旧制高校の遺産 平成19年3月 白線クラブ始末記 田村照一

 白線クラブは、平成元年に実業家横山氏の提唱により設立され、新大久保駅近くに常設サロン、麻雀室、会議室のある事務所を持ち、当初242名の会員で発足した。一時は法人会員を含め300人を超えたこともあったが、年を追って会員が高齢化するにつれ、平成19年現在、正会員77名、女性の準会員11名、通信フレンド83名の構成となり、財政的にこれ以上の存続は困難と判断し、19年3月末を以って閉鎖することになった。

 これまで行ってきた主な事業は旧制高校の寮歌を歌う会、その保存会、全国各地の銘酒持ち寄り賞味会、出身地のふるさと名物を味わう会、誕生会、月例懇話会、名画を見る会、俳句の会等である。

 寮歌を歌う会は会員にとって最も人気の高い集まりであった。全旧制高校で寮歌は2300もあるといわれており、日比谷公会堂で行われていた全国寮歌祭の開催が中止されてからも、各地方で寮歌愛好者の熱演が続いている。白線クラブでは、毎月数校を幹事校として、主としてその学校の寮歌を参加者全員で歌う「白線寮歌祭」、その歌を覚えるために自分の知っている寮歌を勝手に歌う「おんち会」、各地寮歌祭で歌われる代表寮歌以外にも数ある名寮歌を掘り起こし、歌い継ぎ、広めて行こうという保存活動「白線ムジカ」を毎月開催して、10年間で400曲をテープに吹込み、さらにその中から100曲を選んで2枚組CDにして、希望者に頒布している。

 その他の行事のうち麻雀会は、月例会、東西対抗、学校対抗、サンデー、長寿祝いなど色々の名目で催された。

 会員の経歴・人生体験をこのまま埋もれさせるのは惜しいという要望に応えて「月例懇話会」として始まった講演会は「旧制高校研究懇話会」「業界よもやま話」「紀行見聞記の会」「杜康の会・第2次大戦秘話」などに発展して200余のテーマで懇談が行われた。(別紙一覧表参照)。これが一般の講演会と異なる点は、講師の話題提供の後の会員の意見交歓にあったと思う。これは「懐かしの名画を観る会」においても同じで、参加者の映画にまつわる体験談が面白かった。高校時代、寮で夜を徹して哲学や文学を友と語り合った体験の賜と言えるだろう。
 
白線クラブの運営について

○白線クラブはボスの指揮下で運営される組織ではなく、会員が望む事業を自主的に相談できめて実施された。色々の行事も会員の願望から出発し、楽しいから集まるというやり方が好ましいものであった。

○運営は委員会組織で行われ、前月の収支検討、来月の行事内容の検討、行事ごとに参加人数の見通しと増員計画、講師や世話人との折衝などの諸活動をボランティアで行なった。講師も全く無報酬でお願いし,快くお引き受けいただいた。

○講演内容は、それぞれの講師の得意とする分野の体験談が多く、少人数で聞いて忘れ去られてしまうのには惜しいものだった。毎月発行される「白線便り」にその概要を報告することにしたが、次第にページ数が増え、原稿整理・印刷・配付などに担当委員が払った労力は膨大なものであった。

○食事と酒は非常に重要な要素であった。街の居酒屋の倍近い金を払って来て頂く為に、高齢者向けの味付けした料理、当番校の地元の銘酒・名産を準備するのに従業員も委員も世話人も努力した。

○「白線ムジカ」が10年間続き、活動成果として全20巻のテープと2枚のCDを残すことができたのは、選曲・楽譜整理・練習指導・録音手配・宣伝販売に献身的に活動した委員の努力には感謝の他は無い。

○発足当時は会員数が多く、年会費と寄付で賄えたが、次第に物故者や体調不良により会員数が減るに従って、行事参加費で収入を上げなければ家賃も人件費も払えなくなって来た。そこでいかに魅力ある行事を組むか、それをいかにPRして来場者を増やすか、幹事校の世話役に誰をお願いするか、が毎月の大きな課題であった。

○経費面では、人数が4分の1になったにもかかわらず大世帯当時と同じ家賃を払い同じ人数の従業員を抱えることの不合理をいかに解決するかが代表理事にとって頭の痛い問題であった。サービスを落とさずクラブを運営していくために家賃値下げの折衝を度々行ない協力いただいた。従業員も自主的に残業減の努力をしてくれた。

○それでも資金不足は如何ともしがたく、平成18年初めに会員に寄付を仰ぎ、これを閉鎖時に必要な費用に充てることとした。毎月の収支を睨みながら、従業員の退職金や什器備品の処理費が出せるかどうか、発つ鳥跡を濁さずを合言葉に、旧制高校クラブとして、関係者に迷惑を掛けること無く、軟直陸しようとするための最後の数ヶ月は高知空港に胴体着陸した機長の苦労さながらだった。始めるのも大変だったろうが撤退するのは膨大なエネルギーが必要だった。殿(しんがり)は先陣以上に難しい役である。

 20年間で溜まった機器・備品・什器・書籍・文献などは、出来るだけ希望者に引き取ってもらい、廃棄物を減らすように心掛けた。同窓会が解散した学校から預かった太鼓や年史など、文化財としても価値の高いものも多く、蒐集家にとっては垂涎のもので、引き取り手がなければ松本の旧制高校記念館に寄贈することを考えていたが、幸いにも殆どの品物が生かされることになった。お蔭で廃棄物処理費として計上していた予算は、宅配便費用以外には殆ど使わずに済んだのは幸いであった。

年表
1988年8月 旧制高校OB有志により設立。会員募集開始
         サロン、会議室、麻雀室からなる105坪のクラブルーム開設
         運営は(株)TWBに前面委託
     12月 242名入会 行事:白線寮歌祭、杜康の会、麻雀例会、囲碁の会
  91年9月 寮歌の混声合唱団「白線スコーレ」発足
  92年1月 運営母体の(株)TWB倒産に伴い、運営委員が(株)イスカを設立
  94年9月 70坪の新サロンに移転 ソファ12席、サロン40席、麻雀室8卓
  96年8月 全寮歌の発掘、保全、録音を目標に「白線ムジカ」発足
  98年4月 (株)イスカの経営悪化に伴い、会員の自主運営に切替
         会則変更。ボランティアの理事・監事・顧問・運営委員・事務局で運営
2001年4月 死亡・高齢化による会員減少をカバーするため、通信フレンド制度発足
  04年1月 正会員110名、準会員11名、通信フレンド69名
  07年3月 解散 正会員76名、準会員11名、通信フレンド83名


白線クラブ行事実績一覧(2000年〜2007年)

月例懇話会
0 1月 白線クラブの現況 牛見 山口
2月 平成不況と金融システム 小金 学習院
3月 今の警察「不祥事を中心に」 湯川 富山
4月 日本の大学の問題点 三宅 東京
5月 良い病院・悪い病院 田村 山口
6月 家庭菜園の楽しみ 吉田 府立
7月 ウィグル旅行記 大石 福岡
8月 ネパールへ行こう 筒井 新潟
9月 地震の話 茂木 山形
10月 前立腺がん克服記 田村 山口
11月 琵琶湖周航の歌作曲者を訪ねる 大川 浪速
12月 シベリヤ抑留秘話 吉村 旅順
1 1月 巨匠と女たち 大石 福岡
2月 ピカソを巡る女たち 大石 福岡
3月 地方寮歌祭へのお誘い
4月 泰緬鉄道の近況 永井 山口
5月 私の戦争体験 松野 松山
6月 私の戦争体験 奥山 武蔵
7月 私の戦争体験 桑原 山口
8月 私の外地勤務体験 藤原 大阪
9月 私の外地勤務体験 山田 府立
10月 外地生れ外地育ち 乙坂 北大予
11月 外地生れ外地育ち 大久保 四高
12月 学徒出陣 福田 山口
2 1月 戦後の港湾整理 大久保 四高
2月 私の戦中史 渡辺 六高
3月 高砂族物語 台大予
4月 小学校教育と教科書 浜谷 東京
5月 カプセルのはなし 岸保 浪速
6月 続・高砂族物語 台大予
7月 バイオのはなし 西村 松江
8月 NHK川口放送所占拠事件 玉田 府立
9月 秘境への旅 中村 新潟
10月 学徒勤労動員 中谷 山口
11月 葉隠れのユーモア 中村 佐賀
12月 そばを語る 君島 北大予
3 1月 今年の政局と経済危機を占う 小金 学習院
2月 「ホワイト・ウォー」執筆秘話 大久保 富山
3月 私の戦争体験 大谷木 山形
4月 日本人と稲 土屋 北大予
5月 医薬品業界の変遷 岸保 浪速
6月 先輩太宰治を語る 山田 弘前
7月 学徒出陣前後 浜谷 東京
8月 三味線音楽について(その2) 坂田 山口
9月 草加煎餅四方山話 渡辺 山形
10月 記者クラブの功罪 本多 一高
11月 復元「菱垣廻船」 小佐田 一高
12月 寮歌祭を巡る故人の想い出 市川 四高
4 1月 今年の政局と経済危機を占う 小金 学習院
2月 室内競技のいろいろ 君島 北大予
3月 都政を語る 中村 佐賀
4月 ソロモンの戦いに参加して 福山 東京
5月 続・平成の海を帆走した「菱垣廻船」 小佐田 一高
6月 地震の話(その2) 茂木 山形
7月 「羽檄はとんで」執筆裏話  大久保 富山
8月 三味線音楽について(その3)     坂田 山口
9月 現代絵画における抽象と具象    大石 福岡
10月 印刷今昔 田村 山口
11月 ゾル転学生の戦中、戦後 岩本 松本
12月 私の戦争体験  河波 福岡
5 1月 長期波動から見た日本経済の現状と将来  小金 学習院
2月 旧東京教育大の筑波移転の功罪を考える   長坂 府立
3月 わかり易い仏像の見方        中谷 山口
4月 ブーゲンビル島ブインの戦い   福山 東京
5月 1930〜50年代の西欧知識人の亡命問題とその帰結     板部 東京
6月 現代詩よもやま話 詩と自我の像  斉藤 城大予
7月 寮歌の影響を受けた歌の数々      南部 東大
8月 酒と寮歌と兵隊さん  高山 新潟
9月 旧制高校女子学生として一言    本吉 松山
10月 最近の中国経済事情 高瀬 富山
11月 日米取引におけるユダヤ系アメリカ人とその歴史      石坪 東京
12月 酒を紙で包む 液体紙容器開発苦心談 田村 山口
6 1月 身近な毒 山下 新潟
2月 今年の日本経済を占う 小金 学習院
3月 孤島に生れた進化の楽園ガラパゴス 吉川 富山
4月 ロシア革命とユダヤ革命の間 筒井 新潟
5月 日本近辺における最近の天然ガス開発の話題 堀田 富山
6月 珈琲産業の歴史 山田 府立
7月 お酒よもやま話 秋山 弘前
8月 寮歌作者のその後の音楽的活動 南部 東大
9月 水田が地球を救う 中川 五高
10月 歌と詩の間 堀江 早稲田
11月 寮歌から古典和歌へ 鈴木 新潟
12月 「心身統一法」食と呼吸と精神統一の人生   吉田 姫路
7 1月 これからの日本の課題                           小金 学習院
2月 富山から未来に伝えるラフカディオ・ハーンの心  吉川 富山
3月 間違いだらけの和船巷説 小佐田 一高

 旧制高校研究懇話会
0 1月 女子旧制高校生体験談
2月 戦前の学生運動と愛読書 松野 松山
3月 戦後の学生運動
4月 寮歌に纏わる話 服部 一高
5月 寮歌に纏わる話(続) 神津 山形
6月 運動部よもやま話
7月 運動部と文化部
8月 同窓会報編集者のはなし
9月 学徒出陣
10月 ゾル転

業界よもやま話
1 5月 マスコミ業界うらおもて 本多 一高
6月 レコード業界四方山話 多久 富山
7月 司法の世界うらおもて 井出 府立
8月 化学 プラスチックを中心に 浜谷 東京
9月 大学紛争とその後の大学 吉川 富山
10月 鉄鋼・金属業界 斉藤 山口
11月 医学の世界最近の話題 松江
12月 商社よもやま話 田路 浪速
2 1月 都政 土屋 北大予
2月 金融・証券業界 坂田 山口
3月 台湾のセメント業界 永山 台北
4月 ソ連・東欧における商社活動 吉村 旅順
5月 災禍の出納簿 本多 一高
6月 日本の農業 永井 山口
7月 FRP業界 吉田 姫路
8月 電機業界 多久 富山
9月 出版業界の歴史 田村 山口
10月 健康・食糧・環境のリンケージ 筒井 新潟
11月 政界裏話 新井 山形
12月 出版業界(戦後から現在まで) 田村 山口

新杜康の会
話題資料提供 筒井(新潟)
4 12月 開戦と真珠湾急襲
5 1月 ジャワ・バリ・スラバヤ・バタビヤ沖海戦
2月 マレー上陸作戦とマレー沖海戦
3月 シンガポール・香港・ウエーキ島・フィリッピン攻略戦
4月 サンゴ海海戦
5月 ミッドウエー海戦         
6月 ミッドウエー海戦(その2)
7月 ソロモン沖海戦と南太平洋海戦
8月 ソロモン沖海戦と南太平洋海戦(その2)
9月 ソロモン沖海戦と南太平洋海戦(その3)
10月 日本の軍指導部と現場
11月 米国指導者及び第一線指導者の選択
12月 総括
6 1月 大東亜共栄圏の大義と理念
2月 満州と民族協和
3月 チャンドラ・ボースの思想と行動
4月 ビルマ バー・モウ代表の出目と熱弁
5月 ワンワイタヤコーン殿下の言動とタイ国の外交的立場
6月 ホセ・ラウエルの発言と立場
7月 汪兆銘中華民国代表の思想言動
8月 スカルノの独立運動とそれに参加した日本兵
9月 朝鮮・台湾に於ける海外神社の失敗と統治方式の問題点
11月 大東亜会議に対する重光葵の発案と先見
12月 総括 アジアと日本 どうあるべきか
7 1月 アルジャジーラ
2月 アルジャジーラ  その2
3月 226回続いた「杜康の会」を回顧して

懐かしの名画を観る会
(2002年4月より3ヶ月に一度)
1 カサブランカ 43
2 暖流 S14
3 舞踏会の手帳 37
4 麦秋 S26
5 うたかたの恋 35
6 商船テナシティー 34
7 黒水仙 46
8 大いなる幻影 37
9 第三の男 49
10 モロッコ 31
11 巴里祭 32
12 また逢う日まで S25
13 望郷 37
14 会議は踊る 31
15 素晴らしき哉、人生 47
16 にがい米 48
17 禁じられた遊び 52
18 喜劇 駅前旅館 S33
19 巴里の屋根の下 30
20 狂乱のモンテカルロ 31
21 未完成交響楽 33


女性の会・紀行見聞の会
2 1月 世界遺産とは 吉川 富山
2月 ポルトガルの世界遺産めぐり 田村 山口
3月 チュニジアの世界遺産 斉藤 山口
4月 南米パタゴニアの世界遺産 吉川 富山
5月 雲崗・龍門の石窟と仏教伝来 中谷 山口
6月 モン・サン・ミッシェル 宮治 一高
7月 岡目八目ロマネスク 今村 府立
8月 アンコールワット 中川 五高
9月 ネパールの世界遺産 筒井 新潟
10月 東欧7カ国を訪ねて 斉藤 山口
11月 トルコの世界遺産 田村 山口
12月 肌で感じたロシア 吉村 旅順
3 1月 満蒙の旅 土屋 北大予
2月 プロヴァンス 今村 府立
3月 カムチャッカ 中村 新潟
4月 日本開国の先駆者となった漂流者 山内 山口
5月 マグレブ3国(チュニジア・モロッコ・アルジェリア) 吉村 旅順
6月 中国雲南省少数の民族 船越 城大予
7月 マールブルクとグリム兄弟 新田 山形
8月 世界のコーヒー紀行 山田 府立
9月 アジャンタ石窟とラダックの仏教美術 永井 山口
10月 世界のワインとビール 妹島 松江
11月 銀河の道をたどり行けば 今村 府立
12月 ケニア共和国サハリ行 吉川 富山
4 1月 ヴェルサイユ宮殿と庭園 宮治 一高
2月 ウイーン音楽散歩 田村 山口
3月 チベットの世界遺産 西村 松江
4月 カムチャツカ 中村 新潟
5月 屋久島 星野 新潟
6月 三国志紀行 中谷 山口
7月 風の盆 中村 新潟
8月 中国悠久の歴史 と自然を訪ねて 船越 城大予
9月 五箇山 吉川 富山
10月 インパール・コヒマ 永井 山口
11月 モロッコ 大石 福岡
12月 ナイルクルーズ 田村 山口
5 1月 最近の佐賀    中村 佐賀
2月 モンテ・ローザ半周  川村 山形
3月 私のふるさと「赤壁の家」 神津 山形
4月 小野田線 山口の合唱仲間たち      坂田 山口
5月 ザルツ・カンマーグート 新田 山形
6月 ダージリンとシッキム 筒井 新潟
7月 海外旅行ア・ラ・カルト  田路 浪速
8月 タイの蝶 木村 松江
9月 日朝関係史の「虚」と「実」   森田 山形
10月 東欧諸国よもやま話   吉村 旅順
11月 ウイグル自治区  大石 福岡
12月 西洋史から学ぶもの  板部 東京
6 1月 遅咲きの花 宇多田 山口
2月 烏山水庫ダムと台中湾を視察して 大久保 四高
3月 仏領マルケサス諸島 宮田 弘前
4月 大阪万博と商社のうらばなし 田路 浪速
5月 スイスの山旅 中村 新潟
6月 海外旅行中の入院体験 田村 山口
7月 エジプト・トルコ・イスラエル 船越 城大予
8月 イギリスのパブと白線クラブの類似 大久保 富山
9月 緑の子午線を求めて 今村 府立
10月 人生よもやま話 小笠原 学習院
11月 太宰治を語る 山田 弘前
12月 シルクロード3000キロ   中谷 山口
7 1月 ピースボート地球一周105日間の船旅  吉川 富山
2月 ダークグリーンの思い出 小笠原 学習院
3月 海外事情こぼればなし 田路 浪速

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