『新訂高等小学唱歌 伴奏付』全三冊

文部省編(1935 年




中表紙.

奥付.




  目次

第三学年用 

B 一  皇国(三部合唱) (男01 女01)
B 二  花見 (男02 女02)
B 三  歓喜(二部合唱) (男03 女03)
B 四  若き我等 (男04 女04)
B 五  園芸 (男05 女05)
B 六  煙 (男06 女06)
B 七  暁の調 (男07 女07)
B 八  北条時宗 (男08 女--)
B 九  朝の海 (男09 女08)
B一〇  人は信ず (男10 女--)
B一一  舟歌 (男11 女--)
B一二  古沼の藻の花 (男12 女09)
B一三  秋の調(三部合唱) (男13 女10)
B一四  静夜曲 (男-- 女11)
B一五  月光 (男-- 女12)
B一六  長柄堤の訣別 (男14 女--)
B一七  福原遷都 (男15 女13)
B一八  月夜の田園 (男16 女14)
B一九  稲刈 (男17 女15)
B二〇  甲冑堂 (男-- 女16)
B二一  山茶花三題 (男18 女17)
B二二  煤掃(二声輪唱) (男19 女18)
B二三  日の御旗 (男20 女19)
B二四  千鳥 (男-- 女20)
B二五  新島守 (男21 女21)
B二六  冬の輿 (男22 女--)
B二七  興国の民(二部合唱) (男23 女22)
B二八  胡蝶の舞(独唱及び三部合唱) (男-- 女23)
B二九  大原御幸 (男24 女24)




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第三学年用 

(1934年3月 発行)

B 一  皇国(三部合唱) (男01 女01)

一 皇国(すめらみくに)の 大君は、
  三(み)つの御たから うけつぎて をさめたまへり、大八洲(おほやしま)、
  御稜威(みいつ)たふとく、 あきらけく。
二 皇国の 民草(たみぐさ)は、
  君の御たてと、かしこみて 尽くしはげめり、ひとすぢに、
  赤き真心 かたむけて。
三 皇国の いしずゑは、
  かたき巌根に、太柱 建てて栄えて、ひろごりて、
  千代に八千代に ゆるぎなし。



B 二  花見 (男02 女02)

一 いざゆかん、花見に。
  のどけき 春の日を
  爛漫と 咲く桜の 花かげに、
  たのしく あそび 暮らさん。
   たのしく あそび 暮らさん
二 あなたのし、花見は。
  若きも、老いたるも
  うち連れて、咲く桜の 花かげに、
  したしく あそび 喜ぶ。
   したしく あそび 喜ぶ。
三 ああうれし、花見る
  こころは、何かおもふ
  こともなく、咲く桜に 鳥のごと
  たのしく あそび 戯る。
   たのしく あそび 戯る。



B 三  歓喜(二部合唱) (男03 女03)

一 野に、山に、小鳥なく日、
  霞の奥にきそひ咲きて、
  紅に、黄に、紫に、
  花こそ ほほゑめ、春の歓喜。
     大八洲(おほやしま) 日本(やまと)の国に生まれし歓喜。
   我等の歓喜。
二 海広く 四方(よも)にめぐり、
  湖・流(ながれ)、到るところ、
  永き日も、暮知らず、
泳(およぎ)を きそふや、夏の歓喜。
   大八洲 日本の国に生まれし歓喜。
   我等の歓喜。
三 地の恵、天の恵、
  山辺に、野辺に、村に、里に、
  草に、木にあまねくて、
  実のりも 豊けき 秋の歓喜。
   大八洲 日本の国に生まれし歓喜。
   我等の歓喜。
四 陽は、空に 高く昇り、
  早くも起きて 業(わざ)に励む
  子らを褒め、温(あたたか)き
  光に かがやく、冬の歓喜。
   大八洲 日本の国に生まれし歓喜。
   我等の歓喜。



B 四  若き我等 (男04 女04)

一 青葉・若葉にかをる風、
  山路に、野路に、萌ゆる草。
   清きを誇る若人の あかき血汐の高鳴りて、
    きけ、何処(いづこ)にて 誰(た)がすさぶ、
    たへなる節(ふし)の 楽の音(ね)を。
二 永久(とは)にかはらず 大空を
  輝きわたる 日かげ 見よ。
   恐れず、おぢず、疑はず、直く、正しく、一すぢに、
    ただ進みゆく 行手には、
    望(のぞみ)の高嶺 笑みてあり。
三 朝(あした)・夕(ゆふべ)の雲のいろ、
  かをるや、笑むや、四時(しじ)の花。
   来鳴くは小鳥、舞ふは蝶、たえず涌出る森の水。
    ああ、面白の天地(あめつち)に、
    若きを幸の 我等かな。



B 五  園芸 (男05 女05)

一 春咲く種は秋にまき、
  秋咲く種は春にまく。
  花の咲く日を待ちのぞみ、
  培(つちか)ふ身こそ樂しけれ。
二 小さき荅(つぼみ)、もえ出(づ)る葉、
  枝にも、根にも命あり。
  育てがひある草や木に、
  ものこそいはね、親しみて。
三 朝には朝の光さし、
  夜には夜の露ぞ置く。
  時の恵と力とに、
  添へよや、人のまごころも。



B 六  煙 (男06 女06)

一 煙は上る、朝の空。
  野辺はいまだ日影ささねど、紫にほふ山の峡(かひ)に、
  浮世を離れ、名利を捨てて、
  たふとく住みなすゆかしき人の
  こころをさながら靡くよ、空へ、
  靜かに溶けゆく その白煙(しろけむり)。
二 煙は流る、夕(ゆふべ)の空。
  家家すでに霧に沈めど、巨人の如く鎔爐(ようろ)は立ちて、
  たぎる真鉄(まがね)のうめきの中に、
  紅蓮の焔(ほのほ)と戦ふ人の
  雄雄しき意氣をはくなり、空へ。
  わき立ち、渦巻く その黒煙。

B 七  暁の調 (男07 女07)

一 三部 風はそよぎ、東雲(しののめ)の 色はさえたり、水平線。
   一部 輝(かがやき)滿ちたり、大空に。
       諸人目覚めよ、目覺よ、とく。
   二部 ああ、うるはしき 曙よ。
  三部 茜もゆる かの空に
      駆けりゆくか、わが心。ああ。
      駆けりゆくか、わが心。ああ、ああ、ああ。
二 三部 光躍る 朝焼けの 波に群飛ぶ かもめ鳥。
   一部 輝(かがやき)滿ちたり、海原に。
       諸人目覚めよ、目覚めよ、とく。
   二部 ああ、幸(さひわひ)の 暁よ。
  三部 朝(あした)栄(は)ゆる かの空に
      駆けりゆくか、わが望。ああ。
      駆けりゆくか、わが望。ああ、ああ、ああ、ああ。



B 八  北条時宗 (男08 女--)

一 日本国を あなどれる
  元(げん)の使者 杜世忠(とせいちゅう)、
  鎌倉に 斬らしめし
  相模太郎 時宗よ。
   ああ、その断行、その勇気。
二 幾百万の 敵の兵、
  何せんや、おそれんや。
  多多良浜 かためたる
  相模太郎 時宗よ。
   ああ、その決心、その剛気。
三 執権職の 名を揚げて、
  わが君と 国のため、
  まごころを 尽くしたる
  相模太郎 時宗よ。
   ああ、その勲功、その名誉。



B 九  朝の海 (男09 女08)

  朝は来(きた)れり。
  浄められたる 海面(うみづら)には、
  何ものも見えねど、
  海に棲める無数の生物(いきもの)、
  尾ふり、鰭(ひれ)ふり、
  海草のかげより、
  岩礁の根より、
  各(おのおの)、やからを伴なひ
  朝の光を慕ひつつ、
  海面近く泳ぎ来り、
  泳ぎ去り、
  歓(よろこび)の潮(うしほ)は声あげて
  うねり、うねり、
  朝の海は 輝きわたる。



B一〇  人は信ず (男10 女--)

一 人は信ず、
  漠漠たる暗雲
  一天に覆ひかぶさるも、
  必ず 靄(もや)消え、雲散じて
  晴れわたる日のあることを。
二 人は信ず、
  赫赫たる太陽
  西山に沈み隠るるも、
  必ず 夜は去り、朝ひらけて
  東天に日出づることを。
三 人は信ず、
  転転たる地球は
  廻転し、絶えず、止まざるも、
  必ず 春行き、夏来りて、
  軌道より外(そ)れざることを。



B一一  舟歌 (男11 女--)

一 舟歌は 聞えぬ、
    水の面(も)を 渡りて
   靜けく、清く。
  この日ごろ 朝な 朝なに。
二 舟人は 見えねど、
    水の面に、歌声、
   残りて 長し。
  朝まだき いづち ゆくらん。
三 遠(をち)かたの 舟歌、
    ほのぼのと 渡るを
   聞きつつ、我は、
  朝毎に 心 さやけし。



B一二  古沼の藻の花 (男12 女09)

一 山の古沼(ふるぬ)に、
  月かげの
  雲間を洩れし その刹那、
  水あびゐたる 妖女らの
  姿は消えて、
   靄(もや) はれて、
  藻の花の 白きが、あまた
  小さく咲きぬ。
二 城の姫君、
  うすぎぬに、
  暁早き 沼沿(ぞひ)の
  草露ふみて、よろこびの
  歌声消えて、
   靄 はれて、
  藻の花の 紅きが、一つ
  大きく咲きぬ。



B一三  秋の調(三部合唱) (男13 女10)

一 秋の調の ゆかしくも、
  手にくむ水の
  中にすら、
  月のかげさへ 宿るなり。
二 雲は、み空の あちこちに
  ゆきてはかへり、
  かへりては、
  尽きぬさまこそ 見するなれ。
三 朝に、夕に、白露は、
  いとまろやかに
  清らけく、
  草の葉末に 宿りつつ。
四 赤く熟れにし 草の実に、
  野の鳥さへも
  集ひ来て、
  鳴く声高く 友を呼ぶ。



B一四  静夜曲 (男-- 女11)

一 窓を開きて 仰ぎ見る、
  遠くかかれる 天の川。
   曇らぬ月は、さえざえと、
   我が庭の面(も)に 照りはえぬ。
  歌はん友よ、語らん友よ。
  ああ、靜かなり、夜の窓。
二 窓を開きて 仰ぎ見る、
  遠く鳴きゆく かりがねよ。
    雲なきみ空、はるばると
    我も行きたし、ふる里へ。
  歌はん友よ、語らん友よ。
  ああ、靜かなり、夜の窓。



B一五  月光 (男-- 女12)

  ねむれ、ねむれ、幼兒(おさなご)よ。
   山の月 窓より入(い)りて、汝(なれ)が顔 静かにまもる。
  ねむれ、ねむれ、幼兒よ
    打てや、はやせ、腹鼓(はらつづみ)。
  ぽんぽこぽん、ぽんぽこぽん。
   月は今出た 秋は夜長だ、狸の世界だ、打て、打て、打て。
  打てや、はやせ、腹鼓。
  ぽんぽこぽん、ぽんぽこぽん。
  大海原の 底もとどろに、寄せては返す 浪、浪、浪。
  狂瀾怒涛、眞如(しんにょ)の月。
   涌く浪に 月影をどり、散る浪に 月影くだく。
  大海原の 底もとどろに、寄せては返す 浪、浪、浪。



B一六  長柄堤の訣別 (男14 女--)

一 片桐の はからひもちて
  ささげたる まごころなれど、
  是非もなし、時のめぐりは。
  盤石の 城もかたむく。
二 寝もやらぬ なやみの幾夜、
  身をけづる 憂(うれひ)にやせて、
  今ぞ過ぐ、長柄堤(ながらづつみ)よ。
  あかつきの 風の寒けさ。
三 折からに 馳来る武者の
  おもざしは、若くも雄雄し。
  その人や 木村重成、
  馬おりて なげき語らふ。
四 惜しまるる 別れの涙。
  亡きあとを 託し頼みて、
  いざさらば、行くや且元(かつもと)。
  有明の 月も薄れて。

[注] 関ヶ原の戦い後の豊臣家の忠臣片桐且元の苦渋を描く,坪内逍遥作の
歌舞伎『桐一葉』(1904 年 3 月東京座初演)第六幕,淀川の長柄堤に逃れた
片桐且元が大阪城を眺め感慨にふけりながら木村重成と会う場面.



B一七  福原遷都 (男15 女13)

一 風も身にしむ福原の
  都あらたに さだまりて、
  草にすだくや、虫の声。秋の眺(ながめ)も深まりぬ。
二 月の鏡は、中空(なかぞら)に
  光まどかに 懸れども、
  人は所をうつろひて、かなた故郷恋ひしたふ。
三 のこる門辺に咲く黄菊、
  朽つる籬(まがき)にはふかづら、
  ふるき都を来てみれば、浅茅(あさぢ)が原となり果てつ。
四 夢か、うつつか、世の様は。
  語りかはして、夜もすがら、
  鐘の音(ね)さむき暁に、あはれ別れし宮人よ。

[注] 平清盛は摂津国福原に 1180 年 6 月 26 日 (治承 4 年 6 月 2 日)
行宮を造営し安徳天皇,高倉上皇,後白河法皇を迎えた.



B一八  月夜の田園 (男16 女14)

  いつしかに 月はのぼりて、
    しづかなる 田の面(も)に さしぬ。
  遥かなる森も、林も、
    薄墨に 描ける如し。
  今はしも 月の夜空を
    何鳥か、鳴きつつ飛びし、
  渡りゆく鳥にあるらん、
    月の夜に この村里を。
  ゆく水の 音はかすかに、
    しづかにも 田の面は更けて、
  遥かなる森も、林も、
    さえわたる 月夜となりぬ。









B一九  稲刈 (男17 女15)

  日は大空に輝き渡り、
   田園十里
   稲穂の波は、さやさやさやと喜び躍る。
    |――    繰|躍れ、我が胸、うしほの如く。
    | 日こそ 多きに
   返| 今日しも今日ぞ、刈らん、我が田の稲をし刈らん。
    |――   三春(さんしゅん)行楽そは誰(た)がことぞ。
   我は大地に
   鍬打振りて、自然の胸に種蒔き、植ゑぬ。
  陰雨(いんう)六月泥にまみれつ、
   炎天の下(もと)、
   いかづちの空、我が戦は勇ましかりき。
  焼鎌・利鎌(とがま)を 右手(めて)に取りもち、
   八束穂(やつかほ)・垂穂を
   左手(ゆんで)に握り、ざくざくざくと刈るは誰が身ぞ。
  豊葦原の田ごと田ごとに、
   おしなべて
   今瑞穂刈るらん おほみたからの一人は我ぞ。



B二〇  甲冑堂 (男-- 女16)

一 義経の 家来となりて、
  上方(かみがた)に のぼり行きけん、
  奥州の 兄弟二人、
  継信よ 忠信よ。
二 年若き 兄と弟、
  ををしくも 敵とたたかひ、
  主のために 命おとしぬ。
  梅かとよ 櫻とよ。
三 まのあたり 主は帰れども、
  かへらざる 子等の形見よ、
  今し見て 母は嘆きぬ、
  ことわりよ、母と子よ。
四 なぐさめん、いざいざ母を、
  いでたちし 嫁御の二人、
  太刀とりて かぶりぬ、甲(かぶと)。
  けなげさよ、やさしさよ。
五 その姿 刻みとどめし
  甲冑堂の 木像二つ。
  火に焼けて 消失(きえう)せたれど、
  などかは失(う)せん、そのこころざし。

[注] 源義経の家臣,佐藤継信・忠信兄弟の妻らの像を祀るお堂.白石市南部
の坂上田村麻呂を祀る田村神社の境内にある.松尾芭蕉の「奥の細道」ゆかり
の地.



B二一  山茶花三題 (男18 女17)

一 朝寒の 生垣に、
  はやも来て、ちちと鳴く 小鳥あり。
  藪の中(うち) 真冬さびしく、
  此の日頃 咲き初めし 山茶花を、
  ひそかに 愛でてか、
  下枝(しずえ)がくれに つたひ來て ちちと鳴く 小鳥あり。
二 うららかに 陽は照れど、
  風冷ゆる 飛石に 人の立つ。
  山寺の真昼靜けき
  裏庭、真盛りの 山茶花を
  手折りもかねてか、
  鋏手にして、背を見せて、飛石に 人の立つ。
三 夕日かげ うするるに、
  ただ一人 母上の 障子張。
  床の間の懸絵小暗き
  前にして、花瓶なる 山茶花の
  音なくこぼれて
  散るをふと見て、ほほゑみて、母上の 障子張。



B二二  煤掃(二声輪唱)(男19 女18)

一 今日はすすはき、
  一年中の 埃や煤を 掃ききよめ、
  やがて来らん 新年を、
  心たのしく 迎へやなん。
二 今日はすすはき、
  家中そろひ、被る手拭、取る箒、
  笹の青葉を うち振りて、
  笑ひながらの 掃ききよめ。
三 今日はすすはき、
  掃ききよむるは 家やかまどに 壁のみか。
  はらひきよめん、いざともに、
  心の隅の 埃をも。(埃をも。)



B二三  日の御旗 (男20 女19)

一 のぼる日の 光たふとく、
  のぼる日の 光かぐはし。
  日の御旗、ああ、日の御旗
     かがやく所、
     伏拝み、
     あを人草は、皆なびく。
二 のぼる日の 光あまねく、
  のぼる日の 光あかるし。
  日の御旗、ああ、日の御旗
     ひらめく所、
     打仰ぎ、
     とつ国びとも、皆したふ。
三 のぼる日の 光照りはえ、
  のぼる日の 光うららか。
  日の御旗、ああ、日の御旗
     かがげよ、高く、
     いや高く。
     たたへよ、共に、もろともに。



B二四  千鳥 (男-- 女20)

一 千鳥鳴く、ちち、。ちちと 千鳥啼く
  背戸につづける 川の洲の
  枯れし蘆間に、友千鳥、
  友を呼びつつ 鳴きかはす。
二 千鳥鳴く、ちち、ちちと 千鳥鳴く。
  こほる月夜の 霜のうへ、
  夕(ゆふべ)はぐれし 友呼びて、
  声もあはれに、さびしげに。
三 千鳥鳴く、 ちち、ちちと 千鳥鳴く。
  友を呼びかひ むつましく、
  つばさならべて、 ちちと鳴く。
  寒き朝(あした)も、たのしげに。



B二五  新島守 (男21 女21)

一 隠岐の小鳥よ、八潮路よ。
  深きはからひ 樹(た)つれども、
  時いたらねば 詮なしと、
  うつらせ給ふ、後鳥羽院。
   おそれ多しや、
   かしこしや。
二 千鳥鳴くらん 荒磯べ、
  立たせ給ひて 詠ませけん、
  新島守(にひじまもり)よ、我こそは。
  こころして吹け、波風よ。
   おそれ多しや、
   かしこしや。
三 春は十九度 めぐる世の
  花や咲きけん、散りにけん、
  わびしき仮の 御所にして
  過(すご)させ給ふ 後鳥羽院。
   おそれ多しや、
   かしこしや。

[注] 後鳥羽上皇(天皇在位:1183 年 9 月 8 日 (寿永 2 年 8 月 20 日)-
1198 年 2 月 18 日(建久 9 年 1 月 11 日);上皇在位:1198 年(建久 9 年 )
- 1221 年 (承久3年))が承久の乱に敗れ,隠岐の島に配流となったとき
の状況を歌った.




B二六  冬の輿 (男22 女--)

一 朝戸出(あさとで)を、真冬の庭の生垣に、
  ふとしも よれば、 老梅の
  南に垂れし一枝に、
  莟(つぼみ)の はやも ふとりたり。
     高きに、低きに、
     枝ごとに、
        太りゆく
        莟の数の殖(ふ)え殖えて。
二 山畑は、靜けく暮れて、崖下の
  流も 凍る 夕風に
  ふるへてあれど、青青と、
  目立ちて 麦は伸びいでぬ。
     日毎の 寒さも
     知らぬげに、
        地殻をば
        破りて、麦の伸び伸びて。



B二七  興国の民(二部合唱)(男23 女22)

一 起てよ、若人、我等が友。今、暁の鐘は鳴る。
   霧はれてゆく山に、野に、
   我が手、我が足、我が力、呼ぶもののあり、国の為。(国の為。)
    ああ、興国の民、われ 起たん。
二 起てよ、若人、我等が友。見よ、東(ひんがし)のあかね雲、
   世は さめてゆく、明けて行く。
   我が目、我が耳、我が心、皆 ささげなん、国の為。(国の為。)
    ああ、興国の民、われ 起たん。
三 見ずや、我が友、我等の国。今日 起たずして、いつか また
   起つ日のありや、時ありや。
   この日、この時、再びは 来ることなきを思はずや。(思はずや。)
    ああ、興国の民、われ 起たん。
四 起てよ、若人、我等が友。いざ、ましぐらに、ひたすらに、
   時 をしみては、おのがじし
   我が家、我が村、我が里の 栄(はえ)祷(いの)りつつ いそしまん。(いそしまん。)
    ああ、興国の民、われ 起たん。



B二八  胡蝶の舞(独唱及び三部合唱)(男-- 女23)

    合唱
  あなおもしろし、胡蝶の舞、
  見れば、我等も 縹渺(へうべう)と、
  かるきつばさに 身も浮きて、
  荘子の夢に あらねども、
  胡蝶となれる ここちかな。

    胡蝶の歌
  広き自然の ふところに
  我は胡蝶と生まれ來て、
  春はたんぽぽ・つぼすみれ、
  桜・山吹・牡丹の花、
  千紫万紅(せんしばんこう)の 姿をめで、
  あしたの露に ぬれじとて
  翅(つばさ)かへせば、やはらかく
  匂ひの波の ひらめきて、
  夢うつつなる こころかな。

    合唱
  あなおもしろし、胡蝶の舞、
  見れば、我等も 縹渺と、
  かるきつばさに 身も浮きて、
  荘子の夢に あらねども、
  胡蝶となれる ここちかな。

    胡蝶の歌
  青葉・わか葉の 森の影、
  夏草しげき 広き野に、
  舞ひつかれては 岩清水
  せせらぐ水を むすびつつ、
  花に憩ひ、苔に伏して、
  強き自然の 力にふるれば、
  かよわき胡蝶の 身にもまた、
  命あふれて、空高く
  飛びもこそゆけ。

    合唱
  あなおもしろし、胡蝶の舞、
  見れば、我等も 縹渺と、
  かるきつばさに 身も浮きて、
  荘子の夢に あらねども、
  胡蝶となれる ここちかな。

    胡蝶の歌
  秋風あらく、冷たけれど、
  なほ咲ききそふ 七草の
  花をしとねと するときは、
  大天地(おほあまつち)の 奥ふかき
  こころおのづと さとられて、
  たち舞う翅も やすらけし。

    合唱
  あなおもしろし、胡蝶の舞、
  見れば、我等も、縹渺と、
  かるきつばさに 身も浮きて、
  荘子の夢に あらねども、
  胡蝶となれる ここちかな。



B二九  大原御幸 (男24 女24)

  春のさかりも 過ぎさり、
  さくらも散れる 北山に、
  やまほととぎす 鳴くころ、
  大原(おはら)の奥に 分けいりて、
  寂光院に 御幸(ごかう)ありし
  大御心の やさしさを、
  しのびまつるも尊しや。

朗読
 人跡たえし山奥に、ひきむすばれし御庵室(ごあんじつ)の、
 軒には蔦・あさがほはひかかり、 しのぶまじ
 りの忘草(わすれぐさ)の生(お)ひたるもかなしきに、杉のふき
 めまばらにして、 風露(ふうろ)のしのぎさへかたきと
 ころに、來迎の三尊を飾り、先帝(せんだい)の御影(みえい)をか
 け奉(たてまつ)りて、行いすまし給ふさへあるに、御み
 づから岩のかけぢを伝ひつつ、御仏に奉る花
 をも折集め給ふを御覧じて、法皇も、しばし
 御涙にむせび給へり。夢の如き御再会、いか
 ばかりか嬉しくもまたかなしく覚し給ひけん。

  時の流の うつろひ、
  人の栄華も、朝露の
  消ゆるに似るを 嘆きて、
  仏のみちに 入(い)りませる
  御身ながらも、いかばかり
  つきぬ名残を をしませて、
  女院も 立ちつくし 給ひけん。

[注] 『平家物語』より.




以上

(2013 年)



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