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家に帰ったら玄関に黒色も鮮やかに革靴たちがきちんとそろえてあった。あたしはそれを黙って見つめてから突き当たりのリビングのドアを開ける。 「おっかえりなさーい!」 「・・・・・・・・・」 私は懸命にも無言を貫いた自分を褒めてやりたい。社会に進出して早5年、よもや高校生だった頃のうっかりした過ちのせいで未だに悩まされるとは誰が予想できただろう。青春を謳歌していたあの頃のあたしにボランティアに参加なんてしたら最後だと助言してやるか もういっそのこと殴って気絶させてやりたい。女子部の憧れだった男子部サッカーエリート集団がこんな変人だらけだったなんて 例え想像できなかったとはいえ安易なボランティア精神は将来の危機を招く そう今はあたしの危機だそれも貞操の。何せ今あたしの目の前にいるのはバニーガールの格好をした 藤 代 だ 。 「あえて訊く。何やってんのあんた」 「だって今日はちゃんの誕生日じゃん? だからご奉仕しようと思って(てへ)」 「・・・・・・・・・・・・(アホだこいつ)」 ご丁寧に長い耳までつけてにこにこ笑っているが藤代だってもう成人してるしおまけにスポーツ選手なのだ ガタイはいいし見苦しいったらない(オエェ)。あたしは早々に藤代に見切りをつけて、こっちもホクホク顔で料理をテーブルに並べている渋沢と目をあわせた。よかった着てるのがメイド服なんかじゃなくて 渋沢までそんな格好をしていたら洒落にならない(藤沢だけでも笑えないけどね!)シンプルなモスグリーンのエプロンがよく似合っておりますこと。 「お帰り。お誕生日おめでとう」 「ありがと渋沢。すごい、ペペロンチーノじゃない」 「おまえ好きだったよな。あ、勝手に台所使ったけど悪いな」 「うんまあ・・・そう思うならコイツどうにかしてほしいな」 あたしが藤代を指さすと、渋沢は「ははは、本当だよな」と笑った。あぁでも持ち帰ってはくれないんですねあのしゃべる公害 なんだよ気持ち悪いないい加減その網タイツ脱いでくれないかな目の毒だっつーの! 藤代はあたしの視線に気づくとさぁんと手を振ってきた。もうたとえ裸でも良いからその格好をやめてほしいんですお願いします。 「藤代それアンタ恥ずかしくないの」 「ぜーんぜん? だってコレちゃんのためだもん。俺なんだってできるよ」 「・・・・・・・・・・・・」 これがストーカー精神ってヤツかとあたしは悟った。 渋沢の作ったお母さんのご飯より美味しいパスタとシチューを食べ 藤代の悪酔いしそうなバニーショーを見て 食器の片づけをしてくれた渋沢とようやくちゃんとしたスーツに着替えてくれた藤代(なんでスポーツ選手のスーツ姿って違和感があるんだろう もちろんバニーガールよりはマシだけどね!)と並んで再放送ドラマを見ながら渋沢がくれたシャンパンを飲んでいるところでようやく最後の1人がやってきた。 「お、やっと来たな」 「三上先輩 遅いっスよー」 「悪ィちょっと長引いてな」 上着とネクタイを同時にするりと取り去るしぐさは学生の頃から変わらない。無駄に色っぽいと思うのはあたしだけじゃないはずだ。だって昔の三上は同時に3人の女の子と付き合うくらいのことはしてたもの、渋沢がいつも困ってた 尻拭いが大変だって。だけど渋沢はそのころに三上から拭ってやった子と結婚してるんだから人生さっぱり分からない。あたしだって三上は嫌いだったんだ なんだあの歩くフェロモンみたいな男!て思ってたぞ間違いなく。 「お帰り」 「ん、ただいま お帰り」 それが今じゃ頭の上にキスされて喜んでるようになるんだから、ほんと人生さっぱり分からない。もちろん顔には出しませんけどね! 「ちゃんさぁ、ホントに三上先輩と結婚しちゃうの」 「なんか文句あんのかよ」 「だってちゃんはみんなのちゃんだったのにさー。あーあ、三上先輩ほかにも女の子いっぱいいたんだから別の子でも良かったじゃないっスか」 「ばか言え」 短い否定に幸せを感じるようになったらお終いだと思う。三上はそのまま自分の部屋に行ってしまったので、藤代は「ちぇー」とか言ってかばんに放り込んであったあの白い耳をあたしの頭にかぽんとハメた。・・・はあ!? 「ちょっと!」 「似合うよちゃん。そのまま三上先輩におねだ「帰るぞ藤代」 「あれ、藤代はもういますぐ玄関から投げ捨てたいくらいだけど 渋沢は別に帰らなくても良いのに」 「ちゃんひどい!」 「俺もあんまり遅くまではいられないからな。三上も帰ってきてタイミングもいいし、もう失礼するよ」 やわらかく笑って頭をぽんぽんとなでられた。嫌がる藤代をひきずって帰っていく渋沢はたしかに頼りがいのある人だと思う。廊下で渋沢が三上といくつか言葉を交わして がっちゃんとドアが閉まる直前、「それ誕生日プレゼントですー!」という声がこっちまで届いた。プレゼントってこれか、耳か、耳なのか藤代? 「おまえ何だそれ」 「やー・・・プレゼント?」 ぴょこんと飛び出た耳は、まあ可愛いと言えなくもない。三上が作りおきのペペロンチーノとシチューを食べてるあいだ、あたしは頭を揺らしてみたり指で引っぱってみたりして 藤代から貰ったプレゼントを精一杯好意的に使用してみた。耳はふわふわしていてさわり心地も良くて、あたしは少しだけこの耳が気に入った。カチューシャ部分も硬くないしね、つけてて痛くならないって大事よ。 「そんなにそれが気に入ったのかよ」 ちょっと不機嫌そうな声で背もたれの後ろから三上の声。振り向きざまにキスをされてそのままソファから抱き下ろされる。ついでに耳もとられて、かわりに三上の手が首に回った。 「三上?」 「指輪はもうやっただろ。つーかおまえいい加減に三上って呼ぶのやめろよ」 もうすぐおまえも三上だろ。 突然、目の前にある形のいいつむじとか短いけど綺麗に並んでるまつげとか首筋に当たるまっすぐな腕とか、なんかそういうものたち 三上を作ってるパーツたちがとてつもなく愛しくて いとしくて あたしの胸がぎゅっとなった。薄手のセーター一枚の三上はホントに歩くフェロモンだよ あたしは頭までぐらぐらしてしまう 三上があたしの名前を呼ぶから ダメ。 「」 耳たぶに温かくキスをされてあたしは身体中の力が抜けて 頭の先から足の裏までへにゃへにゃになっていく。今日なにがあったのかとか 全部わすれてしまうよ。ふわふわしてる三上のセーターからは三上のにおいがする。なんだこれ、のうみその中まで三上でいっぱいじゃないの どうしてくれるの! 「幸せだろ?」 あたしを抱きしめながら勝ち誇った顔。 おまえなんか 大好きだよ! (時計兎を追いかけてく前にひきとめてね) |