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| 某ゲストハウスの思い出(ほのぼのメール2008) |
皿井さん、初めてメールいたします。 アンナさんの近影、ありがとうございます。 ぼくがアンナさんに初めて会ったのは、2004年、初バンコク旅行のときでした。 仕事で何年かおきにフランスを中心としたヨーロッパを周ることがあり、 その年には、かねてからあこがれていたバンコク旅行もついでにしてしまおう、 そう思って片道切符で先ずバンコクに飛び、 アンナさんのところでバンコク―パリの往復航空券を購入したのでした。 アンナ・ゲストハウスには三日ほど滞在したのですが、 泊り客もあまり来ないようで、部屋はずいぶんと荒んだ印象でした。 かつてはさまざまな話題を提供したらしきこのゲストハウスも、 主人の身体の衰えとともに、序々に老いていきつつあるようでした。 「もし用事があったら、ここがわたしの部屋だから、呼びにいらっしゃい」 と、アンナさんは自分の控え室を見せてくれました。 いろんなものが所狭しと置かれていましたが、 物にかこまれること、何かで周りを埋めること、 それがアンナさんなりの孤独への対抗法のように思えました。 ゲストハウスでのいろんな場面、いまでも懐かしく思い出されます。 体調のすぐれないアンナさんに頼まれ、 一緒に屋上で洗濯物の取り込みをしたこと、 夜おそく、酔っ払ったぼくが「おやすみ、アンナさん」と 彼女の手にキスしたら、おおいに照れていたこと・・・ そういえば、朝早くに、まだノーメイクのアンナさんの顔を見てしまったこともありました。 正確には、アンナさんはまったくの素顔ではなく、薄い白塗りの状態だったのですが、 その瞬間、ふたりとも「あー、しまった」という気持ちだったと思います。 あまり他人の内面のことを分析するのは好きではないのですが、 彼女はあのメイクをすることによって「自分の選んだ自分」になるのでしょうし、 あのメイクの時にしか自分を認められないのかもしれませんから。 「明日、いらっしゃい」「土曜日、いらっしゃい」と、 アンナさんは毎回、次に会う約束をぼくとしたのですが、 約束した時間に遊びに行くと、まだ食事の途中だったことがよくありました。 いつも決まってバミーで、それも椅子に腰掛けながら片足だけ体育座りという、 昔の不良がイキがっているような行儀の悪い食べ方をしていました。 でも、アンナさんは脚が長くて、そういう姿が意外にカッコイイのでした。 それからアンナさんが出してくれた夏みかんを一緒に「オイシイね」と食べながら、 特になにをするのでもなく、しばらくの間ただ一緒に居るのでした。 あるとき「マーブンクロンセンターに行くの。一緒にいらっしゃい」と誘われ、 エスコート兼ボディガード役として、お供したこともありました。 アンナ・トラベルからソイ・ンガムデュプリーに出たとたん、 眉をしかめるひと、鼻であざ笑うひと、いっぱいです。 アンナさんはマーブンクロンにあるプリントショップに、 定期的に名刺の印刷をオーダーしに来ているらしく、 華僑の金行の店員たちが「あの婆さん、また来たぜ」と笑いあっていました。 そんなときのぼくはというと、人前に出る仕事をしていることもあり、 目立つのは理由のいかんを問わず望むところ、なんなら このままカオサンにのりこみ、バックパッカー連中を睥睨してやりたいくらいでしたが・・・。 でも、ぼくは笑われているアンナさんと手をつなぎ、 アンナさんより小柄なのにもかかわらずうんと背筋伸ばし、 「女を守るのが男の仕事」と胸を張って、マーブンのあの喧騒を進みました。 いっしょに名刺の新しいデザインを選び、 出来上がるまでエスカレーター近くの吹き抜けの手すりに一緒にもたれかかっていると、 「ここはひとがいっぱい過ぎて・・・」 と言ったなり、アンナさんは目をつむってしまいました。 こんなわずかな外出でも、アンナさんの体力には相当こたえるようです。 「なにかこのひとが喜ぶようなこと、してあげられないかなあ」 と思ったものの、何をすればいいのかわからないまま、 切ない気持ちになったのを覚えています。 そうそう、アンナさんからは、日本旅行の思い出話も聞きました。 「カマクラに行って、ビッグブッダを見たわ。ヨコハマの港にも行ったのよ。 ニホンのエンペラーの家も見てきたけど、大きくてすばらしかった。 ギンザの近くのホテルに泊まったの」 どうも団体ツアーで日本旅行に行ったようですが、いつごろかと尋ねると 「ええと・・・そんなに昔ではないの、いつだったかしら・・・ 10年ぐらい・・・いやもっと前だったかな・・・」 とのことで、ぼくが「また日本に行きたい?」と聞いたら、 「行きたい、でも寒い季節は嫌ね」。 時々、アンナさんは神経が昂ぶるときがあり、 得体の知れないなにかに苛立っているような様子をみせるときがありました。 少しするとおさまって、「ゴメンナサイネ」とうなだれて悲しい表情になりました。 アンナ・トラベルには年端もいかない少女がいて客をとっていて・・・ そんな都市伝説は、ぼくもなにかの本で読んだことがあります。 かつてそういうことがあったのかどうかはわかりませんが、 そのころのアンナ・ゲストハウスは、日本人を中心に 各国の自由な旅行者が集う活気のある宿だったはずです。 しかし、ぼくの知るあの場所は、朽ちるにまかせ、いつか来る終わりを待つ、 吹き込む粉塵がベッドをおおいつくしている淋しくて暗い、 ほとんど誰も訪れることのない部屋でした。 あの場所で生きてきたアンナさんの実際の性別と年齢は・・・ それはおそらくパスポートでも見せてもらう機会がなければわからないでしょう。 とくに性別については諸説入り混じっていますが、私見を述べると、 ぼくはアンナさん、やっぱり女性だと思うのですが・・・手なんかきゃしゃだし・・・ どっちにしても、ぼくにはバンコクで出会った最初の仲良しで、たいせつな他者なのです。 ぼくはそれからパリに飛び、二ヶ月ほどのヨーロッパでの仕事を終え、 バンコクに戻ってきました。 アンナさんのことはずっと気になっていましたが、 ゲストハウスのあの部屋にまた滞在するのはどうしても気が進まず、 申し訳ないなと思いつつも、 すぐそばのプライバシーホテルにお世話になることにしました。 それでもすぐアンナさんに会いに行き、 ヨーロッパがうんと寒かったことや ラマ4世通りの安くておいしい屋台料理が恋しかったことなどをしゃべりまくると、 そんなぼくの話をアンナさんはニコニコしながら聞いてくれました。 顔なじみになっていたマレーシアホテルの運転手のおじさんに 「シャチョー、どこいくの?なに、旅行代理店?だったら、角のあそこが安いよ!」 と話しかけられた時、 「いや、アンナトラベルに行くんだ」と答えたら、 「アンタ、アンナさんと友達なの?!」と仰天されたっけ。 ところで、アンナさんと話していて、「アナタ、この本知ってる?」と見せられたのが、 皿井さんの例の本のあのページのコピーで、 「わたしの事が載ってるって、日本人が本を見せてくれて。 その本買いますからくださいって頼んだけど、ダメですってコピーをくれたの。 わたし、この本、欲しいんだけど・・・」 ぼくはおおいに困って、考えたすえ、帰国後にあの本をアンナさんに送りました。 もしアンナさんの近くに日本語を解読できる人がいて、 あの内容をアンナさんに伝えたら、アンナさん、悲しがるな・・・ それが躊躇した理由だったのですが、 「どうしても欲しい」という彼女に嘘をつきとおすこともできず、 送ったものの返事も礼状もこず、 (アンナさんはそういうことはしない人だ、というのは解っていましたが) 「送ってよかったのかなァ」と不安が残っていました。 2006年の秋にまたバンコクを訪れ、一番最初にアンナトラベルに向かい、 「アンナさん!」とドアを開けるなり呼びかけたら、 あのとおりのアンナさんが満面の笑みで手をさしのばしてくれ、 ぼくらはしばらくハグを交わしました。 「送った本、届いた?」と尋ねたら、 デスクのすぐ脇から取り出して「ありがとう、ほんと、ありがとう」とお礼を言われました。 そのあと現れたタイ航空のスタッフにも、 「これ、わたしよ、わたしが載ってるの」とうれしそうに表紙を指し示し、 スタッフが「ああホントだ、これね」と指差したのは「シーロムの白い人」で、 みんなで楽しく大笑いしました。 ある夜、ラマ4世通りで、 屋台で晩メシを買ってソイ・ンガムデュプリーへ渡る歩道橋の上から、 人混みのなかを彷徨うようにゆっくりと歩いていたアンナさんの姿を見かけて、 胸がいっぱいになったことを思い出します。 そのときのアンナさんはあまりに孤独に見えて、 アンナさんの笑顔と共にある淋しさが、 ぼくにとってのアンナさんの印象なのでした。 呑みながらのメール、失礼しました、悪文、どうかご容赦ください。 次にいつバンコクに行けるか、予定はまったく見えませんが、 ラチャダムリーのイサーン料理店「ラープ・ランスアン」のガイヤーンが恋しい。 皿井さんの紹介文を信じて食べに行ったのですが、いやあ、うまかった。 では。 メールくださったのは、心底とっても優しい方のようです。 血も涙もないような私の本のフォローまでしていただき、つくづく恐縮...。 はたして、アンナさんはあの極彩色のメイクのまま日本旅行を敢行したのか? なぜ、いつもバーミーばかり食っているのか?? そして、真の性別と年齢は??? いくつもの謎が謎のまま残されていますが、 いつかまた、次のミステリーハンターが現れ、真実を明らかにしてくれることでしょう。 なんちて。 |