『中等唱歌』

東京音楽学校編纂(1909年5月)

今までの単音唱歌と異なり,初めて伴奏譜が付いた.ただし外国から借用した曲が多く30曲中20曲を占める.
歌詞および曲の選定委員は A.ユンケル,H.ヴェルクマイスター,鳥井忱,武島又次郎,富尾木知佳,島崎赤太郎,吉丸一昌,乙骨三郎,楠美恩三郎,田村虎蔵,岡野貞一,南能衛,吉岡郷甫が勤めたと言われている.

メロディーは,ヴェルディのオペラ『リゴレット』の公爵の有名なアリア「女心の唄 'La donna e mobile'」など,外国から借用したものが約3分の2にのぼる.

原本に接するのは難しいため,『中等唱歌』の全貌を知っている人は少ないだろう.その不便を補うため,以下に歌詞と楽譜を示す.歌詞の漢字・仮名遣いは読み易さを旨としたので,原本の表記通りでない.
楽譜は『東京芸術大学百年史 東京音楽学校篇,第一巻』(音楽之友社,1987年)の楽譜資料を借用した.ここではデータ・ベースを手に入れ易くする事のみを目的としているのでお赦し願いたい.

  目次
第一   天皇の御稜威
第二   海楼眺望
第三   夕暮
第四   吉野山
第五   今日も暮れぬ
第六   醍醐の花見
第七   夕の鐘
第八   手函の絵
第九   胡蝶
第十   田植
第十一  ヲーターロー
第十二  夏休
第十三  虹
第十四  孔明
第十五  深林逍遥
第十六  緑蔭
第十七  笠置山
第十八  湖上の月
第十九  亡友の写真
第二十  護良親王
第二十一 月下懐郷
第二十二 樺太
第二十三 演習
第二十四 吉田松陰
第二十五 里祭
第二十六 墓詣
第二十七 駆足
第二十八 氷滑
第二十九 世の態
第三十  千代田の宮


第一 天皇の御稜威(みいつ)(木村正辞作詞,納所弁次郎作曲)
一 あふげば高き たかみくら
  なびくみ旗の み光は
  とつ国かけて 輝きぬ
  君がみいつぞ かしこかる
二 世界を照らす 日のみ旗
  あふがぬ国は なかるらん
  兄弟国(きゃうだいこく)を しろしめす
  君がみいつぞ 尊とかる



第二 海楼眺望(小野竹三作詞,Verdi 作曲)
一 朝日のぼる 海の面(おも)に
   光帯(お)びて 飛ぶや鴎(かもめ)
  人はつどふ 浜の網引(あびき)
   獲物祝ふ 其のこゑ
二 眼路(めぢ)の限り 一つ色を
   水と空と わかつ白帆
  浪は躍(おど)る 巌のあたり
   真玉(またま)みだれ 雪ちる
三 浦回(うらわ)かけて 注(そそ)ぐ雨に
   急ぎ帰る 海人(あま)の小舟(をぶね)
  沖の風に 雲は晴れて
   くまもなしや 月影

[注] オペラ『リゴレット』"Rigoletto" 第三幕,酒場でマントヴァ公爵が歌う,
あまりにも有名な「女心の唄 'La donna è mobile'」より.
同じメロディー は以前『明治唱歌』第五集(1890)の大和田建樹作詞「夏の風」
にも用いられていた.

歌唱は
Rigoletto La Dona e mobile
http://www.youtube.com/watch?v=8A3zetSuYRg
日本語版は
藤原義江 女心の唄 La donna e mobile - Yoshie Fujiwara
http://www.youtube.com/watch?v=uuTCIxoqvYg


Giuseppe Fortunio Francesco Verdi (1813.10 - 1901.1)


第三 夕暮(土井晩翠作詞,Naegeli 作曲)
一 荘厳余所(よそ)に 比(たぐひ)もあらず
   天地を彩(いろど)り 落ち行く夕日
二 程なく色は 空(むな)しく褪めて
   雲水鐘(くもみづかね)の音(ね) おもひぞ遠き
三 斯くてぞ夜は 歩(あゆみ)も緩く
   かぐろき帷(とばり)を 曳きつつ来たる
四 悲み悩み みな其の蔭に
   いつしか隠れて 眠(ねむり)に入(い)りぬ


Hans Georg Nägeli (1773. 5 - 1836. 12)


第四 吉野山(吉岡郷甫作詞,小山作之助作曲)
一 麓も峯も 咲きうづむ
   花の白雲 立ちなびく
    吉野の山の 曙を
     唯うるはしと 見る勿(なか)れ
  ここにても 雲居の桜 咲きにけり
    唯かりそめの 宿と思ふに
  御階(みはし)のさくら 徒(いたづら)に
   昔に帰る 春待ちし
    涙のいにしへ 思ひ酌めよ
    涙のいにしへ 思ひく酌よ
二 千本(ちもと)の花を 掃き捨てて
   白き嵐の 吹きさわぐ
    吉野の山の 夕暮を
     唯くちをしと 見る勿れ
  かへらじと かねて思へば あづさゆみ
    なきかずに入(い)る 名をぞ止(とど)むる
  縄手(なはて)の風の はげしくて
   若木(わかき)の楠(くす)の 折れたりし
    涙のいにしへ 思ひ酌(くめよ)
    涙のいにしへ 思ひ酌(くめよ)


小山作之助(1863 - 1927. 6)


第五 今日も暮れぬ(尾上八郎作詞,Spontini 作曲)
一 雲の色薄れて 山の端(は)は消えゆき
  鳥の声静まる
  楽しく楽しく 今日の日も暮れぬ
  更にや待たまし 文(ふみ)に良き夜(よる)を
二 星のかげほのめき 草の葉に露満ち
  寺の鐘 鳴りやむ
  静かに静かに 今日の日は来たる
  更にや待たまし 望みある明日を



第六 醍醐の花見(池辺義象作詞,田宮虎蔵作曲)
一 笠取山に 春闌(た)けて
   醍醐は花の 真盛(まっさかり)
  豊臣太閤 秀吉公
   武勇は輝く 海の内外(うちと)
  慶長三年 春やよひ
   今日のこの日を 千金(せんきん)と
    綺羅を尽せる 桜狩
     人目を奪ふ 花の宴
  あなおもしろや ここちよや
二 三宝院(さんぱうゐん)を 本(もと)として
   見わたす限(かぎり) 花屏風
  錦を飾る 武将の袖
   光を争ふ 国の御稜威(みいつ)
  鳴るや鼓の 鼕々(とうとう)と
   峰の松風 音添へて
    雪を廻(めぐ)らす 舞(まひ)の袖
     酔(え)へるか天も 花の宴
  あなおもしろや ここちよや
三 嵐を余所(よそ)の 下蔭(したかげ)に
   むつるる花の 軍君(いくさぎみ)
  栄華をみたす み池の水
   豪奢を較ぶる 山の梢
  大和心に 照りあへる
   比稀(たぐひまれ)なる この筵(むしろ)
    高き栫iかをり)は外國(とつくに)の
     果(はて)まで匂ふ 花の宴
  あなおもしろや ここちよや


田村虎蔵(1873. 5 - 1943. 11)


第七 夕の鐘(小野竹三作詞,Mendelssohn 作曲)
一 故郷(ふるさと)いそぐ 雲居(くもゐ)の雁
   花より出づる 夕(ゆふべ)の鐘
二 村雨晴れて 白帆の影
   磯馴(そなれ)の松に 夕の鐘
三 尾上(をのへ)の鹿の 友呼ぶ声
   もみぢ(は)誘(さそ)ふ 夕の鐘
四 木(こ)の葉のしぐれ 降りしく庵(いほ)
   雪げの空に 夕の鐘

[注] Mendelssohn 作曲 Op. 19a-5 "Grüß"「あいさつ」(作詞:Heinrich Heine).
[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]

歌唱は
Mendelssohn: Grus - Elisabeth Kulman
http://www.youtube.com/watch?v=_ybSmjEUMq0


Jakob Ludwig Felix Mendelssohn (-Baltholdy)
(1809. 2 - 1847. 11)


第八 手函の絵(幸田成行作詞,目賀田万世吉作曲)
一 山をかのわらびは 萌えいでぬ
  今年も萌えいでて つみて取られし
  去年(こぞ)のうさ 忘れて
二 山かげの雉子(きぎす)は 鳴きたちぬ
  今年も鳴きたちて 人にうたれし
  去年のうさ 忘れて
三 さわらびも雉子も 去年のうさ
  忘れてわがよ ふるすがた
  のどけきうららかの 春の日
四 春山のわらびよ 山かげの
  雉子よ汝(なれ)たちの 姿ゆかしみ
  描かうよ 手箱に

[注] 作詞の幸田成行(こうだしげゆき)は小説家幸田露伴の本名.



第九 胡蝶(鳥居忱作曲,ドイツ民謡)
一 春日影(はるひかげ) うらうらと のどけき日和(ひより)
   菜の花の 色栄(は)えて 咲きたるあたり
    あれよ胡蝶 ひらひら
    あれよ胡蝶 飛ぶよ
     ひらひらひらひら飛ぶよ
二 花筐(はながたみ) 手に持ちて 連れだつ童(わらは)
   香(か)に匂ふ つぼ菫 摘み居(を)るところ
    あれよ胡蝶 ひらひら
    あれよ胡蝶 飛ぶよ
     ひらひらひらひら飛ぶよ



第十 田植(池辺義象作詞,V. Righini 作曲)
一 その牛引けよや そのふごおろせ
  父母あにおと さ苗やとらん
  たま苗とらん
二 みづほのみ国の 栄ゆるたねと
  みおやのたまひし 尊ときさ苗
  今はやとらん
三 雨風たひらに ちまちだなべて
  実れよこの苗 やつかのしなひ
  今より待たん
四 めでたきこの日よ 歌へや祝へ
  父母あにおと いざいざともに
  歌ひて植えん

[注] A. Barner, "Liedersammlung für Töchterschulen" Heft II
(Verlag von I. Lang. Tauberbischofsheim, 1879) p. 99: "Zu der Fremde".
アメリカでは John W. Tufts, "The Cecilian Series of Study and Song", Book 2
(Silver, Burdett & Co., 1892), p. 105: "Dearest home, by me so treasured".
[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]
Johann Gaudenz von Salis-Seewis (1762-1834) 作詞 (1805) Vincenzo
Righini (1756-1812) 編曲 (1803) "Lied eines Landmanns in der Fremde"
('Traute Heimat meiner Lieben').[桜井雅人: 私信 2011. 06. 02]



第十一 ヲーターロー(土井晩翠作詞,山田源一郎作曲)
一 渦巻く硝煙
  飛び散る弾雨(だんう)
    万兵斉しく大地を蹴って
      ヲーターローは屍(かばね)の小山
    運命いかに ああ仏蘭西
    運命いかに ああ仏蘭西
二 閃めく剣光
  とどろく馬蹄
    大軍忽ちなだれを打って
      ヲーターローは血汐の流(ながれ)
    運命非なり ああ仏蘭西
    運命非なり ああ仏蘭西
三 追ひ来る敵兵
  倒るる勇士
    全欧靡けし昔に替へて
      ヲーターローのいまはの敗れ
    運命尽きぬ ああ仏蘭西
    運命尽きぬ ああ仏蘭西


山田源一郎(1869 - 1927. 5)


第十二 夏休( 吉丸一昌作詞,Friedrich Nestler 作曲)
一 指折るほどにぞ 休はなりて
  そぞろに心の あこがれゆくや
  風そよそよそよそよ
  そよろ吹きくる山に
  水さらさらさらさら
  さらり流るる川に
二 あさ山たどりて わがこえくれば
  みさぐる山々 夢よりあはく
  露はらはらはらはら
  はらりたもとをぬらす
  雲ゆらゆらゆらゆら
  ゆらり谷間をめぐる
三 釣篭かた手に 岸辺にたてば
  さとわのともしび この間(ま)にあをく
  月きらきらきらきら
  きらり川せにくだけ
  魚(うを)ひらひらひらひら
  ひらり棹にぞあがる
四 まぢかになりたるこの夏休
  かくてぞ暮(くら)さん 楽しの休
  疾(と)くこよこよこよこよ
  こよやこの夏休
  疾(と)くこよこよこよこよ
  こよやこの夏休

[注] Friedrich Silcher and Friedrich Erk, "Schauenburgs Allgemeines
Deutsches Kommersbuch" (Lahr: Druck und Verlag von Moritz Schauenburg,
1888) 31st ed. Friedrich Nestler 作曲 (ca. 1828) "Entschuldigung".
[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]



第十三 虹(小林愛雄作詞,Nägeli 作曲)
一 雨霽(は)れたる 夕空に
   いつしか浮べる虹よ
二 雲のうへに 浮橋の
   巧(たくみ)を凝らせる虹よ
三 目もあやなる 七色(なないろ)の
   奇(く)しくもたふとき光
四 打ち見る間(ま)に 夢の如(ごと)
   しづかに消え行く光

[注] 多数あるが例えば,Henriette Leidesdorf, "Kinderlust" Vol II (Leibzig:
Verlag für erziehenden Unterricht, 1863) p. 145: Hans Georg Nägeli 作曲 "An die
Abendsonne".
アメリカでは,C.H. Hohmann, "Practical Course of Instruction in Singing" Pt. III
(Boston: Oliver Ditson, 1856?), p. 56: "To the Setting Sun".[長谷川由美子:
私信 2011. 05. 15]
初出は H. Nägeli, "Einhundert zweystimmige Lieder" (Zürich, c.1814):
Anna Barbara Urner 作詞 (1788) 'Goldne Abendsonne, O, wie bist du so schön'.
[桜井: 2011. 06. 03]

歌詞と midi は
Gold'ne Abendsonne
http://ingeb.org/Lieder/goldneab.html



第十四 孔明(土井晩翠作詞,内田粂太郎作曲)
一 三顧のめぐみに 捧げし命
   神算鬼謀(しんさんきぼう)の 数はたいかに
    渭水の流(ながれ) かるるとも
     百世永(ひゃくせいなが)く 跡をぞ慕ふ
二 三代此の方(かた) 君ただひとり
   王佐(わうさ)の經綸(けいりん) あふぐぞ高き
    臥龍(ぐゎりょう)の岡は 崩るとも
     千載遠く 誉(ほまれ)をつたふ
三 三国挙(こぞ)りて 比(たぐひ)を見ざる
   綸巾羽扇(りんきんうせん)の すがたぞ清き
    祁山(きざん)の陣は 夢なれど
     万古(ばんこ)に高く 名は猶匂ふ



第十五 深林逍遥(乙骨三郎作詞,Marschner 作曲)
一 昼なほ小闇(をぐら)き 木々(きぎ)の下蔭
  散りしく落葉に 道もわかぬ
   深き林を ひとりたどれば
   鳥だに来鳴(きな)かぬ あたりの静けさ
    遠き谷間 落つる水の
    たぎつ音か 響(ひびき)かすか
     さらさらさら
     さらさらさら
二 幾年旧(いくとしふ)りにし 太き老木(おいき)の
  梢(こづゑ)ははるかに 雲にそびえ
   根にはむす苔 色ぞさびたる
   此処こそ浮世の 外(ほか)ぞとおもふに
    打つや何処(いづこ) 森の彼方(かなた)
    杣(そま)そまが業(わざ)か 斧のひびき
     チャウチャウチャウ
     チャウチャウチャウ



第十六 緑蔭(三宅龍子作詞,Wilhelm G. Becker 作曲)
一 緑葉しげる 岸べ
  草のしとね しきたり
  小川低く ささやく
  いざやここに 来たれと
二 せきれい 岩ま飛びて
  水はせかれて しぶきぬ
  みどり空に つらなり
  木々に歌ふ ひぐらし
三 日ははや 山に入りて
  雲はこがね 流しぬ
  とめ終へし この身よ
  げにやここに 休まん

[注] L. Erk, "Liederkranz" Vol. I ([s.n.], 1882), p. 82: Wilhelm Gottlieb
Becker 作曲 (1798) "Sommer-Abendlied".[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]
Fritz von Ludwig (1755 -1811) 作詞 (1801) 'Willkommen, o seliger Abend!'
[桜井雅人: 私信 2011. 06. 06]



第十七 笠置山(池辺義象作詞,南能衛作曲)
一 吹き巻く炎(ほのほ)に 雨風加はり
    ふせげどふせげど いまはやすべなし
  木の丸殿(まるどの)は 見る見る焼けぬ
    頼みし木戸は みなみなやれぬ
   敵はなにもの かまくら賊徒
  嗚呼 笠置の山 大君おはす
    てだてもつきぬ この殿(との)や
二 立蓋(たちおほ)ふさぎりに 道さへ見わかず
    かしこき大君 みゆめのここちに
  手に手を取りて 落ち行き給ふ
    ゆくへもくらき 谷かげ木(こ)かげ
   たのむあたりは 千早(ちはや)のあたり
  ああ 笠置山 いまはやおちぬ
    おほぎみいづこ かしこしや
三 頼みにたのみし 赤坂金剛(あかさかこんがう)
    はかると知らずて おちつきたまへば
  思ひもたがふ 六波羅館(ろくはらやかた)
    時雨(しぐれ)も漏(も)るや 板屋のおまし
   ぬるる御袖(みそで)は ひる時あらず
  ああ 牢(らう)の御所(ごしょ) 軒うつ雨に
    涙もそひぬ ああかなし
四 波さへさかだつ 潮路の八潮路(やしほぢ)
    かぜをもいとはず 雨をもきらはず
  みふねはいそぐ こじまの隠岐(おき)に
    おましはなりぬ 板屋のみとの
   元弘二年 くれゆくはるべ
  ああ 蜑衣(あまぎぬ)の 重なるうらみ
    かこつもあはれ 世のさまや
五 山かぜ波かぜ あらびにあらびて
    ゆくへもわかたず はてしもあらせず
  みそらはくもり 日かげも見えず
    上(のぼ)らん月の かげだに知らず
   笠置(かさぎ)破れて 二年(ふたとせ)三年(みとせ)
  ああ かりごもの みだるるみ世や
    おもへばうたて ああかなし



第十八 湖上の月(吉岡郷甫作詞,Rossini 作曲)
一 月影さやけく 風も吹かぬ 秋の夜半
  真澄の鏡か 塵もおかぬ湖
    いざ吾が友 小舟(おぶね)出(いだ)せ
    いざ吾が友 纜(ともづな)とけや
二 小波(さざなみ) あや織り 魚(うお)もおどる 水の面(おも)
  桂のさ枝か 棹にかかる 水草
    いざ吾が友 高く歌へ
    いざ吾が友 舷(ふなばた)うてや

[注] Rossini作曲のオペラ『ウィリアム・テル』第三幕,広場で歌われる,
お祭の合唱「鳥はお前について行かない 'Toi que l'oiseau ne suivrait pas'」より.


Gioacchino Antonio Rossini (1792.2 - 1868.11)


第十九 亡友の写真(吉岡郷甫作詞,Zelter 作曲)
一 魂こもる このうつし絵
  知れるか君が また亡きとも
二 友情やどる このまなざし
  消ゆるか永久(とは) に光らぬ星
三 さいさう浮かぶ この口つき
  閉づるか永久(とは)に 開かぬ花
四 朝夕あふぐ このうつし絵
  守れや君が 友なき友

[注] 原題 "Der König in Thule" (「トゥーレの王様」).[長谷川由美子:
私信 2011. 05. 15]
Goethe 作詞 (1774),Karl Friedrich Zelter (1758-1832) 作曲 (1812).[桜井:
2011. 06. 05]

歌唱は
Faun - König in Thule
http://www.youtube.com/watch?v=kDwfCNVZ_84



第二十 護良親王(杉谷虎藏作詞,Silcher 作曲)
一 鎌倉山の 雲をはらひ
  あまつひあふぐ ときは今と
  思ひをくだく 座主の宮の
  衣に寒し 深山おろし
二 十津川吉野 奈良や熊野
  いくさの数は いくそたびぞ
  一日(ひとひ)も安き 空は無くて
  嵐に雨に 身をばまかす
三 晴るると見えし 山の雲は
  ふたたび湧きて 日かげ暗く
  あやめもわかぬ 御世となりて
  うらみも深き 土の室屋(むろや)

[注]  F. Silcher 作曲 "Der alte Barbarossa".[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]
Friedrich Rückert 作詞 (1815).[桜井雅人: 私信 2011.06. 05]

楽譜と音源は
WIMA: Werner Icking Music Archiveにある
Friedrich Silcherの Der alte Barbarossaの項
http://icking-music-archive.org/ByComposer/Silcher.php

滝廉太郎がSilcherの曲を編曲した『友の墓』(小森松風 作詞) の midi は:
瀧 廉太郎の四季:So-netブログ
http://rentaro.blog.so-net.ne.jp/archive/201103-1
滝の編曲について海老澤敏氏の解説(『夕刊デイリーWeb』掲載)がある:
夭折の作曲家−瀧廉太郎
http://www.yukan-daily.co.jp/news.php?id=20503


Philipp Friedlich Silcher (1789. 6 - 1860. 8)


第二十一 月下懐郷(下村莢作詞,ドイツ民謡)
一 照らすか月影 三国一の
  富士より落ち来る 清水のながれ
  清水に米(よね)とぐ わがふるさとを
二 恋しやふるさと 思へば今も
  かすかにひびくよ やさしき母の
  みひざに眠りし むかしの歌の
三 針の手休めて 同じき月に
  この身やおぼさん 老いたる母は
  みそばにはべりて 糸くる姉と
四 照らすか月影 父ます塚を
  思えば身にしむ おさなきなれが
  行く末いかにの いまはのみこと
五 打ちつれ 鳴きつれ 雁こそ渡れ
  いずこの山越え 里越え来しか
  はや影かすかに 月ただふけぬ

[注] 原曲は "Guter Mond, du gehst so stille" (= "An den Mond")
[桜井雅人: 私信 2009年9月]

歌唱は
Guter Mond du gehst so stille - Heintje ボーイ・ソプラノ
http://www.youtube.com/watch?v=3vTGRTGuQfU



第二十二 樺太(福井久藏作詞,益山鎌吾作曲)
一 うしほも速き 千島がた
  すさぶ嵐の 絶へずして
  さくらぎ植ゑし 島山は
  よもぎがそまと あれにけり
  さかひを譲らば 国威は落ちん
  つるぎに血ぬらば 民草(たみぐさ)やまん
  かたみにかふる 誓にて
  波風しばし なごみけり
二 黒雲とざす 北の海
  荒るるや潮路 かきわけて
  みいくさ船の 寄せつれば
  あだ波消えて 跡もなし
  ま近の山のへ 月かげ清く
  ちとせのう?なみ いくはるかへり
  さかゆく御世の み光は
  のざはの民も 仰ぐなり
三 あされどたえぬ 海の幸
  とれど尽きせぬ くがの富
  をさめて国を 開かずば
  北のかためを いかにせん
  あざらし遊べる をじまの磯も
  となかい群ゐる 荒ののすゑも
  旭のみ旗 おし立てて
  わが日の本と 守るべし



第二十三 演習(吉丸一昌作詞,ドイツ民謡)
一 かなたの山べ 松林
  かしこの岡べ 杉木立
  ちらちら見ゆる ものかげは
  こなたによする 敵の軍勢
  進め進め いざ進め
  来たらば敵は皆殺し
二 火砲(ほづつ)のひびき 鳴りわたり
  山をかこむる 黒けむり
  かの敵やぶれ しりぞかば
  わが手に帰せん 今日のほまれ
  進め進め いざ進め
  来たらば敵は 皆殺し
三 たがひに気ほふ まさかりに
  ラッパの音(ね)高く 鳴りひびく
  火砲の音(おと)も をさまれば
  みなぎる煙 あともとめず
  空は高く 気は澄みて
  こずゑを渡る 風清し

[注] L. Erk, "Liederkranz" Vol. I ([s.n.], 1882) p. 50: "Das Lied vom
Feldmarschall" (1809).
アメリカでは "Franklin Square Song Collection" Vol. 8, p.138: "Lovely Nancy".
[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]
ドイツ原曲は "Frisch auf ihr Tiroler, wir müssen ins Feld" (1809 頃)に新たに
Ernst Moritz Arndt (1769-1860) が作詞 (1813) "Was blasen die Trompeten
Husaren heraus!"[桜井雅人: 私信 2011. 06. 06]

歌唱は
Der Kaiser auf der Jagd - Das Lied vom Feldmarschall
http://www.youtube.com/watch?v=225MdafA4b8



第二十四 吉田松陰(土井晩翠作詞,小山作之助作曲)
一 四海(しかい)の鼎(かなへ)と 沸き立つなかに
   尊皇攘夷の 雄叫(おたけび)たかく
    霊火(れいくゎ)を点ぜし 不朽の功(いさを)
     霹靂(へきれき)碎(くだ)けし 跡こそしのべ
   嗚呼 松陰(しよういん) 高き其の名や
二 家国(かこく)に許しし 五尺のむくろ
   死生(しせい)にかへざる 心の操(みさを)
    誠に動かぬ 何かはあると
     奮ひし雄々しの跡こそ忍べ
   嗚呼 松陰 永き其の名や



第二十五 里祭(旗野十一郎作詞,ドイツ民謡)
一 森のこかげ 幟(のぼり)見えて
   今日は里の 祭日(まつりび)
    ちりやたらり 鳴るや笛太鼓
    ちりやたらり ひびくよ
二 今日こそ晴れと 衣(きぬ)を飾り
   つどい来るや をとめご
    ぞめきぞめき 里の田中道(たなかみち)
    ぞめきぞめき 行き交(か)ふ
三 晴の庭の 力競(くらべ)
   腕を見よと 若者
    えいやえいや すまふ力声(ちからごゑ)
    えいやえいや きそふよ
四 今日の祭 既にはてて
   暮るる空の 静けさ
    きらりきらり 星の二つ三つ
    きらりきらり 見え初(そ)む

[注] "Oberschwäbisches Tanzliedchen": Friedrich Silcher (1789-1860) 作曲
(1837) "Rosestock, Holderblüh ".[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]

録音は
Rosestock, Holderblüt', Ländler Scharf
http://www.youtube.com/watch?v=pDE4Oul0agM



第二十六 墓詣(小金井君子作詞,ドイツ古民謡)
一 おくつき近く ひとりたてば
  身にしみわたる 秋のあられ
二 みとせの月日 夢とすぎて
  苔むしふりぬ 父のみ墓
三 年毎(としごと)めでて 作りましし
  白菊ひとえ 手向(たむけ)まつる
四 色香(いろか)の清き これの花を
  学べとのりし 昔しのぶ

[注] 原曲は "Ich hab die Nacht getraumet" (= "Der schwere Traum")
[桜井雅人: 私信 2009年9月]

歌詞は
Der Herbst - Das Laub fallt von den Baumen
http://ingeb.org/Lieder/daslaubf.html
左上のボタンをクリックするとmidi 音源
c26DasLaub.mid
が聞ける.


第二十七 駆足(渡辺盛衛作詞,Dessauer 行進曲)
一 寒さをいとはず 駆足すれば
  血はわき 身はあたたか
  北風強く ふぶきはすれど
  花散る春の 心地して
二 暑さをこらへて 駆足すれば
  すずしさ わきよりおこる
  流るる汗は 泉とわけど
  清水を浴(あ)みし 心地して

[注] DessauerはプロシャのAnhalt-Dessau公子,後のLeopold 一世公
(1676-1747)のことで"der alte Dessauer (= the Old Desauer)"と愛称された.
曲は民謡に基づき作成(1706)された.

映画『眼下の敵』では、Uボートの隊員たちが歌う:
The Enemy Below singsong
http://www.youtube.com/watch?v=t7Vme9jUhlo



第二十八 氷滑(乙骨三郎作詞,ドイツ民謡)
  うれしはだへ寒き 北の風の
  よすがら吹きて けさは川の面(も)
  見よや氷閉じぬ
二 うれし空は晴て 朝日高く
  川のかがみの おもは輝き
  待つか遊ぶ子らを
三 うれし冬をめづる 若き友よ
  今日はひねもす 川のほとりに
  汝(なれ)と遊び暮さん
四 うれし心かろく 足もかろく
  走るわれらは若き友よ 空をとびかふ
  鳥の羽や得たる
五 うれし骨は鳴りて 肉は踊り
  若き力の 湧くをおぼえて
  楽し氷すべり

[注] Jepson, Benjamin (1832-1914), "The Elementary Music Reader"
Vol. II (New York:A.S. Barnes & Co., c1871-73), p.373:"The Skating Song".
[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]



第二十九 世の態(さま)(小野竹三作詞,ボヘミア民謡)
一 遊ぶ魚(うを)の数(かず)見え
  夕日映(は)ゆる水の面(も)
  糸を垂るる青柳(あをやぎ)   姿うつす静けさ
   嵐おこり波たち    変るけしき凄(すご)しや
    欺(か)くぞとはに移りて     きはみなしや 世の態(さま)
二 鳥の声も長閑(のどか)に   揺籃(ゆりご)かをる花かげ
  夢やうまき幼児(をさなご)   憂(うき)を知らぬ其の幸(さち)
   父は逝きて母病(や)み    変るさだめ哀はれや
    欺(か)くぞとはに移りて
    きはみなしや 世の態



第三十  千代田の宮(阪正臣作詞,上真行作曲)
  かけまくも かしこき君の 大宮所(どころ)
  千代田とおへる めでたき名にも 栄(さかえ)ぞしるき
  前うしろ 静かなる水 緑にたたへ
  めぐりには 年へたる松 しげりて たちそびゆ
  九重(ここのへ)に つらなりわたる 二重(ふたへ)のみ橋 あふぐなり
  まゐりまかづる もものつかさは
二 はるばると 東にひろき 松原しばふ
  なかなる道に しきたる真砂 ちりだに見えず
  わが君の 美しきこと おもほす民は
  業(なりはひ)の 暇(いとま)あるとき 都にいできたり
  袖つらね 裳(もすそ)をひきて ここにぞ集ふ みよそひを
  胸に描きて をがむためにと
三 この宮居 美空をつかず 光らず照らず
  わが君いたく おごりをにくみ かざりをとどめ
  国民(くにたみ)を わづらはさじと つくらせましし
  み心ぞ こがねより照り 玉よりなほ光る
  み恵みに そひたる御稜威(みいつ) 雲居をつきて 異国(とつくに)の
  果の果まで 仰ぎ尊とむ
四 九重の おくにはたけの 御園(みそのふ)広く
  真澄の鏡 かけたるごとく み心あかき
  照る月の 秋のみ山を 最中(もなか)になして
  うらわかく さかえおひたち ひろがり 満ちたまふ
  み民われ いかなる幸ぞ この世にあへる ああうれし
  われを見よ み民われらよ



以上

(2006年2月)


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