工場財団とは何ですか。
担保物の一形態です。
それだけではわかりません。もう少し詳しく説明してください。
制度のあらまし
例えば、私が友人に頼まれて、その友人にお金を貸したとしましょう。この場合、私を債権
者、友人を債務者、借りたお金は約束どおりに返しなさいと請求する権利を債権、返す義務を
債務といいます。
さて、世の中往々にして何らかの理由で約束どおりにお金が戻ってこない場合があります。
これが私であったなら、私は損をします。確実にお金を回収するには、債権者はお金を貸すに
あたって予め何らかの手段を講じておく必要があります。その一例が損害金を定めることです。
損害金を取ることによって債務者を圧迫することを間接強制とよびますが、これも人に対す
る請求であることには変わりはありません。
ここでも相手が応じてくれない場合があるでしょう。そのような場合のための別の手段が担
保です。担保には人的担保と物的担保があります。人的担保の代表に保証があります。しかし、
保証も人に対する請求であって、これも簡単には応じてもらえない場合があります。
残る手段は、債権額に見合った何か財産的価値のあるものを、債務者から取り上げる約束を
することです。もし債務が履行されなかった場合はこのものを処分してお金に変えるという手
段です。これが物的担保とよばれます。
物的担保にも、法定上・法定外いくつか種類がありますが、契約で何らかの権利を設定して
おいて、債務不履行の際は選定した権利を実行する担保としては、民法では質権と抵当権があ
ります。
質権の要件は、相手から契約で決めたものを最初に取り上げておかねばなりません。仮に、
このものが貴金属や株券などであればいいのですが、牛馬などの生き物や、広大な土地などで
あったら、取り上げた方も大変です。貸金を返し終わるまで管理しなければなりませんから。
また、債務者がたまたま個人タクシーの運転手さんで、商売道具の自動車を取り上げたとした
ら、返済金を稼ぐ手段を奪ってしまうこととなり、返す金も返せなくなるでしょう。このよう
に、質権は生産財には向かない担保権です。
そのため、担保物は相手の手許に置いたままで観念的に支配する手段が生まれました。これ
が抵当権です。ただし、当事者間で抵当権設定契約を取り結んでいても周りの人にはわかりま
せん。そのため、同じものを担保にして債務者は別人と新たに抵当権設定契約を結び、重ねて
借財をすることも可能です。
したがって民法では抵当権の対象物は登記できるもの、登記簿を見れば誰でも知りうるもの、
つまり土地と建物(すなわち不動産)に限定されています。
仮に友人があちこちから借金して破産したとしましょう。全債権者は友人の総財産から貸し
た金の比例に応じて配当を受けることとなります。この際、金額の多寡や貸した日時の前後は
無視されます。しかし私が抵当権設定契約を結んでおいたならば、別除権といって他の債権者
よりも優先的にお金の配当を受けることとなります。このとき、もし抵当権者が複数いた場合
は先に抵当権設定登記をした者から順番に配当をすることとなっております。このようにして
配当をした結果、順位が後の人は何も残っていない場合があります。これが貸し倒れです。
また、友人が担保物を私の承諾もなく勝手によそへ売り払ったりすることも考えられます。
この場合、売主(債務者)が手にしている金銭を取りあげることができますし、売主に損害賠
償を請求することもできますが、破産または倒産に近い状態にある者から貸金を回収すること
は現実的には不可能でしょう。この時もしも抵当権設定登記がしてあれば、買主から担保物そ
のものを取り返すことができます。公示と権利確保、ここに登記をする意味があるのです。
従って金融界では約定担保といえば抵当権がエースであり、担保物といえば不動産というこ
ととなります。そして必ず抵当権設定登記がなされます。
しかし抵当権も万能ではありません。「滌除」の規定は別として、他の担保権例えば不動産質
や留置権などと競合することもありますし、短期賃借権の設定という妨害行為を受けることも
あります。ここに抵当権の限界があります。
一方、中・大企業では土地建物よりも、そこで動いている機械装置の評価額の方が高額にな
る場合があります。しかし機械装置は動産であり、抵当権の目的物として登記する手段があり
ません。
明治期、これら機械装置類にも応分の担保価値を与えて欲しいという、特に綿紡・鉄道産業
界からの強い要請が起こって、工場抵当制度が発足しました。
製造業に限っていいますと、工場の土地建物に備え付けられた工作物や機械装置の資産目録
と図面を法務局に提出して登記し、土地建物と併せて全部で一個の不動産として取り扱い、抵
当権の担保目的物とする制度です。こうして一個の不動産として擬制された目的物のことを工
場財団といい、この財団を抵当権の対象とすることを工場財団抵当といいます。
財団とすることの利点は何ですか。
工場財団においては抵当権以外の担保権を排除しており、競合の問題は起こりません。また、
短期賃貸借の対象ともなり得ないので、債権者は安全です。
また担保としての評価についても、普通抵当は個別資産の評価額の総和に過ぎませんが、財
団抵当は工場としての収益性を評価され、一般に評価額が上昇します。
例えば、土地10億円・建物10億円・工作物及び機械装置合わせて10億円の場合、普通抵当な
らば合計30億円ですが、財団抵当であれば40億円と評価される場合があるという事です。(数
字はあくまでも例えです。)
抵当権設定登記をする際の、登録免許税が安く済むということも利点です。
反対に、デメリットはありますか。
手続きが厳格であるため、手間と経費と時間がかかる難点があります。
どんな場合に利用されますか。
製造業の設備資金(長期借入金)調達の際に多く利用されるようです。
他に同じような制度がありますか。
鉱業財団、漁業財団、港湾運送事業財団、道路交通事業財団などいくつかあります。
実 務
実際にはどんな事務作業がありますか。
まず関係者会議を開き、事務の趣旨説明、関係部署の事務分担、日程設定、物の選定基準、
予算措置などを決めます。以降、次のような流れで事務を進めます。
- 仮勘定の整理、未登記・未登録資産の整理
- データ出力と担保資産の選択
- 担保物権明細書作成
- 現物調査と配置図作成
- 登記申請一件書類(含む目録)作成
- 目録印刷と製本または装丁
- 書類全点チェック
- 債権者の同意取り付け
- 登記申請 (官報公告)
- 登記完成後の目録・謄本交付請求と、関係先への配布
以上です。
書類に様式はありますか。
作る書類には、大別して二つのグループがあります。
ひとつは登記申請用一件書類です。申請書、担保物件目録、担保物件配置図、同意書ほかを、
法定様式に従って作らなければなりません。法定様式といっても、登記官によっては若干、裁
量・見解が異なりますので、原稿完成の段階で一度確認を得る事をお勧めします。(安全の為)。
もう一方は債権者提出用書類です。こちらは特に決められた様式はありません。担保物件目録、
担保物件配置図は登記用書面と共通様式でよいでしょう。
資産明細書については、何を、どこまで、どのように記載するか、とりかかる前に債権者と十
分に詰めておかなければなりません。債権者が複数存在する場合は、幹事債権者が満足すれば
よいでしょう。
作成部数はいくつでしょうか。
書類の種類によって作成部数は異なります。社内外配布先の必要数をあらかじめ見積もってお
きます。登記完成後の図面や目録は謄本が取れないので、法務局認証(提出)用としていくつ
か多めに作っておけば、後で追加を求められても慌てることはありません。
面倒ですか。
とっても面倒です。
目録・図面とも、書類の編成が所在建物毎(建物一棟毎)に集約し記載しなければならないの
で、資産点数が多ければ大変な工数を費やすこととなります。通常業務と同時併行して処理す
るとなると、休日出勤や持ち帰り残業など、仕事中毒状態は覚悟しておいたほうがよいでしょう。
現物確認と作図、データのカナ漢字変換、目録のチェックは特に面倒です。わけても、作図業
務は現今最新のレイアウト図が用意されていないと、泣く思いをするしょう。
時間はかかりますか。
資産が仮に1,000点程度ある場合、約三〜四ヶ月は見ておくべきでしょう。印刷・製本、官報
公告期間まで考慮すると、これくらいは必要です。
費用はかかりますか。
一時費用としては、登録免許税と事務費(印刷費、製本費)が必要です。他に、時間外手当と
しての労務費がかなり増えるでしょう。賃率×延べ時間×人数で試算してみてください。
債権者が現物調査をすることはありますか。
あります。頻度としては少ないですが稀に行うことがあります。だから、いい加減な書類を作
ってはなりません。信用を失います。
仕事をすすめるにあたって、心がけるべき事はありますか。
基本的心得としては、
いい加減な記述や、嘘を書かないこと。信用は一度で崩れます。
債権者側の担当者の身になって、書類は丁寧に作ること。自分はお金を借りる立場であるとい
うことを忘れてはなりません。
期限を守ること。特に数個の財団が共同担保の関係にあるような場合は、全て同時に変更事務
に取り組むこととなるでしょうが、一箇所でも完成が遅れると、資格証明書の有効期限が切れ
てしまって、再発行をお願いしなければならなくなることもあります。また、融資実行の期限
が遅れると、自社としても大変な事態となります。
技術的には、
他の業務のことも考えながら進める必要があります。担保情報をコンピュータに返して、決算
書作成にも利用しましょう。「うち、担保に供している資産」という項目があります。また、
火災保険の付保物件明細書を作る際の基礎データとしても使うことを念頭におくべきです。
決算書、登記簿、コンピュータデータ間の数値の整合性について、キチンと詰めておくこと。
説明できない数値があってはいけません。
そのほかには、病気をしないこと。すぐに交替が勤まる仕事ではありません。
事前に勉強しておくことは何でしょうか。
組成事務だけについていえば、格別高度の知識は必要ありません。
関係する法規、簿記、パソコン操作技術 ( 含むCAD作図 )、機械の種別と製造元、などに関す
る、標準的な知識があれば充分です。先輩方の残した力作書類にひととおり目を通しておきま
しょう。
ただ、近年は機械が高性能化して、加工機能部単体で存在することが少なくなりつつあります。
制御部・材料供給部・冷却部・液体濾過部・補助動力部・走行部・照明部などの複合機械とな
っていますので、何度も現場に足を運んで機械全体の構成を覚えておきましょう。
民法の主物従物の考え方を参考にしてください。
事務が終了した後にやっておくべきことはありますか。
体験を基にマニュアルをつくることを勧めます。毎年取り組む業務ではありませんので忘れな
いためにも必要です。他の工場にも紹介すれば全社的な手引きが完成します。
レイアウト管理係や現場の組長さんには、機械の位置を勝手に動かさないように啓蒙しておき
ましょう。対象機械に「担保物である」という旨の明認を施しておけば最善です。
もっと詳細に知りたいのですが。
商事法務研究会 昭和46年刊 津島一雄著 工場抵当・財団抵当の実務という書籍が参考にな ります。絶版だと思われますが、がんばって探してみられてはいかがでしょうか。 |