立体モアレ7
高調波
Higher Harmonics
実験・
モアレ干渉・
横波
今回はレンチキュラーレンズの使用を前提とします。d を一定にして、w を変えることで奥行き D を変えると、D に比例して λ も変化することは立体モアレ5で説明しました。ここでは敢えてこの原則に逆らい、d と λ を固定し、D の異なる立体モアレを作ることを試みます。
作成する立体モアレのイメージを図7−1に示します。上三つのモアレは奥に、下三つは手前に飛び出した位置にあり、その間に奥行きの無い2Dの縞模様を描きますが、これら7本の縞の周期は全て等しくします。

図7−1 作成する立体モアレ
Imageに描く格子の設計値を表7−1に示します。w の値を立体モアレ2の表2−1と比較すると、M2 と M5 は1/2、M1 と M6 は1/3になっていることが分かります。
表7−1 設計値(mm)
p = 0.8467 (30 lpi)
| λ | w | D |
| M1 | 12.7 | 0.2761 | 45d |
| M2 | 0.4097 | 30d |
| M3 | 0.7938 | 15d |
| 2D | 12.7 | 0 |
| M4 | -12.7 | 0.9071 | -15d |
| M5 | 0.4379 | -30d |
| M6 | 0.2886 | -45d |
作成した Image のパターンは以下からダウンロードできます。これを600 dpiの画像として印刷するのですが、ピッチが0.3mm以下の細かい格子を含むので、できるだけ高解像度のプリンタを使いたいところです。
Image, file name = "hh.gif"
ここではキヤノンのMP960を使い、最高グレードの光沢紙に印刷しました。普通の光沢紙やスーパーファイン紙でも十分使えますが、質はそれなりになります。印刷したものにレンチキュラーレンズ(ピッチ30 lpi,厚さ1.35 mm,屈折率1.58)を重ねたものを写真7−1に示します。奥行きの絶対値が大きいモアレ縞はやや不鮮明になりますが、設計通りのモアレパターンを生じていることが確認できます。

写真7−1 レンチキュラーレンズで表示した立体モアレ
写真では分かりませんが、実物を見ると奥行きも設計通りになっていることを確認できます。
比較のために、Grid A に立体モアレ2のA=50% と、立体モアレ3のA=20% を使って表示する実験も行いました。Imageを600 dpiの画像としてOHPシートに印刷し、ライトボックスの上にまずImageを置き、厚さ4mmの透明なアクリル板を重ねた上にGrid Aを置いて立体モアレを表示し、観察したものを写真7−2に示します。
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| A = 50% | A = 20% |
写真7−2 Grid Aの開口率を変えた立体モアレ
A = 50%で満足に見えるのはM3 と M4 だけですが、A = 20%ではレンチキュラーレンズほどシャープではありませんが全てのモアレが確認できています。
以上の結果は、M2 と M5 は2w 、M1 と M6 は3w を一周期と考え、立体モアレ3で説明した像投影の原理を使えば説明することができます。それではこれをモアレ干渉によって説明するとどうなるでしょうか。
まず干渉によってモアレ縞ができる原理を説明します。今Grid A とGrid B (ここではImage)の透過率 TA ,TB を下式のようにサイン関数で表すものとします。ここでは簡単のため位相の項を0として省略します。

Grid A とGrid B を重ねた時の透過率は TA と TB の積になりますから

となり、下線を引いた最後の項が干渉を表す項となります。三角関数の積和公式を使うと、以下のように波長 λ の項が現れます。

ここでは立体モアレ1の式(a)を変形した下式(a')と、三角関数の公式cosθ=cos(-θ)を使っています。上式の第2項はピッチが細かく視認し難いのに対し、第1項は大きな波長 λ で変化して目立つため、これがモアレ縞として視認されるわけです。

この原理によって現れるモアレ縞の波長 λ は常に式(a)で決まりますから、表7−1の設計値( w )を代入して λ を計算すると表7−2のようになり、M3 と M4 以外は±12.7 mmになりません。ではどう説明するのでしょうか?
表7−2 式(a)で計算したλ(mm)
| M1 | M2 |
M3 | M4 |
M5 | M6 |
| λ | 0.41 | 0.79 | 12.7 |
-12.7 | 0.91 | 0.44 |
写真7−2で使用した Grid A の透過率 TA を図7−2に示します。実際の TA は矩形波で、単純なサイン関数ではありません。このような周期関数は下式のようなサイン関数の和、フーリエ級数で表すことができます。

図7−2 透過率 TA のグラフ

フーリエ級数で表した透過関数
ここで係数 an の付いた各項はピッチ p/n のサイン波を表していることに注意してください。
先の説明では、この第2項までを使っていましたが、実際には全ての項を考慮しなければなりません。実はM2 と M5 は第3項によって、2w 、M1 と M6 は第4項によって λ =±12.7 mmのモアレ縞を作っているのです。
すなわち第3項はピッチ p/2 のサイン波なので、式(a)の p を p/2 で置き換え、M2 と M5 の w (表7−1)を代入すれば λ =±12.7 mmとなり、第3項ではピッチ p/3 なので、式(a)の p を p/3 で置き換えて、M1 と M6 の w (表7−1)を代入すれば λ =±12.7 mmとなるのです。 D についても立体モアレ1の式(b)を使ってどうなるか確かめて見てください。
このとき問題になるのは係数 an の大きさです。一般にnが大きいほど小さくなるため、高次のモアレ縞は弱くなります。そこで図7−2の TA について3次の項まで係数 an を調べてみました。これを表7−3に示します。なおフーリエ変換の計算にはExcelを使いましたが、数値計算に伴う若干の誤差はお許し下さい。
表7−3 フーリエ級数に展開した3次までの係数
| a 0 | a 1 |
a 2 | a 3 |
a 1/a 0 |
a 2/a 0 |
a 3/a 0 |
| A =50% | 0.50 | 0.64 | 0 |
0.21 | 1.27 | 0 | 0.42 |
| A =20% | 0.20 | 0.37 | 0.30 |
0.20 | 1.87 | 1.52 | 1.02 |
ここで a0 は平均の透過率、すなわち全体的な明るさを表しますから、モアレ縞の強さ(コントラスト)はこれを基準にした各項の大きさ、つまり an / a0 によって決まると考えて良いでしょう。これも合わせて表7−3に記載しましたが、 an / a0 の大きさを見ると A =20%の a1 / a0 , a2 / a0 ,A =50%の a1 / a0 ,A =20%の a3 / a0 の順になっています。それぞれは A =20%の M3 と M4 , M2 と M5 ,A =50%の M3 と M4 ,A =20%の M1 と M6 に対応していますが、写真7−2を見ると見事にモアレ縞の強さがこの順に一致していて、この推論が妥当であるとわかります。
なお A =50%の a2 は0であるため、M2 と M5 は全く見えないはずですが、写真7−2では僅かながらぼんやりと見えているようです。これは推測ですが、インクジェットプリンタでOHPシートに印刷する際、インクのにじみによって僅かに遮光部の幅が広がり、逆に透過部が狭まって若干の非対称性を生じているのではないかと思います。この種の歪みは2次の項 a2 を発生させるので、そうであれば M2 と M5 が僅かに見えたとしても不思議ではありません。
ではレンチキュラーレンズの場合にはどうなんでしょうか。レンチキュラーレンズではレンズの集光作用により透過率 TA は鋭いピークを作り、図7−3のようになります。ピークの幅や形状はレンズの収差によって異なりますが、図7−2とは比較にならないほど幅の狭いピークなることは間違いありません。このような TA をフーリエ変換すると、 a0 ≪ a1 〜 a2 〜 a3 ・・・と高次の項まで弱まることなく残ります。その結果写真7−1のように全てのモアレ縞が明確に見える訳です。

図7−3 レンチキュラーレンズの TA
いまいち自信のない説明でしたが、たぶんそう間違ってはいないと思います。
濃淡の変化をグラフのように視認できるのが横波を使うメリットだと思います。ここでも図7−1の立体モアレを横波にして見ました。作成した Image のパターンは以下からダウンロードできます。
Image, file name = "hht.gif"
先ほどと同じ条件で印刷し、レンチキュラーレンズを重ねたものを写真7−3に示します。全てのモアレがはっきり視認でき、奥行きも設計通りになっています。

写真7−3 レンチキュラーレンズで表示した横波の立体モアレ
さらにGrid A に立体モアレ2のA=50% と、立体モアレ3のA=20% を使って表示した結果を写真7−4に示します。印刷と表示条件は写真7−2と同じです。
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| A = 50% | A = 20% |
写真7−4 Grid Aの開口率を変えた横波の立体モアレ
これらを見ると単に明瞭か否かだけではなく、手段や条件によって像の崩れ方にそれぞれの特徴があることがよく分かります。
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