【 魔法の言葉 】











 その日、私は良く読んでいるミステリ系の週刊誌の占いコーナーの文面を見て決意をした。
 ミステリ系といっても、さほど摩訶不思議な内容ではなくて、心霊スポットだとか読者からの不思議体験などが掲載された軽めの読み物である。
 少し私には物足りなかったけれど、それでも退屈な時間を忘れさせてくれるものだった。
 そして今、放課後を告げるチャイムと教科担当の先生が出て行くのと同時に、私はあらかじめ用意していたプリントの束を胸に抱きかかえながら、教室を飛び出して走りだす。
 もし、あの占いが本当だとしたら、きっととても素敵なことになるんじゃないかと期待に胸を膨らませた。
 目的の場所までもうすぐ。
 人の波が押し寄せる中、私は教室から出てこようとする彼の姿を見つけた。
 そして私はそのまま勢い余ってぶつかったふりという当初の計画を実行する。
「きゃんっ」
 少し演技くさかったかな……。どちらにせよ標的に接触成功なわけだしオッケーだね。
「わ、わ、悪い」
 どもりながら散らばった――というか私が意図的にばら撒いた――プリントを焦りながら拾う彼。
 ここからが勝負。後々後悔しないためにも、私も勇気を振り絞って最後の追い込みをかける。
「こ、これで、全部だと思うけど。よく前を見てなくてごめん。急いで帰ろうとしたから」
「……アンケート……」
「え?」
「あ、あの……アンケートお願いします」
「えっと、アンケートって、この紙のことだよね?」
「アンケート……途中だったんです。
 ……クラスの方が帰られる前に、聞いて貰おうって思ったんですけど……」
 悲しそうに言ってみる。もう少しで彼は私の術中にはまること請け合い。
「……ごめん」
「いいんです。聞いてくれる人が少なくっても、一人でもアンケートに答えてくださる方がいればうれしいですし……」
 視線を合わせると、彼は何か気まずそうに視線をチラリと外した。
 何度かの押し問答の末、彼の名前を見事この入部届けのプリントに書かせることに成功。
 まさに一石二鳥とはこういうことなのですね。
 私は気分良くその紙を持って体育館倉庫の部室へと浮き足立ちながら向かった。
 騙すということに少しは罪悪感はあったけれど、それでも私はあの占いを信じることにしたのだから。

『12月生まれ−今週のあなたは、とても良い運気が巡ってきています。思い切って気になるあの人に接近してみてはいかがでしょうか? きっと素敵な時間をこれからも過ごせるはずです。ラッキーアイテムは、ズバリその人の名前が書かれた直筆の紙です』

 それが、占いコーナーに書かれていた魔法の言葉。




初出/'05.03.31
改訂/'05.04.02