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針穴写真6

ピンホールの位置1

大判カメラのアオリに相当するもの

ピンホールを可動としたカメラ上下移動による構図の変化左右に動かすことによる写り方の変化幾何学的な写像


1.ピンホールは真ん中でなくてもよい

 前回のような、写る範囲をぎりぎりまで使う画角の大きな広角写真を撮る場合は別であるが、程々の画角の写真を撮るのであれば、ピンホールの位置は何も中央でなければならないわけではなく、ずれた位置であっても良い。
 ピンホールの位置をずらすこと、より正確に言えばフィルムからの距離(投影距離)を変えずに、フィルムに平行な面内でピンホールを移動することにはどんな意味があるのであろうか。

 三脚を使わない撮影では、図6−1左のように適当な水平面を見つけてピンホールカメラを置くのが簡単であるが、このようにして撮影した風景写真は、常に水平線ないし地平線が画を上下に二等分する構図になる。このような構図はある意味針穴写真らしいと言えるが、あまりに対称性の良い構図は写真の定跡ではあまり好ましくないとされている。実際、図6−1左下のような下半分が地面になるような写真ばかりでは困りものである。
 通常上下の構図を変えるためにはカメラを上に向けるように傾けて撮影するが、手撮りの出来ないピンホールカメラでは、原則的には三脚やスタンドなどカメラを安定に固定する道具が必要になる。しかし実際にはただでさえかさばるカメラに加えてこういった道具まで持ち歩くのは大変であるし、図6−1中のように何かを下にはさんで傾けるという不安定な方法をとるのではあまり好ましくない。またこのようにして傾けて撮った写真では図6−1中下のように鉛直な線が傾いて写り、単に図6−1左下の構図を変えたものとはならない。
     
水平な面にカメラを置いて撮影 カメラを傾けて構図を変える ピンホール位置で構図を変える
撮影形態
構図

 図6−1 カメラの傾きとピンホール位置で構図を変える様子。

 これに対しピンホール位置を上にずらす方法(図6−1右)ならば、カメラの置き方をそのままで構図を変えることができ、鉛直線が傾かない特徴を損なわずに、まさに図6−1左下の画を下に平行移動した写真(図6−1右下)を撮ることが出来る。
 これは大判カメラで使われるアオリの技法に対応するものであるが、アオリが35mmや中判カメラで使われることはほとんどない。こういったことが簡単に出来ることもまた、針穴写真の魅力の一つである。



2.ピンホールを可動としたカメラ

 ここではピンホールを長軸方向に±15mm、短軸方向に±10mm動かすことが出来る写真6−1のカメラ二台を製作した。6.5cm×9cmの印画紙を使用するもので、左は投影距離M=60mmで右は投影距離M=90mmである。



写真6−1 ピンホールを上下左右に移動可能なカメラ

 これら二台のカメラの相違点は投影距離のみで、その他は全く同じである。実際にピンホールの位置を8方向に動かした様子を下図に示した。

右−上 中央−上 左−上
右−中 中央−中 左−中
右−下 中央−下 左−下

図6−2 ピンホールの位置を8方向に動かした様子。



3.ピンホールの上下移動による構図の変化

 実際の撮影例を使ってピンホールを上下にずらす効果を示す。
 写真6−2の二枚の写真はJR桜木町駅を撮したもので、ともに駅前のブロックの上に前記したM=90mmのカメラを置いて撮影したものである。いずれも露出時間は4分で、左はピンホールを中央に位置し、右は中心より上に10mmずらして撮影した。 
 地面に近い位置の水平面にカメラを置いて少し離れた建造物を撮影すると、ピンホールが中央にあるカメラでは下半分が地面になってしまうが、ピンホールを上にずらすことによって建物を中心とした構図を実現することが出来る。

ピンホールを中央において撮影 ピンホールを上に10mm移動

写真6−2 ピンホールを上にずらすことによる構図の変化。(JR桜木町駅)
M=90mm,露出時間4分

 さらに写真6−3の二枚の写真は弘明寺商店街を横切る大岡川に架かった観音橋を撮したもので、こちらは前記したM=90mmのカメラを柵の平らな面に置いて撮影したものである。露出時間は4分で、左はピンホールを中央に位置し、右は中心より下に10mmずらして撮影した。 
 川のように眼下にある被写体では、先程とは逆に視線を下に向けて撮影したい場合がある。ところがカメラを下に傾けて置くことは、上に向けて傾けるよりさらに不安定で難しい。ピンホールを下にずらすことによって視線を下向きにした構図を実現すればカメラを傾ける必要がなく、風が強い日でなければ柵のような幅の狭い面に置いて撮影することも可能である。

ピンホールを中央において撮影 ピンホールを下に10mm移動

写真6−3 ピンホールを下にずらすことによる構図の変化。
M=90mm,露出時間4分

 水面は魅力的な被写体である。時間の平均化によって波は消え、地上の景色の映る様子が流れや波の具合によって撮る度に違った表情を見せる。海水面であれば写真6−4左のように下半分が水面になる対称性の良い構図になりがちであるが、ピンホールを僅かに上下にずらすことによって対称性が崩れ、写真6−4右のような違った印象の写真になる。これらの写真はM=60mmのカメラを縦置きにして撮影した。

ピンホールを中央において撮影 ピンホールを下に5mm移動

写真6−4 ピンホールを僅かに下にずらして対称性を崩した例。
M=60mm,露出時間4分



4.ピンホールを左右に動かすことによる写り方の変化

 ピンホール位置の左右移動は、構図の選択とカメラの安定性にはあまり関係しないが、アオリの効果によって写り方に少なからず影響を与える。
 写真6−5は前記したM=60mmのカメラで、ピンホールを中央にして撮影した写真である。カメラを上向きに傾けて撮ったため鉛直線が傾斜しており、建物が右側で小さくな ることから、右に行くほど遠ざかっていることがわかる。



写真6−5 ピンホールを中央にして撮影した写真。(JR桜木町駅)
M=60mm,露出時間3分


 写真6−6は同じ位置からピンホール位置とカメラの向きを変えて、写真6−5とほぼ同じ範囲が写るように撮影した三枚の写真である。
 撮影法1ではカメラを水平かつ駅舎と平行に置き、ピンホールを右に15mmかつ上に10mmずらして撮影した。撮影された写真には鉛直線の傾きがなく、建物の大きさが左右方向に変化していないことがわかる。ピンホールカメラではフィルム面に平行な面内にある被写体は同じ倍率で写る性質があり、駅舎と平行にカメラを置くことで左右方向の遠近感が無くなるのである。
 撮影法2ではカメラを水平で、駅舎とは写真6−5を撮影した時と同じ角度になるように置き、ピンホールを中央かつ上に10mmずらして撮影した。この時の写真では撮影法1と同様に鉛直線の傾きがないが、左右には写真6−5と同様な遠近感(倍率変化)がある。
       
カメラの向きとピンホール位置 撮影写真
撮影法1
撮影法2
撮影法3

写真6−6 ピンホールの左右移動による画の変化。
M=60mm,露出時間3分


 さらに撮影法3ではカメラを水平で、駅舎とは写真6−5を撮影した時より大きな角度になるように置き、ピンホールを左に15mmかつ上に10mmずらして撮影した。この時の左右の遠近感(倍率変化)は写真6−5よりさらに大きくなり、フィルム面と被写体のなす角度の選択で遠近感を強調することも出来ることが分かる。



5.幾何学的な写像

 ピンホールの位置をずらすことが大判カメラのアオリに対応することはすでに述べた通りであるが、その撮影は同じようには行かない。大判カメラではピントスクリーン(スリガラス)で画を確認してからフィルムホルダーをセットし、撮影することが出来るが、ピンホールカメラでは撮影される画を確かめて撮影することはまず無理である。三次元的な存在である被写体が、平面のフィルム上に投影されてどんな画になるかを頭の中で想像しつつ、カメラの配置とピンホールの位置を決めて撮影するしかないが、思い通りの画を撮ることは結構難しい。幾何学的なセンスが試されるところである。

 撮影の際に心得ておくべき最も基本的なルールはすでに説明したとおり、
     
  1. フィルム面が(水平面に)垂直であれば鉛直な線は傾かず、全て平行になる。  
  2. フィルム面に平行な面上にある被写体は全て同じ倍率で写り、歪むことがない。
の2点である。写真6−7はこの原理を利用し、カメラの置き方とピンホール位置を調整して建物の形状を整え、矩形性を保つように撮影した例である。

ピンホールは中央
カメラを傾けて撮影
ピンホールを上に10mm,右に15mm移動
カメラの水平を保って撮影

写真6−7 ピンホール位置で建物の矩形の形状を残すように撮影する。
M=60mm,露出時間4分

 今回使用したピンホールカメラの画角を35mmカメラのレンズに換算すると、M=60mmのものが26mm、M=90mmのものが39mmとなり結構広角であることがわかる。前回の「広角」で説明した通りピンホールの作るイメージサークルはかなり大きいので、そこそこ広角の領域でもアオリを効かせた写真を撮ることが出来る。これは大判カメラでもなかなか真似の出来ないことだろう。


ピンホールは真ん中でなくてもよいピンホールを可動としたカメラ上下移動による構図の変化左右に動かすことによる写り方の変化

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