5月4日(金)
もうすぐ私とJackの誕生日が来る。
Jackにプレゼントをあげたいと思うから、おばあさんに火曜日に街まで
連れて行ってもらったときにお店を教えてもらおう。
Jackはゴールドが好きだから金の指輪を買ってあげたい。
驚かせたいから内緒で買って、お誕生日に渡したらきっと喜んでくれると思う。
こっちに来た時からずっと初めてのお誕生日の時に何をあげたいと思って
考えていた。
初めの頃きっと結婚指輪を作ってくれるからその時私もJackに指輪をあげようと
思っていた。
これはJackだからそう思っただけで、多分他の人と結婚した場合は、
当然夫となる人がお金を出して二人の指輪を買うものだと考えていた。
Jackの場合はそういう話がとにかく難しく、期待できない事に対しては
こっちがしてもいいと思っていた。
でもそれさえもJackがそのチャンスを無くしてしまったから
お誕生日にと考えるようになった。
それはJackが結婚する前に、結婚指輪はあとから買うと言っていたから、
そのことを信じていた。
でもそれが大きな嘘だと解るのにそう時間は掛からなかったと言う事件があった。
来てからすぐにでも結婚指輪は作ってくれるものと思っていたけど、
毎週末、いつになってもお買い物にも連れて行ってくれないし、
指輪の話も出てこないし、あるとき余り知らん顔しているから
「指輪はいつ買いに行くの」と言ったら
「君はたくさんの宝石、いくつもの指輪を持っていて、それでもまだ欲しいのか。
絶対指輪なんか買ってあげない」といわれてしまった。
別に指輪が欲しくて言っているわけではない。夫が言うようにたくさんの指輪を
持っているのだから。でもこれは意味が違う。
Jackからもらった指輪を指にしている事に妻としての確信と喜びを
感じるというか、つまらない事かもしれないけど、そういうことが
心のよりどころと言うか、私には意味がある事なのだけど、Jackには到底
解る事も無く、絶対宝石など買ってあげないし、誕生日のプレゼントも
絶対しない、意味が無いから。などと毎回毎回強く言われ、
まるで私が何かをねだるのではないかと恐れているような言い方をする。
私は普段何も欲しがらないし、贅沢をしたくて結婚した訳ではない。
Jackと結婚するということを決心したときにすでに物理的な欲求は全て
捨ててしまったといっても過言ではない。
この大自然の中で心安らかな日々が送れるなら、もう何もいらないと
思ってしまったほどだから。
好きな人と静かな暮らしが出来るなら、それ以上の幸せは無いと思っていた。
ここに来てからはお買い物も、出掛ける事も不可能だという事は
うすうす解っていたから、自分にとって必要なものは全て日本から
送ってしまった。
送料だけでも10万円は掛かったほどだから、何も送らないでその
10万円を持ってきて買い揃えたら、アメリカのほうが全てのものが安いから、
ある程度はそろったかもしれない。
でも結局、送ったものやパソコンなど持って来たもの、そしてこっちに
来るために2度往復した飛行機代を入れるとゆうに100万円は使ってしまった。
でもそれを私は当然の出費と思っていたし、こちらに来てからなるだけ
Jackの負担にならないようにと相当気を使ったつもりなのだけど、
Jackには何の意味も感じなかったらしい。
毎日憂鬱な事ばかりだから、きっと指輪をプレゼントすると喜んでくれて
少しは機嫌よくしてくれるかもしれない。
こんな事を考える事も嫌だし、これが日本であるなら
別れることをとうに考えていると思うけど、
ここで今自分の立場がいかに不安定で宙ぶらりんなものか良く解っているから、
どうする事もできない。
今もし離婚を申請したらどうなるのだろう・・・・
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5月5日(土)
今が五月だからだと思うけど機嫌が悪い。
来週ジニーンの家に行く事になっている。4人が誕生日なのだ。
私とJackは勿論、アーノルドとジニーンも5月だから、母の日の事もあるから
集まる事になった。
私は素焼きのプランターに絵を描こうと思っている。
それにデイジーを植えて持って行くつもりだ。
何かプレゼントになるようなものを買いに行きたいと思うけど、
連れて行ってもくれないし、火曜日におばあさんと出かけるけど
お金をくれる訳でもない。
それに今もっているお金は指輪を買ってあげたいし、
何かJackにプレゼントする時は私のお金を使って買いたいと思っているから、
家族には何か手作りのものをプレゼントするつもりだ。
余りお金の掛からない材料で、いいものをと思っている。
このこともJackだからだ。
仕事も無いのに持ってきたお金がいつまでもある訳ではないから
先行きが不安なのも事実だ。
何か買いたいものが出てきたときにもうお金が無かったら
どうすればいいのだろう。
今はまだ何人かのお友達が時々荷物を送ってくれるから良いけど、
これもいつまでも続く事ではない。
必要な本、食べたいものなど、今はいつでも手に入っている。
こんな生活をこのまま続けていけるかどうかの不安はとても大きい。
でも身動きの取れる状態ではない。
誰かにこのことを伝える事が得策かどうかも解らない。
人は余り解ってくれないし、説明のしにくいこの状況を解ってもらう事も
困難な気がする。
何より今までのわたくし自身を知っている人は、
「Rubyサンは幸せになるために私たちと離れてアメリカにまで行く」と
思っていた人たちがほとんどだから、今更この私の不幸、
私の嘆きを話すわけにも行かない。
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5月6日(日)
ダウンタウンに行きたいと言ったら怒られた。
もし行ってくれたら一緒に指輪を買いに行ってもいいと思っていったのだけど、
「町は嫌いだ」と言われてお終いになってしまった。
仕方が無いから最初の計画どおり、おばあさんに場所を教えてもらって
行くようにしよう。
サプライプレゼントの方が楽しみがあって良いかもしれない。
でも今日のJackの言い方はこっちも気分が悪くなってしまった。
「絶対Rubyに誕生日のプレゼントはしないのだから、僕にプレゼントなんかも
考えないでくれ」って。
私にプレゼントをしたくないからこんな言い方をするのだろうけどどうして、
こうも言い切ってしまうのだろう。
去年もくれなかった。私は日本からプレゼントを送った。
(去年は帰る日がお誕生日だったけど、ドミニクとケリーがレストランで
祝ってくれた。そして次の日に日本へ発った。)
あの時の別れは寂しかったのに、今の生活はなんだろう。
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5月7日(月)
今は外の仕事、植物の手入れで毎日忙しい。
お花がたくさんあるとJackが喜んでくれる。
パティオにもお花を植えているのだけど、鹿が来て食べてしまうから、
鹿に食べられないお花を植えている。
なんと言っても広いからたくさんの植物がある。
バルコニーにあるプランターの一つでも、
日本のバスタブくらいの大きさがある。
そんな大きなプランターが何個も形よく配列されて置いてある。
バラをスタンダード仕立てにして中央に座し、
その周りにパンジーやガーベラなどが満開に咲き乱れるとそれはもう美しい。
それらの花をヤッパリ鹿は食べる。
でも鹿が花芽を食べる事を私は知らなかった。
小さかった頃、近くの動物園によく行き、
その頃は草を食べるものだと思っていたから、
草を摘んでは持って行き食べさせていた。
鹿は私の手からよくその草を食べていた。
花を食べて折角育てた花だけど、食べられても、そういやではない。
花を食べる鹿を可愛いと思う。
母鹿と2匹の子鹿が毎日来てはゆったりと遊んでいる。
私がいても逃げる事をしない。
お庭にたくさんのフルーツの木があるものだから
それを食べに来る。それに時々食べ残したメロンやイチゴ、
オレンジに残った野菜など、投げてあげると食べに来る。
可愛い目をしている。母鹿は安心して投げた餌を食べに来るけど
子鹿は怖がっている感じがする。
リスもウサギも、ジャンプして遊んでいる。
フルーツは主食でお花がデザートなのだろうか。
マリーゴールドは食べられないと誰もが言うけど、それも食べている。
Jackが買ってきた名前の解らない花は大丈夫だ。
どんなに咲いてもそれは食べていない。
私と追いかけっこをしながらの作業だ。
食べられたくない時はお花を守るフェンスで囲う。
鹿の嫌いな植物を植えてみる・・・・・
鹿は生きるためのことしか考えていないし、
人間の都合など構ってはいないのだから、こっちが取り計らうしか
仕方のないことなのだから。
昼間、私がどれほどの時間を使って家のことをしているかJackは想像も
つかないのだろう。
植物の手入れとお掃除でほとんどの時間がなくなってしまう。
インターネット、始めると読むだけでも結構時間が掛かるから、
それはJackが寝た後にしている。
メールのチェックだけを朝一番にするだけ。
本当にこんな大きな自然の中にいて、きっと自分の作品ができると思って
信じていたけど、なんと今やっている事といったら、芸術には程遠い
趣味の世界のものしか制作する事は出来ない。
今日はプレゼント用のプランターポットに絵を描いた。
来週家族が集まるけど、それまでに石にも絵を描いて持っていく。
石に絵を書いた作品は誰でも喜んでくれる。
今の私にはこれくらいしか出来ない。
午後にグロリアから電話があって、今度の集まりは大きいからと言っていた。
意味は4人の誕生日と母の日という事だからだと思う。
何かもっとプレゼントになるものを買いに行きたいから少しJackに話したら
「手作りが好きだからそれで充分だといわれ、ヤッパリお金はくれなかった。
今年はこれで我慢してもらおう。
来年はきっと喜んでもらえるようなものがあげられるようになりたい。
こんな事でまごまごしてないで、何かやりださなくてはと思っているけど、
創作意欲が一向に湧いてこない。
環境からすると万全の自然環境だということは間違いないことで、
結婚してここに住むようになったらきっといい作品ができると信じていたもの。
お金を得るようになるにはすぐとはいかないけど、この中で創作活動をして行く
うちに、キットなんとかしようと思っていた。
そういうことに関しての努力は誰にも負けないから。
それは今までの自分を知っているから良く解っている。
マリオのCDを作る時だって、ライブコンサートの企画だって、
誰にも負けないほどの企画力で突き進んでいったもの。
今思えば怖いもの知らずで良くやったものだと我ながら驚いてしまう。
そんな私は今ここにいない。
羽をもがれた小鳥のように何も出来ないでうずくまっている私がここにいる。
何かをしたいと思っているのに、その折角の私の才能(?)をJackは毎日
殺してしまう。
こんな事書きたくない。
何事も自分の責任だと思っているからJackのせいで何も出来ないなんて
言いたくない。
でも折角何かをしようとしているのに私の事を全く無視して、
ひどい事ばかりいわれているから心がいつも萎えてしまっている。
「Rubyは嘘つきで、アーティストじゃない。絵もかけないし、演奏も出来ない。
ピアノも弾けない」って!!
私がジェイのキーボードを弾かないからだと思う。
ジェイの持っているのはシンセサイザーやキーボードといえる代物ではない。
フリーマーケットで音が出るかどうかも解らないキーボードを買ってきて、
もしかしたら本当にただだったのではないかと思うほど、
音階を示さないただキーキーとうるさい音を立てるだけのものを
「シンセサイザーがあるから弾いて見ろ」と言って、
私が弾けないといって触らないものだから、そんなことを言い出したのだけど、
それにしても言い方がひどいくて汚い。
毎日汚い言葉で独り言を言う人だということはもう判ってきた。
最初はとてもそれが嫌だった。
仕事から帰って来て最初からそんな言葉しか聞けず、会話は無く、
怒ってばかりいるのを始めは「なんだろう」と思ってしまったもの。
どうして穏やかな心になれないのだろう。
こっちに来るまでは想像もしていなかったし、こんな人だとは思っても
いなかった。
少しの変わった人だという事は知っていても、ここまで野蛮でレベルが
低い事は知らなかった。
ヤッパリ自分の見る目の無かった事だから、自分の責任だとは思うけど、
それにしてもおかしな事だらけで驚いてしまう。
スッカリ世界観が変わってしまったといっても良い。
勤めていた時にかなり色んな人がいたし、結構、社会を知ったつもりに
なっていたけど、まだまだ井の中の蛙でしかなかったことが今更ながら思い知る。
でもどんなに色んな人がいると言ってもJackほどの人とはそう簡単に
出会えることは無いと思う。
それほど変なのだから。 Jackだけではなく家族も。
でもいい関係でいたい思う。
Jackに家族がいないと思ったほど、家族の話を聞いたことが無かったけど、
結婚したらなんと家族の絆の強い事。
Jackと母親は又格別の関係のようで、とても密だと思う。
でも親子が仲がいいのはいいことで、両親がいてくれたことが私には嬉しかった。
もう随分前に親を無くしてしまっていて、とても親のことを恋しく思って
いたから、せめてJackの親を大切にして仲良くしたいと心から思っているもの。
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5月8日(火)
今日おばあさんに街まで連れて行ってもらってJackの指輪を頼んできた。
おばあさんと行った宝石店は近所の人が経営していて、彫金の職人さんが数名、
店員さんが数名いて、この街では割と立派な貴金属店だ。
Jackの大きな手のことを思うと少し幅の広いものがいいとか、
内側は仕事に差し障りのないように少しは狭めて欲しいとか、
内側に二人の名前を入れて欲しいとか、自分の思い描いていた事を全部伝えて
来週の火曜日以降ならいつでも受け取れるようにしてもらった。
サイズは夫が眠っている時に糸で測っておいたから大丈夫。
来週末は家族が集まる。
だからその帰りに夫と一緒に引き取りに来る事ができるかもしれない事を伝え、
私は喜んでくれるであろう事で自分も嬉しくなり、喜びいっぱいでJackの
帰りを待っていた。
でもそんな事など全然関係のない、いつもの機嫌の悪い夫が帰ってきて、
時々は言われていたけど、今日はことさら嫌味をこめて
「君の誕生日が近づいてきているけど何もあげないから、何もしたく
ないのだから、勿論僕のプレゼントなど考えてくれるな!!」
などと平気で言い放ってしまう。
今日はいつもよりもっともっと悲しく感じた。
注文して、きっと喜んでくれると信じて・・・・きちんと今日は話をしよう。
話せなくっても街まで一緒に行きたい話をしてみよう。
中旬が私の誕生日で月末がJackの誕生日だ。
私の誕生日が先に来る事で夫は牽制している。
どうしてここまで妻をいじめて平気でいるのだろうか。
私が何かしたとでも言いたいのだろうか。
人としての欲求を全て断たれている状況にいて、
それでもなんとか仲良くしたいと一生懸命努力している私に
もうこれ以上どうしろと言うのだろうか。
もしかしたら私にはもう何もする事は無いのかもしれない。
どんな努力も意味をなさないのではないかと思ってしまう。
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5月9日(水)
ゆうべは眠れなかった。
そしてとても寂しい思いをして、どうしようもなくなっていたらおばあさんが、
いいタイミングで電話をくれた。
昨日のことをおばあさんも喜んでくれていたから、きっと今日は
私も幸せな日を送っていると思って、又その楽しい話を聞こうと思ったらしい。
現実は全く正反対で、そのことを聞いたおばあさんは私のことをとても
気の毒がって夫からのことを何と言って慰めていいのか判らない様子だった。
それに困った事は指輪を注文してしまっているのに、
どうするつもりだと聞いてきたから、
私は怒られてもプレゼントしたいから、いつかおばあさんの都合のいいときに
連れて行ってもらいたいとお願いして電話を切った。
でもとてもせつなくて自分の心を自分で慰める事がとても難しく暗い一日を
過ごしてしまった。
私の人生はここには無い。
私の歴史はもう日本の生活で最後だったのだろうか。
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5月13日(日)
11日金曜日に家を出て、家族パーティーを金曜日の夜、土曜日とやって、
今日家に帰ってきた。
帰ってくる途中で、ダウンタウンを通るから、「寄って欲しい」と言ったら
「どうして街に行きたがる。街では車もとめられないし、人がいっぱいで人は
嫌いなんだ、どうして判らないのか」とすごい剣幕で怒り出した。
駐車する所があることは先週おばあさんと行ったからよく知っている。
夫はこの地に何十年も住んでいるのだし、目をつぶっていてもダウンタウンの
どこに何があるかということは熟知している。
結局、宝石店に行く事は出来なかった。
さっきまで家族と一緒にいたときは、優しい夫を演じていた。
というよりたんに人前だから私のことをののしったりする事が無かっただけ
なのだけど・・・・たったこれだけの事で、優しくしてもらった気になる
なんて・・・・どう考えてもまともな生活などではない。
私は家に着いて週末には取りにいけると宝石店の店主と話をしていたのだから、
電話をしようかと思ったけど・・・・それも出来なかった・・・・
同じ街なのだからフラットレートで月末の請求書には記載はされないとは
思ったけど、今日が日曜日であることで掛けるチャンスを見つける事が
出来なかった。
何という寂しい生活をしている事かと悲しくなってしまった。
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5月14日(月)
今日、宝石店へ電話を掛けた。
昨日は取りに行けなかったけど、どんなに遅くなっても必ず取りに行くから
注文した指輪は作ってくれるようにと話をした。
そしたら、店主はもう出来上がっていますからいつでも良いですよ。
と言ってくれた。
支払いを済ませてしまったわけではない。
できることなら今すぐにでも行ってお金を払って引き取ってきたかった。
翼があったなら・・・・
私の羽はむしられてしまっている。
どこへも自分の力では行く事も出来ない。
これまで生きて来てこのような経験はいまだかってした事もなかったし、
想像さえもした事もなかった。
これほどまでにこの現代の社会に於いて人間としての最低の基準も備えていない
生き方があってもいいのだろうか。
昔、アメリカでまだ黒人が奴隷として売買されていたときには多分、
黒人は人でなく道具でしかなかったのだろう。
私の命は日に日に心を押しつぶされていってしまっている。
豊かだった感性も日に日に小さくなってきている。
以前は自由に羽ばたける翼も持っていた。
私はいったいどうしてしまったのだろう。
私はJackの妻ではなくて、汚くののしられるときに言われているブタで、
メイドで、くそ日本人でしか無いのだろうか。
こう書いているけど書いているこの言葉よりもっとひどい言われ方をしていて、
到底、日本語で表すことが出来ない。
その言葉は卑猥で下品でおぞましい。
それほどまでに言われなければならない事を私はどう自分に説明すれば
いいのだろう。
説明など出来はしない。説明できる事ではない。
でも理不尽な夫の態度に私の心までもは決して屈する事をしない・・・・
今日は私の誕生日だった。生まれて初めてこんなに寂しい誕生日を迎えた。
いつかきっと私はむしられた翼を取り戻す。きっといつか・・・・・
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5月19日(土)
今日は久しぶりに食品を買うために街につれてきてもらった。
私はこれもチャンスにできればと思い、またダウンタウンに寄りたいことを
言った。夫はグラシュリーストアで私を降ろした後いつもの様にどこかへ
消えてしまい、1時間ほど後に私を連れに来て、口を聞くことも無く帰路に
ついてしまった。
宝石店に寄って、あなたの指輪が注文してあるから、引き取って帰りたいと
言ってしまおうか・・・・それとも強引に喧嘩になってでも行きたいと
ダダをこねてみようか・・・・
どんな方法も今の私には不可能なのだろうか・・・・
どんなに心から叫んでみても意味をなすことも無い・・・・・
夫の話す言葉が時々人間とは思えないときがある。
夜になってアルコールが入ると余計にそう感じる。
赤くなった顔に、薄茶色の巻き毛で青い目がギラギラとしてくる。
身体も大きい。銃を持った夫が赤鬼に見えてしまう・・・・
夢を見ているのではないかと錯覚する事もある・・・・・
でもJackは鬼ではない。
きっと判ってくれるはずだから・・・・今日は無理だったけど
今度はきっと話してみよう。きっと解ってくれる。
きっと喜んでくれる・・・・・
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5月25日(金)
今日は帰ってきた夫が少し機嫌がよさそうだから話をしてみようと思っている。
今、友達のジェイの家に遊びに行っている。
きっと嬉しそうにして出て行ったから、帰ってきた時がチャンスかもしれない。
だって来週の水曜日がJackのお誕生日なのだから今週末が
ラストチャンスなのだもの。
仕事から帰ってきた夫に今日はあまり何も言われる事も無かった。
着替えを済ませると、すぐビールを抱えてジェイの所に行ってしまった。
どうかあまり酔っ払っていませんように!!どうか話がうまく出来ますように!!
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5月26日(土)
ゆうべ夜中に帰ってきた夫に私は街に行きたい事を話した。
私の願いもむなしく夫は私を無視したり、ののしったりという、
いつもの言葉の暴力が始まった。
ビッチ、ブタ、バカたれ・・・・・
君は何も出来ない、嘘つきだ・・・・・
耳を塞ぎたくなるような、日本語に出来ない、
ここに記す事の出来ないほどの言葉の羅列。
悲しかった、寂しかった、苦しかった、情けなかった。
涙が溢れてきてどうしようもなかった。
言葉も何もなくなってしまった。
今までどんなにののしられても我慢してきた。
悲しかった、ずーっとずーっと苦しかったし、つらかった。
どんなに解って欲しいと思っても話をしようとしない夫を、
それでも気遣っていた。
色んな事が頭を駆け巡り何かがはじけてしまったような気がした。
そして何かとてつもなく重いものが
私の心にぶつかってきたようにも感じた・・・・
あの時の状況を何といって表現したらいいのか解らない。
何かがいつもとは違っていた。
私が私ではなくなっていた。
気がついたとき私は夫の肩を噛み付いていた。
やり場の無い怒りが私に暴力を振るわせた。
めちゃくちゃに殴りかかっていった。
もし、喧嘩になったり戦ったりして到底勝てる相手ではない。
筋肉質で背の高い夫にたとえ武器を持って挑んでも勝ち目は無いと
思われるような体格だ。
でもがむしゃらに夫に立ち向かっていった。
牙をむき、爪を立て、私は果敢に夫に立ち向かっていった。
無駄な事だと解ってはいたけど、そんな判断はどこかへ
飛んで行ってしまっていた。
そして私は口走っていた「どうして私の気持ちを解ってくれないのか。
私はあなたにプレゼントがしたい。それであなたの指輪を注文してしまった。
注文してしまったその日にも、あなたはプレゼントなど自分にするなと言った。
私にも勿論上げる気もないと言った。
私はいらない。したくない人から貰わなくてもいい、
でも私はあなたにお誕生日おめでとうと心から祝ってあげたい・・・・・・
あなたは私の夫なのだから・・・・私はあなたの妻なのだから・・・・」
何をどうしたのか解らない。どのくらいの時間が過ぎたのかも解らない。
力尽きてしまった私はそこに崩れ落ちてしまった。
そしてそのまま身動きできなくなってしまい、どんどん真っ暗闇の中に
落ちていく自分の姿をまるで映画のシーンのように見ていた。
ゆうべのその後の事ははっきり覚えていない。
自分の部屋にこもって鍵を掛けてしまったことだけが記憶の中にある。
今朝、目が覚めたら夫が宝石店に行こうと言ってくれた。
嬉しかった。とっても。
解ってくれたものだと思った。
宝石店に着き、長い事来なかった事のお詫びを店主にし、
夫に指輪をはめてもらって「お誕生日おめでとう」と私は言った。
私は自分の財布からお金を払った。
嬉しかった。やっとやっと願いが叶った。
自分のお金で夫にプレゼントをする事が出来た。
夫からは食品ストアにしか連れて行ってもらえないことで、
プレゼントをする事も難しいことだった。
それも毎週行ける訳でも無い。
長い戦いが終わったような気がした。
領収書を受け取って帰りの車の中で私は聞いた。
「Jackどうして黙っているの?どうしてありがとうと言ってくれないの?
本当はお誕生日のサプライプレゼントのつもりだったのだけど少し早くなって
ゴメンね。それとも気に入らなかったのこのデザインが・・・・」すると
「自分のお金で買った指輪をどうしてありがとうと言えるのだ」
「えっ・・・・・????」
夫は今なんていったんだろう????
どうしてJackのお金???夫は私のお金を持たせてくれた事は無い。
お買い物も夫を待っていてレジをでる。
自分の用事に時間が掛かると思うときなど時にはお金を持たせてくれる事もある。
そのときなど、お釣りも全部夫に戻している。
おばあさんと出かけると話してもお金をくれることは無い。
おばあさんは大好きなメキシカンレストランでランチを食べるのをとても
楽しみにしている。
その話をしてもお金をくれたことは無い。
出掛ける事の無い私はおばあさんに連れて行ってもらったときは、
必要なものを買って帰ってくる。
化粧品や、衣類、お友達へのプレゼントなど。
それを知っているはずなのに何も言わない。
私の日本からの所持金は当然減ってくる。
ある間は良いけど、無くなったら本当にどうすればいいのだろうとは思っていた。
それなのに夫は言った「自分のお金で買ったものだ」と。
夫からのその言葉に昨日感じた真っ暗な闇の中よりも、
もっともっと深くて暗い地獄のような闇の中に私は吸い込まれていった。
もう私たちは夫婦ではない。もうどうする事も出来ない。
この人の心は闇なのだ・・・・
私にはもう、この人に何も出来ない・・・・・
今までこれほどまでにどうする事も出来ない人とであった事は無かった。
自分の力の及ばない事に、私の思考は考える事を拒否し、
状況を把握する力も減少し、
持っているはずの能力の稼動を拒んでしまったかのように
目の前の全てが視界から消えて行ってしまった。
何も見えない、何も聞こえない、ただ薄ぼんやりとした霧の中に
自分がすっぽりと包まれて立っているのか、座っているのか、
横になっているのか、浮かんでいるのかさえ解らない、
ただただ一つの物体でしかない自分の存在が、はかなくもそこにあるだけ・・・・
生きていることの意味が見えなくなってしまい・・・・
悲しみも、苦しみも、寂しさも何もなくなってしまった・・・・・
私はどこで何をしているのだろう・・・・・ここはどこなのだろう・・・・・
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6月2日(土)
今日は両親の家に来ている。
さっき義母が夫のはめている指輪に気がついた。
そして「Jack指輪を作ったのね。素敵じゃない」
「・・・・・」夫は何も言わなかった。
一言「Rubyがプレゼントしてくれた」と言ってくれたら・・・・・・
そんな夢みたいな事考える方がバカなのだ・・・・・・
もう悲しいなどとは思わなかった。
泣く事も笑う事も忘れた翼を持たない小さな物体、
それが私なのだから・・・・・

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