『トランプの橋』



 トランプで立体を作る遊びは昔からあったらしい.下の絵は18世紀のフランスの画家シャルダンの描いたものである.暇な少年がトランプで建物を作っている様が描かれている.ちなみにシャルダンはトランプ遊びの画題を好んだようで3枚の作品が残されている.他の2枚はパリ ルーヴル美術館とワシントンのナショナル・ギャラリーに収蔵されている.

「トランプ遊びをする少年」ジャン・バプティスト・シメオン・シャルダン画 (1736年頃,ロンドン ナショナル・ギャラリー蔵)


現代の世界記録はアメリカのブライアン・バーグ (Bryan Berg) さんの作った高さ7.5m の塔だそうである.

ブライアン・バーグさんの作ったトランプの塔.彼は "Tallest House of Free-standing Playing Cards" と ギネス・ブックの "World Largest House of Cards" のタイトルホールダー.詳しくは

http://www.cardstacker.com/index2.html



 さて,それではトランプを重ねて橋を作るとしよう.どの位の長さの橋ができるであろうか.勿論糊などを使ってはいけない.唯重ねるだけである.
積み方を工夫すると,いくらでも長い橋ができると畏友 Y 教授はおっしゃる.そんな馬鹿なと思うのが普通であろう.長くなれば重心が必ず空中に出て,崩れてしまうから,不可能と思うのが,自然な考えである.  Y 氏によるとその作り方は---

例えば,トランプを4枚用意し,机のへりを橋脚に見立てる.まず 1 枚目をへりから右の方に 1/8 (より少し小さく) 張り出して置く.2 枚目は 1 枚目の先端から 1/6 (より少し小さく) 張り出して置く.同じようにして,3 枚目は 1/4,最後の 4 枚目は 1/2 張り出して置く.こうすると最後の 4 枚目の先端は机のへりから,ほぼ 1 枚分張り出していることがわかる.

   一般のトランプ橋.


 一般に N 枚のときは,最初の1枚は 1/2N 張り出させる.次は 1/2(N-1),以下同様にして,最後の1枚は 1/2 張り出させる.こうすると,机のへりからトランプの先端までの距離 a(N) は,

  a(N) = (1/2)(1 + 1/2 + 1/3 ・・・ + 1/N)

となる.枚数 N を増やしていけば,いくらでも大きくすることができる.N が非常に大きいときは,a(N) は(1/2)(log N + g) (ただし,g = 0.5772 はオイラー数と呼ばれる) となるという仕掛けだ.

 こんなことは可能だろうか.可能であるためには,橋の重心が橋脚からはみ出てはいけない.これは次のようにして確かめられる.物理学で「重心の重心は重心」という定理がある.つまり二つの物体があり,それぞれの質量を m_1, m_2,重心の位置をr_1, r_2 とすると,全体の重心 r_g は

  r_g = (m_1・r_1 + m_2・r_2)/(m_1 + m_2)

となるというのが,定理の意味するところである.これを利用して証明する.

 上に載った (n - 1) 枚目までのブロックの重心の位置を,(上から (n - 1) 枚目の)一番下のトランプの右先端から左方向に測った距離を r(n - 1) とする.これを n 番目のトランプの上に 1/2(n - 1) だけずらして,載せるとする.このとき一番下の (n 番目の) トランプの右端から左方向に測った,(n - 1) 枚のブロックの重心の位置は r(n - 1) - 1/2(n - 1) となる.質量はトランプ 1 枚の質量の (n - 1) 倍である.1番下のトランプの重心の位置は,そのトランプの中心にあるから,右先端から測ると,1/2 となる.したがって n 枚のブロックの重心の位置は,

  r(n) = [(n - 1){r(n - 1)-1/2(n - 1)} + 1/2]/n = {(n - 1)/n} r(n - 1)

となる.r(1) = 1/2 + 0 だから r(n) = 1/2n + 0 となる.ただし +0 は少し大きいという意味でつけた.これは n 枚目のトランプがはみだしている分の 1/2n より,少し大きいから,全体の重心は机の上にある.(証明終り)

 この方法では上のブロックの重心は常にそのブロックの一番底のトランプの右端の少し内側にある.ここの少し大きいというのが気になる人は,一番上のトランプを 1/4 ずらすところから始めると良い.このときは

  a(N) = (1/2){1/2 +1/3+・・・ + 1/(N + 1)},
  r(N) = (1/2N)(1 + 1/2 + ・・・ + 1/N)

となる.勿論重心は机の上にくる.

 川幅 w の両岸から,このようにトランプを対称的にせり出させて,中央でつなげて橋を作ったとしよう.トランプ1枚の長さを b,厚さを d として,N が大きい時,橋のアーチの形 z は近似的に,

 z = {h/sinh(w/b)} {cosh(w/b) - cosh(2x/b)},  h=d exp(w/b - g)

と表される.ただし,x は橋の中央から測る (|x| < w/2) とした.橋のアーチは懸垂曲線 (送電線の垂れた形) を逆さにした形となる.昔,ガリレオは,理想的なアーチの形はサイクロイド曲線ではないか,と推測したという.

   トランプで作った橋.


 早速不器用な筆者が二番目の方法で 13 枚重ねてみた.机の端からトランプの先端までの距離は約 1.13 となり,1番上のカードは完全に空中に浮いている.果たして皆さんは何枚まで重ねられるだろうか.ギネスブックに「世界最長のトランプ橋」として,登録できるように挑戦してみられたい.

 (2006年7月)


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