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イルミはアホだ。私は自信をもってそう断言できる。何か国語もしゃべれようが1000種を超える毒の名前とその効果とそれを含有する動植物の名前を挙げられようが62パターンある飛行船の操作を3日寝てない状況でも間違えなかろうが、それは賢いとか賢くないとかいう問題じゃなくてなんかこう・・・・・・人間の本質的なものっていうのかなァ 本能が欠けてるっていうか いや動物的な本能はそれはそれは研ぎ澄まされていらっしゃるんですがね イルミは人間として決定的に欠けているものがあると思う。そのせいでイルミはアホになってるアホに見えてしまう。ホントはアホなんかじゃないのに。アレ、最初と言ってることが違くなってしまった。 「アホだね」 おまえに言われたくないんじゃボケェてめぇがアホだっつってんだろが と言ったら能面顔のイルミにそのまま首を落とされてしまうに違いないので私は全神経を使って自分の口にチャックをかけた。私えらい!この瞬間ロウソクの火のように一瞬でかき消されてしまいそうだった一人の命を救ったよ! 昔イルミに会ったばかりのころ「ご趣味はお持ちですの?」と訊いたら「何も」と答えられてそのあと「お好きなお料理は?」「何も」「お好きなお色は?」「べつに何でも」「お好きな音楽は?」「あんまり聴かない」というやりとりを経て私はこんなヤツもう知るかと思って猫かぶるのを放棄してぞんざいな言葉遣いで「あんた生きてんの」「つまんない男ね」「鉄仮面」などなど今考えればよく生きてられたな私!と思えるほどとんでもない暴言の数々をぶつけた結果なにを思ったのかイルミの方がこの見合いを進めたいというものだからゾルディックより格下の殺し屋一族としては断る理由なんて何もないしむしろ断れないしで4人姉妹の次女である私はイルミの所有物にされてしまったのである。これ聞いただけでイルミにはどっか欠落があるの思わない?何を考えたら自分のことを「殺人ロボット」と罵る女と婚約しようなんて思うのさ?貴方Mですか? ぶっちゃけ私は人身御供なわけでゾルディックが大きくなりすぎて仕事が全部そっちに行っちゃって殺し屋連中は商売あがったりだからゾルディックと手を結んで仕事流してもらいたい弱小はごまんといる。その手段としてイルミはちょうど適齢期だし娘を差し出すのが一番てっとり早い って今は何時代よ封建世代でもあるめーしよもや自分が政略結婚させられようとは夢にも思ってなかった。イルミはどうだか知らないけど(鉄仮面ですから)私は別にイルミが好きなわけじゃない。それに気づいてないならアホだし、気づいてて私との婚約を進めたんならやっぱりアホだ。アホ。可哀想ですらある。 「紅茶飲む?」 「コーヒー淹れて」 イルミの趣味は読書だと思う。暇さえあれば分厚い本を開いているのだ。目がしょぼしょぼするほど小さい字を大きな黒目で追いかけているときは何を言っても返事は返ってこない。だから私は珍しくイルミの方から要望が返ってきたことにかなりびっくりした。 「なに読んでるの」 「『啓蒙思想の変遷と社会契約説との関係性について』」 なんじゃそりゃ。 趣味のよいカップに濃いめのコーヒーをなみなみ注いで持っていくとまっくろい目が私をまっすぐ見上げるので少しどきりとした。イルミは私が今までに殺してきた誰よりも感情のない表情をしている。まっくろな髪と目とまっしろな肌。イルミはよい意味でもわるい意味でもお人形に似ている。 「母さんに仕事したいって言ったんだって?」 「私ぜったい主婦なんていやだもの。夫と子供の世話に生き甲斐を見出すなんてムリ」 イルミはまじまじと私を見つめて「そうだね」とうなずく。 「が母さんみたいになったら嫌だね」 「せいぜいイルミに殺されないようきりきり働きますわ」 キキョウ様の息子たちに対する愛情には素晴らしいものがある。キキョウ様はとくに年下組を溺愛しているのでもう十分大きくなったイルミはそのかん高い愛からだいぶ逃れられているけど長男だったのだからキルアがある程度になるまではずいぶん大変だったんだろうと思う そういや自分より10も年下のキルアが後継者だなんてどんな気持ちなんだろう。うちは姉貴が継いでるしなァ それともコイツまさか 「俺がなんでを殺すの」 なにも感じてないとか 「え、なに?」 「アホだね。なんで俺がを殺す必要があるのかって話」 2度もコイツにアホと言われた!私はちょっとカチンときてつんと顔を横向けたりしてみる「私アホじゃないし」アホなのはイルミで愛してもいない女と婚約しなくちゃいけない状況に気づいてないイルミであって私じゃない。なぜなら私はこの結婚に愛がないことを知ってるしちゃんと納得してるからだ。私って賢い! と思ってニヤニヤしてたら横からにゅっとイルミの白い腕が伸びてきて私の鼻をつまんだ ああぁ伸びる伸びる伸びる!いくら私の鼻が低いからってなにすんだてめェ! 「アホ。はバカだよ」 「あんで! どこぁ!」 「俺はのこと愛してるよ」 わかってないのはだしアホなのもだよ俺じゃないのわかる? 私はまさかの事態に凍りつく。 イルミが優しく髪をなでてくれるので私は不覚にもどきっとした。不覚にも! うっかりしてた に ちがいない
(わ わたしはアホじゃないから!) |