伊沢修二編『小学唱歌』全六巻

(大日本図書株式会社,[1892], 1893)

その 1  第一巻 〜 第二巻

その 2 巻之三〜巻之六 については  こちら へ.


伊沢修二 (1851 − 1917)
『創立六十年』(1931)より

伊沢修二は近代教育には唱歌教育が必須であることを提唱し,音楽取調掛を立ち上げ,西洋音楽による日本初の教科書『小学 唱歌集』を作った. しかし辻文部---との意見の対立から非職となると,自らの理想とする教科書,忠・孝の徳目を中心とした,この『小学唱歌』を作成した.
歌詞の狙い,また楽典的な内容や教授上の注意を書き込んだ.啓蒙的な教科書である.
楽譜資料は, 江崎公子 編『音楽基礎研究文献集』第十七巻(大空社,1991 年 2 月)  によった.


    緒言

一、本書の主旨は、小学生徒に、唱歌を授け、以て智徳の養成
  と、身体の発育とに資せんとするにあり。
一、本書は、通編六巻より成り、第一巻は、主として初学生徒
  の口授唱歌に便し、第二巻以下は、数字及譜表によりて
、   唱歌を教授するの用に供す。而して第一巻、第二巻は、尋
  常小学に適用し、第三巻第四巻は、高等小学女生徒に第
  五巻第六巻は、高等小学男生徒に適用すべき歌曲を採
  れり。
一、本書第二巻以下には、音程練習、及発音練習の科を設け
  たり。是を生徒の聴覚と、発生器とを練習し、以て美音を
  好み、正音を発するに馴到せしめんが為なり。
一、本書の歌詞は、本邦固有の童謡を始めとして、新古に拘
  らず、智徳の養成に益し、且ツ歌調の興味あるものを撰び、
  又祝日大祭日に用ふべき歌をも編入し、特に教育に関
  する勅語の旨意を貫徹せしめんことに、一層の用意を
  加へたり。
一、本書の楽曲は、広く東西古今の音楽家の作曲を採り、其
  旋法は、自然長音階、律旋法、及俗楽調第一種に依るもの
  多し。而して第一巻は、全く本邦人の作曲のみに限り、漸
  次、泰西諸家の作曲を交ふるものとす。
一、本書中、間々別欄を設け、教授上注意すべき事項を附記
  せり。是を教員参考の一助に供せんがためなり。
一、本書歌詞の撰定に就ては、福羽、高崎二大人を始め、諸大
  家の賛同を得、又楽曲の撰定に就ては、東京音楽学校教
  員、及卒業生諸氏、雅楽部、其他内外音楽家の助成を得た
  るは、著者の、深く感謝を表する所なり。

    明治二十五年三月      著 者 識


目次

小学唱歌 第一巻
1893 年 8 月 27 日 再版 発行
一 ゑのころ  (作曲 伊沢修二 童謡 仝人改作)
二 からす    (作曲 伊沢修二 童謡 仝人改作)
三 かり     (作曲 伊沢修二 童謡 仝人改作)
四 あり     (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
五 まなべ    (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
六 あふきみよ (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
七 小隊     (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
八 君が代    (作曲 林 広守 作歌 未詳)
九 一月一日  (作曲 小山作之助 作歌 稲垣千頴)
十  子供々々 (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
十一 紀元節  (作曲 伊沢修二 作歌 高崎正風)
十二 花さく春  (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
十三 天長節  (作曲 伊沢修二 作歌 仝人)
十四 がくもん  (作曲 小山作之助 作歌 山田美妙斎)
十五 宮さん   (作曲 未詳 作歌 尊攘堂主人)
十六 手鞠歌  (作曲 未詳 作歌 鶯花園主人)
十七 数へうた (作曲 未詳 作歌 伊沢修二)


小学唱歌 第二巻
1893 年 8 月 27 日 再版 発行
一 神楽あそび
二 蹴鞠
三 ゑのころ ->@
四 あり ->@
五 天長節 ->@
六 あふぎ見よ ->@
七 皇御国    (作曲 伊沢修二 作歌 加藤司書・
                        加部厳夫)
八 紀元節 ->@
九 春秋季皇靈祭(作曲者未詳 作歌 阪 正臣)
十 武夫     (作曲者未詳 作歌 阪 正臣)
十一 雀鴉    (作曲者未詳 作歌 小田深蔵)
十二 都の花   (作曲 納所辨次郎 作歌者 未詳)
十三 にはとり  (作曲者未詳 作歌 服部元彦)
十四 狛の渡   (作曲 小山作之助 作歌者未詳)
十五 春の野遊  (作曲者未詳 作歌 阿保暫庵)
十六 君国 $   (作曲者未詳 作歌 服部元彦)
十七 玉      (作曲 小山作之助 作歌 東久世 伯)
十八 まなべ ->@
十九 忍耐     (作曲者未詳 作歌 阪 正臣)
二十 友愛     (作曲者未詳 作歌 谷  勤 )
二十一 春景 $  (作曲作歌者未詳)
二十二 孝子    (作曲 ブリス氏 作歌者未詳)
二十三 大和の御民 (作曲者未詳 作歌 阿保暫庵)
二十四 母       (作曲 シルヘル氏 作歌 阪 正臣)
二十五 君が代 ->@
二十六 神武天皇祭 (作曲 芝 葛鎮 作歌 阪 正臣)
二十七 新嘗祭    (作曲 林 廣継 作歌 加部巌夫)
二十八 恭儉博愛   (作曲者未詳 作歌 伊沢修二)
二十九 修学習業 $ (作曲者未詳 作歌 伊沢修二)
三十   啓智成徳 $ (作曲者未詳 作歌 伊沢修二)
三十一 元始祭    (作曲 山井基萬 作歌 芙  蓉)
三十二 孝明天皇祭 (作曲 多 忠廉 作歌 加部巌夫)
三十三 神嘗祭    (作曲 東儀季芳 作歌 加部巌夫)
三十四 うさぎ     (作曲作歌者未詳)
三十五 小鼠      (作曲作歌者未詳)
三十六 養老の滝   (作曲者未詳 作歌 足代弘訓)
三十七 高い山     (作曲作歌者未詳)
三十八 水鳥      (作曲作歌者未詳)
三十九 教育数へ歌 (作曲作歌者未詳)
四十  一月一日 ->@
四十一 学の園     (作曲 酒井良忠 作歌 戸野周次郎)
四十二 勧学       (作曲 内田粂太郎 作歌 谷  勤)
四十三 治まる御代  (作曲者未詳 作歌 東宮鉄麿)
四十四 卒業式歌   (作曲 山田源一郎 作歌 山田美妙斎)


->@: 第一巻を参照の意.
$:数字譜.歌詞・楽譜を省略した.

『小学唱歌』その 2 へ

小学唱歌 第一巻

(1893 年 8 月 27 日 再版 発行)

@一  ゑのころ  (童謡 伊沢修二 改作  伊沢修二 作曲)
  ゑのころ
   こいこい
  ままくは せう




@二  からす   (童謡 伊沢修二 改作  伊沢修二 作曲)
  からすからす
     かんざぶらう
  おやのおんをば
     わするなよ




@三  かり   (童謡 伊沢修二 改作  伊沢修二 作曲)
  かりかりわたれ
   おほきなかりは
      さきに ちひさな
       かりは あとに
      なかよくわたれ




@四  あり   (伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
  ありをみよ やよこども
    とものためには
        いのちをも
    をしまで はたらく
        けなげなさ
  ありをみよ やよこども




@五  まなべ   (伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
  まなべや まなべ
      みことのまゝに
  ならへや ならへ
      たゆまず うまず
  まなびのわざを
      はやとく をへて
  あそべや あそべ
      はなさく そのに

[注] 皇室に忠,父母に孝,兄弟に友,朋友に信の精神を強調した歌詞.




@六  あふぎみよ   (伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
一 あふぎみよ
   ふじのたかねの いやたかく
    ひいづるくにの そのすがた
二 みよやひと
   あさひににほふ さくらにぞ
    やまとごゝろは あらはるゝ

[注] 律旋法.




@七 小隊   (伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
一 小隊右向け 一二三
  せうたい進めや 一二三
  小隊とまれや 一二三
  がうれい守れや よき兵士
二 小隊なほれや 一二三
  きゃうだう左へ 一二三
  せうたい休めや 一二三
  ゆだんするなよ よき兵士




@八 君が代   (古今和歌集 作詞  奥 好義 (よしいさ) 作曲)
  きみがよは
    ちよにやちよに
       さゞれいしの
    いはほとなりて
     こけのむす まで

[注] 律旋法壱越調.
初出は『保育唱歌』第十九 君が代(1873 年 10 月頃),次いで『中等唱歌集』
第一番(1889 年 12 月)として採用された.作曲の経緯に関しては『保育唱歌』
君が代撰譜の事情 を参照されたい.



奥好義 (1858 (安政5年9月) - 1933. 3)


@九 一月一日    (稲垣千頴 作詞  小山作之助 作曲)
一 年たつけふの大空に ひかりかゞやく日のみかげ
  あふがぬ民はなかりけり わが君ちよに万世(よろづよ)に
二 とし立つ今日のいへごとに いはひたてたる日のみはた
  なびかぬ国はなかりけり 我国千世によろづよに
三 年たつけふのよろこびに つどふまなびのいへのうち
  われらはともに祝ふなり わが師は千世に万世に
四 とし立つ今日のよろこびに 集ふ学びのいへのうち
  我等はともにいはふなり わが友ちよによろづよに

[注] 『祝日大祭日唱歌』(1893 (明治26)年8月 制定)の同名曲
第三番(千家(せんげ)尊福(たかとみ)作詞,上 真行 作曲)と異なる.



小山作之助 (1864 (文久3年12月) - 1927.6)


@十  子供子供     ( 伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
一 こどもこども つとめよこども
     エン、ヤラホ、ホ、ホ、エンヤラホ、ホ、ホ、
    くるまはさかをも のぼるなり
二 こひよこひよ はやせのこひよ
     ジヨ、ボラ、ジヨン、ジヨン、ジヨ、ボラ、ジヨン、ジヨン
    たきをもつひにはのぼれよや




@十一 紀元節     (高崎正風 作詞  伊沢修二 作曲)
一 雲にそびゆる 高ちほの 高ねおろしに 草も木も
  なびきふしけん 大御世(おほみよ)を 仰ぐけふこそ 楽しけれ
二 うなばらなせる はにやすの 池のおもより なおひろき
  めぐみの波に あみし世を 仰ぐけふこそ たのしけれ
三 天つひつぎ(日嗣)の高みくら 千世よろづ世に 動きなき
  もとゐ定めし そのかみを 仰ぐ今日こそ たのしけれ
四 空にかゞやく 日(ひ)の本(もと)の 万(よろず)の国に たぐいなき
  国のみはしら たてし世を 仰ぐけふこそ 楽しけれ

[注] 紀元節は神武天皇即位の日(2 月 11 日)を祝う儀式.
『中等唱歌集』第二番(1889 年),『祝日大祭日唱歌』第五番
(1893 年 8 月)に採用されている.




@十二 花さく春     (伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
  花咲く春の あけぼのを
   はやとくおきて 見よかしと
  なく鶯も こゝろして
   人の夢をぞ さましける
  ホーホケキヤウ ホーホケキヤウ
   ケキヨ ケキヨ ケキヨ ケキヨ ホーホケキヤウ
  ホーホケキヤウ ホーホケキヤウ
   ケキヨ ケキヨ ケキヨ ケキヨ ホーホケキヤウ




@十三 天長節      (伊沢修二 作詞  伊沢修二 作曲)
一 けふは十一月三日の朝よ 朝日にかゞやく 日のまるの
  こくきはかどなみ ヒーラヒラ 国旗は門なみ ヒーラヒラ
二 今は十一月三日のひるよ をかでも海でも いさましく
  うち出す祝砲 ドンドンドン 打出すしゆく砲 ドンドンドン
三 我等子供は 一所につどひ 小学校[幼稚園]にて うたひませう
  うたへやはやせや ヨイヨイヨイ 歌へやはやせや ヨイヨイヨイ
四 今日の祝は どういふいはひ 帝のお生まれ あそばした
  その日のいはひぞ ヤヨヤヨヤ 天長節ぞ ヤヨヤヨヤ
   (第三ノ第二句ハ小学ニテハ小学校、幼稚園ニテハ幼稚園ト唱フベシ)

[注] 天長節は天皇の誕生日.
『祝日大祭日唱歌』第七番(1893 年 8 月)に採用されている.




@十四 がくもん   (山田美妙斎 作詞  小山作之助 作曲)
一 がくもんしなけりや 人にはなれず
   おもへばしあわせ かうしてひゞに
    しよもつをかゝへて がくかうがよひ
                このきみがみよ
二 すぐれた人にも なれやとばかり
   おもへばうれしや かうしてひゞに
    やさしく手をとり をしへてたまふ
               このけうし(教師)さま
三 あそびのみちづれ べんきよのあひて
   おもへばたのもし かうしてひゞに
    たがひにたすけて なかよくすゝむ
               このおともだち




@十五 宮さん    (品川弥二郎 作詞  大村益次郎 作曲)
一 みやさん みやさん 御馬(おんま)の前で
   チラチラするのは なんヂヤイナ
     トコトン、ヤレ、トンヤレナ
二 あれは朝てき せいばつせよとの
   にしきの御旗ヂヤ しらないか
     トコトン、ヤレ、トンヤレナ

[注] 作詞者の尊攘堂主人は品川弥二郎.




@十六 手鞠歌      (福羽美静 作詞  作曲者 未詳)
一つ 人々 礼義が大事
二つ 深いは 親子の道理
三つ みなさん 辛抱が大事
四つ よの中 ひらけて繁昌
五つ いつでも 養生が大事
六つ むら里 次第に繁昌
七つ なにより かせぐが道理
八つ 山にも 艸木が繁昌
九つ 子ども衆は 学校が大事
十ヲデ とよ年 五穀が繁昌
     さてさて おめでたや

[注] 作詞者の鶯花園主人は福羽美静の号.




@十七 数へうた   (伊沢修二 作詞  作曲者 未詳)
一つとや、ひとと生まれて 忠孝を
     かきては 皇国(みくに)の 人でなし
二つとや、ふた親兄弟 うちそろひ
     たのしく 暮らすも 君の恩
三つとや、みなみな日々日々 つれだちて
     うれしく学ぶも 親の恩
四つとや、よみかき算盤 よく覚え
     体操唱歌も 習ふべし
五つとや、いつもたふとき 先生の
     教のことばを よく守れ
六つとや、無病で勉強 卒業し
     あつぱれよき子と いはるべし
七つとや、なにを成すにも 学問の
     たすけよらでは 叶ふまじ
八つとや、やまと心を やしなひて
     君と国とに つくすべし
九つとや、この身のもとたる 父母の
     名をもあらはせ 名をあげて
十をとや、とつくに(外国)人も あふぐまで
     皇国のほまれを あげよかし

[注] 俗楽調第二種.





小学唱歌(第二巻)

(1893 年 8 月 27 日 再販 発行)


A一 神楽あそび
一 こども こども
    うたへ はやせ
  まふや かぐら
  みよみよ こども
  あまの いはと
  かぐらの まひを




A二 蹴鞠
一 けれけれ けまり
  さくらの かげに
  ちらすか けまり
    さくらの はなに
二 けれけれ けまり
  やなぎの かげに
  かかるよ けまり
  やなぎの えだに




A七 皇御国 (加藤司書・加部厳夫 作詞  伊沢修二 作曲)
一 すめらみくにの ものゝふは
  いかなる事をか つとむべき
  たゞ身にもてる まごゝろを
  君とおやとに つくすまで
二 皇御国の くにたみは
  いかなる事をか つとむべき
  みのなりはひに いそしみて
  くにと家とを とますべし

[注] 律旋法.




A九 春秋季皇霊祭 (阪 正臣 作詞  作曲者 未詳)
春、山のさくらも ゑみそめぬ
    門の柳も もえいでぬ
   代々の皇祖(みおや)の 御祭を
    皇(すめら)みことの つかへます
     春のそらこそ のどかなれ
秋、そのの白菊 さきいでぬ
    山のこずゑも 色づきぬ
   代々のみおやの みまつりを
    すめらみことの つかへます
     秋のそらこそ のどかなれ
春[秋]御代の光りと もろともに
     めぐる月日の かげもいま
   春[秋]の半ばとなりにけり
    きみにならひて くにたみも
     祖(おや)のまつりや つかふらん




A十 武夫 (阪 正臣 作詞  作曲者 未詳)
一 馬さへいさむ ましてや人
   これこそ国を
     しづめの人
二 はたさへ靡く ましてや敵
   これこそ君を
     まもりの人




A十一 雀鴉 (小田深蔵 作詞  作曲者 未詳)
一 雪ふる庭の 寒きあした
  おや鳥子とり むらがり集ひ
  ちうちうちうと さへづりあひて
  餌ひらふすゞめ かはゆしやさし
二 秋風そよぐ 淋しきゆふべ
  向ひの森に ねぐらをたづね
  かうかうかうと 親鳥したひ
  とびゆくからす かはゆしやさし




A十二 都の花   (作詞者 未詳  納所 (のうしょ) 辨次郎 作曲)
一 上野の花に 日ぐらしや
   あすは浅草 あすか山
  こゝろごゝろに むかふ(向)島
   春の遊の のどかなる
二 日もうらゝかに ひがし(東)山
   ぎをん(祇園)清水(きよみず) ちゃうらく(長楽)寺
  花のさかりは 都人(みやこびと)
   いへぢ忘れて 遊ぶらん



納所弁次郎 (1885 (慶応元年9月) - 1936.5)


A十三 鶏 (服部元彦 作詞  作曲者 未詳)
一 あしたにゆふべに 怠ず
   時をばつぐる
     にはとりの
  なくこゑきけば
   おやどりは
    カケロカケロ カケロカケロ
二 あさりてえたる くひ物を
   ともにもわかつ
     にはとりの
  なくこゑきけば
   ひなどりは
    ヒヨヒヨヒヨ ヒヨヒヨヒヨ




A十四 狛の渡 (作詞者 未詳  小山作之助 作曲)
  こまのわたりの
    うりつくり
  瓜を人に とられじと
   守(も)る夜 あまたに
     なりぬれば
  うりをまくらに
    つひ寝たり




A十五 春の野遊   (阿保暫庵 作詞  作曲者 未詳)
一 すゝめや進め いざ諸共に
   足なみそろへ よき歌うたひ
  花さきにほふ 春野をさして
    進めやすゝめ いざ諸共に
二 あそべや遊べ いざ諸共に
   たんぽぽ 菫 花咲きみちて
  いづこの野辺も 錦をしけり
   遊べやあそべ いざもろともに




A十七 玉 (東久世 伯爵 作詞  小山作之助 作詞)
一 宝てふたからはあれど
    まごころの
   くもらぬたまに
    しかじとぞ
      おもふ
二 人みなの心のたまを
    みがきあげて
   皇国のひかり
    まさんとぞ
      おもふ




A十九 忍耐   阪 正臣 作詞 作曲者 未詳
一 柳にすがる あの蛙(かはづ)
   いくたび水に おちつらん
  落ちたるまゝに やみぬるならば
   高きにいたる 時あらじ
二 牧場におふる あの草葉
   いくたび駒に 踏まれけん
  ふまれしまゝに 枯ぬるならば
   みどりの野べと ならまじや




A二十 友愛   (谷  勤 作詞  作曲者 未詳)
一 学のともの 朝夕ごとに
   ふみこそならせ 教の庭を
二 かたみにこゝろ つゝみもおかず
   うらうへなくぞ 交りすべき
三 あやまちあらば 互にいさめ
   ほまれは共に 喜びあへや




A二十二 孝子   (作詞者 未詳  Philip P. Bliss 作曲)
  つくしのやすの
    弥次郎は
   親に孝行
     つくしけり
  牛馬さへも
    むちうたず
   三反三畝を
     つくりどり

[注] 原曲は Philip Paul Bliss (1838-1876) 作詞作曲(1872?) の賛美歌
"Daniel's Band" (または "Dare to Be a Daniel"). 日本では,『讃美歌并楽譜』
第2版(1882)に「住家(すみか)」(歌詞:ああそのすみ家は 神が座(ま)し)
として収録されている.[桜井:私信 2012. 09. 18b]

以下に歌詞とmidiがある:
Dare to Be a Daniel
http://www.hymntime.com/tch/htm/d/a/r/daretobe.htm




A二十四 母 (阪 正臣 作詞  Silcher 作曲)
一 夜ひる立そひ われを守り
   あしきを戒め よきを勧め
    みちびくものは 母てふひとよ
二 出れば門辺に 我を送り
   帰れば這入(はひ)りに われを待てり
    はゝてふ人は いと良きともよ



1822 年頃の Philipp Friedrich Silcher (1789 - 1860)


A二十六 神武天皇祭 (阪 正臣 作詞  芝 葛鎮 (ふじつね) 作曲)
一 雄々しく健(たけ)き みこゝろに
   勇めるいくさ 引きつれて
  あらぶるものを 伐ち鎮め
   皇国のもとゐ 建てませり
二 仰げばたかし 高御座
   やまとに定め 民くさを
  恵の露に やしなひし
   いさをは千代に 輝けり
三 在(い)ますが如く 今もなほ
   うなねつきぬき 畝傍なる
  御稜(みはか)の方を ふりさけて
   昔のみかげ あふぐなり

[注] 律旋法壱越調.



芝葛鎮 (1848 - 1918.2)


A二十七 新嘗祭 (加部巌夫 作詞  林 廣継 作曲)
一 葛飾早稲の やつか穂を
   しるにも頴(かひ)にも つくらせで
  めさせ給へる にひなへは
   神代のまゝの みわざなり
二 かつしかわせの 新(にひ)しぼり
   しろきくろきを くみわけて
  そなへまつらす 数々を
   神もうれしと きこすらん

[注] 律旋法壱越調.
『祝日大祭日唱歌』(1893 年 8 月 制定)の同名曲第八番(小中村清矩
作詞,辻 高節 作曲)と異なる.




A二十八 恭儉博愛 (伊沢修二 作詞  作詞者 未詳)
一 我身は財(たから)と おこなひと
   二つをもれる うつはなり
  器にみてる 水のごと
   心してこそ もつべけれ
二 世の民草の うきめをば
   おのが心に つみそへて
  かくるなさけの その露ぞ
   めぐみの海と なりぬべし

[注] 律旋法黄鐘調.




A三十一 元始祭 (芙  蓉 作詞  山井基萬 作曲)
一 天地(あめつち)の共(むた) かぎりなく
   伝へまします 御しるしを
  拝(おろが)みいはひ 幾万世(いくよろづよ)に
   祭らすけふこそ 尊けれ
二 吾 皇国(すめくに)の 明けき
   光あふぎて 天津日の
  照さんかぎり いや遠長(とほなが)に
   ことほぐ今日こそ めでたけれ

[注] 律旋法平調.
『祝日大祭日唱歌』(1893 年 8 月 制定)の同名曲第四番(鈴木重嶺
作詞,芝 葛鎮 作曲)と異なる.




A三十二 孝明天皇祭 (加部巌夫 作詞  多 忠廉 作曲)
一 時雨のそらの 晴れ間なく
   うき雲にこそ 隠れけれ
  その月の輪の うしとらに
   仰ぐも高き みいさをや
二 今は明治の 大昭代(おほみよ)の
   めでたき御代とぞ 成にける
  けふみまつりに 天のした
  御霊威を仰がぬ 人ぞなき

[注] 律旋法盤渉調.




A三十三 神嘗祭 (加部巌夫 作詞  東儀季芳 作曲)
一 神のさづけし たなつもの
   千秋(ちあき)長あき たのみあり
  大御使(おほみつかひ)の みてぐらは
   よこ山のごと いやたかし
二 瑞穂ゆたけき 秋ごとに
   おひくる国の 名もしるし
  けふ神嘗(かんなへ)の みまつりに
   初穂は神に たてまつる

[注] 律旋法盤渉調.
『祝日大祭日唱歌』(1893 年 8 月 制定)の同名曲第六番(木村正辞 作詞,
辻 高節(たかみち)作曲)と異なる.




A三十四 うさぎ   (作詞作曲者 未詳)
  うさぎ うさぎ
    なにを見て はねる
   十五夜 お月さま
    見てはねる

[注] 俗楽調第一種.原曲は箏曲.




A三十五 小鼠 (作詞作曲者 未詳)
  猫の居(お)ることも
    知らずに
     棚のうへに
  眠れるねずみ
    小鼠の
   命のほどぞ
     あはれなる

[注] 俗楽調第一種.




A三十六 養老の滝 (足代弘訓 作詞  作曲者 未詳)
  ながれての世にも
   名高く
    聞えけり
  老(おい)を やしなふ
   滝の
    ひびきは

[注] 俗楽調第一種.




A三十七 高い山 (作詞作曲者 未詳)
  たかい山から
    谷そこ見れば
   うりや茄子(なすび)の
     花ざかり

[注] 俗楽調第二種.




A三十八 水鳥  (作詞作曲者 未詳)
  水鳥は なにゆゑ
    水のうへにすむ
  しものふる夜に
    こほるよに

[注] 俗楽調第二種.




A三十九 教育数へ歌 (伊澤修二 作詞  作曲者 未詳)
一ツトヤ ひとと生まれて 忠孝を
     かきては 皇国(みくに)の 人でなし
二ツトヤ ふた親兄弟 うちそろひ
     楽しく 暮らすも 君の恩
三ツトヤ 皆ゝ 日々日々 つれだちて
     うれしく 学ぶも 親の恩
四ツトヤ よみかき 算盤 よく覚へ
     体操 唱歌も 習ふべし
五ツトヤ いつも 尊き 先生の
     教の ことばを よく守れ
六ツトヤ 無病で 勉強 卒業し
     あっぱれ よき子と いはるべし
七ツトヤ なにを成すにも 学問の
     たすけよらでは 叶ふまじ
八ツトヤ 大和心を やしなひて
     君と国とに つくすべし
九ツトヤ この身のもとたる 父母の
     名をも顕はせ 名をあげて
十フトヤ とつ国人も 仰ぐまで
     皇国の誉(ほまれ)を あげよかし

[注] 楽譜は第一巻を参照.


A四十一 学の園 (戸野周次郎 作詞  酒井良忠 作曲)
  めぐみの露は
   ほせども
    ひまじ
   をしへの草は
     つめどもつきじ
  あゝうつくしき
    まなびの
      そのや
  嗚呼美しき
    まなびの園や




A四十二 勧学 (谷  勤 作詞  内田粂太郎 作曲)
一 過ぎゆく月日は
    矢より早し
  たゞ一筋に
    まなべこども
二 ひまゆくこまの
    あしははやし
  身にむちうちて
    はげめ子供




A四十三 治まる御代 (東宮鉄麿 作詞  作曲者 未詳)
一 四方の海辺に 波たゝず
   木々の梢も 風なぎて
  安くのどけく をさまれる
   君がみよこそ 楽しけれ
二 かくもたのしき 大みよに
   生まれあひたる 我等こそ
  むかしも今も ためしなき
   さいはひ人と いふべけれ
三 このみめぐみを 思ひなば
   君のみためと いたつきて
  こゝろのかぎり 尽すべし
   ちからのきはみ 勤むべし




A四十四 卒業式歌   (山田美妙 作詞  山田源一郎 作曲)
一 業をしはたしゝ 嬉しさは
   そもそも何にか くらぶべき
  やまなす人中(ひとなか) わけゆきて
   をはりのしるしを 得る心
二 我等はこれより いや遠き
   学のみちすぢ ふみわけて
  いさをの山に たちいりて
   皇国をかざる 玉もえん
三 われらは是より 世の中の
   たづきの道に わけ入らん
  のぞむは誉の はなの枝
   みくにのかざりを いでやがて




山田源一郎 (1869 (明治2年10月) - 1927)


(2012 年)


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