例えそれが試験勉強のために教科書や参考書やノートといった重量級の方々と取っ組み合いを演じているときであっても、あるいはテレビのお笑い芸人やマンガの脇役たちのような見かけだけはくっだらない人たちの行為に爆笑している時であっても、翼が艶っぽくあたしを呼ぶだけで あーらフシギ、壁紙の色が真っ白であろうとBGMがハードロックであろうと部屋の中は一瞬にしてピンク色になってしまう。脇を通ってお腹にまわされた腕の綺麗なこと。


「暇なんだけど」


翼の腕を覆うしなやかな筋肉をうっとり撫でていたあたしの手を掴んで翼はやや不機嫌そうに呟く。それでも湿った声があたしの首筋を温めるので賢明にお腹に力をこめた ら 翼が低く笑ったのでムッとした。誰のせいだと思ってんの。


「あたし明後日から期末なんですが」


知ってる、という声がくぐもっているのは思いっきりあたしの身体を抱きしめているせいで翼の顔があたしの肩口に埋められているからだ。あたしはつまんでいたシャープペンを放りだして 児童の第二次性徴期における社会に対する心理の変化についての小論文訓練を諦めた。翼はのどを鳴らす勢いであたしを抱きしめている。女の子みたいに柔らかくてふわふわしてる髪の毛がいちいちあたしをくすぐるので抵抗する気も薄れていくからたまらない。

翼はどこもかしこも猫に似ている。どこがと言えば、気まぐれで甘えたなくせに自分が一番えらいと思っているところとか、ちょろまか動いて人を落ち着かせないところとか、小悪魔のように自分の魅力を知っていてそれを有効活用できる賢いところとかがまるで女王様の膝の上できらびやかにかざりたてられるペルシャ猫みたいだと思う。翼を抱きしめるとウサギとか子犬とか猫とかを抱いた時のようにヘンに胸の辺りがはやる。翼は体温が高いうえに皮膚が薄いのでそれが握りつぶせてしまいそうな小動物を思い起こさせるのだろう 実際にはあたしより翼の方が大きいし筋肉だってついてるし力も強いしあたしを簡単に追い倒してしまえる。そういうときの翼はとても嬉しそう。翼はあたしより偉くて、きれいで、強い。


「・・・つばさ」
「ん」


呼べばぎゅっと抱きしめてくれる腕が好き。翼の体温があたしにうつって温かい。机の上に投げ出されたままのシャープペンとルーズリーフはどんどなたしの熱を忘れていく。あたしの小論文の中の児童はまだ第一次性徴でとまっているので彼らは手をつないで遠足にいけるしお風呂であひるさんを浮かべて遊べる。翼があたしの指に自分の指を絡めてくる。痛いくらい握りしめられてあたしは笑った。


「なに」
「嬉しいの」


ごきげんな翼にキスしたらそのままベッドに追いやられてしまった。









(さよなら心理学の単位!)