The Great Gatsbyにおける色の描写 〜Daisyと白〜


 「The Great Gatsby」は、バラエティー豊かで象徴的な登場人物や、豊富なテーマやモチーフが織り込まれた、読者の多様な解釈を可能としている作品であると思う。語り手であるNickひとつ取っても、Daisyへの思い、Gatsbyに対する評価、Nick自身のアイデンティティなど、様々な角度からの分析が出来る。象徴的になりすぎず、かつ具体的になりすぎない語り口が、読者の想像を膨らませる要因となっている。
 そのような象徴性と具体性のバランスを程よく表しているのが、本作品における色の描写である。
Nickが初めてBuchanan邸を訪れた時、DaisyとJordanが寝椅子に横たわっているが、この時に二人は真っ白な服を着ており、彼女たちの現実離れした雰囲気を表している。色彩の与えるイメージで、読者の想像力を喚起させているのである。
この作品において、特に白が重要な位置にあることは、「white」という単語の登場回数から推測できる。


「The Great Gatsby」内における、主要な色の単語の使用回数
white 46回
yellow 24回(twins in yellow5回、car9回)
blue 21
green 20回(green light5回)
gray 17
black 10
red 7
pink 6
(作中における使用回数、ただし固有名詞を除く)


 上の表から分かるように、「white」という単語の使用回数は、その他の色の単語に比べて抜きんでている。そこで、今回のレポートでは、本作品における「白」の意味についての考察を行ってみたいと思う。
 まず、どのような場面で、何に対して使われているかを表にしてみる。


「white」の形容対象と使用例
デイジー ビュキャナン邸 white palace
red-and-white Georgian Colonial mansion
The windows were ajar and gleaming white
デイジー She dressed in white, and had a little white roadster
her white roadster
her white car
Daisy's white face
high in a white palace
her white car
デイジーの娘 the small, white neck
ジョーダン ジョーダン Jordan's fingers, powdered
hite a white dress
デイジーとジョーダン デイジーとジョーダン They were both in white
Our white girlhood
their own white dresses
ギャッツビー ギャッツビー邸 the white steps(2回)
ギャッツビーの服 a white flannel suit
six pair of white duck trousers
パーティー cotton-white (Edgar Beaverの髪の色)
white knickerbockers
a white evening dress
すももの木 a white plum tree
the white plum tree
長官からのクリスマスカード 長官からのクリスマスカード a white card
ニューヨーク
アパート
街並み
遠景
in white heaps and sugar lumps
a long white cake of apartment-houses
the white chasm
in white heaps and sugar lumps
キャサリン 犬の足 its feet were startlingly white
キャサリンの顔の色 a complexion powdered milky white
Mckeeの上着 a white spot of lather on his cheekbone
トム his white shirt
ウィルスン ウィルスンの風貌 A white ashen dust
ニック ニックの服 white flannels
  列車の女性の服 her white shirtwaist
星条旗 星条旗 the red, white, and blue banners
月光 月光 white with moonlight
湾の船 湾の船 the white wings of the boat
白人 トムの発言
ニックの発言
トムの発言
ジョーダンの発言
the white race
a white chauffeur
between black and white
We're all white
漆喰
(hitewashed)
灰の谷
ウエストエッグ
a low whitewashed railroad fence
Whitewashed alleys


 これを見ると、まず目に付くのがDaisyに関する記述である。彼女の家や服装、車、顔色、声など、彼女を取り巻くさまざまなものが白で表現されている。
 冒頭にも挙げたように、NickのBuchanan邸来訪の場面におけるDaisyとJordanの描かれ方は非常に印象的である。開け放たれた窓から吹き込む風にカーテンがはためく中、まるで宙に浮かんでいるかのように見える二人が、白い衣装によって一層神秘的で不思議な存在のように印象づけられている。
 また、Gatsbyとの恋愛時代の回想場面では、Daisyは白い服に白い車、まさに白づくめである。この場面はJordanの視点で語られているが、彼女もDaisyと白とに強い結びつきを感じていたと考えられる。
 白は、その混じりけのなさから、純粋・純潔・無垢を象徴している。Daisyは金持ちの娘として何不自由ない暮らしを送り、年頃になれば多くの男性から求愛された。
 苦労を知らずに、文字通り純粋無垢に育ってきたDaisyは、感情あらわな赤でも、冷静沈鬱な青でも、陽気な黄色でも、陰のある黒でもなく、自分の色を持たない白なのである。彼女は周りの人間とは隔絶された世界で、何者にも侵されることなく、ふわふわと宙に浮かんでいる。彼女自身が個性を主張しないだけでなく、他者が彼女に自分を主張することもできないのである。
 そのようなDaisyの印象を受けて、Gatsbyに関する記述にも白が使われている。何より、Daisyとの再会の場面で、彼は白のフランネル・スーツを選んでいる。これはGatsbyにもDaisyに対する白のイメージがあったことの表れではないだろうか。
 Daisyとは関係ないが、Gatsbyが催すパーティーにも白が登場する。白いすももの木の下で愛を語る女優と監督は、夏の夜の喧騒の中に浮かんでは消えていくうたかたの熱情を思わせる存在である。また、Nickが思い浮かべたパーティーのイメージの中には、酔い潰れた白いドレスの女性が登場する。月明かりに冷たく照らされた彼女に顔はない。このように、パーティーで描かれる白は、純粋や無垢というよりも、虚無や冷ややかさを感じさせる。Daisyの持つ「白」を追い求めたGatsbyだが、彼が手にしたのはDaisyとは別物の「白」だったと言えるかも知れない。

"On the white steps an obscene word, scrawled by some boy with a piece of brick, stood out clearly in the moonlight, and I erased it, drawing my shoe raspingly along the stone."

 Gatsbyのいない家に残されたのは汚された白い石段であり、Daisyという夢に届かなかったGatsbyの空しい結末を象徴している。


(約3000字)




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