高齢化を生きる 平成16年4月 笑顔が戻った痴呆老人
あるグループホームの実践
宮崎和加子



社団福祉法人すこやか福祉会ホーム長で訪問看護師の宮崎和加子さんが、当研究所の第3回会員意見交換会(平成16年4月14日開催)で「痴呆高齢者のケア」について講演し、会員の方々の質問に答えられた。


1.老人介護のきっかけ

 私は訪問介護を20年勤め、3年前から「ボケボケ婆さん達(家ではこう云っている)」の世話を毎日24時間やっている。最近は末期癌が多く、私の息子の友達の母親から「私は、末期癌と診断されたが息子が大学に入学する日まで生きていけるだろうか」と電話があった。そして半年後、息子からお通夜の知らせに絶句した。

 この友人だけでなく若くて癌になる人を沢山見かける。しかし癌だって別にどうってことはない。いつか人間は死ぬのだから。残っている時間をいかに豊かに自分らしく生きるかが先決。それも病院で生きるのか、家で生きるのかという問題の選択に直面してきた20年であった。そして痴呆老人といえども楽しく生きる方法があることを体得した。


2.グループホーム

 家で暮らすことが困難なボケ老人でも楽しく生きられるグループホームが、数年前に日本でもできるようになった。人間は群れる特色があり、独りになると神経をすり減らすことが多い。グループホームは人間のこの弱点を補う施設である。

 収容人員は9人で平均年齢は82才、一緒に暮らしていると「光」を感じるようになる。福さん家(ち)を立ち上げて9人の痴呆老人と暮らしてみて、今まで聞かされていた専門家の知識は間違いであると知った。
 
 一戸建ての民家を改造し、職員と共に食事を作り、洗濯や掃除を分担し、日常の雑用を助け合いながら生活している。(講演当日、ビデオでの日常生活の模様が映された。)


3.福さん家の特色

 東京の下町墨田区吾妻橋に民家を改造した木造2階建て、床面積200uの風通しの好い暖かい福さん家がある。入居者は介護度重が半数、3人が中程度、その他となっている。
 
 玄関の鍵はかけないのが特徴、椅子はテーブルから離さなくても立ち上がれるように横に動く方式、他にも高齢者に負担をかけない設計が目につく。炊事場は調理が便利なように昔風のしつらえ、水道の蛇口も動かないもので、昔風の洗い物ができる。
 
 2階への階段は手摺があり、近く階段昇降機をつける予定。
全部の個室は壁の模様が異なる。カーテンは自分の好みのものを自分でつけ、押入れはたっぷり面積をとっている。トイレは使い易い贅沢な仕様、ここは施設ではなく「家」である。


4.楽しい生活

 入居者は「白樺青空------」とかよく歌を合唱する。食事作りは職員も手伝うが本人達の発想が原則。チャーハン、サラダ、味噌汁が多く選ばれる。食事中もよく喋る。
 
 夜の井戸端会議も頻繁に開かれ、寝に入る時には今日も一日良い日であったと挨拶する。
昔は入所してから自宅に帰りたいとダダをこねる人、家族に迎えに来て欲しいと嘆く人もいたが今は皆無となった。


5.外出で羽を伸ばす

 帝釈天に出かけたり、近所のスーパーで買い物したりして近所の人と馴染むようになってきた。町内会の人とも話をするようになり、しだいに外との付き合いが始まった。近所の人も訪ねてきて人の輪ができ始めたのは、開所一年ほど経ってからである。


6.やりたい事をやらせる

 入居者の話題の中に「------したい」という要求が出ることは良い現象である。誰かが「温泉に行きたいなぁ」と言うと「行けるの?」と半信半疑。私が「行ける」と答えると「どこへ?」と目を輝かす。昨年、皆で相談して鬼怒川温泉に行くことになった。
 
 温泉につかり舞台に上って歌謡曲合戦、思う存分楽しんで帰った翌朝、職員が「どこへ行ってきたの?」ときくと8人が「どこだっけ」と答えられない。ただ1人だけ「鬼怒川」と答えた。痴呆とはそんなもので昔のことは良く覚えているが昨日の事は忘れてしまう。それを認めてやることが生き生きとさせる手段である。

 入居者の中には職員に恋する人も出てくる。その人の出勤時間をちゃんと覚えていて、時間になると玄関でウロウロ。それを微笑ましく見てやることが大切。
 
 何もしないとボケるからと絵を描く人もいる。ホームの前が駐車場で見通しがよく夕焼けが美しく、静けさが何ともいえないと絵筆を運んでいる。この数年間入所した人達の生活を見て、「ボケとは何だろう」と考える毎日です。


【 質疑応答 】

1.ビデオを拝見し、入所者が痴呆とは感じられない毎日の生活を送っていることに驚いた。その原因はどこにあるのか?

[答]何時に食事をしても良い。自由に暮らし、よく喋り、よく笑い、よく歩く。そして職員がよく褒めるせいだと思う。例えば浅草の花屋敷に行きたいと云えば、デパートで弁当を買い、学校の子供のように騒ぎ、遊園地でお化け屋敷に行く。
 
 ジェットコースターにも乗せる。帰ってきて「楽しかったよー」とはしゃぎ回る。テレビを観るだけの生活が消え、面会に来た家族が見違えるように顔付きが変わったという。

2.入居者同志で争いが起こることはないか?

 [答]入所早々は馴染めない人もいるが、日がたつと同化してくる。昨年6月、前の日まで元気で買い物をしていた93才の野尻さんが亡くなられた。
 
 自分でパジャマに着替え、12時には鼾が聴こえ、3時に布団をかけ直したときは「有難う」の声を職員が聞いたが、5時には亡くなっていた。他の8人にどう説明しようか困ったが、皆に知らせるとアッと驚いた。
 
 1人が野尻さんに近づき頬ずりをした。それにつられて1人1人が近づき「良かったね、私もこうなりたい」と口走っていた。
 
 家族の中にもこのような別れを惜しんだ人はいなかったのに、2年間一緒に暮らしただけで、人を愛しむ姿を見て記憶喪失って何だろう、病気ではないのだと思った。

3.グループホームに入る条件は何ですか?

[答]グループホーム福さん家の例で説明すると、入居できるのは介護保険の要介護度が1〜5の中程度の痴呆の方です。
 入居利用料は、おおよそ1ヶ月10〜11万円程度。その内訳は家賃月36,000円、光熱費おおよそ1万円前後、食費1日1,200円でおやつ・調味料などを含む。共益費は1ヵ月5,000円、介護保険料の自己負担が要介護度2として25,000円強となる。
入居者は9人で職員と一緒に暮らす。全員が個室に入り、一緒に買い物に行き、食事を作り、洗濯し、語らい、自宅で暮らすように生活する。
 
 24時間を通して職員が責任をもって世話をするのが特徴だ。このようにグループホームとは、介護保険制度の中で国が認めた制度であるが、自費で月40万〜50万円もかかる所もあり注意が必要だ。

4.福さん家の特色は何か?

[答]共同生活で食事、入浴、炊事、掃除を分担すること。単なる集団生活では痴呆の人は救えない。自分でできることは自分でやらせる。 
 
 家にいるように座っていればご飯が出てくる生活では余計にボケが進む。やったことを忘れている人には「もうやったよ」と指摘すれば思い出すのでボケ現象ではない。
 
 大根の皮をむくのが上手な人がいるが、手を動かして体で覚えたことは忘れないものだ。
それを見つけて褒めればよい。共同生活をすれば、人として生きる力や他人を見習って自分もやって見ようと見栄や意地も出てきて励みになる。

5.入居者同志の仲間喧嘩は起きないか?

[答]昼食に店屋物を頼んだときのこと、ピザパイ組、天丼組、カレー組と分かれた。
 配達して来た時に、もう自分の頼んだ物を忘れている。ピザパイに6人が手を出す。
どうして決めるかと思ったら、ジャンケンでなく皆で仲良く話しあって、パイを半分に割り、他のものも分け合っていた。炊事、掃除も話し合って共同で行い、喧嘩をすることはない。

6.環境と痴呆の関係は?

[答]概して云えば環境が変われば痴呆も変わるが、痴呆の度合いが違うから何とも云えない。家からグループホームへ移って来たことの認知がどれだけ出来ているかにもよる。
 
 人間には馴染む力があるから余り心配しなくてもよい。

7.玄関に鍵をかけないで大丈夫か?

[答]外出の際には職員が1人1人
に付いて行く。行動や習慣を見極めておくから危ないことはない。自由に行動できると感じることの方が重要と思う。

8.私の母は100才近く年中怪我をしているが頭はしっかりしている。体が効かなくなり、次第に動けなくなって、「死にたい」などと口走るようになった。どうしたらよいか?

[答]その方は頭がクリアーなのだから、本人がどこに居たいかを問うことであろう。
 自分がどこで暮らしたいかを確かめて、希望するところに移すことである。
24時間看護する施設もあるが、病院は生活の場ではないから入院させると頭はドンドンボケてくる。そのことを念頭において施設かどこかを選ぶべきであろう。痴呆老人は存在しない。皆私達と同じで、たまたま記憶喪失で痴呆と云われるだけだ。普通の人と変わらない生活を続けさせよう。


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