| ※下記記事文中、東急不動産がまたもや「…階数を低くしたり…住民の声も反映させている」といったコメントをしていますが、この“階数を低く”というのは「11階のごく一部を無くして、その部分だけ10階にした(全体的には相変わらず11階建てのまま)」であり、棟と棟の間隔拡張についても、ほんの枝葉末節な変更でしかない点にご注意ください。 |
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(記事全文) 全国でトラブル続出!いつまで続く“住民軽視” 「それ」が、現代人にとって必須の「住」の形態であることは論をまたない。かく言う筆者も「それ」の住民(ただし賃貸4階建て)である。しかし、住み慣れた、あるいはやっと手に入れたマイホームの隣に、空の半ばを隠すほどの巨大な「それ」がやって来るとしたら………呆然と立ちつくすのは明日のあなたかもしれないのだ。 異様な光景だった。 ここは川崎市宮前区の鷺沼4丁目。1年半前、東急不動産など3社が約2万7,000平方メートルの私立学校跡地に11階建て(高さ31メートル)539戸の大型マンションを造る計画を打ち出したことから、周辺住民が反対運動に立ち上がったのだ。 「鷺沼地域の住環境を守る会」(約100世帯)の代表が言う。 さらに景観の破壊や、高層建築物特有の風害をも懸念する住民たちは、約7,000人から署名を集めたほか、市議会への請願や路上での抗議活動などを繰り広げてきた。最終的には階数を5階程度に減らすなど、抜本的な計画変更を求める構えだ。 ところが業者側には応じる気配はない。 前出の住民代表は「(業者は)例えば学校の教室不足についても『行政が対応すべきこと』と逃げるなど無責任。とことん闘います」と憤りをあらわにする。 マンションの建設ラッシュが続く。昨年1年間に全国で16万9,790戸が発売され、その半数を占めた首都圏では、今年も8万6,500戸が売り出される。これは史上4番目の高水準で、20階以上の「超高層」や1棟300戸以上の大型物件が集中しているのが原因だ(不動産経済研究所調べ)。 その一方で、マンション建設をめぐる住民と業者の争いは絶えない。例えば東京都内の自治体に寄せられる建築関係のもめ事は年間約1,000件。市民グループ「建設・都市問題市民協議会」の事務局長は「議会に請願が出されたり、『環境を守る会』などが結成されるなどの本格的な紛争は全国で年間600件から800件にのぼり、影響を受ける住宅は最大で20万戸を超えるだろう」と言う。紛争にさえいたらず、泣き寝入りを強いられるケースも少なくない。割り切れないものを感じつつも、「建築基準法に適合しているのだから問題はない。自治体の建築確認も得ている」という業者の言い分を覆すのは、一般の市民にとって容易ではない。 ならば、実際に「成果」をあげている地域の人々はどう闘っているのか。 「地道な学習と団結」で渡り合う。 「なんだこれは!」 不安を募らせた住民たちは階数を大幅に減らすよう申し入れたが、業者は「それでは利益が出ない」と高層にこだわり、1人あたり数十万円の“補償金”を提示するなど本格的な懐柔策に乗り出してきた。 そんなある日、関連法を勉強していた住民たちは重大な“発見”をする。建築予定地は市街化調整区域であり、法改正で2001年5月までに着工しなければ高層マンションの建設は不可能になるのだ。業者が焦る理由も、これで分かった。 タイムリミットが迫り、「着工」の既成事実をつくるため工事車両を現場に入れようとする業者に対し、住民側はゼッケン、ハチマキ姿で抵抗。特殊車両の通行に必要な役所への届け出をしていないなどの“違法行為”も指摘し、ついに未着工のまま「時間切れ」に持ち込んだ。その後、土地は転売され、今は一戸建ての住宅地となっている。 「地道な学習と住民の団結がなかったら、業者とは渡り合えませんでした…」。運動の中心となった男性医師はそう振り返る。 昔ながらの下町情緒を残す東京都江東区東砂4丁目でも、住民とデベロッパーの対立が続いている。 3年前、地元の末広通り商店街に面する工場跡地に9階建て(60戸)のマンション計画が持ち上がった。周辺は狭い道路が入り組み、小さな商店や住宅が密集した地域。近くには幼稚園もある。特に予定地の北側にずらりと並ぶ一戸建て住宅が長時間、日陰になってしまうのは避けられない。 業者側は、当初から住民を名指しで工事妨害禁止の仮処分を裁判所に申し立てるなど強硬姿勢だった。これに対し住民側は、工事による地割れの実態を調べたり、砒素で汚染された土壌の処理方法が裁判所に提出された書類と違うことを突き止めるなど「合法」一点張りの相手の“弱点”を粘り強く暴いていった。この闘いは今も続いているが、建設は基礎工事の半ばでストップしたままだ。 「孫の代までこの住環境を守りたいとの一心でやってきた。補償金をもらうためだけの闘いなら、ここまで続かなかったでしょう」。「被害者の会」代表は言う。 業者側にも取材を申し込んだが「ノーコメント」。 「建築基準法をクリアしているといっても『建物自体は図面上、問題がない』というだけで、それを建てることで発生する被害が受忍限度を超えれば違法とされるというのが学説だし、工事が始まると違法行為が次々に見つかったということも少なくありません」。前出の「建設・都市問題市民協議会」事務局長はそう指摘する。 98年には神奈川県逗子市で、住民側が求めたダンプカーのテスト走行で、細い道を対向車とすれ違えず大渋滞が発生し、その翌週に業者が「建設計画撤回」を表明したこともある。 国立では「景観権」認めた判決も。 とはいえ、やはり法の「壁」は、住民側にとって高く厚い。マンション紛争事件をいくつも手がけてきた埼玉中央法律事務所の弁護士が語る。 その補償額は1時間につき10万〜30万円が相場とされ、総額でも数十万円。これに対し、住宅の資産価値の下落幅は数百万円から数千万円に及ぶという。 だが例外がある。 「日陰が小学校の校庭・校舎や保育園にもおよぶ場合には、裁判所が上層階の建築を差し止めるケースもあります。教育環境の悪化は金銭では補償できないとの理由です」(前出弁護士) 最近では、マンション建設に反対する住民が〈購入者にも損害賠償を求める〉という看板や垂れ幕を現地に掲げるケースも増えている。今回取材した川崎市や江東区でもそうだった。 「営業妨害で訴えられるのでは?」と心配する住民も少なくないだろうが、これについてはすでに判例がある。都内の建設会社が埼玉県桶川市に14階建てマンションの建設を計画し、営業妨害を理由に看板の撤去を求めた仮処分申請に対し、浦和地裁(当時)は99年、
「現状では、業者を、階数を減らす交渉の場へ引き出す最も有効な手段の一つ」と前出弁護士は言う。 それでも住民の要求をはねつけ、巨大マンションを完成させてしまえば業者の「勝ち」なのか。その疑問に明確に「ノー」を突きつけたのが、言うまでもなく昨年12月、東京都国立市の大学通り沿いの14階建てマンションをめぐり周辺住民の「景観権」を認め、業者に7階以上の「撤去」を命じた東京地裁判決だ。原告団の代表は「戦後、大学通りを文教都市のシンボルと位置づけ、高層マンション建設を阻止したり、高さ制限のない用途地域への変更を撤回させるなど、住民としての権利を自ら縛ってまで環境を守ったことが評価された」と語る。 初めて住民に景観権を認めた画期的な判決でもあったが、マンション業界では「あくまで特異なケース」とする声が強い。他の紛争への影響を警戒するムードが色濃いのだ。 国立の反対運動を支える一人は この紛争も、被告の明和地所が判決を不服として控訴したほか、明和が市を訴えた裁判なども継続中で、今後は予断を許さない。 住民の街づくり参加が「抜本策」。 それでも国立の場合には市当局が条例制定などで住民をバックアップしてきた経緯があるが、各地の反対運動の経験者からは「行政は頼りにならない」という不満ばかり聞こえてくる。 その他にも運動の基本として、前出弁護士は
………などを挙げる。 では、そもそも業者の進出に歯止めをかける方法はないのか。 「ある地域の住民が独自に建物の高さや用途を制限するには、住民同士が『建築協定』を結んだり、都市計画法に基づく『地区計画』の指定を受けるなどの方法があります。いずれも簡単ではありませんが、自衛手段としては有効です」 「欧米では、都市計画づくりの初期段階から住民が参加しているうえ、街並みを乱す建物はつくるべきではないという“常識”があるので、マンション紛争などはほとんど起きていない。日本もそうした社会を目指さなければ、紛争は永久に繰り返されるでしょう」 周辺住民を不安に陥れる巨大マンションが「快適な空間」や「美しい眺望」をうたい文句に売りさばかれる社会は、やっぱりヘンではないだろうか。 (本誌・平野幸治) |
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