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「―――翠星石のオナニー写真を撮るかしらー!」
薔薇乙女1の頭脳派を自称する第2ドール金糸雀は、桜田家宅の庭でそう叫んだ。
その右手には、翠星石の写真をこっそりしっかり撮る為のカメラが握られている。
金糸雀は他のドール達の盗撮を過去に何回も行い、その写真をみっちゃんに提供していた。
しかし盗撮を繰り返す内に、似たような写真ばかりを撮っている事をカナは悟る。
同じような写真ばかりではダメだ、もっと今までに撮った事のないような写真を撮り
みっちゃんを仰天させてやりたかった。今までに無かった写真は何だ、とカナは思考しながら桜田家へ向かい
桜田家の庭へ到達した瞬間にカナは閃いた。そうだ、オナニーを撮ろう、と。
そしてカナは人目を全く気にせず叫んで意気込んだのだ。
「……そうと決まればまずは隠れてチャンスを―――」
「―――あ! 金糸雀なのー!」
身を隠そうとしたその時、居間の窓を開けた雛苺の無邪気な声が響いた。
おにく
遊びに来たと勘違いされたカナは雛苺に袖を引っ張られ、桜田家の居間におじゃまする事になった。
雛苺が言うには、蒼星石はまだ来ておらず、翠星石と真紅はジュンの部屋に居るという。
よってたまたま居間に1人で居た雛苺が、庭に居るカナを発見したという。
「何して遊ぶかしらー?」
盗撮をしにきました、等と到底言えるはずもなく、遊びに来たという事にしておいた。
「じゃあ、くんくんのビデオみるのー!」と、雛苺は元気に言うと
テーブルの上にあるDVDを取った。
「これは……ビデオじゃないかしらー?」
「しらないの〜」
雛苺はそう言うと、小走りでDVDデッキにDVDを入れる。
普段の雛苺なら、これはビデオだと言い返すのであろうが、今はくんくんのDVD1巻を
DVDデッキに入れる事を最優先していた為いつものうるさい言い争いにはならなかった。
そしてくんくんのOPが始まった途端、廊下で何かが転げ落ちるような音が鳴り
その直後居間のドアを蹴破って真紅が息を切らせながらやって来た。
「あなた達! くんくんを見る時は私を呼びなさいと言ったでしょう!」
完全に平静を失った真紅は、裏返った声でそう叫ぶと、ソファーに飛び乗った。
そして真紅に遅れてジュンと翠星石も居間にやって来る。
(翠星石!)
薔薇乙女1の頭脳派(自称)、第2ドール金糸雀の眼光は
くんくんのOPを見ていつものように発狂し始めた真紅を見て、ため息を着いている翠星石を捉えた。
とはいえ、翠星石が自慰行為をしない事には始まらない。今のカナにできる最善の行動は機を待つ事だ。
カナは無邪気にはしゃぐ雛苺の隣に腰を掛け、テレビを見た。
おにく
「――ねえしんく、おなにーって何なのー?」
唐突に雛苺が真紅の袖を引っ張り、そう尋ねた。
それを聞いた金糸雀とジュンは目を丸くさせて雛苺を見たが、翠星石はこれといった反応を見せなかった。
真紅は真紅で、くんくんが映っているテレビ画面を見ているだけで、まるで聞いちゃいねぇ。
「ど、どこでそんな言葉覚えたんだ……?」
無垢な雛苺の口から、さらりと出た発言にジュンは恐る恐る尋ねた。
「さっき庭でかなりあが叫んでたのー!」
カナはあの時の雄叫びを、雛苺にこっそりしっかり聞かれていた事を今更ながらに悟った。
そして雛苺の言葉を聞き、ジュンは驚きと軽蔑に満ちた目で
お庭の中心でオナニーと叫んだ薔薇乙女1の頭脳派を自称する金糸雀を見た。
ジュンの嫌な視線を感じるが、カナはそれを無視するよう心掛けた。
「……?」オナニー、という単語の意味を知らない翠星石は首を傾げる。
真紅に聞いても反応すら得られずに頬を膨らませてる雛苺は、次に質問相手としてジュンを指名した。
「ジュンー、おな―――」
「―――ぼ、僕トイレ行って来る!」
ジュンは雛苺の質問から逃げるようにそう言うと、小走りで居間を出てしまった。
首を傾げる雛苺は、金糸雀に尋ねようと金糸雀の方を向いた。それを見たカナは慌てて
「カ、カナより物知りの翠星石に聞いてみるといいかしらー?」
と、質問の矛先を翠星石に向けるよう促した。そして促されるがままに
雛苺の探究心に溢れる視線は翠星石に向けられた。
(……おなにい、とは一体何なのですか……)
翠星石は胸の内でそう呟いたが、それを口に出すような事は彼女のプライドが許さなかった。
いつも自分は物知りだと雛苺や金糸雀に自慢していたのに、このまま“分からない”と答えるのは格好悪い。
そんな可愛い気のあるプライドと雛苺による答えの分からない質問を前にして翠星石が下した返答は、
「チ、チビ苺ごときに教えてあげないのですぅ!」だった。
「えー、つまんないのー!」
雛苺は先ほど、くんくんを見て発狂している真紅に無視された時よりも大きく頬を膨らませた。
「本当は知らないんじゃないかしらー?」
金糸雀はニヤリと笑みを浮かべると、あざ笑うかのように翠星石を見た。
それを見た翠星石は立ち上がり、激怒して言った。
「知ってるですぅ! 翠星石は無知なチビチビ共なんかとは違うのですぅ!」
「じゃあ説明できるわねー?」
「当たり前ですぅ!」
「じゃあ、してみるかしらー?」
「…………」
翠星石は唇を噛むと、悔しそうに押し黙った。両者は沈黙し、居間に響く物音はテレビの音と、真紅が暴走している声だけであった。
「喧嘩はやめようよー……」2人の様子を心配そうな目で見ていた雛苺が、仲裁に入った。
雛苺に止められては、流石にこれ以上責め立てる訳にはいかない。
「……もう帰るかしらー」
金糸雀はそう言うと、踵を返して窓から出て行ってしまった。
おにく
金糸雀が帰った数分後、入れ替わるようにして遊びに来た蒼星石は、双子の姉と寄り添う形でソファーに座っている。
居間にはこの双子の姉妹の2人しか居ない。雛苺はお昼寝中で、ジュンは自室で勉強中、真紅も彼の部屋で読書をしていた。
翠星石は先ほどの言い合いでかなり機嫌を悪くしていたが、蒼星石が遊びに来た途端に一変して上機嫌になった。
その様子を、実は帰っていなかった金糸雀が庭の茂みに隠れて見ていた。
蒼星石は懐から紙で包んであるアメ玉を2つ取り出すと、その内の1つを翠星石に手渡した。
「おじいさんからアメもらったんだ、いっしょに食べよ〜」
「あ、ありがとうですぅ……」はみかみながらも、翠星石は素直にそう呟いた。
その仕草はとても可愛いらしかった。
その様子をじっと傍観している金糸雀は、2人がやけに機嫌が良さそうに思えた。
あの双子の姉妹は2人きりになると、いつもあんなにベタベタしているのだろうか。
「蒼星石、きゅうくつだから離れるのですぅ」
翠星石はアメの包み紙を剥がしながら、自身とピッタリと密着している蒼星石に言った。
しかし蒼星石が離れる気配はなく、ついには翠星石と腕を組んでしまった。意地でも離れないと言わんばかりの妹を見て
翠星石は、しょうがないですね、と呟いてアメ玉を口に放った。この心地良い窮屈さをもう少し堪能していたい。
「……あ」蒼星石は呟いた。
「な、なんです……?」
「翠星石がメロン味のアメ食べちゃった……僕が食べたかったのに」
「早いモン勝ちですよ〜」
翠星石は口の中にあるメロン味のアメを転がしながら、自慢気にそう言った。
蒼星石はしょんぼりとうつむいて手元にあるイチゴ味のアメ玉を見つめた。
同じ色の包み紙に入っているため、包み紙を剥がさなければ中身が分からないのだ。
普段の蒼星石ならば、こんな子供のような無邪気な態度は取らないであろう。しかし翠星石と2人きりになって
安心し切った途端、互いに寄り添ったり交代で膝枕をしたりと、デレデレ状態になるのだ。それは翠星石も同様である。
この間にも金糸雀は、普段は見れない双子の姉妹のじゃれ合う光景を、こっそりしっかりカメラに収めていた。
「翠星石〜……メロン味……くれない?」
「ダメですぅ〜、取れるモンなら取ってみるですよ〜♪」
翠星石が満面の笑みを浮かべてそう挑発した直後、蒼星石は両手で翠星石の顔を掴んだ。
「!?」翠星石は驚き、慌てて何をするのかと言おうとしたが、その時にはもう自身の唇と双子の妹の唇が重なっていた。
金糸雀は目の前の光景に唖然としているが、すぐにハッとしてシャッターを押した。
「んくぅ……」
蒼星石の舌が自身の口内に割って入って来るのが分かった。翠星石はどうしていいのか分からず、されるがままに弄ばれている。
しかし、決して嫌な感触ではなかった。故に拒むようなことはしなかった。
くちゅりくちゅりと、淫らでいやらしい音が静かな居間に響いた。
そして、濃厚なディープキスの終わりは唐突であった。
「――ぷはぁ……っ」蒼星石は翠星石の唇から舌を引き抜いた。
心地良い感覚が唐突に終わり、翠星石は、とろん、とした目を蒼星石に向けた。
「……おいしい」
蒼星石は満足気な笑みを浮かべて、翠星石から口移しで取ったメロン味のアメ玉を舐めていた。
おにく>>170
これは冗談でしている事だ、そこに性的な欲求など何も無い。……相手は双子の姉なのだから。
蒼星石は双子の姉の唇と一緒に奪ったアメ玉を舌で転がしながら、胸の内でそう自分に言い聞かせた。
「…………」
これは冗談だ、とアピールするかのように蒼星石は笑顔を浮かべているが、いつまで経っても虚ろな瞳で宙を仰いでいる姉の姿を
見て、無意識にその笑顔は強張った。姉は細い両腕で自身を強く抱きしめるようにし、その呼吸は荒かった。
その姿は蒼星石の股間を疼かせたが、今はグッとこらえる。
「す、翠星石……?」流石に笑みを消し、蒼星石は気遣わしげに声を掛けた。
流石に調子に乗り過ぎたか、と蒼星石は胸の内で嘆いた。そして翠星石の虚ろな視線がゆっくりと蒼星石に向けられた。
「……へ、へんたい……」今にも泣き出しそうな表情で、ポツリと翠星石は呟いた。
「え……」
「きもちわるいですぅ……じ、実の姉にこんなことして恥ずかしくないのですか……」
この言葉で、蒼星石は何を言われたのか分からないかのように固まり、数秒の間を置いて、ようやく自分が
何を言われているのかを理解した。頭の中が真っ白になり、そして徐々に恥ずかしさと悲しさが込み上げて来た。
「ご、ごめんなさい……」蒼星石は、顔を真っ赤に染め、うつむいて謝罪した。
しかし翠星石は呆れたように、そっぽを向いてしまった。無視されるくらいなら、いつものように怒鳴りつけられた方がまだ良い。
「え……えーと……」蒼星石はテーブルに無造作に置かれたイチゴ味のアメ玉を取ると、それを翠星石に差し出した。
「ほら! 食べる? い、イチゴもきっとおいしいよ!」懸命に明るく振る舞おうと笑顔を浮かべているが、かなり強張っている。
泣きそうな者が無理に作り笑いを浮かべると、こんなにも哀れみを誘うのだろうか。と翠星石は思った。
しかし、その表情もまた可愛いらしい。
(ちょっといじめてやるですぅ♪)
蒼星石のあのディープキスは、心地の悪い物ではなかった。むしろあのまま自分からも唇を重ねようとしたが、それだけではつまらないと
翠星石は思い、ちょっとした悪戯を思いつき、それを実行しているのだ。
そうとは知らずに、蒼星石は懸命に機嫌を取ろうとしている。
「そ、そうだ! 明日メロン味のアメいっぱいもらってくるよ! ふた、ふたりで一緒に……」
「…………」
「一緒に……いっしょ……」
泣いた。
蒼星石の作り笑いという仮面が剥がれ落ちてしまい、そのまま泣き崩れた。
翠星石は驚いた表情で双子の妹を見た。まさか泣いてしまうとは思わなかったのだ。しかし、妹を傷付けたという罪悪感の中にあるこの
快感は何だろう。
「きっ……きら、嫌いに……ならないでぇ……」泣きながら蒼星石は懇願した。
流石にこれ以上責めるのは可哀想だ。と翠星石は思った。
この可愛い泣き顔をもっと見る為にも、もっと虐めてやりたいという好奇心を抑えて。
「それじゃあ……」翠星石はにやり、と笑みを浮かべた。「おなにー、の意味を教えてくれたら許してやるですぅ」
「そ、そんなぁ……」
蒼星石は翠星石の言葉を聞き、そう情けない声を出した。
「早く説明するです! “おなにい”とは一体なんの事なのですか!」
「えっと……その……」勿論蒼星石は反応に困る。
発音が微妙に違うとはいえ、自慰行為の名称を何の恥じらいもなく声高らかに怒鳴る様子からして、本当に知らないのだろう。
女王様気質で妹をいじめに掛かるくせに、妙にウブな所が憎めない。
「早くするですぅ!」
「えーっと……本当に知らないの?」蒼星石は疑問に思い、そう尋ねた。
翠星石は自慰行為をしない訳ではない、現に以前彼女がそれをしている真っ最中に蒼星石が偶然それを目撃してしまい、その日は
ほとんど口を利いてくれなかったのをよーく覚えている。もしかしたら、自慰行為そのものを知らないのではなく、自慰行為の名称を
知らないだけなのではないだろうか、と蒼星石は思った。
「知らない物は知らないのですぅ! どんな物かさっさと教えやがれですぅ!」
もうこうなったら言うしかない、しかし、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
すう、と深呼吸をし、言おうと試みる。
「えー……そ、その……――いいこと……」
「ブツブツ言うなです! はっきりと物を言いやがれですぅ! 答えないと絶交ですよ!」翠星石は苛立ちを隠さずに怒鳴った。
このまま知らないままでは金糸雀にバカにされ続けてしまう、こんな事を聞けるのは蒼星石しか居ないのだ。
絶交、という言葉に衝撃を受けて、蒼星石はやむを得ないと意を決した。
「き……気持ちイイ事だよッ!」半分ヤケになって蒼星石は声を張り上げた。
言い切った直後に顔が一気に紅潮するのが分かった。両手を紅潮した頬に当て、そのままうつむいてしまう。
「気持ちイイ……?」翠星石は首を傾げた。「もっと具体的に説明するですっ!」
「え……?」
乳房や乳首、性器を愛撫したりして快感を感じる行為、だなんて恥ずかしくて言える訳がなかった。
しかし、ここで“翠星石がこの前してた事だよ”と言ってしまえば、あの時の事を蒸し返された翠星石はさらに不機嫌になって
蒼星石をいじめ続けるであろう。
「――その……なんていうか……」蒼星石は、はにかみながら先ほどより小さい声で呟き始めた。
「……あーもう! イライラするです! 説明が嫌なら今ここでやれですぅ!」
「……へ?」蒼星石はとんでもない事をさらりと言ってのけた姉の言葉を聞き、固まった。
翠星石は自分が双子の妹にとんでもない事を言った事をまだ自覚していない。
蒼星石に突然“自分の目の前で自慰行為をしろ”と言っているのだ。しかし、翠星石はそもそも“オナニー”という
単語の意味を理解していないのだ。
「早くやりやがれですぅ!」
「…………」
蒼星石は黙し、頬を紅潮させてうつむいているだけであった。もう口でオナニーの意味を教えるしかない。
蒼星石にとっては死ぬ程恥ずかしい事であるが、身を持って教えるのはもっと恥ずかしい。
「あ、あのね……翠星石」かろうじで聞こえるであろう声で、蒼星石は上目遣いで言った。
「オナニーっていうのは……その……む、胸を触ったり……オシッコがでるとこをね……さ、触ったりして……気持ちよくなる事……」
「……!?」
翠星石の表情が徐々に紅潮するのが分かった。オナニーとは自慰行為を示す言葉だと今更ながらに悟り、自分がさっきまで
自慰行為という下品な言葉を声高らかに怒鳴り散らしていたという事実を受け入れられずに居るようだ。
居間で金糸雀と言い争いを始めた時に、ジュンが動揺しているような反応を示した理由もやっと理解した。
翠星石は蒼星石は同じくらいに顔を真っ赤に染め、固まっていた。
オナニーの解説を終えた蒼星石は恥ずかしさのあまりに、ソファーに顔を埋めて嗚咽を漏らしていた。
穴があったら入りたい気分だ。
「へ……変なこと言わせないでよぉ……」
「あ、え、えと……」翠星石は口ごもる。
翠星石は先ほどまでの自分を客観視して、かなりおバカでお下品な事を問い詰めていた事を改めて感じた。
いかにプライドの高い翠星石といえど、この状況で必死に弁解や言い訳をしてもますます惨めになる事くらいは分かっていた。
そうだ、“サディティックな自分はわざと恥ずかしい単語の意味を問い詰めて、蒼星石の困った反応を楽しんで居た”
という言い訳はどうだろう? これを思いついた翠星石は、我ながら冴えてると思った。現に少し楽しかった。
しかし、これほど動揺した後でこれを言っても言い訳をしていると思われるだろうし、どの道舌も上手く回らない。
「ご……ごめんなさいですぅ……」
翠星石は蒼星石と同じように、頬を紅潮させてうつむき、そう言った。今自分にできる最善の行動は謝る事だと思ったのだ。
言い訳のような事をベラベラ述べて、惨めな思いをしたくはない。何よりそんな醜態を蒼星石に晒す事など翠星石のプライドが
許さなかった。そしてその後何を思ったのか、翠星石はそのまま立ち上がり、小走りで居間を飛び出してしまった。
恥ずかしかったのだろうか。
「…………」
居間に1人残された蒼星石は、もう口の中で半分くらいの大きさになってるアメを舐めながら、自身の性器が
疼いているのを感じた。自分はマゾヒスティックな一面を兼ね備えているのだろうか?
だからこそ、あの言葉責めが決して心地良い物に感じたのだろう。
(早く……鎮めなくちゃ……)
蒼星石はソファーへ寝転がり、おもむろにズボンを下ろし始めた。
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