鳥インフルエンザウィルス

鳥の伝染病でA型インフルエンザウィルスが感染して起きる伝染病である。このウィルスはもともとはカモなどに感染しているが無症状であり、糞便中に排泄される。このウィルスがニワトリやアヒルに感染し、危険なウィルスに変化したものと考えられている。致死率が高く、家畜の法定伝染病に指定されている。ヒトには感染することはないかと考えられていたが、1997年、香港で18名が鳥インフルエンザに感染した。発熱、咳などヒトのインフルエンザと同様の症状みられ、6名が肺炎で死亡した。しかし、ヒトからヒトへの感染はなかった。2003年2月、同じく香港において2名が鳥インフルエンザウイルスに感染し、1名が死亡した。2003年3-4月オランダで鳥インフルエンザが流行して、83人が感染し、1名の獣医師が死亡した。いままでのところ感染した鶏肉や鶏卵を食べてヒトが発病した例はない。

インフルエンザウィルスはヘマグルチニン(H)と呼ばれるウィルス表面蛋白の性質の違いでH1からH15の15型に分類されるが、鳥がかかるのは9種類である。これまで報告された鳥インフルエンザウィルスは香港(H5N1型:1997年,2003年)、米国(H5N2型:1977年,2003年)、オランダ(H7N7型:2003年)、ドイツ(H7N7型:2003年)、韓国(H5N1型:2003年)、ベトナム(H5N1型:2004年)などH5N1、H7N7が多い。今回、韓国や日本で発生したH5タイプのウィルスは、毒性が強い強く「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ばれる。鶏、七面鳥、うずら等に感染すると、神経症状(首曲がり、元気消失等)、呼吸器症状、消化器症状(下痢、食欲減退等)等の全身症状をおこし、鳥類が大量に死亡することがある(参考:アジア各国での発生状況)。

なお、毎冬、人間に流行するインフルエンザはH5タイプではなく、H1からH3までである。H1はAソ連型、H3はA香港型、H2はアジア風邪と呼ばれている。このヒトのインフルエンザウイルスはニワトリやアヒルに棲みついており、そこから豚に感染し、さらに豚から人に感染すると考えられている。ヒトに流行するウィルスは飛沫感染、空気感染し、人から人へ感染する(参考:インフルエンザウィルスの宿主動物)。

現在、厚生労働省では今回のH5型の鳥インフルエンザウィルスは致死率が高く、H5型ウィルスが突然変異して鳥から直接ヒトに感染するか、または豚の体内で鳥とヒトのインフルエンザウィルスの遺伝子交換が行われ、人に感染する新型のウィルスが生まれる可能性があるとしている。また、世界保健機関(WHO)はH5N1型ウィルスはヒトには感染しにくいとされているが、H5N1の感染者がヒトのインフルエンザにも感染すると、2つのウィルスがヒトの体内で遺伝子交換が行われ、新型ウィルスが誕生し、ヒトからヒトへと感染する可能性を指摘している。

 歴史的に見ると1918-19年には、世界中で2500万人以上が死亡した「スペイン風邪」、1957年には中国南部から始まり、世界で10万人近くが死亡した「アジア風邪」、1968年には香港から世界に広がって5万人近くが死去した「香港風邪」などがある(参考:ヒトのインフルエンザ流行史)。10-20年ごとに新型ウィルスが発生しているので、そろそろ新型のウィルスが出てもおかしくないと懸念されている。 なお、A型インフルエンザの治療に用いられている抗ウイルス薬(タミフルなど)は、鳥インフルエンザにも効果があるとされている。

参考:1997年香港の鳥インフルエンザの例

まだ香港がイギリスの植民地だった1997年3月、中国国境に近い香港のはずれの農村地帯、新界地区にあった3ヵ所の養鶏場で、多くのニワトリが短期間に病気にかかり、死んでしまうという伝染病が発生した。3ヵ所の養鶏場にいたニワトリの約3割が死ぬという、致死率の高さであった。専門家は、ニワトリのインフルエンザが発生した、と断定した。それから約2ヶ月後の5月、香港で3歳の幼児が、高熱と咳で死亡し、インフルエンザに感染していた、と診断された。発病から死亡まで、10日間という短さだった。さらに3ヶ月後の8月、アメリカやオランダの専門家による調査の結果、ニワトリを大量死させたのと、3歳児を死なせたのは、同じ「H5N1」という鳥インフルエンザウィルスであることが判明した。5月に亡くなった3歳児は、保育園で飼っていたヒヨコから感染したとの疑いがもたれた。 このことは、世界中の免疫学者たちを驚かせるものだった。これまでインフルエンザウイルスは、豚や牛から人間への感染は見つかっていたが、鳥類から人へ感染するとは考えられていなかったからである。11月末になると、香港の13歳の女の子が同じインフルエンザにかかって入院し、さらに12月5日には、54歳の男性が、このインフルエンザで死亡した。ニワトリなどの鳥類が原因らしいということで、鳥類とは縁が深い香港社会はパニックとなった。人々は鶏肉を好んで食べていたし、中国社会の伝統を受け継いで、鳴き声のきれいな小鳥をペットとして飼っていたからである。 12月に入って発病者は徐々に増えていった。香港の鶏肉の約8割を卸売りしている長沙湾の食肉市場では、衛生重視のため、1215日から17日まで取り引きを停止し、徹底的な消毒をおこない、感染を防いだ。ヒトからヒトへの感染はなかったが、結局、養鶏業者を含め18名が感染し、6名が死亡した。毎年冬に流行するインフルエンザに較べ、鳥インフルエンザの死亡率はかなり高いのが問題であった。