『新撰 国民唱歌』

共益商社楽器店・大阪 三木楽器店版 全三冊(1900年2月−10月)
及び 東京・大阪 開成館蔵版 全五冊(1901年7月)

小山作之助 編





共益商社楽器店発売版
『新選 国民唱歌』壹 表紙


開成館蔵版
『新撰 国民唱歌』中表紙


小山作之助
(1864(文久3年12月)-1927. 6
東京音楽学校助教授時代,数え35歳.


 『新選 国民唱歌』は小山作之助が編集した音楽普及用の歌集である.第一集が1900年2月に共益商社楽器店から発売され,続いて「新撰」と改名して大阪 三木楽器店印行として第2集・第3集,あわせて全3集として出版された.後,1901年に同じ表題で開成館蔵印行版となり,曲数を増やし全5冊として出版された.ここでは煩雑さを避けるため「新撰」で統一しておく.出版はいずれも三木佐助が発行人であり,同じ表題なのでしばしば混同されるが,開成堂版の5冊本は共益商社楽器店・三木楽器店版3冊本の新訂増補とも言うべく,中身は少し異なるので注意が必要である.

 第一集(共益商社楽器店発売)の「湊」(吉田信太作曲,空も湊も夜ははれて),第二集(三木楽器店印行)の「夏は来ぬ」(佐佐木信綱作詞,小山作之助作曲,うの花のにほふ垣根に)が何と言っても良く知られている.ただし,「夏は来ぬ」は1901年の開成館版では「夏」となり歌詞も変更された.


「夏は来ぬ」碑. (大潟中学校校庭


 第一集にある滝廉太郎作曲の「卒業式歌」は現在(2011年1月)までの時点では彼の作品目録に含まれていないので,新発見である.この曲はその後の開成館版では落とされたので,広く知られることはなかったのだろう.

 編者 小山作之助は東京音楽学校初期の教師で,彼の主催していた私的音楽塾「芝唱歌会」で滝廉太郎の才能を見出し,東京音楽学校入学を勧めた人として有名である.滝のいわば師匠であるので,遠慮もなかったと考えられる.




 共益商社楽器店・大阪三木楽器店版(全三集)  第壹集 緒言

本書ハ普通教育ニ於ケル唱歌科ニ恰好ノ新材料ヲ供給センガタメニ発行スルモノナ

本書ハ世ノ需要ノ尽キザル限リ編ヲ重ネテ続出スベシ然レドモ一ケ年間ノ発行ハ四
編ヲ超エザルモノトス
毎編収ムル所ノ新作唱歌総テ五曲乃至八曲ハ其作者ノ著名ナルト否トニ拘ラズ全ク
本書発行ノ趣旨ニ依リテ精選シ各曲ノ趣味及ビ程度ニ多少ノ相違ヲ存シテ本書ヲ購
フ人ノ臨機適用ニ便セントス
以上ハ予テ音楽ノ普及上進ニ熱心ナル三木氏ガ本書ヲ発行スルニ就キテノ期望ノ一
班ニシテ又実ニ予ガ意ヲ得タルモノナリ即チ同氏ノ懇請ヲ容レテ編者ノ任ニ当ル其
及バザル所至ラザル所ハ大方諸彦ノ忌憚ナキ高評ヲ聴キテ漸時改善センコトヲ庶幾フ

   明治三十三年二月   編 者 識


共益商社楽器店・大阪三木楽器店版(全三集)  目次

第一集(共益商社楽器店,1900年2月22日 発行)

第一  雪中の梅    作歌 下田歌子
              作曲 今井慶松
第二  小さき砂    作歌 大和田建樹
              作曲 本元子
第三  湊        作歌 旗野十一郎
              作曲 吉田信太
第四  日本海       作歌 西山実和
                作曲 近森出来治
第五  春          作歌 渡辺文雄
                作曲 高木千歌 
第六  卒業式歌     作歌 失名氏
                作曲 滝廉太郎

第二集 (大阪 三木楽器店,1900年6月14日 発行)

第一  吉野山懐古   作歌一 落合直文
                 二 白石千別
               作曲 山田源一郎
第二  夏は来ぬ    作歌 佐々木信綱
               作曲 本元子
第三  蛍         作歌 高橋穣
               作曲 目賀田萬世吉
第四  汽船        作歌 大和田建樹
                作曲 田村虎蔵
第五  鏡が浦の驟雨  作歌 渡邊文雄
                作曲 編者
第六  暑さは日々に   作歌・作曲 楠美恩三郎
第七  夏の休み     作歌・作曲 楠美恩三郎

第三集 (大阪 三木楽器店,1900年10月16日 発行)

第一  秋けしき    作歌 某 氏
              作曲 本元子
第二  菊        作歌 旗野十一郎
              作曲 本元子
第三  川中島     作歌 旗野十一郎
              作曲 本元子
第四  工業の歌     作歌 大和田建樹
                作曲 本元子
第五  漁業の歌     作歌 中村秋香
                作曲 本元子
第六  海国男児     作歌 大和田建樹
                作曲 本元子



 開成館版(全五集)  第一集 緒言

本書ハ国民教育ニ於ケル唱歌科ニ
新材料ヲ供給センガ為ニ其必要
アリト認メタルトキ逐次発行スル
モノナリ
毎集収ムルトコロノ歌曲ハ其趣味
ノ相異レルモノ数曲ニ止メ敢テ多
キヲ貪(むさぼ)ラズ是レ一ニハ其精華ヲ萃(あつ)
メントスルノ主意ト一ニハ又書冊
ノ価格ヲ低フシテ普及ニ便ナラシ
メンガ為ナリ
  明治三十四年七月  編 者 識


開成館版(全五集)(1901年7月25日発行)  目次

第一集 
第一  花の都     作歌 大和田建樹
              作曲 本元子
第二  小さき砂    作歌 大和田建樹
              作曲 本元子
第三  湊        作歌 旗野十一郎
              作曲 吉田信太
第四  養蚕        作歌 今泉定介
                作曲 益山鎌吾
第五  日本海       作歌 西山実和
                作曲 近森出来治
第六  春          作歌 渡辺文雄
                作曲 高木千歌 

第二集 
第一  夏        作歌 無名氏
              作曲 本元子
第ニ  蛍        作歌 大和田建樹
              作歌 高橋 穣
              作曲 目賀田萬世吉
第三  山景色     作歌 大和田建樹
              作曲 橋本正作
第四  汽船        作歌 大和田建樹
                作曲 田村虎蔵
第五  鏡が浦の驟雨  作歌 渡邊文雄
                作曲 本元子
第六  吉野山懐古    作歌 落合直文
                作歌 白石千別
                作曲 山田源一郎

第三集 
第一  愛国、勧学   作歌 楓鹿山人
              作曲 本元子
第二  秋景色     作歌 某 氏
              作曲 本元子
第三  川中島     作歌 旗野十一郎
              作曲 本元子
第四  工業の歌     作歌 某 氏
                作曲 本元子
第五  漁業の歌     作歌 中村秋香
                作曲 本元子
第六  海国男児     作歌 大和田建樹
                作曲 本元子

第四集 
第一  年中の歌    作歌 大和田建樹
              作曲 本元子
第二  残雪       作歌 武島又次郎
              作曲 本元子
第三  冬        作歌 小田みよし
              作曲 本元子
第四  枯野        作歌 無名氏
                作曲 本元子
第五  旅の歌       作歌 無名氏
                作曲 奥 好義
第六  草木        作歌 大和田建樹
                作曲 吉田恒三

第五集 
第一  勅語奉答    作歌 中村秋香
              作曲 小山作之助
第二  日本海軍    作歌 大和田建樹
              作曲 本元子
第三  道真卿     作歌 大和田建樹
              作曲 本元子
第四  戦闘歌       作歌 大和田建樹
                作曲 本元子
第五  祝勝歌       作歌 某氏
                作曲 本元子
第六  天長節祝歌    作歌 物集高見
                作曲 小山作之助


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共益商社楽器店・大阪 三木楽器店・十字屋楽器店 版

第一集 

m@ 第一 雪中の梅 (下田歌子 作詞 今井慶松 作曲)

  降り積もる
   雪を凌ぎて
    咲く梅は (小合)
  松の操に
   おとらざりけり
  (本曲ハ都合上小合ノ部ヲ略シ歌ノ部前後 ヲ連続シテ唱歌スルヲ得)



m@ 第二 小さき砂 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一 小さき砂の一粒も
    つもれば富士の山となる
   われらもたゆまずつとめなば
     つひには登らんあの山に
       あの峰に
二 小さき水のしたゞりも
    つもれば末は川となる
   われらも日毎に進みつゝ
     大きく育たん富士川の
       そのごとく



m@ 第三 湊 (旗野十一郎 作詞 吉田信太 作曲)

一 空も湊も 夜ははれて
     月に数ます 船のかげ
    短艇(はしけ)のかよひ にぎやかに
      よせくる波も 黄金なり
二 林如(なし)たる 帆檣(ばしら)に
     花と見まごふ 船旗章(ふなじるし)
    積荷の歌の にぎはひて
      湊はいつも 春なれや



m@ 第四 日本海 (西山実和 作詞 近森出来治 作曲)

一 日本海に 浪風を
     たゝせはせじな うらうらと
    霞むそなたに あゝ嬉し
      男々しく 見ゆる八島艦
二 四方(よも)の国辺に 名も高く
     聞えわたりし 富士艦は
    大和島根の 固めなり
      仰げ民草 万代に



m@ 第五 春 (渡辺文雄 作詞 高木千歌 作曲)

一 池に氷のあと消えて
     魚のひれふり裕(ゆたか)なり
    なぎさの蘆も角(つの)ぐみて
      なづさふ鴛鴦(おし)の夢ごゝろ
       今は長閑(のどか)になりぬらし
二 匂ふ朝日のかげ受けて
     庭にはのこる雪もなく
    羽根打伸ばし飛ぶ鳶(とび)の
      声もかすめる大ぞらは
       春のみどりを包むかな



m@ 第六 卒業式歌 (失名氏 作詞 滝廉太郎 作曲)

一 をさめしわざの数々は   我身の為と国のため
  学びしことを本(もと)として 田つくりたくみあきなふも
  いそしみはげみ身を立てゝ 人をも富まし世をとまし
  やしまの民のさとき名を  外国(とつくに)までもかゞやかせ
二 をさめしわざの数々は   我身の為と国のため
  学びしことを本として   干(たて)ともなりつ城となり
  力をつくし身をつくし   君をも守り世を守り
  やしまの民のたけき名を  外国までもかゞやかせ

[注] この滝の作品は従来知られていない.これが初出.

桜井雅人氏によるmidiは
m16Sotsugyoshikika.mid



大分合同新聞2011年5月23日朝刊記事.



第二集 

mA 第一 吉野山懐古  (一、落合直文、二、白石千別 作詞 山田源一郎 作曲)

一 吉野の山の  呼子(よぶこ)鳥
    汝(なれ)も昔を、  しのぶらん、
   御陵墓(みはか)の辺(あたり)  来てみれば、
     夕(ゆふべ)の風に、  花ぞ散る。
二 御座(みまし)を守(も)りし、  宮人の、
    魂(たま)かあらぬか、  吉野山、
   みはかのあたり、  うち廻り、
     花に交りて、  とぶ胡蝶。



mA 第二 夏は来ぬ  (佐々木信綱 作詞 小山作之助 作曲)

一 うの花の、にほふ垣根に、時鳥(ほとゝぎす)、
    早もきなきて、忍音(しのびね)もらす、夏はきぬ。
ニ さみだれの、そゝぐ山田に、賎(しづ)の女(め)が、
    裳裾ぬらして、玉苗うゝる、夏はきぬ。
三 立ばなの、かほる軒ばの、窓近く、
    蛍とびかひ、怠(おこたり)いさむる、夏はきぬ。
四 棟(あふち)ちる、川べの宿の、門(かど)遠く、
    水鶏(くひな)声して、夕月すゞしき、夏はきぬ。
五 夏はきぬ、蛍とびかひ、水鶏なき、
    卯木(うつぎ)花さき、早苗うゑわたす、夏はきぬ。

[注] 一番の「卯の花」はウツギの花. 四番の「楝」はセンダンの古名.センダンは
センダン科の落葉高木で,その実は漢方薬に使われる.香木のビャクダンをセンダン
ということもあるが,これは別種.

佐佐木信綱作詞「夏は来ぬ」の初出.この「三木楽器店版」は翌年「開成社版」5冊本
に改変されるが,その際,同じメロディーだが「夏」と改題され,詞が変更された.
更にその後『新編 教育唱歌集』8冊本で佐々木信綱の詞に戻されたので,この『新編
教育唱歌集』が永く初出であると誤解されていた[例えば,金田一晴彦・安西愛子編
『日本の唱歌 上』(講談社文庫,1979),堀内敬三・井上武士編『日本唱歌集』(岩波
文庫,1958)].これは初出本の出版期間が短くあまり出回らなかったためであろう.
1942(昭和17)年6月「国民合唱」というラジオ番組で『夏は来ぬ』が放送になった.
この時,二番の「賤の女」が「早乙女」に改められたものが放送になった.[『音楽の友』
1942(昭和17)年6月号]
何時であるかは不明だが,五番初句「夏はきぬ」は「さつきやみ」に,「卯木花さき」
は「卯の花さきて」に改められた.[上田信道,『唱歌「夏」と「夏は来ぬ」考 (1) (2)
(3)』,「児童文学資料研究」No. 94 (2003年11月15日),No. 95 (2004年2月15日),
No. 96 (2004年5月15日); 池田小百合『夏は来ぬ−その伝説と事実』]

歌唱は
夏は来ぬ(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=UeZ9GyInxNg



mA 第三 蛍  (高橋 穣 作詞 目賀田萬世吉 作曲)

一 蛍よほたる、ぬばたまの、
    やみを照らして、飛べほたる、
   木の間を縫いて、上に下に、
     緒をぬき乱しし、玉の光あはれ。
ニ 蛍よほたる、唐人(からびと)の、
    学びの窓を、照らしける、
   そのいさをしは、いまもなほ、
     しるけくありけり、汝(なれ)が光あはれ。、



mA 第四 汽船  (大和田建樹 作詞 田村虎蔵 作曲)

一 汽笛一声、こゝちよく、船は港を、離れたり、
  とゞろく車、たなびく煙、望を胸にあつめつゝ、
  はや横浜をはなれたり。
ニ 観音崎の、燈台は、見る見るあれに近づきぬ、
  飛びたつ鴎、出(いで)入る帆かげ、絵によく似たる、
  海原を、はしる船路の、愉快さよ。
三 東京湾も、はやすぎて、針路は右に転じたり、
  はてなき波路、つらなる雲路、此海こそは、
  忘るなよ、日本男児の、故郷(ふるさと)ぞ。



mA 第五 鏡が浦の驟雨  (渡邊文雄 作詞 小山作之助 作曲)

一 雲よせきたる、雲よせきたる、伊予がたけより、雲よせきたる、
   窓にむき立つ、「アノ」しろ山も、沖合ちかき、二つの島も、
  「アレアレアレアレ」 たちまちに奈落の底に、しづめるごとに、
    かげかきけされて、鳴神はげしく、ゆふだちきたれり。
二 雲はれゆきぬ、雲はれゆきぬ、天城のみねに、雲はれゆきぬ、
   大空出(い)でたる、「アノ」月かげは、山また岡の、木立の繁みを、
  「アレアレアレアレ」 あらはして、水天わかちて、波間に玉ちる、
   けしきを見せつゝ、かゞみが浦にも、うつりてすゞし。



mA 第六 暑さは日々に  (楠美恩三郎 作詞 作曲)

一 暑さは日に日に、ますなれば、
    先生御身を、大切に、
  我等も飲食(のみくひ)、気をつけて、
     教へのとほりに、暮しませう。
二 一所にここで、あそぶのも、
    当分今日で、おしまひよ、
  ことなく休みが、すぎたらば、
    またまた中よく、唱ひませう。



mA 第七  夏の休み  (楠美恩三郎 作詞 作曲)

一 夏の休みも、はやすぎて、
    皆々達者で、けふここに、
  御機嫌よろしき、先生の、
    御目にかかれる、嬉しさよ。
二 雨にも風にも、弱らずに、
    あすより朝とく、あつまりて、
  学ぶも遊ぶも、先生の、
    仰せの通りに、いたしませう。



第三集 

mB 第一 秋けしき  (某 氏 作詞 小山作之助 作曲)

一 あやをみだす池水に、おのが影逐ふ、
  秋津むし、風もかろし、身もかろし、
  うかれうかれて、そゝりゆく、
  あゝこの秋げしき、あゝこの秋げしき。
二 落葉をどる風の手に、くるふ小猫も、
  またをどる、よろづよろしみのりよし、
  里の祭は、人をどる、
  あゝこの秋げしき、あゝこの秋げしき。
三 吹けよ野わき吹けばとて、伊達はくづさぬ、
  鶏頭花(けいとうげ)、つゆは珠のかんむりと、
  だてをくらべよ、をみなへし、
  ああこの秋げしき、あゝこの秋げしき。

[注] 第一聯2行目の「秋津むし」は「トンボ」の事.



mB 第二 菊  (旗野十一郎 作詞 小山作之助 作曲)

一 七草 千草の、 おほかる 秋に、
   一きは 目だちて、 匂ふは 菊よ。
二 紅葉は 散り過ぎ、 霜さへおくに、
   園生の 垣根を、 守るは 菊よ。
三 きくより増す花、 なしとや いはむ、
   畏こき 天皇(みかど)の、 御旗の徽号(しるし)。



mB 第三 川中島  (旗野十一郎 作詞 小山作之助 作曲)

一 西条山は、霧ふかし、
   筑摩の河は、浪あらし、
  遥にきこゆる、物音は
   逆捲水(さかまくみづ)か、つはものか、
  昇る朝日に、旗の手の、
   きらめくひまに、
    くるくるくる。
二 車がかりの、陣ぞなへ、
   めぐるあひづの、鬨声(ときのこへ)
  あはせるかひも、あらし吹く、
   敵を木の葉と、かきみだす、
  川中島の、戦は、
   かたるも聞(きく)も、
    勇ましや。

[注] 第一聯2行目の「筑摩の河」は「千曲川」の事.



mB 第四 工業の歌  (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一 機械手作り 様々に、   世の工業は 多けれど、
  先づさし物を 始とし、  鋳物塗物 細工物、
  是につゞきて 焼物は、  人間必須(ひっしゅ)の 道具なり。
ニ 鍋と釜とは 鋳物にて、  箪笥火鉢は さし物ぞ、
  茶碗皿鉢 瓶(かめ)土瓶、 伊万里七宝 九谷焼、
  皆焼物の 内なれど、   茶碗の類を 瀬戸といふ。
三 さて塗物は 万国に、   たぐひなし地や 高蒔絵、
  らでんの類は 美術品、  その他膳椀 箱枕、
  日用品を 数ふれば、   秋の千草に ことならず。
四 なほも編物 革細工、   ろくろ細工に 竹細工、
  絹麻木綿 毛織物、    ガラス造るも 紙すくも、
  ほり物するも 傘張るも、 皆大切の 工業ぞ。
五 かせぐは身の為 国の為、 勉め励めや 人々よ、
  めぐる車に 苔つかず、  走る水には 氷なし、
  二度と又来ぬ 青年の、  時をすごすな 徒(いたづら)に。



mB 第五 漁業の歌  (中村秋香 作詞 小山作之助 作曲)

一 見渡す限り、遥々(はるばる)と、海原うづむ、漁業船、
  獲物を祝ふ、声々は、天を揺(ゆす)りて、空かきくもり、
    海を動し、波ひるがへる、あなこゝちよや、勇ましや。
ニ 見渡す限り、はてもなく、浜辺に築く、魚の山、
  此山こそは、我国の、富国の礎(いしづゑ)、利民の基(もとゐ)、
    茂き立木の、何たぐひぞは、あなたふとしや、愛(めで)たしや。



mB 第六 海国男児  (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一 さかまく波を、蹴破りて、
   怒れる波を、突切りて、
  車輪を万里に、進むべし、
   新に世界も、開くべし、
  我が海国の、大丈夫(ますらを)よ、
   事業は多し、いざ行けや。
ニ 波も颶風(はやて)も、黒潮も、
   慣るれば友よ、よき友ぞ、
  男児生れて、海国の、
   民となるこそ、愉快なれ、
  行けや開けや、人のあと、
   まだ見ぬ国の、はて迄も。
三 星は照らして、空にあり、
   羅針は示して、船にあり、
  氷の海の、波とても、
   破るに何か、難(かた)からん、
  わが海国の、大丈夫よ、
   名誉は遠し、いざ進め。





開成館版

第一集 

@ 第一 花の都 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一 花の都のおもしろの春べや、四方(よも)に心ぞうかるゝ、
ニ 春日(はるび)のどかに打ち霞む遠近(をちこち)、梅を見にゆくたのしさ、
三 隅田上野に船車つらねて、花にくらすか人々、
四 あさり蛤おもふまゝ集めて、かへる汐干の夕ぐれ、
五 町のともし火ほのぐらく見えつゝ、おぼろ月夜もふけたり、
六 夏のけしきも面白の都や、蝉の羽袖もかろげに、
七 若葉をぐらく茂りたる中より、藤のにほふもなつかし、
八 蛍見がてら関口にあそべば、小田の水鶏(くひな)もなきたり、
九 空に飛び散る星かげは花火よ、あれといふまに消えゆく、
十 蓮の花さく忍ばずの池には、夕日すゞしくのこれけり、
    (以下二十番までを略)



@ 第二 小さき砂 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

[注] 共益商社楽器店版第一集 第二曲と同一.

@ 第三 湊 (旗野十一郎 作詞 吉田信太 作曲)

[注] 共益商社楽器店版第一集 第三曲と同一.

@ 第四 養蚕 (今泉定介 作詞 益山鎌吾 作曲)

一 蚕(こ)かひの道は千早振る 神の御代より伝へ来て
  我国人の今もなほ      いそしみつとむる道ぞかし。
ニ 古(ふ)りにし世には久方の 雲井の庭にも真桑植ゑ
  たかきいやしきおしなべて  いそしみつとめし道ぞかし。
三 開けし御代は八洲国     海の外まで年々に
  積行くみれば此糸の     国の益をもしらるべし。
四 されば事業(ことわざ)しげき世は いづれはあれどあれどなほ
  おみななわはも国のため   つくさむ道はこれのみぞ。



@ 第五 日本海 (西山実和 作詞 近森出来治 作曲)

一 略
二 略
三 さかゆく 御代の春風に
     なびく御旗の 旭日艦
    かゞやき渡る 大君の
     みいつは海の はてまでも

[注] 第一・第二番は共益楽器店版第一集 第四曲と同一.

@ 第六 春 (渡辺文雄 作詞 高木千歌 作曲)

[注] 共益楽器店版第一集 第五曲と同一.


第二集 

A 第一 夏  (無名氏 作詞 小山作之助 作曲)

一 あたらしく、ほりたる池に、水ためて、
       金魚はなさん、夏こそ今よ、いざ来れ、
二 手をうてば、群くる鯉を、数へつゝ、
       橋を渡らん、夏こそ今よ、いざ来れ、
三 おとゞひが、作りあひたる、築山に、
       苔をはやさん、夏こそ今よ、いざ来れ、
四 葉桜の、若葉すゞしき、下蔭(したかげ)に、
       釣床(つりとこ)つらん、夏こそ今よ、いざ来れ、
五 そよ風の、ふきくる夕べ、ぶらんこに、
       のりて遊ばん、夏こそ今よ、いざ来れ、
六 紫に、菖蒲花さく、公園を、
       そゞろあるかん、夏こそ今よ、いざ来れ、
七 蓮の葉の、丸く浮べる、田の水に、
       目高(めだか)すくはん、夏こそ今よ、いざ来れ、
八 こゝかしこ、蜻蛉おひつゝ、疲るれば、
       草にねころぶ、夏こそ今よ、いざ来れ、
九 夜に入れば、手に手に笹を、持ちいでゝ、
       ほたる狩せん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十 凉しくも、出でくる月を、松に見て、
       唱歌うたはん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十一 とく起きて、咲き初めたる、朝顔の、
       花をかぞへん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十二 玉よりも、清く光りの、朝露を、
       ふみ心地よき、夏こそ今よ、いざ来れ、
十三 朝毎に、父を助けて、庭はきて、
       草に水やる、夏こそ今よ、いざ来れ、
十四 学校の、休みにならば、父上と、
       山のぼりせん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十五 登山する、富士のふもとに、わらぢをも、
       はき習ふべき、夏こそ今よ、いざ来れ、
十六 谷がけの、瀧に打たれて、心まで、
       清く洗はん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十七 あら波の、寄せ来る磯に、潮あびて、
       からだ鍛(きた)はん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十八 海原(うなはら)に、盥(たらひ)うかべて、海士(あま)の子と、
       遊びくらさん、夏こそ今よ、いざ来れ、
十九 うちつれて、ボートすゝめて、海国の、
       男児ならはん、夏こそ今よ、いざ来れ、
二十 学校の、休みのひまに、国のため、
       身を固むべき、夏こそ今よ、いざ来れ、

[注] 歌詞は良く知られた佐佐木之信綱作詞の三木楽器店版第二集第二
『夏は来ぬ』と異なるが,曲は同一.

A 第ニ 蛍  (大和田建樹・高橋 穣 作詞 目賀田萬世吉 作曲)

一 いざこよ蛍、こゝに来て、   照らせ文よむ、わが窓を、
  三つ四つ二つ、露とちり、   玉とぞかゞやく、おもしろの虫よ、
ニ いざこよ蛍、こゝに来て、   ともせ暗夜の、ともし火を、
  集めし人の、昔まで、     おもひぞやらるゝ、なつかしの虫よ、
三 蛍よほたる、ぬばたまの、   暗を照して、飛べほたる、
  木の間を縫いて、上に下に、  緒をぬき乱しゝ、玉の光あはれ、
四 蛍よほたる、唐人(からびた)の、 学びの窓を、照らしける、
  そのいさをしは、いまも猶、  しるけくありけり、汝(なれ)が光あはれ、

[注] 三木楽器店版第二集第三「蛍」の歌詞のみ大和田建樹が手を入れ変更された.

A 第三 山景色 (大和田建樹 作詞 橋本正作 作曲)

一 梢の蝉の声たえて
    早さきいづる野辺の花
      秋萩桔梗女郎花(おみなへし)
ニ 初茸山に分け入れば
    色づきそめし林には
      目白の声も聞えけり
三 稲かる人は田にいでゝ
    はたらくさまのいそがしさ
      夕日のかげの消ゆる迄
四 忽ち軒に音するは
    嵐か雨かもみぢばか
      拾へや庭の落栗を



A 第四 汽船  (大和田建樹 作詞 田村虎蔵 作曲)

[注] 三木楽器店版第二集第四と同一.

A 第五 鏡が浦の驟雨  (渡邊文雄 作詞 小山作之助 作曲)

[注] 三木楽器店版第二集第五と同一.

A 第六 吉野山懐古  (一、落合直文、二、白石千別 作詞 山田源一郎 作曲)

[注] 三木楽器店版第二集第一と同一.


第三集 

B 第一 愛国の歌 (楓鹿山人 作詞 小山作之助 作曲)

一 御国を  愛せよ、  生れし  国を
             住家も  茲ぞや、  ふせげや  ふせげ、
ニ 御国は  祖先の、  治まる  土地ぞ、
             墳墓を  汚さず、  まもれや  まもれ、
三 恵める  主上に、  誠を   尽せ、
             主上は  貴き、   父母    なるぞ、
四 他国に  類なき、  三種の  神器、
             仰げば  貴とし、  日の出の  御稜威(みいづ)、
五 四方(よも)には 果なき、 海原 めぐり、
             内には  祭れる、  神おび   たゝし、
     (以下十番まで略)

     勧学の歌
一 文かき  学びて、  智識を  磨け、
             智識は  世界の、  開くる   基(もとゐ)、
ニ わが家  思ふも、  御国の  為ぞ、
             天皇(みかど)の 教へを、 忘るな 人よ、
三 蛍の   光と、   窓おく  雪に、
             励みし  昔しに、  劣らず   学べ、
四 生れて  知りたる、 例(ため)しは なきぞ、
             習ひて  覚へて、  おこなひ  果げよ、
五 すぎにし 昔しの、  歴史を  知りて、
             物事   するにも、 鑑と    せよや、
     (以下十番まで略)



B 第二 秋景色 (某 氏 作詞 小山作之助 作曲)

[注] 歌詞と曲は三木楽器店版 第三集第一曲と同一.

B 第三 川中島 (旗野十一郎 作詞 小山作之助 作曲)

[注] 歌詞と曲は三木楽器店版 第三集第三曲と同一.

B 第四 工業の歌 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

[注] 歌詞と曲は三木楽器店版 第三集第四曲と同一.

B 第五 漁業の歌 (中村秋香 作詞 小山作之助 作曲)

[注] 歌詞と曲は三木楽器店版 第三集第五曲と同一.

B 第六 海国男児 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一番 略
二番 略
三番 略
四 底にかゞやく、珊瑚あり、
   波には浮べる、鯨あり、
  一たび網を、おろしなば、
   数万の富も、得らるべし、
  宝つきせぬ、海原に、
   版図をひろめ、いざ民よ。

[注] 歌詞の一番から三番と曲譜は三木楽器店版 第三集第六曲と同一.


第四集 

C 第一 年中の歌 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一月 あけゆく空の初霞、     うす紫に棚びきて、
   のぼる朝日ののどけさは、  春の光になりにけり、
二月 梅のつぼみもふくらみて、  まどの日かげの暖かさ、
   名高き寺の紅梅も、     みがてらいざや散歩せん、
三月 垣根の桃の花見れば、    南は赤く北白し、
   折りておくらん一枝を、   初雛まつりする家に、
四月 汐干にいでゝ貝ほれば、   あさり蛤かずおほく、
   きのふも籠に満ちにけり、  けふ又ゆかん父上と、
五月 茶摘の歌の聞ゆるは、    はやくも夏になりぬらん、
   いちごとりつゝ遊びたる、  故郷の山ぞおもはるゝ、
六月 門田のおもに賤の女が、   うゑし早苗の葉末より、
   夜はみだれて飛ぶ蛍、    あつめてゆかんわが袖に、
        (以下十二月まで省略)



C 第二 残雪 (武島又次郎 作詞 小山作之助 作曲)

一 今は限りぞ山の端よ、今は限りぞ山の端よ、
   こぞの師走の降りこほり、木枯さえし其日より、
    汝(な)があたゝけき胸のへに、われをかくしゝ山の端よ、
ニ 今は限りぞ山かはよ、今は限りぞ山かはよ、
   ねられぬ冬の夜々は、わが枕辺をすぎがてに、
    しらべをかしき音(ね)をたてゝ、われなぐさめし山かはよ、
三 立ち帰り来る初春に、こちふく風もぬるみつゝ、
   かすみそめたる谷の戸を、かたりていづる鳥見れば、
    われ世の中にあとたえて、消えなむ時は来りけり、
四 あはれ山の端汝が峯の、松のみどりのきはみなく、
   あはれ山かは汝が底の、さゞれの石の限りなく、
    心したしき友どちと、千代も経んとは思へども、
       (以下八番まで略)



C 第三 冬 (小田みよし 作詞 小山作之助 作曲)

一 枯野に立てる一つ松   垣根に残る菊の花
  みさほをくらぶ色と香と みさほをくらぶ色と香と
ニ こずゑを見れば色深し  下枝(しづえ)を見れば色浅し
  時雨も紅葉染め分けぬ  時雨も紅葉染め分けぬ
三 降りしき積る今朝の雪  咲き初めいづる冬の梅
  香にこそ花としられけれ 香にこそ花としられけれ



C 第四 枯野 (無名氏 作詞 小山作之助 作曲)

一 ながめは枯れぬ、 大野原、
   冬のけしきも、 おもしろや、
    置く霜八重に、 花さきて、
     けさは寒さの、 盛りかな、
ニ 百草(ももくさ)千草、 冬枯れて、
   霜の花野と、 なりにけり、
    見わたし遠く、 うち晴れて、
     知らぬ小鳥の、 群れて飛ぶ、



C 第五 旅の歌 (無名氏 作詞 奥好義 作曲)

一 窓打つ嵐に、 夢はたえて、
   千里(ちさと)をゆきかふ、 旅のこゝろ、
    あるじに別れし、 窓の月は、
     今宵もゑがくか、 竹の影を、
二 秋風ふきしく 、庭のすゝき,
   面影まねくも、 今は夢路、
    枕に落ちくる、 鐘のこゑも、
     かぞへておもへば、 はやも三年(みとせ)、



C 第六 草木 (大和田建樹 作詞 吉田恒三 作曲)

一 植ゑたる庭の草も木も  心つくして守らずば
  いかで花さき実るべき  そだてよ人の手をかけて
ニ 守り育てし草にこそ   色よき花は匂ふなれ
  こがね波うつ山吹も   雪をいたゞく白菊も
三 守りそだてし枝にこそ  秋の木の実は熟すなれ
  庭の橘山の栗      柿も蜜柑もとりどりに
四 蝶にしたしむ花の香も  蜂にすはるゝ実の味も
  守る心の末とげて    もてはやさるゝ嬉しさよ



第五集 

D 第一 勅語奉答 (中村秋香 作詞 小山作之助 作曲)

  あな、たふとしな、
  大勅語(おほみこと)。
  みこと の 趣旨(むね)を、心に刻(え)り
  て 露も そむかじ、朝夕に、
  あな、たふとしな、
  大勅語。

[注] 『勅語奉答』は元々『祝日大祭日唱歌』(1891年8月)の勝安房(海舟)作詩・
小山作之助作曲のもの 勝安房 作詞 『勅語奉答』 があるが,小学生低学年には
難しいというので簡略版として作られた.



D 第二 日本海軍 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

  「扶桑」の空に聳え立つ    「富士」の高嶺の「朝日」かげ
  かゞやく「吉野」の桜花     かをる誉の「高雄」山(やま)
  栄ゆる影も「常盤」なる     松の操の「松島」と
  世界にひびく我が国の     武威「高砂」の浦の波
  寄せなば寄せよ鉄石の    砦はかたき「天城」山
  楯を枕に「敷島」の       「大和」心の「明石」がた
  「須磨」「厳島」あとに見て   国に命を「筑紫」路や
  雲に秀づる「高千穂」の    嶺より高き大君の
  御稜威(みいつ)溢るる「秋津」島  引きはかへらぬ武士(ものゝふ)の
  心の弓の「八島」がた      「八雲」「八重」山千代かけて
  まもる「千代田」の宮柱     立つる功(いさほ)は「千早」ぶる
  神のめぐみの「筑波」山    動かぬ御代を世に示す
  「金剛」「磐城(ばんじょう)」「摩耶」「愛宕」  「赤城」「葛城」「鳥海」 山
  「浪速」あれども「信濃」なる  「浅間」の嶽に立つけぶり
  遠近(おちこち)人も仰ぐらん  「三笠」の山にさし登る
  月こそ照らせ「武蔵」野の    「吾妻」の奥の果までも
  その「大島」の海までも     変らぬ御代の御光りを
  「初瀬」「龍田」の紅葉ばに   見せて染めなす秋の色
  「笠置」の麓行く川の       「和泉」と共にいさぎよき
  日本男児の赤心(まごころ)は 「磐手」の躑躅(つゝじ)「橋立」の
  「千歳」の松かいにしへの    「宮古」鎮むる「比叡<」山(やま)
  山風荒く吹き捲きて       荒れ立つ雲の「出雲」艦
  わが帝国の海門に        ひそめる数万の「天竜」の
  み空に翔(かけ)らん雄々しさよ  千里に翔らんをゝしさよ
  守れや「鎮遠(チンエン)」「済遠(サイエン)」艦   万国一系の帝国を
  まもれや「平遠(ヘイエン)」「操江(ソウコー)」艦  皇統無窮の神国を

[注] 後の『日本海軍』(東京・大阪開成館,1904年1月)で歌詞は改作された.
金田一晴彦・安西愛子『日本の唱歌(下)』pp. 150-153参照.
原本では歌詞の艦名は太字で表記してあるが,ここでは「」でくくった.

改作された歌詞の歌唱は
《軍歌》日本海軍
http://youtube.com/watch?v=fiijvC3HEEI



D 第三 道真卿 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

一 ふり埋む雪を侵して さく梅の春の初花
  天地にみちわたる  色香は千代に散らず朽せじ
ニ 藤原の家人(いへびと)ならぬ  儒者の身の俄にのぼる
  ためしなき雲の上  君のめぐみに答へざらめや
三 身も知らず家も忘れて 真心に仕へしものを
  おもひきや雲いでゝ 月の光を隠すべしとは
四 心にもあらぬ讒者(ざんしゃ)の 讒言になきぬれぎぬを
  きせられて罪人と  定まる此身夢かうつゝか
五 わがためは神やいまさぬ わがためは月日や照らぬ
  すつる身は厭はねど 心にかかる御世の行すゑ
六 かへりみる都の空は 雲ふかし朝廷は何処
  わが友と見なれつる 軒端の梅よ春を忘るな
七 去年(こぞ)の秋たまひし御衣(ぎょい)は 身につけて今も離さず
  そのめぐみそのなさけ おもへば涙そでもたもとも
八 都府楼の瓦(いらか)は見れど 観音寺かねはきけども
  あけくれに夜昼に  いつなぐさまん憂ある身は
九 家いでゝ三年(みとせ)になりぬ 都には何事かある
  つくしがた月きよし 沈む光は曇らぬものを
十 大君の御言(みこと)によりて 祭らるる御霊たふとめ
  文の道文字の道   つきぬ都の栄あふぎて



D 第四 戦闘歌 (大和田建樹 作詞 小山作之助 作曲)

     陸軍
一 寄せ来るは敵よ敵よ  進め筒を手にとりて
   くだけちる玉のあはれ 野辺を走る稲光
    見よや騎兵はつき入りぬ 敵のそなへはくづれたり
ニ 崩るゝは敵よ敵よ   あれにひゞく鬨(とき)の声
   我ははや勝利なるぞ  追へや追へや追ひつめて
    蹄にかけよ敵兵を   とりこになせや敵兵を

     海軍
一 黒烟空に吐きて   すすみ来る敵の船
   一うちに打ち沈めて  敵の肝をひやさせよ
    わが東洋の海原に   わが国守るつはものよ
ニ 見渡せば沈みかゝる  船のマスト旗のかげ
   矛とりし敵はいづこ  残るものは波の声
    とむらへ彼の敗軍を  祝へや我の戦捷を



D 第五 祝勝歌 (某氏 作詞 小山作之助 作曲)

一 今日は如何なる吉日ぞ  今日は如何なる紀念日ぞ
  陸には砲台攻め落し   海には軍艦うちしづめ
  戦ふごとに勝ちえたる  凱歌をあぐる今日なるぞ
  太平洋も裂くるまで   世界を震はし連呼せよ
  陸軍万歳万万歳     海軍万歳万万歳
ニ 今日は如何なる吉日ぞ  今日は如何なる紀念日ぞ
  東洋最大強国と     世界に歓迎せらるべき
  武名を揚げたる我国の  勝利を祝ふ今日なるぞ
  ヒマラヤ山もくづるまで 反響(こだま)にかへして観呼せよ
  帝国万歳万々歳     皇国万歳万万歳



D 第六 天長節祝歌 (物集高見 作詞 小山作之助 作曲)

一 大風(たいふう)おこりて  雲きりの
      かぎり消たる  大君の
    御代のみかげも  御光も
        軒にかゞやく  日の丸の
      国旗の上に  仰ぎつゝ
          祝ふか今日を  千代までも
ニ 天地にとゞろく  百雷の
      一時に震ふ  砲声も
    のどかにて聞く  君が代の
        秋のたのみの  数々も
      平手やひらで  打ちそへて
          祝ふか今日を  千代までも




以上

(2010年6月)

[2011. 1. 01] 3冊本第2集(三木楽器店印行)を加えた.東京芸大図書館蔵.
[2011. 1. 22] 3冊本第1集(共益社楽器店版)を加えた.愛知教育大図書館蔵.
         資料を手配していただいた長沼健氏に感謝する.
[2011. 3. 14] 3冊本第3集(三木楽器店印行)を加えた.東京音楽大図書館蔵.
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