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富士の高根を三保ヶ浦 実に長閑なる春なれや
松原遠く海なぎて 吹くも静けき時津風
浜松風の音に和し 虚空に響く楽の声
妙なる薫り花降りて 及びなき身の眺めにも
心空なる景色かな
是は このあたりに住む白竜と申す漁夫にて候
あれなる松をうち見れば 梢にかかる羅の
色香も妙に常ならず 取りて帰りて人にも見せ
家の宝ともなさばやと存じ候
なう それは天人の羽衣とて
たやすく人間に与ふべきものにあらず
もとの如くに置き給え
さては天人にてましますかや 然らば衣をとどめ置き
国の宝となすべきなり 衣を返すことあらじ
悲しや 衣なくては飛行の道も絶え
羽なき鳥の如くにて 上らんとすれば翅なし
地にまたのぞめば下界なり 力及ばずせん方も
涙の露の玉かつら かざしの花もしをしをと
五衰の姿目の前に ふりさけ見れば霞立つ
天路の雁もなつかしや 千鳥鴎の沖津浪
行くか帰るか春風の なれし雲居に通ふらん
あら恋しやとうち歎く
いかに申し候 御姿を見奉れば
あまりに御痛わしう候と 衣を返し与うれば
乙女は衣を着なしつつ 仮にあづまの駿河舞
霓裳羽衣の一曲も ゆたに吹くなる春風に
誘われ顔の舞姫が 霞に匂ふ花の雨
雪をめぐらす雲の袖
左右さ 左右颯々とたなびきたなびく三保の浦
浮島ヶ原に立つ雲の あしたか山や富士の嶺
いつしか霞へだつれば 波の鼓や松の琴
調べもともに澄み渡る
面白や ここも妙なり天津風 雲の通路吹きとじよ
乙女の姿今しばし この松原にとどまりて
千代萬代の舞衣 なづる巌のためしをば
仰ぐ御世こそ楽しけれ
作詞:飯田胡春
演奏:中里宴水
阿彦汀水 |