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「え―――――?」 それは、本当に。 「なに………!?」 魔法のように、現れた。 目映い光の中、それは、俺の背後から現れた。 思考が停止している。 現れたそれが、少女の姿をしている事しか判らない。 ぎいいいん、という音。 それは現れるなり、俺の胸を貫こうとした槍を打ち弾き、躊躇う事なく男へと踏み込んだ。 「―――本気か、七人目のサーヴァントだと……!?」 弾かれた槍を構える男と、手にした“何か”を一閃する少女。 二度火花が散った。 剛剣一閃。 現れた少女の一撃を受けて、たたらをふむ槍の男。 不利と悟ったのか、男は獣のような俊敏さで土蔵の外へ飛び出し――― 退避する男を体で威嚇しながら、それは静かに、こちらへ振り返った。 風の強い日だ。 雲が流れ、わずかな時間だけ月が出ていた。 土蔵に差し込む銀色の月光が、騎士の姿をした少女を照らしあげる。 「――――」 声が出ない。 突然の出来事に混乱していた訳でもない。 ただ、目前の少女の姿があまりにも綺麗すぎて、言葉を失った。 「――――――――」 少女は宝石のような瞳で、何の感情もなく俺を見据えた後。 「―――訊くが。てめえがオレのマスターかクソッタレ」 凛とした声で、そう言った。 「え……マス……ター……?」 問われた言葉を口にするだけ。 彼女が何を言っているのか、何者なのかも判らない。 今の自分に判る事と言えば――― この小さな、華奢な体をした少女も、外の男と同じ存在という事だけ。 「……………………」 少女は何も言わず、静かに俺を見つめてくる。 ―――その姿を、なんと言えばいいのか。 この状況、外ではあの男が隙あらば襲いかかってくる状況を忘れてしまうほど、目の前の相手は特別だった。 自分だけ時間が止まったかのよう。 先ほどまで体を占めていた死の恐怖はどこぞに消え、 今はただ、目前の少女だけが視界にある――― 「サーヴァント・ロッカー、喚ばれたから来てやったぞクソッタレ。 Fuckingマスター、指示を出せ」 二度目の声。 その、マスターという言葉と、ロッカーという響きを耳にした瞬間、 「――――っ」 左手に痛みが走った。 熱い、タバコを押しつけられたような、そんな痛み。 思わず左手の甲を押さえつける。 それが合図だったのか、少女は静かに、可憐な顔を頷かせた。 「―――今からオレの剣はてめえのもんで、てめえの運命 はオレのもんだ。 ――――これで契約完了だぜshit!」 * 一際強く、風が吹いた。 傘のような雲が空を覆う。 明かりのない郊外は一転して闇に閉ざされ。 そのサーヴァントは塀を飛び越え、魔鳥のように舞い降りてきた――― 「――――!」 アーチャーは反応していた。 けれど、わたしは反応できなかった。 それが失点。 一秒にも満たないその隙で戦いは終わった。 わたしにとっては一秒でも、 あのサーヴァントにとっては度し難い隙だったのだ。 踏み込んでくる剣風。 「え、アーチャー……?」 わたしを突き飛ばすアーチャーと、 アーチャーを叩き伏せるサーヴァント。 本当に一瞬。 ランサーの猛攻をあんなにも華麗に捌いていたアーチャーが、ものの一撃で倒されたのか――― 「―――アーチャー、消えて……!」 だが、今度は間に合った。 敵のサーヴァントが返す刃でアーチャーの首を薙ぎ払う瞬間、強制的にアーチャーを撤去させる。 じくん、と右腕に痛み。 あまりにも無茶な命令と行為だったからだろう、右腕にある令呪が一つ減ったのだ。 ……これで残る令呪は一つだけ。 けどこれが最善。 アーチャーに死なれるぐらいなら、令呪の一つや二つなくなっても―――― 「――――」 消失したアーチャーも意に介さず、サーヴァントは襲いかかってくる。 「――――舐めるな!」 ポケットから風呪を織り込んだトパーズを出し、 そのまま、なんの加工もせずに魔力をたたき付ける―――! 家の一軒や二軒は跡形もなく吹き飛ばすソレは、日頃から少しずつ蓄えた風の呪文の固まりだ。 十七年間一日も休まずに織り上げた十の宝石、その一つ。 それを使い切るんだから、倒せないまでも足止めぐらいには―――― 「―――このファッションパンクが!」 ……なら、なかった。 どうもこうもない。 巻き込んだ物を一瞬にして八つ裂きにする風の群れは、 あのサーヴァントが叫んだ途端、手品みたいに消滅した。 ――――なんていう強力な対魔力(ブルジョワジー)。 このサーヴァントには、魔術師程度の魔力じゃ傷一つつけられない……!? ―――あ、ダメだ。 魔術は通じず、アーチャーという守りを失ったわたしに、このサーヴァントを止める事はできない。 辛うじて一撃を躱したものの、それでおしまい。 夜空を見上げる。 そこには、無様に倒れこんだわたしに手を下す、冷徹な死神の姿が―――― 「――――な」 風が吹く。 曇天の切れ間、螺旋の空に月が覗く。 降りそそぐ月光と、あまりにも可憐な顔立ち。 それがランサーを逃げ帰らせ、 わたしのアーチャーを一撃で倒し、 こともなげに魔術を無効化した、サーヴァントの姿だった。 「今の魔術はなかなかだったぜ、ファッションパンクの割にはな」 鈴のような少女の声。 ああ、今はその声ですら悪夢のよう。 当然だろう。 この相手が美しければ美しいほど、その驚異的な実力との差が、認められない悪夢となるのだから。 「だが終わりだぜ、クソッタレアーチャーのFuckingマスター」 突きつけられた剣が煌めく。 ――――その死の間際で理解した。 確証もなく一目で判った。 これが私の欲しがっていたカード、 サーヴァント中最強と言われるロックの英雄。 * 「どうやら余興はここまでのようね、ロッカー」 くすり、という笑い声。 ライダーは天馬の首筋に両手をあて、一際大きく、その翼を羽撃かせる。 「私の宝具は強力故、地上で使うには適していない。 使えばどうしても人目につく。まだ他にマスターがいる以上、おいそれと使う訳にはいかなかった。 けれど、ここでなら覗き見される恐れはない。 貴女をここに誘いこんだのは、ここでなら都合がいいからと分かりましたか?」 ライダーの手に、今まで足りなかったモノが形成されていく。 それは本当にちっぽけな、どうという事のない、黄金に輝く縄。 「―――それがてめえの宝具かよ、Fuckingライダー」 「ええ、私の趣味ではありませんが。 この仔は優しすぎて戦いには向いていない。だからこんな物でも使わないと、その気になってくれないのよ」 天馬の首が下がる。 天馬の意思ではなく、ライダーの意思によって猛る獣性。 「―――消えなさいロッカー。 たとえ貴女が生き延びようと、貴女のマスターは私からは逃げられない。 マスターさえ死ねば、頑丈な貴女もそれまででしょう?」 ―――それは絶対の真実だ。 ライダーの宝具は、確実にこの屋上を吹き飛ばす。 急げば士郎を抱えて屋上からは逃げられるだろうが、ライダーの一撃は屋上を破壊するだけにはとどまるまい。 倒壊する建物の中で生き延びられるほど、彼女のマスターは強くはないのだ。 故に、彼女が主を守る為には。 あの敵を、その天馬ごと叩き伏せるしかない。 「――――――――」 それが正しいのか、彼女には考える時間などなかった。 もう一度だけ、遠く離れた主に視線を送る。 彼は彼の役割をこなそうと、懸命に歯を食いしばっていた。 「――――酒よ」 それで迷いは消えた。 先の事など忘れた。 今はただ、胸を満たす衝動のまま、この怒りを晴らすのみ。 「やれライダー! まずはその女だ、手足一本残すなよ……!」 耳障りな声が聞こえてくる。 同時に、天馬はなお上空へと舞い上がる。 一瞬で視界から消失する。 遙か上空まで舞い上がった天馬は、既に原形を留めてはいなかった。 月を射抜けとばかりに上昇したソレは、そのまま弧を描いて地上へと翼を返す。 舞い降りてくる彗星。 光の矢となりながら、なおライダーは天馬を奔らせる。 狙うは一つ。 あの天空に孤立した庭園ごと、己が敵を殲滅する――――! 「騎英の(ベルレ)――――」 名が紡がれる。 宝具とは、真実の名を以って放たれる奇蹟を封じたものであり、 奇蹟とは、この世界では起こるはずのない異変であるというのなら――― 「――――手綱(フォーン)…………!!!!!」 それはまさしく、神なる雷そのものだった。 閃く落雷。 見据える彼女の目には、もはや何の感情もない。 「―――この場所なら人目につかないとか言ってやがったな、クソッタレ」 酒気が解かれていく。 彼女を中心に巻き起こる酒精は、疾く嵐へと化けていく。 「まったくだぜ。ここなら周りが焼けちまう心配もねえ―――!」 封が解かれる。 幾重もの酒精を払い。 彼女の得物は、その姿を現した。 ―――嵐が、目の前で巻き起こっていた。 落下してくる白い光。 その標的にされながらもロッカーは動かない。 「ロッ、カー――――?」 吹き荒れる酒気は、彼女から発していた。 いや、ロッカーからではなく、彼女が持つ得物からだ。 「――――え?」 我が目を疑う。 視えない筈のその姿が、確かに見える。 少しずつ、包帯を解いていくかのように、彼女の得物が現れ始める―――― 「フェンダーの――――ベース?」 吹き荒ぶ酒気。 箱を開けるかのように展開していく幾重もの封印。 風の帯は大気に溶け。 露わになった得物を構え、彼女は舞い落ちる天馬へと向き直る。 光の奔流となったライダーが迫る。 屋上を包み込むほどに成長した“騎英の手綱”は、俺たちはおろかビルそのものを破壊しようと速度を増す。 “騎英の手綱”の白光が屋上を照らし上げる。 「――――――――」 ……時間が止まる。 逃れられない破滅を前にして、思考が停止する。 だが、それは。 決して、“騎英の手綱”による物ではなかった。 収束する闇。 その純度は、巨大なだけのライダーの騎影とは比べるべくもない。 彼女の手にあるモノは。 パンクの粋を極めた、最強のベースである。 「――――“勝手に(ネバーマインド) しやがれ(ザボロックス)”――――!!!」 ―――それは、文字通り闇の線だった。 触れる物を例外なく切断する闇の刃。 ライダーを一刀のもとに両断し、夜空を翔け、雲を断ち切って消えていく。 ……おそらく。 アレが地上で使われたのなら、街には永遠に消えない大断層が残っただろう。 彼女の剣は“視えない”のではない。 あれは単に“視せない”だけだったのだ。 見る者の心さえ奪うフェンダーのベース、あまりにも有名すぎるその真名。 ――――“勝手にしやがれ(ネバーマインドザボロックス)”。 イングランドにかつて存在したとされ、パンクの代名詞として知れ渡るシドのベース。 幾重もの酒精に封印された、サーヴァント中最強の宝具。 それがロッカーの持つ、英雄の証だった。 * 「―――やっと気付いた。シロウは、オレのナンシーだったんだな」 ……そう、深く染みいるような声で、彼女は言った。 ◆ [ステータス情報が更新されました] 【CLASS】ロッカー 【マスター】衛宮 士郎 【真名】シド・ヴィシャス 【性別】女性 【身長】172cm 【体重】54kg 【属性】混沌・中庸 【ステータス】筋力:C 魔力:B 耐久:D 幸運:E 敏捷:B 宝具:A 【クラス別能力】 対魔力:A アンチブルジョワジー。 C以上の魔術は全てキャンセル。 事実上、資産階級の魔術師ではロッカーに傷をつけられない 大麻力:B 麻薬の才能。 大抵の薬物なら人並み以上に溺れられるが、 粉薬・舌下系の薬は飲み下せない。 【保有スキル】 反感:A 常時、つねに自身にとって怒るべき対象を"感じ取る"能力。 研ぎ澄まされた憤激はもはや偏執狂に近い。 視覚・聴覚に干渉する妨害を無視する。 酒精放出:A 武器、ないし自身の肉体に酒精を帯びさせ、 瞬間的に酩酊する事によって能力を向上させる。 言ってしまえば、アルコールによる猪突猛進。 ロッカーは肝臓はもとより、 脳や喉にも酒精を働かせている。 少女の身でバーサーカーと打ち合えるのは 彼女の過剰な泥酔故なのである。 強力な加護のない通常の人物では 蟒蛇とも称された彼女の酒量に耐えられず、 一息の下に酔い潰されるだろう。 カリスマ:E ベースで打撃できる天性の才能。 団体演奏において、バンドの人気を向上させる。 売り上げこそあがるものの、 メンバーの士気は極度に減少する。 【宝具】 酒精結界(アルコーリズム・エア):C 不可視のベース。 敵に演奏技術を把握させない、 シンプルではあるが生演奏において絶大な効果を発揮する。 強力な酒精濃度によって守護された宝具で、 ベースなんて持っていないという訳ではない。 アルコールを纏った本体は 相手の認識力を低下させ、 元から有るベースの形状を不可視にしている。 勝手にしやがれ(ネバーマインド・ザ・ボロックス):A++ 約束された放送禁止。 人造によるベースではなく、 星に爪弾かれた神弦楽器。 ベースというカテゴリーの中では 頂点に立つ宝具である。 所有者の酒量を"闇"に変換し、 収束・加速させる事により音量を増大させ、 神霊レベルの破壊行使を可能とするベース。 全て遠き慕情の果て(ナンシー):EX シド・ヴィシャスの恋人。 失われた三つ目の宝具。 ナンシー・スパンゲンはアインツベルンによって その墓を掘り起こされ、 時代を超えてシドの胸に戻された。 パンクロッカーの伝説において、 シドの真の能力は この人物による"不死の力"とされている。 所有者の傷を癒し ライブでの自傷パフォーマンスをも可能にさせるが、 実際は個人を対象とした "引きこもり要塞"と呼べるもの。 二人の世界を展開し、 自身らをバカップルの境地に置くことで あらゆる物理干渉をシャットアウトする。 魔法の一つ、 平行世界からの干渉でさえ防ぎきる。 |