「そんなことは全く問題じゃない」


翼くんはそう言って脚を組みかえた 細い脚 サッカーやってるはずなのにおかしいなぁ、ハーフパンツからのぞくまっすぐで白い足はすごく綺麗で はっ、あたしまさか負けてる? 翼くんに負けてる女として?


聞いてるの」
「はい聞いてます聞いてます もぅ身体がぜんぶ耳になってます!」


がくがく頷くと翼くんはふっと小さく笑った。そしてソファの下 翼くんの足元に正座するあたしの頭をくしゃくしゃにする。それはとても気持ちいいんだけれどあたしはちょっと不満、だって髪をまた戻すの大変なんだよ翼くんが好きな指どおりのいい髪に戻すの大変なんだよ だけどあたしは女の子だからいくら大変でも女の子としてここは外せないの。あたしは翼くんの膝にほっぺたをおしつける。かたくて尖ったひざ。あたしのとは違う あたしのはこんなにゴツゴツしてないし、もっとふにふにしてる。

おとこのことおんなのこってどうしてこんなに違うんだろう 一緒でもなんの問題も無いのに あたしと翼くんの身体はとても違う。翼くんは全ておとこのこで あたしは全ておんなのこだ。


「・・・は猫みたいだね」


翼くんはここしばらく苛々 というより不機嫌な日が続いてた。歩き方とか手の握り方とかかばんの置き方とかそういうところがとても不機嫌だった。あたしはそのたんびにおろおろして わたわたして 紅茶カップひっくり返したり机におでこぶつけたりして いやそれが翼くんの苛々をふやしてるんだと思うんだけど 分かってるんだけど でもどうしようもないっていうかそれがあたしっていうか、あれちょっと目がつーんとするよ・・・!

ぎゅぅって翼くんの膝を抱きしめると頭をなでてくれてた手がどっかいって 代わりに耳のうえのほうにちゅってキスしてくれた。翼くんはとても優しい。優しくてかっこいい。ちゅうせいのきし みたいだと思う。幼稚園 小学校 中学校とずっと一緒だったのに高校ちがっちゃって残念だ あたしは翼くんの告白され記録がどこまで伸びたのか知りたくて仕方ない 翼くんに訊いても紳士な翼くんはなにも教えてくれないのだ。むかしは何でも教えてくれたのに。お花の名前も公園への道もぶらんこのこぎかたも星がよく見えるところもあたしの大嫌いな英語もサッカー選手の名前も教えてくれたのに。


、起きてよ」


あれ、そういえばあたし怒られてたんじゃなかったっけ。あたしは思い出して翼くんの膝から顔をおこす。なんで怒られてたんだっけ えぇと今日も翼くんは不機嫌でムスッとした顔で帰ってきて あたしはおばさんとお茶してたからお帰りって言ったんだけど翼くんからはうんって うんだけだよお帰りって言った彼女にうんって あたしはがーんと顔に縦線が入ってしまって それを見たおばさんがケーキを翼くんに持っていったらって言うからうちの冷蔵庫とは比べ物にならないくらい片づいた冷蔵庫の中からさっき自分で持ってきたフルーツケーキをだして さぁ切ろうとナイフをとったら間違ってナイフの柄じゃなくて刃のほうを持っちゃってぶすりと ホントにそういう音がした そしてあたしの手からどばーっと血が出ておばさんが悲鳴を上げて2階の部屋にいた翼くんがびっくりして駆けつけてきてあたしもびっくりして 床には血だまり 目の前には真っ青になったおばさんと翼くん あたしもふらぁって きっと血が出すぎたんだと思うんだけど それで翼くんがベッド貸してくれて手のひらの手当てもしてくれて そうだったそれでもっと注意して物事にあたれって翼くんが怒ってたんだ。そうだ思い出した 翼くんは静かに矢継ぎ早に言葉をついで叱るので最初は向かいのソファに座っていたはずのあたしはいつのまにか床に正座していたんだんだった。だけど翼くんの部屋にはカーペットが敷いてあるのでぜんぜん冷たくなくて逆にちょっと眠くなっちゃって ごめんなさい甘えないでちゃんとお説教も聴くよ翼くん! あたしを見捨てないで!


「ごめんね翼くんもう眠くないよ翼くんの膝でじゅうてん? したから大丈夫、ちゃんと怒られるよあたし!」
「(充填じゃピストルじゃん充電だろ)怒られるようなことしたってちゃんと分かってたんだ、へぇ」
「もちろんだよ! あたしもっとしっかりするね英語で7点よりいい点だってとれるようになるね!」
「(・・・・・・7点・・・・・・)できるの英語きらいじゃん。ちゃんと毎日英語の勉強できる?」
「するよ! 大丈夫あたし根性はあるよただちょっと英語が嫌いなだけだよ26個しか文字がないのがいやなだけだよだからちゃんと勉強するよ!」
「(ローマ字が嫌いって全否定かよ)じゃぁちゃんと落ち着いて行動できるんだね?」
「できるよ! これからは おおいわのごとくどっしりかまえて行動するよ! だから翼くんも元気になってねあたしがんば 
あいたァ!」


調子に乗って翼くんの膝に両手おいたらビリってなって右の手のひらが痛くなって翼くんに巻いてもらった包帯がちょっと赤くなった。ああぁ痛いいたいイタイ! 痛くて泣きそうになったけどがんばるって翼くんに宣言したもんがんばるよ! ぎゅって目に力をいれて涙こらえて ぎゅって唇かんで声も我慢して そしたら翼くんが「バーカ」と言ってあたしのわきのしたに腕を回してぐいっと強い力で引き上げたので気づいたら翼くんの膝の上にのっていた。すごく近くなった翼くんは涙目になったあたしのまぶたを舐めて「言ったそばからまったく落ち着いてないね」と言った。あたしは泣かなかったのに叱られてしまったのでがっくりした。がんばったのになぁ。


は昔っからバカだよね。なんでも俺がフォローしてさ。手がかかるよまったく」
「・・・・・・違うもん。翼くんが何でもやってくれるから何もできなくなっちゃったんだもん。のせいじゃないもん翼くんが悪いんだから あっかんべー!」
「・・・・・・・・・(なにこのこホントに俺と同じいきもの?)」


翼くんはちょっと黙ってそれからあたしのくちびるにキスをした。いつもより少し長くてあたしの上唇とか下唇をなめたり噛んだりするからあたしはびっくりして あたしの唇はケーキじゃないよ翼くん! 身体が翼くんの膝の上で小さくはねた。「・・・ん、ふ」息の仕方が分からなくなって苦しくなって口を開けたらちょっとしか開いてないのに するっと空気じゃないものが口の中に入ってきて それがあたしの歯とか上あごとかをな、なでるので、それが翼くんの、その、し、した(・・・)、だと分かった。いつのまにかあたしの背中と頭の後ろに翼くんの手があって、髪の中に差し込まれた指が耳をくすぐるので背中がしなった。「ん、んぁ、ふ・・・ぅゃ」なにこれあたしの声じゃない なんだか、えぇと、そうひわい! な感じがしてい、いやだな。ほっぺたをなでた翼くんの指はびっくりするほど冷たかった いやそれともあたしのほっぺたが熱いのかな 最後にちゅっと音を立てて翼くんは離れていった。あたしは大きく息を吸ってふらふらする脳に酸素を取り込む。ななな、な、何が起こったんだいま? キスってこんなもんだったっけ? あたしはぐるぐる ぐるぐる回る頭で一生懸命かんがえてみるけど、翼くんの部屋とか水族館とか公園とかでくれたキスはこんな かきまわされるようなものじゃなかった、と思う。あれ?


「つ、つばさ、くん」
「・・・、もうちょっと大人になってよ。英語できるようになってよ。ケーキ切れるようになってよ。まっすぐ歩けるようになってよ」
「つばさくん」
「俺おとこのこじゃないんだよもう。なんで分からないんだよおまえ。おまえだっておんなのこじゃないだろ分かってんの?」


翼くんはあたしを抱きしめてバカ、と言った。あたしは初めて翼くんにすがりつかれているような気持ちになって(錯覚だってわかってるけどね)翼くんのふわふわしてる髪をなでた。やっぱりここは、あたしが、悪いのかなあ。あたしバカだから分かんないよ翼くん。だってあたしは女の子で翼くんは男の子でしょ?


「翼くん、かなしいの?」
「・・・・・・違うよ。いいよ分からないなら」
「よくないよダメだよあたし翼くんに元気になってもらいたいもん」


翼くんはうん、と頷いた。あたしの首の下に押し付けられてた翼くんの顔が動いたせいで翼くんの鼻があたってくすぐったい。くすぐったいよ翼くん。そう言うと翼くんはふっと微笑って顔を上げてあたしのおでこと翼くんのおでこをくっつけて にっ と笑って「ここに住みなよ」と言った。あたしはそのときの翼くんの顔がかっこよくて かっこよくて また頭がふらってなった。


「翼くん、頭がふらふらする。血もでてないしキスもされてないのに頭ふらふらするよなんでだろう! 翼くんがかっこいいからかなあ!」


翼くんはまたちょっと黙ってぎゅっとさっきより強い力であたしを抱きしめて耳元で言った。















攫ってくぞ

このやろう。



















(なんでおまえはそんなに可愛いの)