュンに負担を掛けないようにゆっくりと地上に降下し始めた。

「・・・・・・・お・・・・・ね・・・え・・・ちゃ・・・・ん・・・・・・ど・・・こ・・・・?」
「ジュン!!チビチビ人間!!もう、もう大丈夫ですぅ!」
「・・・・・・・な・・・・・ん・・・・・で・・・・・も・・・う・・・お・・・・・・・わ・・・・・り・・・・?」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・ま・・・だ・・・・・・・・し・・・・・て・・・・よ・・・・・・も・・・・っと・・・・・も・・・・っと・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・ジュン・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・か・・・・・・し・・・・・わ・・・・・ば・・・・・・も・・・・・・」
「・・・・・・ジュン・・・ジュン!・・・ジュン!!」

 ジュンの身体を静かに地上に横たえると、翠星石は混乱する自分の頭の中を、必死になって整理し始めた。

 あの、たまらなく淫靡な巴とのりは、確かにジュンの精神が生み出したイメージだった。
 そして、そのいやらしさも彼の思春期独特の性欲の表れだとすれば、全然納得は出来る。
 しかし、それでは、この鼻を突くような異臭は?
 たかだか14歳の童貞坊やの想像力だけで、あれほどまでの悪臭が、世界を覆い尽くす事が可能だろうか?
・・・・・・・しかし、しかし、今の翠星石には、夢の庭師として当然浮かぶはずの数々の疑問が、全くどうでもいい、取るに足らないものに思えた。

 ジュンが、自分以外の女性と行為に及んでいた。
 しかも、相手は実の姉と、かつての幼馴染み。

 確かに、現在進行形のニートであるジュンからすれば、性欲の対象とするには打って付けの存在かもしれない。何故なら彼女たちは、いま彼が社会的に接触を持てる唯一の女性たちなのだから。
 でも・・・・・でも・・・・・・・翠星石からすれば、やはり納得できる事ではない。
 しかし・・・・・・・・・・・・。
 
 翠星石はむりやり考え方を捻じ曲げてみる。
 ジュンが最後に言った一言。
 自らへの責めを乞う、あのマゾヒスティックなあの発言。
 もし彼が、何らかの想いを以って、のりと巴を選んだのではなく、単なるマゾ的な性的欲求のイメージとして二人のイメージを使っただけなのだとしたら・・・・・そこには愛は存在しない。
 ならば、まだ余地があるのではないか?
 のりでも巴でもなく、真紅でも雛苺でも蒼星石でもなく、自分こそを、この翠星石こそをジュンに選ばせる余地が。
 そう思った瞬間、彼女はジュンの頬を思い切りビンタしていた。
 

「とっとと起きやがれですっ!!このニート野郎のチビチビ人間っ!!」
 一発、二発、三発、まだ意識がハッキリしているようには見えない。
「スイドリームッ!!」
 翠星石は如雨露を水で満たすと、その冷水をジュンの頭からぶちまけた。
「・・・・っっ!!!! っべたぁぁぁ!!!!」
「やっと気が付きやがったか、このスットコドッコイですぅ」
「なっっ・・・・・何するんだよイキナリッ!?」
「何するもクソも無いのですぅ!この変態野郎のチビチビ人間っ!!」
「へっ、変態っ!?寝てる人間をわざわざ叩き起こして、なに訳の分からない事言ってんだよっ!!」
「お前の周りをよく見るですっ!」
「なっ!? 周り?」
 ジュンは周囲をキョロキョロ見回し、ようやくここが現実ならぬ世界である事に気付いた。
「ここは・・・・・・・・・・・・・?」
「お前の夢の中ですぅ」
「夢の中・・・・・・・・・?」
「そうですぅ。正確に言えばお前はまだ眠ったままですぅ」
「・・・・・・・・・ちょっ、ちょっと待てっ!!それじゃあ、お前まさか!!?」
 この時、ようやくジュンの意識活動が正常に作動したようだ。いまこの瞬間、この翠星石がここにいるということは・・・・・・・?

「はいです。しっかり見せてもらったです。あの、お前のいやらしい、口に出すのも憚るような、変態な夢を」
「うわあああああああああ!!!!!!!!!まてまてまてまてぇっ!!!!!お前、プライバシーの侵害だぞぉっっ!!!」
「そんなの知らないですぅ。とにかく私は現実世界に帰ったら、お前の人間関係全部に、ただひたすら言いふらしてやるだけですぅ」
「ふっ、ふざけんな、この性悪人形っ!!」
 ひたすら慌てるジュンを前に、翠星石はニタリと笑う。
「性悪人形ぅ?そんな口の利き方がまだ許されると、本気で思っているのですかぁ?」
「うっ・・・・・・・・・!」
「翠星石さま、何でも言う事聞きますから、この哀れなチビ人間をお許し下さいって言いやがれですぅ」
「ふっ、ふざけんなっ!!この性悪人形っっっ!!!!」
「ふざけてなんかないですぅっっ!!!」
 翠星石の予期せぬ逆ギレは、瞬間ジュンの毒気を抜いた。
「私は本気ですぅ。もう誰が何と言おうと、お前が生きている限り、生き恥をかかせ続けてやるですぅ。これはもう決定事項なのですぅ」
「・・・・・・・・・・・・ホントに本気なのか・・・・・・・?」
 翠星石は、わざとらしく大きな溜め息をつくと、眼前の少年に最後のカードを切った。
「・・・・・これ以上疑うんなら、もう交渉は決裂ですぅ。明日という日をせいぜい楽しみに生きやがれですぅ」
 夢の扉に向かって飛び立とうとする翠星石。
 その瞬間、ジュンの心が音を立てて折れた。
「分かったぁ!!分かったから・・・・・・・待って!待ってくれよ!翠星石!!」

「すいせいせきぃ・・・・・・・・・?」
「え・・・・?」
「呼び捨てにしていいと誰が言ったですか?」
「うっ・・・・・」
「だ・れ・が・言ったですか?」

 ジュンは俯いた。もう、自分自身気付いていた。己の心がすでにして折れてしまっている事を。そして、自身の中のマゾ的な素養が、その屈辱を必死に正当化しようしているという事も。
(いまコイツには逆らえない)
 それはもう、自分自身への至上命令だった。

「・・・・・・・・・・・・さま」
「は?」
「・・・・・・・・・石さま」
「聞こえないです。もっとハッキリ言いやがれですぅ」
「・・・・・・・・星石さま」
「聞こえないですっ!!全っ然聞こえないですぅっ!!」
 予期せぬ怒号に、ジュンはさらに慌てた。その狼狽が彼に最後のプライドのひとかけらを捨てさせた。
「翠星石さまっ!!」
「はいです」
「えっ?」
 先ほどの一喝とうって変わって、普通に返事を返された事で、思わずジュンは伏せていた自分の視線をあげる。
 そこには、勝ち誇った笑顔で、言葉の続きを催促する翠星石がいた。
「呼ばれたから仕方なく答えてやったです。とっとと、その続きを言いやがれですぅ」
「・・・・・・・・・・・・翠星石さま、何でも言う事聞きますから、この哀れな・・・・・・・・チビ人間をお許しください・・・・・!」

「んっふっふっふっふっふーーー」
 翠星石は心底楽しそうな笑顔を見せると、ジュンに手を差し出した。
「仕方ね〜な、許してやるですぅ。・・・・・・・・ただし」
 その時、翠星石の笑顔はたまらなく淫靡なものに変わった。まるで姉や幼馴染みのような、あの表現しがたい笑みに。
「約束は守ってもらうですぅ・・・・・・・・!」