『尋常小学唱歌』

全6冊 文部省編集 (1911(明治44)年5月〜1914(大正3)年6月)

その1 第1学年用〜第3学年用





『尋常小学唱歌』表紙

明治の悼尾を飾るのが『尋常小学唱歌』(全6冊)である. これまで小学校では文部省の検定を通った民間の教科書を使用していた.しかし1902年に,教科書疑獄と呼ばれる教科書採用に関する大規模な贈収賄事件(教科書会社側の贈賄と政界・財界・教育界関係者の収賄)が起こったため,その弊害を防ぐ意味もあって,文部省は教科書を国定にすることにした.
このような動き中で, 文部省はまず国定教科書に準ずるものを作ることにした.
編纂にあたった小学唱歌教科書編纂委員会の委員長は湯原元一、そして委員は

  歌詞関係委員会:吉丸一昌(主任),富尾木知佳,乙骨三郎,高野辰之,武笠 三,
  楽曲関係委員会:島崎赤太郎(主任、歌詞委員会委員を兼任),小山作之助,上 真行,
            岡野貞一,楠美恩三郎,南 能衛

の面々で,1909年6月に第1回の会議が行われた.まず程度を示すものとして,尋常小学読本から韻文を選び曲譜を付け,先行的に1910年7月『尋常小学読本唱歌』(全27曲)として発表した.作曲に当たったのは,小山.楠美,南,上,島崎,岡野の楽曲関係委員で,作曲が完了したのは1910年2月下旬である.

引き続き慎重に歌詞曲譜の選定を進め,先行作成した曲に加えて総計120曲の教材を順次作成した.[『東京芸術大学百年史 東京音楽学校篇 第二巻』同編集委員会編(音楽の友社、2004年1月)pp. 749-772].最終的な案は合議で決まったため,作詞作曲に個人的なクレディットは与えられていない.
『尋常小学唱歌』の編集が委嘱されたのは、次の16名である.

  作詞委員長:芳賀矢一(1867-1926) 「三才女」「鎌倉」など作詞
   作詞委員:上田万年(1867-1937)
        佐佐木信綱(1872-1963) 「水師營の会見」
        武島又次郎(羽衣)(1872-1967)
        吉丸 一昌(1873-1916)
        高野辰之(1876-1947) 「故郷」「紅葉」「春の小川」
        八波則吉(1876-1953)
        尾上八郎(柴舟)(1876-1957)

  作曲委員長:湯原 元一(1863-1931)
   作曲委員:上 真行(1868-1937)「一月一日」など作曲
        楠美恩三郎(1868-1927)
        田村虎蔵(1873-1943) 「キンタロウ」
        島崎赤太郎(1874-1933) 「田舍の冬」
        岡野貞一(1878-1941) 「春が来た」「日の丸の旗」
        南 能衛(1881-1944) 「村祭」「村の鍛冶屋」
        小山作之助(1887-1927) 

初め外国曲でもかまわないことになっていたが,最終的には全て日本人の手になったようである.ここに至って,明治中期に音楽教育を立ち上げた伊沢修二の目標

  一 東西二洋の音楽を折衷シテ新曲ヲ作ル事,
  一 将来国楽ヲ興スベキ人物ヲ養成スル事

がやっと達成されたと言えよう.
中には,「日の丸の旗」「鳩」「かたつむり」などに始まり「春が来た」春の小川」「故郷」「朧月夜」など,今でも歌われている歌がある.
この教科書が使われた期間は1911年4月から新訂版が用意される1932年3月までの21年間である.

その後も改訂はあったが,国定の制度は太平洋戦争敗戦直後まで30年以上にわたって続く.これらのシリーズは『文部省唱歌』と総称されている.

国定の唱歌教材のため,唱歌の偏重で和声の感覚がつちかわれなかったとか「レレミレド」というマンネリ化した終止形で音楽芸術の進歩を妨げた,などの批判があるし,外国の曲を全て排除してしまったことも残念なことであった.

しかし,明治中期に西洋音楽教育を導入し,ゼロからスタートした日本人が,それなりに日本の伝統も生かしながら,消化吸収した結果の到達点という意味で歴史的な意味を持っていると言えよう.その結果得られた何よりも重要なことは,国民の誰もが一緒になって歌うことができる愛唱歌が誕生したということではないだろうか.

インターネットで歌詞とか音源は多数見つかつが,元の形の旧仮名遣いの歌詞と楽譜のまとまったものは案外見つからない.屋上屋を重なる感はあるが,全曲を元の形のまま載せた.また,馴染みが薄くなった故事を題材にしたものも多いので,注を加えた.

[2011. 5. 22 付記] 最近,後藤による岡野の楽曲の音楽的特徴が解析が進められ,いくつかの楽曲が岡野の作品と推定された.[Cf. 後藤丹,「音楽」8, pp. 49-66 (2010. 11. 30)]:『岡野貞一の旋律構造―作品特定の手掛かりとして―』] 書誌的な手掛かりが乏しい中,きわめてユニークな研究方法と言えよう.
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緒 言

一、本書ハ本省内ニ設置セル小学校唱歌教科書編纂委員ヲシテ編纂セシメタルモノナリ。
二、本書ノ歌詞中、尋常小学読本所載以外ノモノニ就キテハ、修身・国語・歴史・地理・理科・実業等諸種ノ方面ニ渉リテ適当ナル題材ヲ求メ、文体用語等ハ成ルベク読本ト歩調ヲ一ニセンコトヲ期セリ。
三、本書ノ曲譜ハ排列上其ノ程度ニ就キテ多少難易ノ順ヲ追ハザザルモノナキニアラズ。是其ノ歌詞ノ性質上已ムヲ得ザルニ出デタルナリ。
     明治四十四年二月       文 部 省


緒言は第一学年用〜第四学年用および第六学年用は日付を除き共通である。第五学年用は昭憲皇太后御製の歌に関する説明が第四項として付け加えられている。

目 次

第一学年用
1911(明治44)年5月
第一   日の丸の旗
第二   鳩
第三   おきやがりこぼし
第四   人形
第五   ひよこ
第六   かたつむり
第七   牛若丸
第八   夕立
第九   桃太郎
第十   朝顔
第十一  池の鯉
第十二  親の恩
第十三  烏
第十四  菊の花
第十五  月
第十六  木の葉
第十七  兎
第十八  紙鳶の歌
第十九  犬
第二十  花咲爺

第二学年用
1911(明治44)年6月
第一  桜
第二  二宮金次郎
第三  よく学びよく遊べ
第四  雲雀
第五  小馬
第六  田植
第七  雨
第八  蝉
第九  蛙と蜘蛛
第十  浦島太郎
第十一 案山子
第十二 富士山
第十三 仁田四郎
第十四 紅葉
第十五 天皇陛下
第十六 時計の歌
第十七 雪
第十八 梅に鴬
第十九 母の心
第二十 那須与一

第三学年用
1912(明治45)年3月
第一  春が来た
第二  かがやく光
第三  茶摘
第四  青葉
第五  友だち
第六  汽車
第七  虹
第八  虫のこゑ
第九  村祭
第十  鵯越
第十一 日本の国
第十二 雁
第十三 取入れ
第十四 豊臣秀吉
第十五 皇后陛下
第十六 冬の夜
第十七 川中島
第十八 おもひやり
第十九 港
第二十 かぞへ歌

『尋常小学読本唱歌』

参考


   #印は『尋常小学読本唱歌』(1910年7月)から引き継いだ曲。
   ¥印は後の『新訂 尋常小学唱歌』(1932年3月〜12月)で削除された。

尋常小学唱歌 第一学年用   文部省



@ 第一 日の丸の旗 (高野辰之 作詞 岡野貞一 作曲)
一、白地に赤く
    日の丸染めて、
  ああうつくしや、
    日本の旗は。
二、朝日の昇る
    勢(いきほひ)見せて、
  ああ勇ましや、
    日本の旗は。

歌唱は
小學唱歌 日の丸の旗 (一年生)
http://www.youtube.com/watch?v=B4Ct9YwroPE



@ 第二 鳩
一、ぽつ ぽつ ぽ、
    鳩 ぽつ ぽ、
   豆がほしいか、
     そらやるぞ。
    みんなで仲善く
      食べに来い。
二、ぽつ ぽつ ぽ、
    鳩 ぽつ ぽ、
   豆はうまいか、
     食べたなら、
    一度にそろつて
      飛んで行け。

歌唱は
鳩(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=F_iqJD9NTVo



@ 第三 おきやがりこぼし
一、投(はふ)り出されて ころころ転び、
  体ゆすつて むつくと起きて、
  あちらを向いて 默つてすわる。
  おきやがりこぼしは おもしろい。
二、幾度投げても 何時でも起きる、
  体ゆすつて むつくと起きて、
  こちらを向いて 人をばにらむ。
  おきやがりこぼしは をかしいな。



@ 第四 人形
一、わたしの人形は よい人形。
   目はぱつちりと いろじろで
  小さい口もと 愛らしい。
   わたしの人形は よい人形。
二、わたしの人形は よい人形。
   うたをうたへば ねんねして、
  ひとりでおいても 泣きません
   あたしの人形は よい人形。

音源は
人形(にんぎょう)
作詞作曲不詳/文部省唱歌(一年)
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/ningyo.html



@ 第五 ひよこ
一、ひよひよひよこ、ちひさなひよこ、
  兄弟なかよく 一しよに歩け。
  あしの強く ならぬうちに
  とほくへ行くな ひとりで行くな。
二、ひよひよひよこ、かはいいひよこ、
  いつでも親に だかれて眠れ。
  はねの長く ならぬうちに
  離れて寝るな ひとりで寝るな。

音源は
http://ww4.enjoy.ne.jp/~aqua98/school/ChildSJp/CSJpOther/hiyokos.htm



@ 第六 かたつむり
一、でんでん虫虫 かたつむり、
   お前のあたまは どこにある。
    角だせ槍だせ あたま出せ。
二、でんでん虫虫 かたつむり、
   お前のめだまは どこにある。
    角だせ槍だせ めだま出せ。

歌唱は
かたつむり(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=GNtRLcLzoew



@ 第七 牛若丸
一、京の五条の橋の上、
   大のをとこの弁慶は
    長い薙刀ふりあげて、
     牛若めがけて切りかかる。
二、牛若丸は飛び退(の)いて、
   持つた扇を投げつけて、
    来い来い来いと欄干の
     上へあがつて手を叩く。
三、前やうしろや右左、
   ここと思へば又あちら、
    燕のやうな早業に、
     鬼の弁慶あやまつた。

[注] 『義経記』巻三。

歌唱は
牛若丸(唱歌) - 岡田孝
http://www.youtube.com/watch?v=gbGBFBCeHY0



@ 第八 夕立
一、降る降る夕立。
  鳴る鳴る雷。
   小川にめだかを
     取つてゐた子供は、
    笊(ざる)を被つて
      急いで帰る。
二、照る照るお日様。
  飛ぶ飛ぶ白雲。
   学校にはれまを
     待つてゐた子供は、
    本をかかへて
      静かに帰る。



@ 第九 桃太郎 (岡野貞一 作曲)
一、桃太郎さん桃太郎さん、
   お腰につけた黍(きび)団子、
    一つわたしに下さいな。
二、やりませうやりませう、
   これから鬼の征伐に、
    ついて行くならやりませう。
三、行きませう行きませう、
   あなたについて何処までも、
    家来になつて行きませう。
四、そりや進めそりや進め、
   一度に攻めて攻めやぶり、
    つぶしてしまへ鬼が島。
五、おもしろいおもしろい、
   のこらず鬼を攻めふせて、
    分捕物をえんやらや。
六、万万歳 万万歳、
   お伴の犬や猿雉子は、
    勇んで車をえんやらや。

歌唱は
桃太郎(唱歌) - 森みゆき
http://www.youtube.com/watch?v=S1pIuEbG1g0



@ 第十 朝顔
一、毎朝 毎朝
    咲くあさがほは、
   をととひきのふと
     だんだんふえて、
   今朝はしろ四つ
     むらさき五つ。
二、大きな莟(つぼみ)は
    あす咲くはなか。
   ちひさなつぼみは
     あさつて咲くか。
   早く咲け咲け、
     絞や赤も。



@ 第十一 池の鯉
一、出て来い出て来い池の鯉。
   底の松藻のしげつた中で、
    手のなる音を聞いたら来い。
     (聞いたら来い。)
二、出て来い出て来い池の鯉。
   岸の柳のしだれた蔭へ、
    投げた焼麩(やきふ)が見えたら来い。
     (見えたら来い。)

歌唱は
池の鯉(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=90Og6Hg5JZg



@ 第十二 親の恩
一、軒(のき)に巣をくふ 燕を見たか。
   雨の降る日も 風吹く日にも、
  親は空をば あつちこつち飛んで、
   虫をとつて来て 子に食べさせる。
二、ひよこ育てる 牝[「鶏」の偏に「隹」](めんどり)見たか。
   ここここここ と子供を呼んで、
  庭の隅やら はたけの中で、
   餌をば探して 子に拾はせる。



@ 第十三 烏
  かあかあ 烏が
    啼いて行く。
  からすからす
    何処へ行く。
  お宮の森へ、
   お寺の屋根へ、
  かあかあ 烏が
    啼いて行く。

音源は
http://www42.tok2.com/home/shamaruby/jinnjyousyougakudokuhon/kasi01.html



@ 第十四 菊の花 (青木存義 作詞)
一、見事に咲いた
   かきねの小菊。
  一つ取りたい、
   黄色な花を、
  兵隊遊びの
    勲章に。
二、見事に咲いた
   垣根の小菊。
  一つ取りたい、
   真白な花を、
  飯事(ままごと)遊びの
    御馳走に。



@ 第十五 月
一、出た出た月が、
   円い円い まんまるい
    盆のやうな 月が。
二、隠れた雲に、
   黒い黒い まつくろい
    墨のやうな 雲に。
三、また出た月が、
   円い円い まんまるい
    盆のやうな 月が。

歌唱は
月 (唱歌♪出た出た月が)
http://www.youtube.com/watch?v=OO5pGjtECYo



@ 第十六 木の葉
一、何処から来たのか 飛んで来た木の葉、
   くるくるまはつて 蜘蛛の巣にかかり、
  風に吹かれて ひらひらすれば、
   蜘蛛は虫かと 寄つて来る。
二、何処から来たのか 飛んで来た木の葉、
   ひらひら舞つて来て 池の上におちて、
  波にゆられて ゆらゆらすれば、
   鯉は餌かと 浮いて来る。



@ 第十七 兎
一、私は兎と申すもの、
    顔や体の小さい割に、
  耳の長いのが何より自慢。
     皆さんよく見て下さいな。
二、芸はこれとて無いけれど、
    前脚短く後脚長く、
  飛んで跳ねるのが誰より上手。
     皆さん囃して下さいな。



@ 第十八 紙鳶の歌
一、紙鳶(たこ)紙鳶揚れ。
    風よくうけて、
  雲まで揚れ。
    天まで揚れ。
二、絵紙鳶に字紙鳶。
    どちらも負けず、
  雲まで揚れ。
    天まで揚れ。
三、あれあれ下る。
    ひけひけ糸を。
  あれあれ揚る。
    放すな糸を。

演奏は
たこたこあがれ
http://www.youtube.com/watch?v=XUtSsTAqPZk



@ 第十九 犬
一、外へ出る時とんで来て、
   追つても追つても附いて来る。
    ぽちはほんとにかはいいな。
二、内へ帰ると尾を振つて、
   袂に縋つて嬉しがる。
    ぽちはほんとにかはいいな。



@ 第二十 花咲爺
一、正直爺(ぢぢい)が 灰まけば
  野原も山も   花ざかり。
  殿様大層    よろこんで
  ぢぢいに褒美を 下される。
二、意地悪爺が   灰まけば
  目鼻も口も   灰だらけ。
  殿様大層    はらを立て
  ぢぢいに縄を  かけられる。





尋常小学唱歌 第二学年用   文部省



A 第一 桜
一、霞につづくは花の雲、
   野山につもるは花の雪、
  春の四月はうつくしや、
   どちら向いても花ばかり。
二、向ふの山のは山桜、
   こちらの岡のは八重桜、
  八重も一重もうつくしや、
   花はこの花桜花。



A 第二 二宮金次郎
一、柴刈り縄なひ草鞋をつくり、
    親の手を助(す)け弟(おとと)を世話し、
  兄弟仲よく孝行つくす、
    手本は二宮金次郎。
二、骨身を惜しまず仕事をはげみ、
    夜なべ済まして手習読書(とくしよ)、
  せはしい中にも撓(たゆ)まず学ぶ、
    手本は二宮金次郎。
三、家業大事に費(つひへ)をはぶき、
    少しの物をも粗末にせずに、
  遂には身を立て人をもすくふ、
    手本は二宮金次郎。

[注] 江戸末期の篤農家 二宮尊徳(1787(天明7)〜1856(安政3))の勤勉を称える歌。相模の足柄上郡栢村の貧農の生まれだが報徳思想(陰徳・積善・節倹を旨とする)を実践し、小田原藩に仕え殖産により多くの村の財政を救った(『報徳記』)。

歌唱は
二宮金次郎_ダークダックス
http://www.youtube.com/watch?v=agkzxiJfzAc



A 第三 よく学びよく遊べ
一、机の前では一心に
   何も思はずよく学べ。
  遊びながらの勉強は
   時間を無駄にするばかり。
  学べ学べ一心に。
   学べ学べ一心に。
二、課業が済んだら一心に
   何も忘れてよく遊べ。
  ただ面白く遊ぶのが
   元気をつけるよい薬。
  遊べ遊べ一心に。
   遊べ遊べ一心に。



A 第四 雲雀
一、ぴいぴいぴいとさへづる雲雀(ひばり)、
    囀りながら何処まであがる、
  高い高い雲の上か、
    声は聞えて見えない雲雀。
二、ぴいぴいぴいとさへづる雲雀、
    囀りやんで何処らへ落ちた、
  青い青い麦の中か、
    姿かくれて見えない雲雀。

歌唱は
ひばり(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=mzbWhVf9HkE



A 第五 小馬
一、はいしいはいしい あゆめよ、小馬。
  山でも坂でも   ずんずん歩め。
  お前が進めば   わたしも進む。
  歩めよ歩めよ   足音たかく。
二、ぱかぱかぱかぱか 走れよ、小馬。
  けれども急いで  つまづくまいぞ。
  お前が転べば   わたしも転ぶ。
  走れよ走れよ   転ばぬやうに。

[注] 石原和三郎 作詞 山田源一郎 作曲との説あり [金田一・安西:p. 263]

歌唱は
こうま (唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=eWLLLmMNZjc



A 第六 田植
一、白い菅笠赤だすき、
   揃ひ姿の早少女(さをとめ)が
    歌ふ田植の歌きけば
   揃うた揃たよ早少女が揃た、
    稲の出穂(でほ)よりなほ揃た。
二、うゑる手先も足取も
   節も揃へて早少女が
    歌ふ田植の歌きけば、
   今年は豊年穂に穂がさいて、
    路の小草も米がなる。



A 第七 雨
一、降れ降れ雨よ、都(みやこ)の雨よ。
  馬や車の往来絶えぬ
  町の埃のしづまる程に
  雨よ降れ降れ、程よく降れ。
二、降れ降れ雨よ、田舎の雨よ。
  茄子や胡瓜の花咲き揃ふ
  畠の土のうるほふ程に、
  雨よ降れ降れ、程よく降れ。



A 第八 蝉
一、かみなりが遠く鳴る。
   吹くともなしに風が吹く。
    木といふ木には蝉が鳴く。
二、夕立がひとしきり。
   みどりの葉から露がちる。
    涼しい声で蝉が鳴く。



A 第九 蛙と蜘蛛
一、しだれ柳に 飛びつく蛙、
   飛んでは落ち 落ちては飛び、
  落ちても落ちても また飛ぶほどに、
   とうとう柳に 飛びついた。
二、風吹く小枝に 巣を張る小蜘蛛、
   張つてはきれ きれては張り、
  きれてもきれても また張る程に、
   とうとう小枝に 巣を張つた。

[注] 第一節は柳に飛びつくかえるを見て努力しなければ何事も成就しないと悟った平安時代中期の能書家 小野道風(三蹟の一人)の故事による。この伝説の初出は浄瑠璃『小野道風青柳硯』(1754(宝暦4)年)で比較的新しいという。



A 第十 浦島太郎
一、昔昔浦島は
    助けた亀に連れられて
  竜宮城へ来て見れば、
    絵にもかけない美しさ。
二、乙姫様の御馳走に、
    鯛や比目魚の舞踊(まひをどり)、
  ただ珍しくおもしろく、
    月日のたつも夢の中(うち)。
三、遊にあきて気がついて、
    お暇乞(いとまごひ)もそこそこに
  帰る途中の楽(たのしみ)は、
    土産に貰つた玉手箱。
四、帰つて見ればこは如何に、
    元居た家も村も無く、
  路(みち)に行きあふ人々は、
    顔も知らない者ばかり。
五、心細さに蓋とれば、
    あけて悔しき玉手箱、
  中からぱつと白烟(けむり)、
    たちまち太郎はお爺さん。

[注] 『御伽草子』所載。

歌唱は
浦島太郎_ダークダックス
http://www.youtube.com/watch?v=m02Uz5fwRgA



A 第十一 案山子
一、山田の中の一本足の案山子、
   天気のよいのに蓑笠着けて、
    朝から晩までただ立ちどほし。
     歩けないのか山田の案山子。
二、山田の中の一本足の案山子、
   弓矢で威して力(りき)んで居れど、
    山では烏がかあかと笑ふ。
     耳が無いのか山田の案山子。

[注] 山田源一郎 作曲の説あり [金田一・安西 上 p. 316]

歌唱は
案山子(唱歌、かかし)
http://www.youtube.com/watch?v=na5fj-u6oDA



A 第十二 富士山 (巌谷小波 作詞)
一、あたまを雲の上に出し、
    四方(しはう)の山を見おろして、
  かみなりさまを下に聞く、
    富士は日本一の山。
二、青空高くそびえ立ち、
    からだに雪の着物着て、
  霞のすそを遠く曳く、
    富士は日本一の山。

歌唱は
富士山 / 文部省唱歌 By Miku Hatsune
http://www.youtube.com/watch?v=wfCzq5cxjT4



第十三 仁田四郎
一、手負の猪    牙くひそらし、
  地を蹴り木を折り 草靡かせて、
  此方(こなた)をめざして 山駆け下る。
二、大将頼朝    あれ仕留めよと
  いふ声待たずに 仁田の四郎、
  猪めがけて   馬駆け寄せる。
三、馬からひらりと 身を躍らせて、
  背中へ飛乗り  脇差抜いて、
  拳(こぶし)もとほれと 五(いつ)さし六(む)さし。
四、裾野にひかへた 幾千人が、
  一度にやんと  四郎を誉めた、
  富士の山さへ  崩れるほどに。

[注] 源頼朝の武将 仁田忠常の通称。1993年(建久4年5月)富士の裾野の巻き狩りで,仇討ちをした曽我十郎祐成を討ち取った。(『曽我物語』巻八、C第七 曽我兄弟 を参照)



A 第十四 紅葉 (高野辰之 作詞 岡野貞一 作曲)
一、秋の夕日に照る山紅葉、
   濃いも薄いも数ある中に、
    松をいろどる楓や蔦は
     山のふもとの裾模様。
二、渓(たに)の流に散り浮く紅葉、
   波にゆられて離れて寄つて、
    赤や黄色の色さまざまに、
     水の上にも織る錦。

歌唱は
もみじ
http://www.youtube.com/watch?v=pmXIFfaXUkk



A 第十五 天皇陛下
  神と仰ぎ奉り、
   親とも仰ぎ奉る、
  天皇陛下の御為(おんため)ならば、
   わが身も家も忘れて。



A 第十六 時計の歌 (筒井啓介 作詞 村上太朗 作詞)
一、時計は朝から かつちんかつちん、
   おんなじ響で 動いて居れども、
  ちつともおんなじ 所を指さずに、
   晩までかうして かつちんかつちん。
二、時計は晩でも かつちんかつちん、
  我等が寝床で 休んで居る間も、
  ちつとも休まず 息をもつがずに、
  朝までかうして かつちんかつちん。

音源は
時計の歌 (唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=9Lg2-lYzqEs



A 第十七 雪
一、雪やこんこ霰やこんこ。
   降つては降つてはずんずん積る。
  山も野原も綿帽子かぶり、
   枯木残らず花が咲く。
二、雪やこんこ霰やこんこ。
   降つても降つてもまだ降りやまぬ。
  犬は喜び庭駆けまはり、
   猫は火燵(こたつ)で丸くなる。

音源は

作詞作曲不詳/文部省唱歌(二年)
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/yuki.html



A 第十八 梅に鶯
一、日のよくあたる庭前(にはさき)の
   垣根の梅が咲いてから、
  毎朝来ては鶯が
   かはいい声でホウホケキヨウ。
二、鳴くのを聞いて縁側の
   籠の中でも鶯が
  垣根の方を眺めては、
   調子を合はせてホウホケキヨウ。



A 第十九 母の心
一、朝早くから 井戸ばたで、
   母はせいだす 洗ひ物。
    たらひの中に あるは何。
  これは太郎の 小倉(こくら)の袴。
   太郎昨日は 運動会で、
    泥によごした この袴。
二、夜遅くまで 奥の間に、
   母はせい出す  針仕事。
    ひざの上には 何がある。
  これはお春の 晴着の羽織
   お春明日は 雛様祭。
    着せてやりたい この晴着。



A 第二十 那須与一
一、源平勝負の晴の場所、
   武運はこの矢に定まると、
    那須の与一は一心不乱、
     ねらひ定めてひようと射る。
二、扇は夕日にきらめきて
   ひらひら落ちゆく波の上、
    那須与一の譽(ほまれ)は今も、
     屋島の浦に鳴りひびく。

[注] 1185年(元暦2年2月18日)夕方,源平屋島の合戦のときの挿話(『平家物語』那須与一)を題材にした。

歌唱は
那須与一(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=x-VxjOtg9GM





尋常小学唱歌 第三学年用   文部省


B 第一 春が来た (高野辰之 作詞 岡野貞一 作曲)
一、春が来た、春が来た、どこに来た。
  山に来た、里に来た、
    野にも来た。
二、花が咲く、花が咲く、どこに咲く。
  山に咲く、里に咲く、
    野にも咲く。
三、鳥が鳴く、鳥が鳴く、どこで鳴く。
  山で鳴く、里で鳴く、
    野でも鳴く。

歌唱は
春が来た(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=NaX6l1iK8yg



B 第二 かがやく光
一、御弓(みゆみ)の弭(はや)に
    金色の鵄(とび)、
   かがやく光
    きらきらぴかぴか。
   眼(まなこ)くらんで
     逃行くわるもの。
二、昔の光
    今もそのまま、
   むねの勲章
    きらきらぴかぴか。
   誉(ほまれ)かがやく
     日本軍人。



B 第三 茶摘
一、夏も近づく八十八夜、
   野にも山にも若葉が茂る。
  「あれに見えるは茶摘ぢやないか。
    あかねだすきに菅の笠。」
二、日和つづきの今日此の頃を
   心のどかに摘みつつ歌ふ。
  「摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ、
    摘まにや日本の茶にならぬ。」

歌唱は
茶摘み(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=ue5GmiwsHrE



B 第四 青葉
一、雨が歇(や)む、雲が散る。
   雲のあとにうねうねと、
    青葉若葉の山々が
     遠く近く残る。
二、風が吹く、木が揺れる。
   木木の影はゆらゆらと、
    水の面(おもて)に地の上に
     青く黒く映る。



B 第五  友だち
一、このてがしはの裏表
   かはらぬ人を友とせよ、
  これぞよき人よき友と
   教へし昔のことのはを
    忘るなよ忘るなよ。
二、色も香(か)も知る君ならで
   誰にか見せん梅の花、
  心の友はかくこそと
   教へし昔のことのはを
    忘るなよ忘るなよ。



B 第六 汽車 (大和田愛羅 作曲)
一、今は山中、今は浜、
   今は鉄橋渡るぞと
  思ふ間も無く、トンネルの
    闇を通つて広野原。
二、遠くに見える村の屋根、
   近くに見える町の軒。
  森や林や田や畑、
    後へ後へと飛んで行く。
三、廻り燈籠の画の様に
   変る景色のおもしろさ。
  見とれてそれと知らぬ間に、
    早くも過ぎる幾十里。

[楽譜の訂正]元譜では第2段末に終止記号が付いていて最後尾に終止記号が無い。とりあえず終止記号を最後尾に移した。しかし『新訂 尋常小学唱歌』を見ると歌詞はそのままで本譜の第2段と第4段が入れ替わっている。つまり終止記号付きの第2段は元々最終部として作曲されていたのが『尋常小学唱歌』では誤って印刷されたと考えられる。

歌唱は
汽車
http://www.youtube.com/watch?v=Zm1aDKRVnCE



B 第七 虹
一、虹が出た。
  虹が出た。
   空を衣裳に見立てたら、
   七つの色に染分けた
   だんだら模様はで模様。
二、虹が出た。
  虹が出た。
   空を一面水と見て、
   珊瑚や瑠璃をちりばめた
   天女の橋よ玉の橋。



B 第八 虫のこゑ
一、あれ松虫が鳴いてゐる。
    ちんちろちんちろ ちんちろりん。
  あれ鈴虫も鳴き出した。
    りんりんりんりん りいんりん。
  秋の夜長を鳴き通す
    ああおもしろい虫のこゑ。
二、きりきりきりきり きりぎりす。
    がちやがちやがちやがちや くつわ虫。
  あとから馬おひおひついて
    ちよんちよんちよんちよん すいつちよん。
  秋の夜長を鳴き通す
    ああおもしろい虫のこゑ。

歌唱は
虫の声 (唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=W-ohXeRU9H0



B 第九 村祭 (南 能衛 作曲)
一、村の鎮守の神様の
   今日はめでたい御祭日、
  どんどんひやらら、どんひやらら、
  (どんどんひやらら、どんひやらら、)
    朝から聞える笛太鼓。
二、年も豊年満作で、
   村は総出の大祭。
  どんどんひやらら、どんひやらら、
  (どんどんひやらら、どんひやらら、)
    夜まで賑ふ宮の森。
三、治まる御代に神様の
   めぐみ仰ぐや村祭。
  どんどんひやらら、どんひやらら、
  (どんどんひやらら、どんひやらら、)
    聞いても心が勇み立つ。

[注] 葛原しげる作詞という [金田一・安西:pp. 332-333]

歌唱は
村祭 (唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=IpzCysL-mFU



B 第十 鵯越
一、鹿も四つ足、 馬も四つ足、
  鹿の越えゆく この坂路(さかみち)、
  馬の越せない 道理はないと、
  大将義経   真先に。
二、つづく勇士も 一騎当千。
  鵯越(ひよどりごえ)に 着いて見れば、
  平家の陣家は 真下に見えて、
  戦(たたかひ)今や 真最中。
三、油断大敵、  裏の山より
  三千余騎の  さか落しに、
  平家の一門  驚きあわて、
  屋島をさして 落ちてゆく。

[注] 1184年(寿永3年2月7日)明け方,源平一の谷の合戦で源義経のとった奇襲作戦(『平家物語』坂落)を題材にした。

歌唱は
鵯越(唱歌、ひよどりごえ)
http://www.youtube.com/watch?v=1YfXgrsEiHY



B 第十一 日本の国
一、日本の国は松の国。
  見上げる峯の一つ松、
   はまべはつづく松原の
    枝ぶりすべておもしろや。
     わけて名におふ松島の
      大島小島、その中を
       通ふ白帆の美しや。
二、日本の国は花の国。
  梅 桃 桜 藤 菖蒲、
   白(しら)つゆむすぶ秋の野の
    ちぐさの花もおもしろや。
     わけてさくらの吉野山、
      一目千本咲きみちて、
       かすみか雲か美しや。



B 第十二 雁
一、雁(かり)がわたる。
  鳴いてわたる。
   鳴くはなげきか喜か。
   月のさやかな秋の夜に、
    棹になりかぎになり、
   わたる雁、おもしろや。
二、雁がおりる。
  連れておりる。
   連は親子か友だちか。
   霜の真白な秋の田に、
    睦ましく連れだちて
   おりる雁、おもしろや。



B 第十三 取入れ
一、春のたがやし鋤(す)きならし、
   夏の植附 田草取、
    骨身惜しまぬ働に
     穂に穂がさいた稲の出来。
      豊年ぢや満作ぢや。
二、日和つづきの昨日今日、
   揃うた親子兄弟(あにおとと)。
    刈つて束ねる干して扱(こ)く。
     見る間に積る籾の山、
      豊年ぢや満作ぢや。
三、畦の小路の一休(ひとやすみ)、
   話の種は俵数(たわらかず)。
    やがてめでたく積上げる、
     取入れ時の楽しさよ。
      豊年ぢや満作ぢや。



B 第十四 豊臣秀吉
一、百年このかた 乱れし天下も、
   千なり瓢箪 一たび出づれば、
  四海の波風 忽ち治り、
   六十余州は 草木も靡く。
  ああ太閤 豊(ほう)太閤。
二、余力を用ひて 朝鮮攻むれば、
   八道見る間に 我が手に破られ
  国光(こくくわう)かがやき 国威あがりて、
   四百余州も 戦(をのの)き震ふ。
  ああ太閤 豊太閤。

[注] 織田信長を継いで天下を統一した羽柴秀吉は、1585年(天正3年7月)関白になるにあたり朝廷より豊臣姓を賜った。



B 第十五 皇后陛下
一、天に日月(じつげつ) ある如く
  並びています 御光(みひかり)を、
  仰ぐもたかき 大宮居(おほみやゐ)。
二、国土あまねく うるほはす
  雨にも似たり 御恵(みめぐみ)の
  露のかからぬ 草もなく。
三、寒さおほはん 袖も無き
  貧しの民も  おん母と、
  畏けれども  仰ぎ見る。
四、時計の針の  絶間なく
  業(わざ)をはげめの 御さとしを、
  学びの子等も 忘れめや。



B 第十六 冬の夜
一、燈火ちかく衣(きぬ)縫ふ母は
  春の遊の楽しさ語る。
   居並ぶ子どもは指を折りつつ
   日数かぞへて喜び勇む。
    囲炉裏火はとろとろ
     外は吹雪。
二、囲炉裏のはたに縄なふ父は
  過ぎしいくさの手柄を語る。
   居並ぶ子どもはねむさ忘れて
   耳を傾けこぶしを握る。
    囲炉裏火はとろとろ、
     外は吹雪。



B 第十七 川中島
一、千曲犀川二川(にせん)の間、
  甲越二軍の戦場ここか。
    海津(かいづ)の城跡僅かに残り、
    見渡す限り桑畑しげる。
二、川の瀬音は人馬の声か。
  乱るるすすきは旗指物か。
    昔の英雄今はた在らず、
    記念(かたみ)は野べに苔むす墓石(ぼせき)。

[注] 武田信玄と上杉謙信は1553年(天文22年8月)から1564年(永禄7年6月)にかけて数度にわたり川中島で戦った。その戦場跡を偲ぶ歌。



B 第十八 おもひやり
一、よその悲しみ苦しみを
   わが身の上にひき較べ
  あはれと思ふ心こそ、
    人の尊き故と知れ。
二、わが身ばかりを思はずに、
   人の身の上思ひやれ。
  気侭にひとり振舞はば、
    情(なさけ)しらずと謗(そし)られん。



B 第十九 港
一、ここは港か波止場のあたり、
   大船小船其の数いくつ。
    列(なら)ぶ檣(ほばしら)林をなして
     集(つど)へる様の賑しや。
二、軽(かろ)げに浮ぶ此方(こなた)の商船、
   ゆるぐ様(さま)なき彼方の軍艦。
    つづく間を縫ひつつ走る
     小蒸気 艀(はしけ)忙しや。
三、聞けや入船汽笛をならす。
   何れの国よりここへは着(つ)きし。
    見よや出船は烟(けむり)を吐いて
     万里もゆくか勇ましや。
四、船の出入のいよいよ繁く、
   日々に栄ゆる港の様よ。
    国の富強の増しゆくしるし、
     思へばげにも頼もしや。



B 第二十 かぞへ歌
一つとや、人人忠義を第一に
     あふげや高き君の恩 国の恩。
二つとや、二人のおや御を大切に
     思へやふかき父の愛 母の愛。
三つとや、みきは一つの枝と枝
     仲よく暮せよ兄弟(あにおとと) 姉妹(あねいもと)。
四つとや、善き事たがひにすすめあひ
     悪しきをいさめよ友と友 人と人
五つとや、いつはりいはぬが子供らの
     学びのはじめぞ慎めよ いましめよ。
六つとや、昔を考へ今を知り
     学びの光を身にそへよ 身につけよ。
七つとや、難儀をする人見るときは
     力のかぎりいたはれよ あはれめよ。
八つとや、病(やまひ)は口より入(い)るといふ
     飲物 食物(くひもの)気を附けよ 心せよ。
九つとや、心はかならず高くもて
     たとひ身分はひくくとも 軽くとも。
十とや、 遠き祖先のをしへをも
     守りてつくせ家のため 国のため。




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『尋常小学読本唱歌(全学年)』 文部省編(1910年7月)


 1881(明治14)年〜1884(明治17)年の「小学唱歌集」以来の官製の唱歌集で,文部省の編集としては最初のものである.以後文部省の編集した唱歌は文部唱歌と総称される.
 1909(明治42)年6月に文部省内に「小学唱歌教科書編纂委員会」(委員長:湯原元一)が設置され,音楽教材の編纂にあたることとなった.なお編纂委員選定の裏話(田村虎蔵との確執)については,鎌谷静雄『尋常小学読本唱歌』(文芸社,2001年12月)が詳しい.
 まず教科書程度を示すものとして,尋常小学読本から韻文を選び曲譜を付け,先行的に1910年7月『尋常小学読本唱歌』(全27曲)として発表することにした. 芸大に残る編纂日誌によると部分的にそれぞれの曲が完成した日付が分かる.「家の紋」「近江八景」が1909年11月29日,「たけがり」が12月8日,「アサガオ」「歌へや歌へ」が同28日,翌年1月15日に「三才女」「鎌倉」「国産の歌」,同22日に「水師営の会見」,27日に「卒業」,29日に「母の心」「春が来た」「出征兵士を送る」「同胞すべて五千万」などである.会議は頻繁に開かれ急ピッチで作曲が進められ,27曲全ての作曲が完了したのは1910年2月19日である[『東京芸術大学百年史 東京音楽学校篇 第二巻』同編集委員会編(音楽の友社、2004年1月)pp. 749-772].作品は合議制で決められたので,作曲者の名前は明らかになっていないものが多い.
 収録されたは全て次の『尋常小学唱歌』に再録された.また1932年(昭和7年)の改訂増 補された『新訂尋常小学唱歌』や1941年の国民学校期に編纂された芸能科音楽教科書への移行、さらには戦後の検定教科書への移行の際も引き続き収録され、約100年経った現在でも歌い継がれている曲が 1/3 ほどある.例えば低学年用には「ツキ」「タコノウタ」「こうま」「ふじの山」,中高学年用には「春が来た」「虫のこゑ」「われは海の子」「鎌倉」などが含まれている.
内容は『尋常小学唱歌』にそのまま引き継がれているので,以下には緒言と目次をあげる. ただし第二十三曲『同胞こちら五千万』は表題と歌詞が若干変更された.



『尋常小学読本唱歌』表紙



緒言

一 本書ハ本省編纂ノ尋常小学読本中ノ歌詞ニ就キ本省ニ設置セル小学校唱歌教科書編纂委員ヲシテ作曲セシメタルモノナリ
二 「かぞへ歌」ノ曲ハ明治二十年十二月本省出版ノ幼稚園唱歌集に載セタルモノヲ其ノ侭採録セリ又「水師営の会見」「鎌倉」「国産の歌」ノ三篇ハ学年ノ程度ニ比シテ其ノ曲稍々簡易ニ過グレドモ主トシテ児童ノ記誦ヲ助ケンガ為ニ特ニ作曲セリ
三 読本の歌詞中「うめぼし」(巻五),「人のなさけ」(巻六),「花ごよみ」(巻八),「かぶりもの」(巻九),「家」(巻十),「松の下露」(巻十)ノ六編ハ其ノ結構学年相当ノ作曲ヲナスニ適サザルガ故ニ之ヲ省ケリ
     明治四十三年五月       文 部 省


目次

第一   カラス
第二   ツキ
第三   タコノウタ
第四   こうま
第五   かえるとくも
第六   ふじの山
第七   とけいのうた
第八   母の心
第九   春が来た
第十   虫のこゑ
第十一  日本の国
第十二  かぞへ歌
第十三  ゐなかの四季
第十四  家の紋
第十五  何事も精神
第十六  たけがり
第十七  近江八景
第十八  舞へや歌へや
第十九  三才女
第二十  水師営の会見
第二十一 われは海の子
第二十二 出征兵士
第二十三 同胞ここに五千万
第二十四 鎌倉
第二十五 国産の歌
第二十六 卒業
第二十七 アサガホ


『尋常小学読本唱歌』 第二十三 同胞ここに五千万

一、北は樺太千島より    南臺湾澎湖島(はうこたう)。
  大洋の波に洗はるる   大小四千(しせん)の島々に
  朝日の御旗ひるがへす  同胞ここに五千万。
二、神代(かみよ)はるけき昔より 君臣分(くんしんぶん)は定りて
  万世一系動きなき    我が皇室の大みいつ。
  あまねき光仰ぎ見る   同胞ここに五千万。
三、武勇のほまれ細戈(くはしほこ) 千足(ちたる)の国の名に負ひて
  礼儀は早く唐人(からびと)も 称(たた)へし其の名君子国(くんしこく)。
  祖先の遺風つぎつぎて  同胞ここに五千万。
四、瑞穂の国と農業は    開けぬ地なし野も山も。
  商工業の発達に     皇国(みくに)の富を起さんと
  勤勉努力たゆみなき   同胞ここに五千万。
五、智は東西の長を採り   文明古今の粹を抜く。
  建国以来三千年     歴史の跡にかんがみて
  日進月歩ゆるみなき   同胞ここに五千万。
六、東洋平和の天職は    かかる我等の肩の上。
  東方文明先進の     任務は重き日本国。
  上下(しゃうか)心を一(いつ)にして 同胞ここに五千万。
七、修身の徳是なりと    教育勅語のり給ひ
  戦後経営かくこそと   戊申の詔書かしこしや。
  大みことのりたふとびて 同胞ここに五千万。

[注] 尋常小学読本 巻十一 第二十八課 所載
[表題および歌詞の変更] 『尋常小学唱歌』第六学年用第十一では「同胞すべて六千万」と改題されたほか、 第一節「大洋の波に洗はるる 大小四千(しせん)の島々に」は「朝鮮八道おしなべて 我が大君の食(を)す国と」と変更された。


参考

復刻本:完全復刻版『尋常小学唱歌』(全6冊)(日本学舎、1977年12月)
金田一晴彦・安西愛子 編『日本の唱歌(上)』(講談社文庫、1998年9月)




以上


(2008年11月)


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