新型肺炎(2)
新型肺炎の始まり
2002年11月、広東省の古都仏山市で「謎の肺炎」が発生した。インフルエンザのような症状で始まり、抗生物質が効かず、重症化する点が問題であった。2003年1月下旬に広東省の広州市でも流行が始まり、2月上中旬にピークをむかえ、3月には香港で大流行し、香港から6大陸に広がった。WHOは3月、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」と名付け、3月15日、広東省・香港への「渡航自粛勧告」を出した。
スーパースプレッダー
広東省広州市の病院で肺炎の治療にあたっていた64歳の教授が、自ら感染していることを知らずに旅行し、2月、香港のホテルに宿泊した。症状が悪化した教授の痰、嘔吐物などの排泄物は、トイレや部屋の床に飛散したものと思われる。ホテル従業員は、このトイレを清掃した後、同じ器具で別室を掃除した。そこに宿泊していたシンガポール人、カナダ人、ベトナム人に感染が広がった。彼等は母国に病原体を持ち帰り,香港から海外への拡大を広めることになった。また、同じホテルで感染した中国人(26歳)が、病院に入院し院内感染の感染源となった。さらに同病院で人工透析中の男性(33歳)に感染し、この男性が弟のマンションを訪れ、集団感染を引き起こした。なお、香港で感染した男性が、香港から北京に戻る航空機内で複数の乗客らに感染を広げ、北京や内モンゴル自治区での感染拡大につながった。男性は、北京市内の3ヶ所の病院を受診し、それぞれ院内感染を引き起こした。シンガポールでは、香港で感染した女性を通じ、100人以上が感染した。このように、複数のスーパースプレッダーの存在が、世界中に感染拡大を引き起こしたことになる。グローバリゼーションに伴う感染症および公衆衛生の問題が表面化したといえる。2003年6月までに感染者数が8,450名、死亡者が813名ということで、何とか収束した。
病原体
4月16日、WHOは「コロナウィルス」が原因と発表し、このウィルスを「SARSウィルス」と命名した。このコロナウィルスは、日本では鼻かぜだけが問題になるウィルスで、球形の、一本鎖のRNAウィルスである。RNA系のウィルスは、インフルエンザも同じであるが、わりに変異が起こりやすいので問題になる。血清学的には4つのグループに分かれる(図1)。
コロナウィルスの特徴
コロナウィルスは、紫外線に弱く、飛沫で落下すると戸外なら短時間で活性を失う。しかし、下痢便、尿などに含まれるコロナウィルスは、4〜10日間位は活性があるため、接触感染にも注意が必要である。なお、コロナウィルスは、エンベロープという膜を有するウィルスなので、手洗いなどに消毒用アルコール(70%)、次亜硝酸ナトリウム等が有効である。
感染経路と潜伏期間
このウィルスは、発病10日位のときでも、喉の辺りや、大便、尿などに相当濃厚にウィルスが出てくるので、喉の部分だと飛沫感染の原因になるし、下痢便とか尿の場合は接触感染の原因になる。短くて2日、最澄で6日、一般には10日前後である。
症状と予後
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ウィルスの増殖とともに発症。悪寒を伴う38度C以上の高熱が多く、全身倦怠感、筋肉痛などインフルエンザと似たような症状で始まるのが特徴で、下痢などを伴う場合もある。
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免疫系の過剰な反応で急激に悪化し、ほとんどが両側の肺炎を引き起こし、呼吸不全にて人工呼吸管理が必要となる。鼻水があまりなく、呼吸困難が強く、間質性肺炎に近い。
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発症後1週間位で回復するヒトが多い。死亡率は、全体として10%前後である。
治療
現在、有効な抗ウィルス薬は存在しない。抗ウィルス薬のリバビリン、副腎皮質ホルモン剤の使用は議論を呼んでいる。ワクチンも開発まで数年必要である。
今後の問題点
SARS肺炎もインフルエンザも症状はよく似ており、発生時期も冬季に多く区別することはかなり難しい。したがって、なるべくインフルエンザのワクチンを接種してインフルエンザを防いでおくことが必要になる。当然のことながら、冬の間は外出する時はマスクをつけ、帰宅した時は十分にうがいをして、手洗いをすることが大切である。