算数で身につけたい学習内容は,何?
新学習指導要領になり,学習内容が三割削減され,ゆとりの中で学習が進められるようになっている。こうした時間的なゆとりを活用して,様々な算数的活動を取り入れた授業が展開できる。算数的な活動については,小学校学習指導要領解説書の中に次のように述べられている。
この「算数的活動」というのは,今回の改定において新たに用いられるようになった言葉である。それは,児童が目的意識をもって取り組む算数にかかわりのある様々な活動を意味しており,作業的・体験的な活動など手や身体を使った外的な活動を主とするものがある。また,活動の意味を広くとらえれば,思考活動などの内的な活動を主とするものも含まれる。
算数的な活動の例としては,
作業的な算数的活動:手や身体などを使って,ものを作るなどの活動 体験的な算数的活動:教室の内外において,各自が実際に行ったり確かめたりする活動 具体物を用いた算数的活動:身の回りにある具体物を用いた活動 調査的な算数的活動:実態や数量などを調査する活動 探求的な算数的活動:概念,性質や解決方法などを見つけたり,作り出したりする活動 発展的な算数的活動:学習したことを発展的に考える活動 応用的な算数的活動:学習したことを様々な場面に応用する活動 総合的な算数的活動:算数のいろいろな知識,あるいは算数や様々な学習で得た知識などを総合的に用いる活動
を挙げている。
こうした算数的活動を位置づけた授業を展開することにより,子ども達の主体的な学習活動の中で,わかり易く,実生活と結びついた算数となったり,算数の楽しさやよさを感じる感動のある算数となったりすることが考えられる。先に述べてきたような,形式的な算数の学習から,算数を創り出す喜びを感じることができる学習の場を設定することができる。
学習内容が削減され,基礎・基本が厳選された新しい学習指導要領の下での算数科学習は,何よりも考え方を育てる学びの場を設定することが重要である。
例えば,新しい指導要領では,これまで指導を行っていた,小数第二位を含むかけ算やわり算の学習は取り上げられていない。小数第一位の計算ができるようになることが最低の目標をなっているわけである。しかし,本当に小数第一位の乗除ができるようになったことで,小数第二位の乗除ができるようになるのであろうか。今,基礎・基本が問われている。
ここで重要なことは,小数第一位の乗除計算の仕方をどのように指導するかである。形式的にできるようにすることは,先に述べたような方法で,確かに身に付けることができると考えられる。「分かる」「できる」を重視すれば,内容が厳選された今の算数科では,ある意味容易なことである。スキルの指導を繰り返し行ったり,補助計算などのように計算の手順を見につけたりする取り組みを継続的に行えばよいのである。
しかし,忘れてはならないことがある。小数第一位の乗除を学んだことから,小数第二位,第三位の乗除計算もできるようになる子ども達を育てていかなくてはならないと言うことである。目の前の小さな目標である「表現・処理」「知識・理解」ばかりにとらわれていると,こうした発展させる学力は身に付かない。スキルを身につけることは次の学びの基礎・基本となることは否定しないが,自分の力で新たな課題を解決していくことができるという力を身につけること,このことこそ「基礎・基本」だと考える必要がある。一つ一つの課題を自ら解決していくという算数を創り出す日常の算数学習を通して,問題解決能力を身につけることこそ,算数科の役割である。このことは,算数科の目標の中に「日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考える能力を育てること」と述べられていることに呼応する。
では,算数科で身につける主な問題解決能力とは,どのようなものが考えられるであろうか。
○ 算数科で身に付けたい考え方
算数科の学習内容は,低学年から高学年へと系統的である。低学年の学習内容の理解を基に,次学年の学習が進められることになる。それだけに,前学年での学習内容を基礎・基本の定着として,確実に身につけることが最重視されがちとなることも理解できる。
しかし,これだけでは算数の楽しさは感じられないし,算数科の役割である問題解決能力を身につけることもできない。
系統的な学習内容である算数科の特徴を最大限に生かした学びの場を設定することにより,子ども達が生涯に渡って多様な問題に対して,自ら解決していくことができる子ども達を育てなくてはならない。
算数科で身につけたい主な考え方として,「類推的な考え」「帰納的な考え」「演繹的な考え」が挙げられる。また,「統計的な考え」も大切な考え方である。
まずは,これらの考え方とは,一体どんな考え方であるのか考えてみたい。
(1) 類推的な考え方
「考察の対象としている二つの事象の類似性に着目して,既知である一方の対象が成り立つ事柄から,未知なる他方の事象についても成り立つであろうと推論するのが,類比的推論(推論)である。」
※ 新訂算数教育指導用語辞典(新数社発行)から抜粋
算数の学習では,類推的な考え方を育てる場面は,多く見られる。
例えば,長さの学習であるもののいくつ分で長さを数値で表すことができることを学習する。この学習を基に,「かさ」「重さ」「面積」「角の大きさ」などを,ある一定のものを使って数値化すればよいと類推することができる。数と計算領域では,数範囲の拡張を行う場合などが考えられる。例えば,1mが200円のテープがあるとすると,2mは200×2,3mは200×3,このことから類推して,1.5mのテープでは,200×1.5と式を立ててよいと類推することができる。
このような類推の考え方は,子ども達が生きていく上で大切な考え方である。私達大人であっても,常に何かの問題に直面したとき,既習の経験を想起し,その類似点を見つけ出し問題の解決にあたることがよくある。一つ一つの問題を全く別々の違ったものだと捉えていると,知恵は働かない。既習の知識や体験を想起し,新たな問題にそれらの知識や体験を活用する能力は,とても大切な考え方であると言える。
(2) 帰納的な考え方
「帰納的推論とは,個々の特殊な事例に基づいて,一般的な結論を導く推論である。すなわち,特殊から一般への推論の方法である。例えば,いくつかの三角形の内角を測って,その和がみんな180°になっていることから,どんな三角形でも内角の和が180°であろうと考えるのが帰納的推論である。」※ 新訂算数教育指導用語辞典(新数社発行)から抜粋
小学校の段階においては,帰納的な考え方も多く用いられている。子ども達の創造的な能力を高めることに重要な役割を果たしている。帰納的推論で予想したことは,その事実が実際に正しいかどうか検証をする必要がある。しかし,小学校段階では,帰納的な考え方によって得た予想される事実は,演繹的に証明することは難しい。この段階では,予想した事実の信頼性を上げるために,他の事例で試してみたり,できれば既知の正しい事実から演繹的に正しいことをたしかめたりする活動を取り入れる必要がある。
帰納的な考え方を育てる学習場面として,例えば次のようなことが考えられる。二等辺三角形の二つの角の大きさが等しいという性質の発見では,いろいろな二等辺三角形を実際に二つに折って角を重ねたり,角度を測ったりし,多様な二等辺三角形すべてにおいて二つの角の大きさが等しいという事実を帰納的に考えることができる。また,かけ算の交換法則では,かけ算九九の表から,2×3=3×2,4×3=3×4になっていることなどから,一般的なA×B=B×Aを帰納的に捉えることができるのである。
こうした帰納的に考える力は,大人社会においても試行を繰り返し,その試行の中からよりよいものを導き出すことに大きく役立っている。新しい事実の発見にあたっては,こうした帰納的な考え方から,見通しを持ち,結果を導くと言う考え方はとても重要である。
(3) 演繹的な考え方
「いくつかの真の命題を根拠にして,他の命題が真である事を論理的に導き出すことを演繹的推論という。根拠とした命題を前提または仮定といい,導き出した命題を終結または結論という。」
※ 新訂算数教育指導用語辞典(新数社発行)から抜粋
小学校においては,演繹的な考え方より帰納的な考え方や類推的な考え方の方が多く見られる。しかし,演繹的な考え方を基にして算数を創り出していく活動も重視する必要がある。はっきりとした演繹的推論ではないにしても,次のような場面で新たな考えを導き出すとき必要な考えである。
先に述べた「小数のかけ算」では,0.3×4の計算の仕方を考える学習がある。このとき,次のような根拠を基に,計算の仕方を考えることができる。
@ 2×3=2+2+2+2 かけ算は累加で捉えることができる。
このことを根拠にして,0.3×3=0.3+0.3+0.3+0.3=1.2
A 0.3は0.1が3個分の数である。このことを根拠にすると,
0.3×3は,0.1の3個分×4,つまり0.1の12個分で,1.2
B
かけ算の性質である結合法則 (a×b)×c=a×(b×c)
このことを根拠にすると,0.3×3=(0.1×3)×4=0.1×(3×4)
こうした考え方は,計算の仕方を創り出す学習場面では,多く見られる。その場その場で,根拠を基にして結論を導いていることのよさを実感できるようにする必要がある。