ステレオ写真12
プリズムフィルターを使った接写(補足)
プリズムによる色ずれの問題
プリズムフィルターによる色ずれ・
色フィルターとモノクロ写真・
アナグリフ
プリズムフィルターを使った接写には色ずれの問題が避けられない。これについての考えを述べる前に、検討に使用したカメラRICOH MIRAIを紹介しておく。MIRAIもL-10と同じいわゆるブリッジカメラで、ズームレンズを搭載したレンズ交換不可の一眼レフである(写真12−1)。

写真12−1 RICOH MIRAI
ちなみにOLYMPUSにIZM400というカメラがあるが、これはRICOHのOEMで、実質的にMIRAIと同じカメラと考えて良いようである。
MIRAIにはマクロモードがあり、マニュアルフォーカスで使えるのでプリズムフィルターを使った接写が簡単にできる。フィルター枠に2セクションを付けた様子を写真12−2に示す。
写真12−2 MIRAIのフィルター枠にテップアップリング52→55mmを介して55mm径2セクションを取り付けた
このカメラはSAMURAI X4.0やZ2と同様インナーフォーカスで、フォーカシング時にフィルター枠が回転することがなく使いやすい。撮影例を写真12−3に掲げるが、マクロモードではズーミングができないためトーインの調整はできない。

写真12−3 2セクションを使って撮影(MIRAI マクロモード)
写真12−4はトリミングして整えた左右像である。実際トーインはやや不足気味であるが、撮影距離を1m前後とやや遠目で使えば十分使えるだろう。
写真12−4 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)
プリズムフィルターによる色ずれは白い被写体を撮影する時顕著である。写真12−5に白い花を撮影したものを掲げる。

写真12−5 2セクションを使って撮影(MIRAI マクロモード)
左の白い花弁の辺りを拡大したものが写真12−6であるが、外側(写真左側)に青い像が、内側(写真右側)に赤い像がずれるように写っている様子が見て取れる。これはプリズムフィルターの材質であるガラスの屈折率が、波長の短い青い光に対して高く、逆に波長の長い赤い光に対して低いことに帰因する。

写真12−6 色ずれの顕著な白い花弁の辺りを拡大
そもそもプリズムは分光器にも使われるものであるから、この色ずれはプリズムフィルター方式の宿命と言えるかもしれない。もちろんフィルターメーカーが色消し仕様のプリズムフィルターを開発・販売してくれれば問題は解決するが、現時点では手に入らないのであるから、今あるプリズムフィルターを使いこなすしかない。
幸い写真12−5くらいの大きさで鑑賞するならこの程度の色ずれはそれほど気にならないが、被写体によってはさらに目立つこともある。ここではできる範囲での対策を考えてみた。
カラー写真では全ての波長(色)の光を利用しなければならないが、モノクロ写真であれば使う波長を制限することで色ずれを減少させることができるはずである。モノクロ写真用フィルターには色調を変えてコントラストを調整するものがあるが、ここでは赤と青の一部をカットする緑色のPO1と、青色の光をカットするオレンジ色のフィルターYA2を使ってみた。

写真12−7 モノクロ用フィルターPO1(緑)とYA2(オレンジ)
まずはこれらのフィルターの効果を調べるため、カラーフィルムを使って先程と同じ被写体を撮影してみた。まずPO1を付けて撮影したものを写真12−8に掲げた。このフィルターは赤や青の光を完全にカットするのではなく、一部は通しているので比較的自然な色合いになっている。

写真12−8 フィルターPO1を付けて撮影(MIRAI マクロモード)
写真12−6と同じ白い花弁の辺りを拡大したものが写真12−9である。赤と青のエッジは依然として残るものの、青い像のずれは大幅に減少している。

写真12−9 色ずれの顕著な白い花弁の辺りを拡大
次にYA2を付けて撮影したものを写真12−10に掲げた。PO1と異なり色合いはすっかりモノクロームな感じになる。

写真12−10 フィルターYA2を付けて撮影(MIRAI マクロモード)
先程と同様に白い花弁の辺りを拡大したものが写真12−11である。若干のボケ味は残るものの青のエッジは完全に消えている。

写真12−11 色ずれの顕著な白い花弁の辺りを拡大
光学ガラスの屈折率変化は短波長側で特に大きく、赤よりは青い像のずれが特に目立つため、写真の解像度を高めるためにはYA2のように青をカットするフィルターが効果的である。一方でPO1は青や赤の光も若干通し、色合いもある程度残しているのでカラー写真に使用できる可能性もある。
実際にモノクロフィルムでこれらフィルターの効果を調べたものが写真12−12である。手前の花の色はピンクであるが、当然のことながらフィルターによって濃淡の写り具合は変わってくる。またフィルター使用時には明るさが1/4になるが、プログラムAEで撮影したためその分絞りが開き、後景のボケが大きくなっている。
フィルター無し
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| PO1 |
YA2 |
写真12−12 フィルターの効果をモノクロ写真で比較(NEOPAN ACROS100, MIRAI マクロモード)
解像度を比較するために花弁の部分を拡大したものが写真12−13である。ノーフィルターで見られた大きな滲みがPO1では半減し、YA2ではほとんど無くなっていることが分かる。
フィルター無し
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| PO1 |
YA2 |
写真12−13 写真12−12の花弁の部分を拡大
YA2の写真をトリミングして平行法の配置に並べたものが写真12−14である。残念ながらこのサイズでは解像度の違いは分かりにくい。
写真12−14 YA2をトリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)
以上のことからフィルターの使い方に関する考えをまとめると以下のようになる。
- 色ずれは青い像について顕著であることから、ノーフィルターで撮る場合には白、紫、ピンクなどの青を含む色の被写体はできるだけ避け、黄色、オレンジ、緑、(紫やピンク系を除く)赤など暖色系の被写体を選択すると良い。
- カラー写真を撮る場合には、PO1のように青の一部(単波長側)をカットしつつ、色のバランスを大きく崩さないフィルターを使うと良い。晴天の屋外のように照明光の色温度が高い状況ではノーフィルターよりむしろ自然な色合いになることもある。ここでは使わなかったがY2(イエロー)やPO0(黄緑)も試してみると良いだろう。
- モノクロ写真を撮るならYA2のように青い光を完全にカットするフィルターを使うと良い。R1(赤)ならより完全だが、透過率が低く暗くなるので接写にはややつらいと思われる。
カラーアナグリフでは左右像をそれぞれ色成分に分けて使用する。であれば色成分に分ける際に色ずれの問題が解消される可能性がある。実際に写真12−5の花弁部を拡大した写真12−15をカラーアナグリフ用の色画像に分け、色ずれがどのようになるか調べてみよう。

写真12−15 写真12−5の花弁部を拡大
一般的なカラーアナグリフは元のカラー画像を赤とシアンに分離する。写真12−15を赤とシアンの画像に分離したものを写真12−16に示すが、残念ながらシアンの像に青と緑の大きなずれが残ってしまう。
写真12−16 写真12−15を赤(左)とシアン(右)に分離
前述したように大きな色ずれを起こすのは青の像であるので、当然ながらカラーアナグリフでも青の像を分離する組み合わせを選択するのが好ましいと考えられる。これには青と黄色の補色関係を使えば良い。写真12−15を黄色と青の画像に分離したものを写真12−16に示した。
写真12−17 写真12−15を黄色(左)と青(右)に分離
この場合でも黄色の画像に赤と緑のずれは残るが、シアン(写真12−16右)に見られる青と緑のずれに比べればずっと小さい。
このようにプリズムフィルターを使った写真も、黄色と青のカラーアナグリフにすれば色ずれによる画質の低下はかなり軽減される。実際に写真12−5からカラーアナグリフを作成したものを写真12−18に掲げるが、残念ながら黄色と青のアナグリフ眼鏡は一般的でないので観察するのは簡単でない。特に問題になるのは青のフィルターの入手が難しい点で、市販されているほとんどの青いセロファン紙やプラスチック板は、実はシアンであって青ではないので、黄色の画に含まれる緑の画を十分にカットできない。

写真12−18 写真12−5から作成した黄色(左)と青(右)のカラーアナグリフ
このように黄色と青のカラーアナグリフは一般に普及してはいないので、実施するのは容易ではないかもしれないが、プリズムフィルターによる色ずれを避ける一つの方法であることは確かであろう。
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