みちくさ新聞<BOOKS>

「根草花 ふまれて咲くのか」漆作家の書と言葉

角偉三郎


「六つの星」

 能登半島の輪島で、漆の下地職人の父と、蒔絵の仕事をする母を持ち、中学卒業と同時に沈金師に弟子入りした。
 間もなく若手作家として、さまざまな手法を駆使しながら、頭角を現わした人は、しかし四十歳で一切の公募展から遠ざかり、箱書きをやめ、業者からの注文仕事を絶った。
「輪島にいて輪島にない生き方をしよう」と、伝統の重苦しさを負いながら、そこから逃げず、常に漆の原点を探り、風土と深くかかわることで、新たな地平線を開いて今日がある。
 高台に作者の銘を記すことをやめ、打ちはじめた星は最初三つだった。
 材料と道具、そして作り手を意味したもの。やがて使い手も大事と、四つめが増え、五つめは漆街道をたどる旅の途上ブータンで、人知を超える存在を思って加えられる。
 二〇〇一年、六十歳を一つ超え、いっそう自由に解き放たれた人は、工房前の野の草々に強く引かれる思いがした。
 踏まれても踏まれてもへこたれない姿を「根草」と呼び、雑草が新たな師となった。六つめの星のゆえんである。
「銀花」2001冬 128号
みちくさ新聞95号掲載