ステレオ写真9
プリズムフィルターを使った接写B(原理編)
クローズアップレンズを使う方法
クローズアップレンズの位置
マクロ機能のないレンズでもクローズアップレンズを使えば接写が可能になる。この方法は前々回説明した接写リングを使用するものより簡便で、恐らく安価である。接写リングはレンズ−フィルム間の距離を変えるだけのものであるので、その作用はプリズムフィルターを使った撮影原理に影響することはないが、クローズアップレンズを加える方法は、光学系に新たなレンズが加わることになるのでそれほど単純ではない。
クローズアップレンズの役割は撮影距離を縮めることであるが、同時に凸レンズを加えることで実質的な焦点距離も変わる。これだけなら少しばかりズーム位置を変えるだけでプリズムフィルターを使った接写が出来そうであるし、また実際に出来るのであるが、ここではクローズアップレンズの影響をもう少し詳しく考えてみよう。

図9−1 クローズアップレンズを加えることの影響
図9−1左はプリズムフィルターで二つのレンズ像IL1, IR1が分かれ、これらによる左右像が撮影される様子を表している。これにクローズアップレンズを加えたものが同図右であるが、クローズアップレンズを通した二つのレンズ像IL1, IR1は、クローズアップレンズのレンズ作用によって後方に移動したIL2, IR2の位置に見えることになる。この結果引き起こされる(撮影距離以外の)変化は以下のようなものである。
ただこれらの変化は、使用するクローズアップレンズの焦点距離が主レンズの焦点距離に比べて十分長ければあまり大きいものではなく、若干ズーム位置が異なる程度なので特に意識する必要はないようである。
ここではCANON FTb+Tokina SD 70-210mmに2セクションとクローズアップレンズ(No.3)を取り付けて実際に撮影してみた。

写真9−1 CANON FTb + Tokina SD 70-210mmに2セクションとクローズアップレンズ(No.3)を取り付けたもの
クローズアップレンズ(No.3)は焦点距離が330mmの凸レンズで、これを取り付けると撮影距離は300mm前後になる。ステレオベースは10mmより大きくなるのでこの距離はやや近すぎるぐらいである。一方No2.は焦点距離が500mmなのでやや長すぎる可能性があり、どちらを選ぶか迷うところである。

写真9−2 レンズに取り付けられた2セクションとクローズアップレンズ(No.3)
実際に撮影したものを写真9−3に示す。ズーム位置は100mm弱のあたりで適正なトーイン量になった。撮影に際しての操作はこれまでと全く変わらない。撮影距離が短いので撮影倍率はかなり大きい。

写真9−3 2セクションとクローズアップレンズ(No.3)を使って撮影した写真。(F32, ISO200)
写真9−4はトリミングして整えた左右像である。やや奥行き感が強いようであるが、ひどく見づらいというほどではない。この辺は好みの問題と思うが、奥行き感をもっと抑えたいのであればNo.2のクローズアップレンズを使えばよいだろう。
写真9−4 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
次に2セクションをバリミラージュに変えた撮影例を写真9−5に示す。F32と絞ってあるので中央の第3の像は狭い範囲に抑えられている。

写真9−5 バリミラージュとクローズアップレンズ(No.3)を使って撮影した写真。(F32, ISO200)
トリミングしたものが写真9−6である。この写真では青い像がはみ出したような色ずれが顕著であるが、これはプリズムフィルター方式の宿命であり、これを防ぐ適当な対策はない。詳しくは後に触れたい。
写真9−6 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
さらにバリミラージュ(1/2)を使った撮影例を写真9−7に示した。ズーム位置は200mm弱である。クローズアップレンズを使った撮影では、主レンズの焦点距離が変わっても撮影距離はほとんど変わらない。このため撮影倍率は主レンズの焦点距離にほぼ比例する。また2セクションなどと比べてオーバーラップが大きい点はすでに説明したとおりである。

写真9−7 バリミラージュ(1/2)とクローズアップレンズ(No.3)を使って撮影した写真。(F32, ISO200)
トリミングしたものが写真9−8である。バリミラージュ(1/2)を使う場合にはステレオベースが小さくなるので、写真9−4や写真9−6より奥行き感が薄い写真になる。
写真9−8 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
クローズアップレンズを加えた撮影は、撮影距離がクローズアップレンズの種類(焦点距離)で決まる点を除けば、これまでのプリズムフィルターを使った接写とほとんど変わらない。一般にクローズアップレンズは接写リングより安価であるので、コスト面でこの方法は有利である。
ステレオベースは通常10〜20mm程度になることから、使用に適するクローズアップレンズの種類はNo.2(f=500mm)かNo.3(f=330mm)になることが多い。ただ条件によってはNo.1(f=1000mm)やNo.4(f=250mm)の使用も考えられる。この辺はケースバイケースと言うところだろう。
上記の検討ではまずレンズにプリズムフィルターを取り付け、さらにプリズムフィルターにクローズアップレンズを取り付けていた。それではプリズムフィルターとクローズアップレンズの位置を取り替え、写真9−9のように先にクローズアップレンズを取り付けてからプリズムフィルターを取り付けるのではだめであろうか。これは自然な疑問として浮かんでくる。

写真9−9 クローズアップレンズを取り付けてから2セクションを取り付ける
図9−2を使ってこの場合を考えてみよう。まず図左のようにクローズアップレンズによってレンズの像Iが形成される。このとき像Iの位置は実際のレンズよりクローズアップレンズから離れた位置(ID>D)に存在するため画角が狭まる(IA<A)。
像Iは同右に示すようにさらにプリズムフィルターによって二つの像IL, IRに分かれるが、ID>Dであるからこのときのステレオベースはクローズアップレンズがないときより大きくなる。また画角が小さくなったこと(IA<A)でトーインも増加するから、結果として先程と同様に
が全て起こり、少なくとも定性的には同様の効果が期待できることになる。

図9−2 オーバーラップを決める要素
実際に写真9−9のように2セクションとクローズアップレンズの位置を入れ替えたものと、入れ替える前のもの(写真9−2)とで同じ被写体を撮影し比較してみた。写真9−10は2セクション+クローズアップレンズの順で取り付けた(写真9−2)状態で撮影したもの。写真9−11はクローズアップレンズ+2セクションの順で取り付けた(写真9−9)状態で撮影したものである。

写真9−10 2セクション+クローズアップレンズ(No.3)の順で取り付け(写真9−2)撮影したもの(F32, ISO800)

写真9−11 クローズアップレンズ(No.3)+2セクションの順で取り付け(写真9−9)撮影したもの(F32, ISO800)
これらをトリミングして左右像を作ったものを写真9−12と写真9−13に掲げるが、これらを見れば2セクションとクローズアップレンズの位置を入れ替えても問題なくステレオ写真が撮影できることが分かる。
これら二つの写真を撮ったズーム位置はほとんど変わらないが、撮れる写真は全く同等というわけでもなく、写真9−11は写真9−10より倍率が若干小さくなっている。このように倍率やステレオベースなどに若干の違いはあるものの、2セクションとクローズアップレンズの入れ替えは基本的に問題ないようである。
写真9−12 写真9−10をトリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
写真9−13 写真9−11をトリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
さらにプリズムフィルターをバリミラージュ(1/2)に変えて同様の撮影を行った。写真9−14はバリミラージュ(1/2)+クローズアップレンズの順で取り付けた状態で撮影したもの。写真9−15はクローズアップレンズ+バリミラージュ(1/2)の順で取り付けた状態で撮影したものである。

写真9−14 バリミラージュ(1/2)+クローズアップレンズ(No.3)の順で取り付け撮影したもの(F32, ISO800)

写真9−15 クローズアップレンズ(No.3)+バリミラージュ(1/2)の順で取り付け撮影したもの(F32, ISO800)
これらをトリミングしたものを写真9−16と写真9−17に示す。先程と同様にクローズアップが被写体側にある方の倍率が若干大きいようであるが、それ以外の違いはほとんど分からない。
写真9−16 写真9−14をトリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
写真9−17 写真9−15をトリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。
以上のことからプリズムフィルターとクローズアップレンズの位置関係は、どちらが先でも良いと考えて差し支えなさそうである。。
クローズアップレンズで接写する・
クローズアップレンズの位置