ステレオ写真8
プリズムフィルターを使った接写A(応用編5)
プリズムフィルターを二枚重ねて使う
二枚重ねで広がる応用・
さらなる工夫と新たな問題
バリミラージュではプリズムを二枚重ねて使っているのであるから、2セクションも二枚重ねて使うことが出来るはずである。二枚重ねることで屈折角は大きくなるから、より焦点距離の短いレンズを使用することができ、画角の大きい写真を撮ることが可能になる。

図8−1 2セクションのプリズムを裏返して重ねる
実際に2セクションを重ねるには、図8−1(左)に示した通りまずプリズムを裏返してからバリミラージュの半分(バリミラージュ(1/2))か、あるいはもう一つの2セクションに取り付ける(同右)。2セクションのプリズムは切りかきが付いたリングでネジ止めされているから、写真8−1のように専用の工具を使って簡単に取り外すことが出来る。分解したらプリズムを裏返して入れ、再びリングで固定すれば良い。

写真8−1 2セクションの分解(上は使用した専用工具)
撮影に使用したカメラはRICOH XR500 auto、レンズはTAMRON 35-70mm CF MACROである。このカメラは絞り優先AEであり絞りを決めて撮影したい本用途に適している。またレンズは40-70mmで50cmまで寄って撮ることができるマクロ機能を有し、写りもシャープである。この検討ではできるだけカメラを変えて撮影し、この手法が特定のセットに限定されるものではないことを示してゆく。

写真8−2 RICOH XR500 autoXR500+TAMRON 35-70mm CF MACRO
バリミラージュ、2セクションともフィルター径55mmのものを準備し、取り付けには58mm→55mmのステップダウンリングを使用した。実際にバリミラージュ(1/2)と2セクションを重ねて取り付けた様子を写真8−3(左)に、2セクションを二枚重ねで取り付けた様子を写真8−3(右)に示す。
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| バリミラージュ(1/2)+2セクション |
2セクション×2 |
写真8−3 プリズムフィルターを二枚重ねて取り付けた様子
これまでの写真との画角の違いを明確にするため2セクション一枚で撮影したものと、バリミラージュ(1/2)+2セクション、2セクション×2でそれぞれ撮影したものを写真8−4に比較してみた。なお2セクションによる撮影では×1.5のテレプラスを使って焦点距離を伸ばしている。
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| 2セクション |
バリミラージュ(1/2)+2セクション |
2セクション×2
写真8−4 プリズムフィルターを重ねた写真を2セクション1枚のものと比較(XR500, F22, ISO800)
撮影距離は50cm程で、ズーム位置はバリミラージュ(1/2)+2セクションで70mm、2セクション×2では55mmと言ったところである。トリミングしたものを写真8−5に示すが、二枚重ねでは中央に第3の像が入るためトリミングロスは若干大きくなる。
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2セクション |
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バリミラージュ(1/2)+2セクション |
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2セクション×2 |
写真8−5 各々をトリミングして並べた写真(平行法の配置)
前回バリミラージュ(1/2)を使ったテレマクロにおいて、オーバーラップの増大とステレオベースの減少が起こることを説明したが、反対に二枚重ねで屈折角が大きくなることは、同じ理由によってオーバーラップの減少とステレオベースの増大を引き起こす。そのため撮影されたものはいずれも奥行き感が強めで、第3の像があっても境界がはっきりとしておりトリミングしやすい。
さらにカメラとレンズを変えて同じことを行ってみた。カメラはMINOLTA α7000、レンズはAF ZOOM 35-105mmである。α7000はオートフォーカス機であるがマニュアルフォーカスで使えば問題ないし、絞り優先AEも備えている。またレンズの最短撮影距離は85cmと長めであるが、すでに説明したとおりプリズムを重ねる撮影ではステレオベースが大きめになる傾向があることから、奥行き感が極端に不足するようなことはないと予測した。

写真8−6 MINOLTA α7000+AF ZOOM 35-105mm
実際の撮影例を写真8−7に示す。35-105mmと先程よりズーム範囲が広いため、テレプラスなど使用せずに三種類の撮影ができる。
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| 2セクション |
バリミラージュ(1/2)+2セクション |
2セクション×2
写真8−7 プリズムフィルターを重ねた写真を2セクション1枚のものと比較(α7000, F22, ISO800)
ここではバリミラージュ(1/2)+2セクションの四隅に僅かなケラレが、2セクション×2には大幅なケラレを生じている。また撮影距離が85cmと伸びたせいか、レンズのズーム位置はそれぞれ90mm, 60mm, 40mmと先程より短い。
焦点距離が短く画角も大きくなったことに加え、プリズムフィルターを重ねることで厚みが増し(2セクション×2では27mm程になる)て大きなケラレを生じる結果になったと思われる。
これらをトリミングしたものを写真8−8に掲げたが、2セクション×2のものはケラレによるロスを最小限にするように楕円形の枠を使用した。
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2セクション |
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バリミラージュ(1/2)+2セクション |
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2セクション×2 |
写真8−8 各々をトリミングして並べた写真(平行法の配置)
撮影距離が長くても奥行き感の不足を感じないのは、レンズ−フィルター間の距離が大きくステレオベースが十分にとれていることを意味するが、このことが逆にケラレが大きいことの原因にもなっている。こういった事情は個々のレンズによって異なるので、考えるよりは実際に手持ちのレンズで試してみるのが早いだろう。
もちろんコストを気にしないのであれば、径の大きなプリズムフィルターを使用してケラレを防ぐという手はある。バリミラージュは最大径58mmであるが、2セクションは77mmまであるようである。
2セクションを使った二枚重ねを加えると使えるレンズの種類は倍増し、50mm標準レンズや35-70mm、28-80mmなどの標準ズームまでが使えるようになる。フィルターの構成と使用に適する可能性がある焦点距離を表8−1にまとめた。バリミラージュ(1/2)と2セクション(or バリミラージュ)に関しては、接写リングの使用も考慮して焦点距離の範囲を広めに示してある。
表8−1 フィルター構成と目安となるレンズの焦点距離
| フィルター構成 |
バリミラージュ(1/2) |
2セクション or バリミラージュ |
バリミラージュ(1/2) + 2セクション |
2セクション×2 |
| 焦点距離(目安) |
130〜200mm |
70〜100mm |
60〜80mm |
40〜55mm |
標準レンズを使う例として、CANON FTb+FL50mmに2セクションを二枚重ねで取り付け、撮影したものを写真8−9に示す。

写真8−9 CANON FTb+FL50mm+2セクション×2で撮影した写真(F16, ISO400)
これまでの被写体は花や虫と小さな物ばかりであったが、二枚重ねでは画角が拡大して倍率が下がるため、小動物ぐらいの大きさまで撮影の対象とできる。トリミングして左右像を作ったものが写真8−10であるが、この写真ではトーインが強すぎてトリミングロスが大きくなってしまった。
写真8−10 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)
トーインの調整ができると言う点ではやはりズームレンズの方が使いやすい。ただ標準の50mm単焦点レンズでもなんとか使えるということは喜ばしいことである。
トリミングして削除できるとはいえ第3の像は目障りであるし、トリミングロスを少なくするためにもできるだけ小さく抑えたい。第3の像は左右のプリズム面を交差して通過する光線(図8−2の斜線部分)によって作られるから、プリズム間の距離を縮めてこの成分を減らせば(図8−2右)小さくできるはずである。

図8−2 プリズム間の距離を縮めることで第3の像を縮小する
そこで図8−3のようにフィルター枠を自作して、プリズム間の距離を縮めることを試みた。ここでは厚さ2.5mmのMDFと厚さ1mmミューズボードを使って枠の厚さを調節し、プリズムの頂角がぶつからないようにボール紙を挟んでいる。

図8−3 自作したフィルター枠。バリミラージュ(1/2)+2セクション(左)と2セクション×2(右)
実際に揃えた2セクション×2フィルターのパーツ一式を写真8−11に示す。バリミラージュ(1/2)+2セクション用にはMDFのパーツ1枚を減らせば良い。枠にはステップアップリング(55mm→72mm)を接着し、プリズムをはずしたバリミラージュの枠の片方に取り付ける。

写真8−11 2セクション×2フィルターのパーツ一式
これらのパーツを実際に組み立てた2セクション×2のフィルターを写真8−12に示した。
写真8−12 製作した2セクション×2フィルター、被写体側(左)とレンズ側(右)
組み立てたフィルターを使った撮影には、標準ズームAF 35-70 MACROを搭載したKYOCERA 230AFを使用した。このカメラとフィルターを取り付けた様子を写真8−13に示す。
写真8−13 KYOCERA 230AF+AF 35-70 MACRO(左)とフィルターを取り付けた様子(右)
撮影はマニュアルフォーカス、絞り優先AEで行った。まずバリミラージュ(1/2)+2セクションで撮影したものを写真8−14に示すが、ねらい通り第3の像はほとんど見えなくなった。

写真8−14 バリミラージュ(1/2)+2セクション自作フィルターを使って撮影した写真(230AF, F27, ISO800)
トリミングしたものを写真8−15に掲げるが、トリミングロスも少ない。
写真8−15 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)
次に2セクション×2で撮影したものを写真8−16に示す。こちらも第3の像はほぼ消滅している。

写真8−16 2セクション×2自作フィルターを使って撮影した写真(230AF, F27, ISO800)
トリミングしたものが写真8−17であるが、ここで目に付くのは後景に見られる非対称な歪みである。左の写真では後の景色が右下がりであるのに対し、右の写真ではやや右上がりである。この歪みは立体視する際に明らかな障害となるが、これまではあまり見られなかった現象である。
写真8−17 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)
このような左右像の非対称な歪みの原因には以下のようなものが考えられる。
- 一つのレンズで投影される像の左右を左右像に割り当てる方法では、左の像は右に、右の像は左にそれぞれレンズずらした、いわゆるアオリを効かせた像になっている。このため左の像は左に行くほど倍率が大きくなり、右の像は逆に右に行くほど倍率が大きくなるという、反対の倍率傾斜を有する像になる。
- 屈折角が大きくなってプリズムでの屈折による歪みが顕在化した。
- 画角が大きくなってレンズの持つ像の歪みが顕在化した。
特にAは反射を使ったステレオアダプターにも見られる現象で、恐らく主要な原因であると思われるが、ここではこれにCが加わって歪みが特に顕著になったものと思われる。実際写真8−10のように標準レンズを使用した写真では、これほど大きな歪みは見られないようである。
A〜Cのいずれも画角が大きくなると顕著になる現象であるため、前回までの検討ではほとんど問題にならなかったが、プリズムを二枚重ねにして画角が大きくなったため無視できない問題になった訳である。
歪みの少ないレンズを使用すればCは改善できるが、この構成を使う限りAやBには原理的な解決策が無い。例えば歪みが目立つ直線部を持った被写体を、歪みが大きくなる周辺部に入れないようにするとか、あるいは周辺部をぼかしてしまうなど、構図を工夫して歪みが目立たないようにするしかないだろう。事実写真8−5、8−8、8−10などでは写真8−17ほど歪みが目立っていないから、構図の工夫はかなり有効な対策であると言える。
写真8−18は写真8−16をわざと楕円形の枠でトリミングし、歪みが大きい周辺部をカットしたものであるが、これだけでも写真8−17よりは若干違和感が少なくなったように感じる。
写真8−18 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)
プリズムを二枚重ねる・
二枚重ねで広がる応用・
さらなる工夫と新たな問題