立体モアレを始めましょう
奥行きを生じる原理1.立体モアレ
僅かにピッチが異なる2枚の格子模様を一定の間隔を開けて重ねると、格子模様が干渉して作るモアレ縞が、2枚の格子模様よりずっと奥に見えたり、逆に飛び出した位置に見えたりします。Ludwig Wilding (19 May 1927 - 4 January 2010)氏がこの現象を利用することを提案したのは1970年代だそうです。氏はアーティストとして様々な作品を残したとのことですが、PCや高解像度プリンタが普及していない時代に、どうやってそれらの作品を作ったのか興味深く思います。また氏も晩年には現代の進んだ道具を使えたはずですが、はたしてアナログの時代にはできなかった、面白い作品を作ることができたのでしょうか。
今ではPCで作画し、インクジェットプリンタで印刷すれば、簡単に思い通りの格子模様を作ることができます。誰でも自由自在に立体モアレを作れるはずですが、この原理を利用した作品を街中で見かけることは、私の経験ではほとんどありません。どうやらあまり注目されていないようで残念です。日々進歩する道具にふさわしい、ユニークな作品が生まれる余地は十分にあると思うのですが。
ここでは立体モアレの普及を願い、その原理を説明することから始めます。
2.奥行きを生じる原理
奥行きのある立体モアレを観察する様子を図1−1に示します。手前の格子(Grid A)は透過原稿でなければならず、OHPシートに印刷して作成することが可能です。一方、奥の格子(Grid B)は必ずしも透過原稿でなくても良いですが、ここでは透過原稿とし、後ろにライトボックスなどを置いて観察するものとして説明します。
図1−1 Grid AよりGrid Bが細かい場合、モアレ縞が奥に見える
両格子の開口部分を通る光線が明るく見えるわけですから、Grid Aのピッチ p よりGrid Bのピッチ w が小さい場合 (p>w) について、その条件を満たす光線を描いてみます。図1−2を見れば分かるように、それらの光線は格子奥で交わり複数の線(平面図では点)となりますが、これはその位置に明るい線が見えることを示しています。これが立体モアレの明部です。
図1−2 p > w のとき、モアレ縞の明るい部分が奥に見える
モアレ周期、すなわち明部の間隔 λ と奥行き D は、この図から簡単に求めることができ以下のようになります。
一般的なモアレ干渉を表す式 (a) に加え、モアレ像の奥行き表す式 (b) があることが立体モアレの特徴と言えるでしょう。
逆に飛び出して見える立体モアレを観察する様子を図1−3に示します。図1−1と全く同じ構成で、格子ピッチの大小を逆転するだけで奥行きが逆転します。
図1−3 Grid AよりGrid Bが粗い場合、モアレ縞が飛び出した位置に見える
同様にGrid Aのピッチ p よりGrid Bのピッチ w が大きい (p < w) という条件で、両格子の開口部分を通る光線を描いたものが図1−4です。先程とは逆に光線は格子の手前で交わり、複数の線(平面図では点)すなわち立体モアレの明部を作ります。
図1−4 p < w のとき、モアレ縞の明るい部分が飛び出した位置に見える
この場合のモアレ周期 λ' と奥行き D' は、この図から以下のようになることが分かります。
ここで λ' =−λ、D' =−D とすれば(a'), (b') は (a), (b) と一致し、λ とD を符号付きで考えれば、どちらの場合も (a), (b) が使えることになります。この2式は立体モアレの基本式と言って良いでしょう。