産業社会の過去と未来 平成25年1月 はじめに
小金芳弘


はじめに


 本書は、平成22年6月から24年4月にかけて、「小金芳弘のホームページ」http:/www.geocities.jp/ryuryuiso/index.htmlに同じ題名で連載してきたものを、大幅に書き直して1冊の本にまとめたものである。

 私がこれを書こうと思い立った動機を一言にして言えば、現在の経済学、特に理論経済学に対する不満である。経済現象は自然現象と異なり、「人間」が起こすものである。人間は、何時でも何処でも動物としての本能にもとづいて起こる欲求を満たそうとして行動するだけでなく、それぞれの社会における状況に応じて色々な欲求を抱き、それを満たそうとして行動する。

 経済的な活動はその一つであって、これまでの経済学はその一般的な法則を見出そうとして色々な仮説を立て、それにもとづいて各種の経済現象の因果関係を解明しようとしてきた。人間は所得や消費などの経済的便益をコストに対して最大にするような経済合理性にもとづいて行動する「経済人」であるとか、市場における取引の量と価格の変動は、参加者が需要と供給を一致させるように行動するために起こるとか、いうのがそれである。

 しかし、普通の人間にとってそのように極端に不自然な行動様式が実際の経済現象の基本になっていると考えること自体が元々無理なのである。それを前提として実際の経済現象を説明しようとすれば、どんなに理論としてはよくできているものも「机上の空論」になってしまうのは当然である。

 実際の社会においては、人間は経済状況だけでなく政治制度、文化、技術水準などの「経済外的」な要因によっても大きな影響を受け、それがその職場や家庭の中での行動を通じて経済状況を変化させ、それがまた経済外的な要因に影響を及ぼすという因果関係が存在する。従って、ある程度長期にわたって経済の動きを分析しようとすれば、問題の中心は、これらの諸現象の間に相互依存関係があることを前提とした上で、それが時代により地域によってどのように違うのか、その違いの原因は何なのか、等々を考えなければならない。

 これまでそのようなことをしようとした者は非常に少ないが、私がそれをしようとしたのは、これまで経済や社会の長期見通しとか長期展望というような仕事と何十年もの間つきあう内にその必要性を痛感するようになったためだが、同時に、そのことを通じて知り合った人たちの中に同じ問題意識を持つ人たちが何人もおり、彼らのこの問題に関する見識やビジョンに感銘を受けたからでもある。この試みは、彼らの意思を受け継いでそれを他の人たちに伝えようとするものでもある。



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