et’s do it , Let’s fall in love



幼馴染の梨華ちゃんは、言う。

「よっすぃー、好きよ」


それがさも当たり前のように。
まるで、空が青いとか。
1月の朝は寒いとか。
そういう風に。
ごく当たり前に。


「よっすぃーのことが好きなの。ずっとずっと、一緒にいよーね?


だけどさ。
ちょっと待ってよ、イシカワさん。
言われる度に、あたしは思う。
それって、なに?
幼馴染として、好きってこと?親友ってこと?
それとも…その……愛しちゃってるって意味で好きってこと?


「大好き、よっすぃー」


まるで歌うように、楽しげに繰り返す彼女。
恥ずかしげもなく人前でも口にする。


「よっすぃーは、私のだよっ」


ちゅって、音をたててあたしの頬にキス。
あたしの首に腕を巻きつけて頬ずりする幼い仕草。
それは子供の頃から変わらないことだから、あたしにその真意は伝わらない。
その……信じちゃって、いいのかな?


「よっすぃー、ずっと傍にいて。私から離れないで?」


だけどさ。
後輩の子からチョコを貰ったりとか。
駅で見知らぬ子からコクられたりとか。
そんなことのあるあたしだけど。
間違いなく、梨華ちゃんと同姓の女の子な訳で。
だからさ。
それを、そういうことを躊躇なく言う梨華ちゃんの態度に不安になる。


「よっすぃーが一番」


それはやっぱり友情としての好きで。
恋情としての好きとは……違うのかな?
だって、本当に女の子が女の子を好きになっちゃったら
やっぱり考えちゃうよね、普通。
そんな風にさらっと、ごく当たり前みたいに、軽く口には出来なくなっちゃうよね。
……あたしみたいにさ。


「よっすぃーは?」


だから、あたしは。
曖昧に笑うだけ。


「よっすぃーは、私のこと、好き?」


んー。
どーだろ。
曖昧に答えて。


「よっすぃーのいじわるぅ」


飛び込んできたその身体に腕を回せずに、手持ち無沙汰な手を見つめ ちょっとだけ悲しくなる。


「よっすぃーは冷たいよ」


本当は、抱き締めたい。
好きだよって、頬に触れる冷たい耳に唇を寄せささやきたい。
だけど。


「私がこんなに好きなのに」


梨華ちゃんが、『好き』って言葉を軽々しく言うから。
あたしのこの重い『好き』が果たして彼女に伝わるか心配で。
口ごもってしまう。


「……もう、いい」


あたしがどんなに梨華ちゃんの言葉を茶化しても。
いじめても、からかっても、いつも微笑んでた。
だけど、その日は何故か違って。
あたしに巻きつけた腕をはずすと、梨華ちゃんはそのままとぼとぼとどこかに
歩いて行ってしまった。
冬の夕暮れ。
あたしはしばらく立ち尽くしてたけど。
後を追うことにした。
放っとけない。
『好き』だから。
梨華ちゃんが、好きだから。






夕闇に沈もうとする、紫紺の街の片隅で。
うつむいてブランコに乗る、梨華ちゃんを見つける。


「梨華ちゃん、帰ろ?」

「いいの。放っといて」


制服姿で、コートもマフラーもしてない梨華ちゃん。
あたしは自分が巻いていたマフラーを外して、梨華ちゃんの首に掛ける。
梨華ちゃんの前にかがんで、細い首に幾重にも巻いてぎゅっと結びつける。


「痛いよ、よっすぃー」

「あ、ごめん」


顔を上げた梨華ちゃんは、微笑む。


「よっすぃーは優しいね」

「そんなことないよ。さっき冷たいって言われたばっかじゃん」

「あれは、嘘。よっすぃーは優しい」


梨華ちゃんの目は、闇の中できらきらと輝いてた。
その目にひきつけられるように、視線が離せなくなる。
梨華ちゃん…。


「そんなよっすぃーが、好きなの」


また、いつもの『好き』が出た。
あたしはちょっとだけムカつきながら聞く。


「梨華ちゃんさ、いつもそう言うけどあたしのどこが好きな訳?」

「全部!!」


即答されて。
あたしは更にムカつきながら言う。


「大体、梨華ちゃんの好きってなんな訳?幼馴染として好きってこと?それとも…」

「好きは好きだよ?よっすぃーのことが好き。ずっと一緒にいたいの」

「だからぁ、好きってゆーのはさー…その、likeなのかloveなのかって
聞いてんだよ!!」


へ?
そんな感じに、梨華ちゃんは小首を傾げて。


「勿論、loveだよ?愛してるの。
バレンタインのチョコにもちゃんと書いたでしょ?よっすぃー愛してるって」


そういう冗談半分みたいな行動があたしを惑わせてるんだよ…。
胸の中でつぶやいて。
だけど。
ちょっとづつ頬が紅潮していくのを感じる。
心臓の音が、どんどん早くなっていく。
それって……その、信じちゃって、いいんだよね?


「お、おかしいじゃん。そんなの。
梨華ちゃん、解かってる?あたし、女の子だよ?」


それでも、確かめたくて。
確証を得たくて。
あたしは言葉を続ける。


「解かってるよ〜。小さい頃はよく一緒にお風呂入ったじゃん。
てゆーか、通ってるの女子校じゃん」


さらっと、軽く。


「だけど、好きなんだもん。よっすぃーのこと」


梨華ちゃんがあたしのこと、あたしが梨華ちゃんのこと、
好きだってことがごく当たり前のことのように。
梨華ちゃんは平然と言う。


「私と、恋しよ?だめ?」


ブランコから立ち上がる。


「だって、みんな恋してるよ?
美貴ちゃんだって、亜弥ちゃんだって、柴ちゃんだって」


手を広げて、訴える。


「お隣りのポチだって、お向かいのタマだって
この草むらの陰で、虫たちだって恋してるんだよ?」


歌うように、梨華ちゃんは言う。


「だから、私たちも恋しよ?」


それが、ごく当たり前のことのように。
あたしが今まで悩んできたことを、全部なかったことにして。
さらっと、梨華ちゃんは言ってのけた。


「だめ?」


暗くなった公園。
ぽつりぽつりと並ぶ街灯に灯が点る。
梨華ちゃんの頬がその温かな光に照らされて、明るく染まる。
今、公園にはあたしたちだけ。
ううん、きっとそれだけじゃなく。
今、この世界にはあたしたちだけ。



梨華ちゃん。
ずっと好きだったんだよ?
大好きだよ。
ずっとずっと、一緒にいたい…。
そんな溢れる思いを胸に、あたしは彼女を抱き寄せた。


「だめ、じゃない…」


やっとの思いで、一言、ささやくように声にしながら…。







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