な み だ








 あたしの敵。
 それは石川梨華……



 「よっすぃーのバカぁ」

 「うわ、ちょ、待て。悪かった。謝るから。ごめんって」



 の、涙だ。



 「謝ってんじゃん!!泣くなよ、バカ!!」

 「バカにバカってゆわれたぁ」

 「あ、悪い。すまん。頼む、泣くな」



 てゆーか、あたしはバカってコトですか!?



 「うぇぇ…」

 「ごめんてば。ね?梨華ちゃんの好きなのにしていいから。
  ほら、ピンク!!ね、ピンクにしよう!!」

 「うっ……ホントにぃ?」



 俯いていた顔を上げ、梨華ちゃんはあたしを見る。
 最近、パッツン切った前髪から覗く、潤む瞳。



 「ホントホント」

 「でも、よっすぃー嫌なんでしょ?」

 「嫌じゃない。いいよ。ピンク。うん。ピンクピンク」

 「ホントに?」

 「ホントだって。マジで!!」



 にこっ。
 さっきまでの涙はどこへやら。
 途端に、梨華ちゃんはご機嫌に微笑む。



 「じゃあ、コレで決まりね♪」



 対してあたしは深いため息。
 はぁぁぁ…。
 それに構うことなく鼻歌交じりにレジへと向かう梨華ちゃんの背を
 見ながら、あたしは想像する。
 あたしのモノトーンで統一された部屋にピンクのカーテンが掛かる様を。
 ……メンバーにバレたら、ぜってー笑いもんだ。



 「よっすぃー、早く早く〜」



 梨華ちゃんの声に、あたしは暗い気持ちで歩き出す。
 なんで梨華ちゃんを自分の部屋のカーテンの買い替えに
 つきあわせちゃったのかなぁ…なんて、あとの祭り。
 こんなことなら、親にテキトーに買いに行かせた方がまだましだった。



 実際、その後すぐに梨華ちゃんとの会話からあたしの部屋のカーテンの色を
 知ったミキティに死ぬ程笑い倒された。
 ちくしょー。






 あたしは、梨華ちゃんの涙に弱い。
 とゆーかアレは反則だろー、といつも思う。


 梨華ちゃんはところ構わず泣く。
 ビデオを借りに行って、アクションものを借りるかホラーものを借りるかで
 揉めたときも、目に涙を溜めて主張。
 『エクソシスト』握り締めて泣くなよ…。
 夕飯を外で食べようってなって、イタリアンにするか中華にするかで
 揉めたときも、涙を滲ませながら主張。
 このときは譲り合ってファミレスと無難なオチになったけど。
 あのときは本格的なピザが食べたい気分だったんだよなぁ。石釜焼きのマルゲリータ…。


 と、まあ、梨華ちゃんはところ構わず泣く。
 眉をつりあげたり、眉間に皺を寄せたりしながら
 目一杯に涙を溜めて。
 ときにはぽろぽろとそれをこぼしながら。
 そーするとさ。
 あたしが悪かったかなって気分になってくんじゃん。
 あー、ごめんごめん、って。
 いいよいいよ、梨華ちゃんのいい方で、って。
 だけど。
 そーなると、梨華ちゃんはすぐに泣き止んで。
 にこって笑って頷くんだよね。
 その笑顔が、あたしにはこう見える。



 『してやったり』



 ……ハメられた?
 気付いたときには遅くって。
 いつも物事は梨華ちゃんのいいように運ぶ。
 それでもときどき。
 泣けばいいってもんじゃねーよ!!
 とか。
 コーイーツーはぁーーー!!!
 とか。
 思うことも勿論あるんだけど。
 それでも、譲っちゃうんだよね。


 大体、往来で泣かれたりすると、世間的にいかにもあたしが
 泣かしたみたいに見えちゃうじゃん?
 目深にキャップ被って、ジーンズに黒Tとかだと
 見ようによっては男が女泣かしてるみたいに見えちゃうし。
 それでなくてもおっきいあたしがちっさい梨華ちゃん泣かしてると
 やっぱ、何アレ……みたいに人に見られるし。
 だけど、ご機嫌にビデオをレンタルしたりファミレスで注文する梨華ちゃんを
 見てると、思う。




 ズルいよな……。


 絶対、コイツ、泣けばいいって思ってるよな……。




 あたしは絶対、人前では泣けない。泣きたくない。
 基本的に多分、それは梨華ちゃんも同じで。
 ハローのみんなとかといるときは、全然泣かない。
 それどころか、辻とか年下メンの前では自分が我慢して
 ちょっとやそっとの無理な要望も聞き入れちゃったりしてる。
 おねーさん顔で。
 だから勿論、2人っきりでいるときしかこんなに簡単に泣いたりしない。
 だからこそ、なんてゆーか。
 ちょっと嬉しかったりもする。正直。
 あたしだから、泣いてくれる。
 あたしだから、その弱い部分を見せてくれる。
 信頼されてる。許されてる。愛されてる。
 だから、あたしも信頼し、許し、愛そう。
 梨華ちゃんを全部。
 そのわがまままでも。
 ……だけど。






 「いやっ。絶対、こっちがいいっ」

 「どっちだって、機能はおんなじじゃん。それに、コレはうちの壊れた
  コーヒーメーカーの買い替えで梨華ちゃんには……」

 「こっちのコーヒーメーカーの方が可愛いんだもん」




 多分、このままヤツのわがままを受け入れ続けたら
 あたしの部屋も生活もピンクで埋め尽くされてしまう…!! 




 だけど。




 「うぅっ……」

 「あっ……えっ、その…」

 「うっうっうっ」

 「ごめん、なさい」 

 「うぅぅ」

 「……いいよ、ピンクにする」




 いまのところ、全戦全敗。
 あたしの敵は、とっても手ごわい。





                                          〜Fin