偽立体像を正しく再生する表示方法
原理・ 実験・ 考察
1.はじめに
レンズ板式立体写真の撮影における第一の問題は、単純な撮影法では凹凸の逆転した立体像(pseudoscopic image)になってしまう点である。これまでこの問題を解決する撮影法の幾つかを説明してきたが、今回は視点を変え、レンズ板を重ねる表示法ではpseudoscopic imageとなる撮影像を、表示法の工夫によって正しい立体像(orthoscopic image)とすることを考える。
ここではレンチキュラー写真に対応する、水平面内での視差を再現する立体像について検討を行った。垂直な視点移動まで再現する、インテグラルフォトグラフィ相当の立体像にも同じ原理の表示法が考えられるが、これにはすでに小林氏らによる研究「光線再生法による3次元カラー画像再生」がある。そちらの方がより完全な立体像となるが、画質や明るさの面でより難しくなることを覚悟しなければならないだろう。
2.原理
本立体写真を撮影する装置の斜視図を図10−1に示す。図中には装置を構成する光学要素のみが示され、これらを収納する暗箱と露光を制御するシャッターは省略されている。実際の撮影では、水平スリットの前後かスリット板の前にシャッターを設けて露光を制御する。
図10−1 立体写真撮影装置(斜視図)
撮影フィルムには対物レンズ、水平スリット、リレーレンズ、スリット板、透明板を通じて撮影枠の像が投影される。
対物レンズとリレーレンズの距離は両レンズの焦点距離f1,f2の和に等しく、またスリット板は縦のスリットが等間隔に並んだもので、フィルムと一定の間隔を持って平行に置かれる。ここでは透明板を両者の間に挟んで密着させることで、この条件を満たしている。
図10−2は本装置の側面図である。本装置の上下方向の機能は、水平スリットを絞りとした通常の平面像の投影装置である。対物レンズと水平スリットの距離F3は対物レンズの焦点距離f1より小さく、対物レンズからF4だけ離れた水平スリットの像が視点となって、平面像のパースペクティブ(遠近感)を決定する。
図10−2 立体写真撮影装置(側面図)
図10−3は本装置を上から見た平面図である。水平面内では水平スリットは機能を有さないので点線で表した。
図10−3 立体写真撮影装置(水平面図)
撮影枠を通過して対物レンズに入った光線は、スリット板を通ってフィルム上に投影されるが、このとき図10−4に拡大図を示すように、スリット板の働きによって、フィルム上には撮影枠を通過する光線の角度分布が投影・記録される。
図10−4 立体写真撮影装置(拡大図)
このようにしてフィルム上には、縦方向に通常の平面像で、水平方向には位置と光線の角度分布を表す像が記録される。この像はレンチキュラーレンズで再生すると凹凸の逆転したpseudoscopic imageになるが、これは図10−5Aのようにレンズによる像の倒立が角度反転を引き起こすためで、図10−5Bに示すように線状光源をバックライトに使って角度反転を生じないように再生すれば、orthoscopic imageとして表示することができる。
図10−5 レンチキュラーレンズを使った表示Aと線状光源を使った表示Bを水平断面図で示した
実際の表示装置の一例を図10−6に示した。ライトボックス(光源)の上にスリット板をのせて線状光源を作り、透明板をはさんで上記撮影像を記録したフィルムを重ねる。ここに用いるスリット板は撮影装置に使用したものと同一のものでよく、スリット板、透明板、フィルムの関係は撮影装置における三者の関係に等しい。
図10−6 スリット照明を使った立体写真表示装置
撮影装置においてスリット板の前に置かれるリレーレンズは、図10−3,4から解るように、対物レンズに垂直に入射した光をスリット板に垂直に入射する光に変える機能を有する。このリレーレンズは無くても同様の立体写真を撮ることができるが、その場合には表示装置に用いるスリット板のピッチを、撮影時のスリット板と変えなければならず面倒である。
また撮影装置における投影(撮影)倍率は、リレーレンズと対物レンズの焦点距離の比f2/f1に等しくなる。このとき表示装置に使う透明板の厚さは、撮影装置の透明板の厚さのf1/f2とすれば、リアルな立体像を再生することが可能になる。もしf1=f2なら撮影装置と表示装置の透明板は同等のものを使用すればよい。
3.実験
下記の部品で撮影装置(写真10−1)を組み立てた。
- 対物レンズ・リレーレンズ: 焦点距離150mm、300mmφフレネルレンズ(日本特殊光学製)
- 水平スリット: 幅2mm黒画用紙で作成
- スリット板: スリット幅1/600 inch、ピッチ約0.7mm プリンタでOHPフィルムに印刷して作成
- 透明板: 1mm厚アクリル板
- フィルム: 4×5シートフィルム(リバーサル ISO100)
写真10−1 製作した立体像撮影装置の外観 対物レンズ側(左)とフィルム側(右)
この装置を使った撮影例を写真10−2に示した。室内の蛍光灯下で撮影したため、露光時間は30秒程と長い。
写真10−2 立体像の撮影例
撮影例を図10−6に相当する表示装置にセットし、視点を変えて二枚の写真を撮影したものを写真10−3に掲げた。ちょうど裸眼立体視の平行法の配置になっている。
写真10−3 スリット照明で表示した撮影例 二視点から撮影
まだスリットの間隔が大きいので画質は良くないが、スリット間隔を縮めて密度を上げれば改善されることは容易に類推できる。決してこれが限界と言うわけではない。
4.考察
今回の実験では、露光時間を短時間で精度よく制御する手段が無かったため、あえて長時間露光になるように条件設定したが、スリット板を使った本撮影装置は原理的に感度が低いという問題を有する。この問題はスリット板をレンチキュラーレンズに変えることで大幅に改善することができ、さらに使用フィルムの高感度化や照明光の増加などを組み合わせれば、実用的な露光時間で撮影することが可能になると考えられる。
線状光源(スリット照明)を使った表示画像は、パララックスバリアを使った表示画像と類似した画質になる。線状光源の密度を上げて見やすい画像にすることや、照明効率を高めて明るい像とすることが今後の課題となる。
[特許出願済み]