素人のオペラ談義

(最終更新: 2007年9月24日)




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意外に粋な文部省?



オペラを見ていると意外な発見をすることがある.

その代表はマスネ作曲の『タイスの瞑想曲』として知られるメロディーである.甘いロマンチックな曲で,今流の言い方をすれば癒しの音楽として単独で演奏されることも多く,耳にすれば誰でも知っている代表的なものといっても良いだろう.

ところがオペラ『タイス』の筋書きでは,遊女タイスが若い修道士アタナエルを誘惑する場面で流れる曲なのである.画面で見るとタイスはなかなかなまめかしい.まったくびっくりしてしまう.人をうっとりさせようとした状況であるのは確かだが.

オペラ『タイス』のDVD.

私の持っている DVD はエヴァ・メイがタイスを,ミケーレ・ペルトゥージがアナタエルを演ずるフェニーチェ劇場(ヴェネツィア)の版で(指揮はマルチェッロ・ヴィオッティ),残念ながら日本語のサブタイトルは入っていない.メイはオペラ歌手としては体型もスリムでなかなかなまめかしい.

学校で習った『ホフマンの船歌』として知られる曲もその一つだ.この曲はオッフェンバックの『ホフマン物語』の第二幕のテーマ・メロディーである.詩人ホフマンと友人ニクラウスが高級娼婦ジュリエッタを訪れるときに歌われる.教育関係者や口うるさいPTAの人がその場面を見たら,肝がつぶれてしまいそうになるだろう.文部省も案外粋なことをする.と言うよりも選曲をした人は,オペラの筋書きに眼をつむり,曲の良し悪しだけで判断したのだろう

オペラ『ホフマン物語』のDVD.

私のお勧めDVDは王立コヴェント・ガーデン劇場での公演(指揮はジョルジュ・プレートル)で,表題役がドミンゴのものだ.彼の絶頂期の滑らかな輝きのある声で,芝居も申し分ない.ジュリエッタ役はアグネス・バルツァだ.第一幕の機械人形オランピアはルチアーナ・セッラ,第三幕のアントニアはイレアナ.コトルバスが演じている.演出も念入りで,すばらしい.

若手のソプラノ・レッジェーロのアリアとしてしばしば単独で演奏される「私のお父様 'Oh! Mio babbino caro'」は切々とうったえるすばらしいメロディーだ.ところが,歌われる状況を知るとびっくりする. これはプッチーニの『三部作』のうちの『ジャンニ・スキッキ』の曲だ.ジャンニ・スキッキの娘ラウレッタが恋人と駆け落ちするため,亡くなったブオーゾの遺言状を父親に書き換えてもらって,遺産の分け前にあずかろうとするトンデモない歌なのだ.オペラは他愛のない喜劇だと言えばそれまでだが,とても内容(違法なたくらみ)は美しい歌の持ち味にはそぐわない.コンサートでソプラノが真剣な顔をして,真面目に歌っていると,あなたは何を歌っているのかわかっているのかと,憎まれ口をたたきたくなる.

オペラ『三部作』のLD.

私の LD はジアナンドレア・ガヴァツェーニの指揮で,芸達者なフアン・ポンスが題名役,チェチーリア・ガスディアがラウレッタを歌うスカラ座版だ.ちなみに三部作とは『外套』というヴェリスモ風の暗い話と可愛そうな『修道女アンジェリカ』の話と,この喜劇がセットになったものだ.

(2006年1月)




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私のオペラ事始め



私が始めてオペラを見たのは小学校高学年(1950年代初め)のときだ.母が小学校の教師をしていて,月一ぐらいの割合で行われていた(都民劇場だったと思う)公演でたまのオペラの公演につれていかれた時だ.母は私を用心棒代わりに,あるいはそう言って悪いなら,情操教育の一環として連れて行ってくれたようだ.

『セヴィリアの理髪師』(伊藤京子が出たと思う)や『ボエーム』(砂原美智子がミミ役),『トスカ』(同じく砂原美智子が題名役,カヴァラドッシは韓国出身のテノールで名前は忘れた)などを観た.全て日本語訳であった.高校になって二期会だったかの『魔笛』を見たが,やはり日本語でやっていたと思う.

私の高校(筑波大付属高校)では,1956年に私のクラスメート橘市郎君がキャプテンとなってオペラ部なるものが作られた.恐らく音楽系の高校を除けば,日本初といって良い位古いと思われる.実は我々の4年上の先輩小谷野喬氏の強い希望の結果立ち上がったもので,氏はコーチ役としても熱心に手伝ってくださった.このオペラ部の活動はかなり珍しかったとみえて,1957年5月15日の読売新聞に『学園は花ざかり』と題して報道された.最初は文化祭で『フィガロの結婚』の第一幕,二年目はピアノ伴奏で『魔笛』の舞台公演をした.私は正規の部員ではなく大工役で手伝ったが,公演間際になって人が足りないから歌えということになり,第二幕の僧侶の二重唱「心せよ、おなごに 'Bewhret euch vor Weibertuecken'」を歌った.二重唱なら人数が少ないから簡単だと最初は思ったが,それが素人の浅ましさで意外や意外,バランスを取るのがなかなか難しいと分かった. ピアノは ピアノ・コンクールの中学の部で優勝した田中淳子さんが根気良く練習に付きあってくれるというなかなかの豪華版キャストだった.夜の女王役も素人だったが,有名なコロラトゥーラの難曲のアリアをあまり音程を下げず(一音程度?)に歌ったと思う.キャプテンの橘君はなかなかのテノールで,主役の王子タミーノを勤めた.現在は演出家として活躍している.

筑波大付属高の文化祭で
『魔笛』公演が無事終わって.
前列左から2人目,部長の橘市郎君.
中列左からピアノ担当の田中淳子さん,筆者.
後列左から7人目,顧問の新島弘先生.
(1957年11月)

その後高校オペラ部は発展し,1963年10月には『アルジェの女』の日本初演を行っている.日本初演と言われる芸大の公演より4年早い.また我々の1年後輩の星出豊氏は趣味が高じて,プロの指揮者となられた.音楽系でない普通高校を卒業して,プロの音楽家になったのだから,よっぽどの才能があったのだろう.敬服に値する.彼は1986年にプッチーニのオペラ『妖精ヴィルリ』の日本初演を果たしている.

『魔笛』のLD. サヴァリッシュ指揮,
バイエルン国立オペラ劇場.

という訳で『魔笛』は私にとって特別なオペラである.お気に入りのLD (DVD化されている) はヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立劇場のもので,夜の女王はエディタ・グルベローヴァ,パミーナはルチア・ポップ,パパゲーノはヴォルフガング・ブレンデル,タミーノはフランシスコ・アライサ,ザラストロはクルト・モルという豪華版である.ただしグルベローヴァはこの公演では,絶好調とまでは言えない.

(2006年1月記)




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