『Spring Has Come ?』 窓の外を見て。 そろそろ桜のシーズンだよなぁ。 お花見行きたいなぁ。 …なんて思ってたら、携帯が鳴った。 着信は仕事中の筈の石川。 なんかあったのか? と取ってみれば開口一番 「よっすぃー、お花見行かない?」 楽しそうな石川の声に。 あたしはふたつ返事で家を飛び出した。 *** 当然っちゃー当然だけど。 待ち合わせの場所にはいつもうちらの使ってる移動用の車が止まってて。 近づくと開いたドアの中からスタッフさんと石川と石川にひっつくようにして 座ってるしげさんがいた。 まあ、最初っから二人っきりとか思ってないけどさ。 何も言わずに待ち合わせの場所だけ言って切るからさ。 ちょっとだけ、その、二人でお花見……とか、考えちゃうじゃん。 まあ、そんなことないだろーな、とか思ってたけど。 だけどさ。 ちょっとだけ、石川とあたしとスタッフさんたちって図を想像してて。 もしかしたらさ。 スタッフさんたちが気を使って、その、あたしたちを二人にしてくれたりとかしないかなー… なんて。 思ってたりとかしたりして。 「吉澤さん、遅ぉーい。今、石川さんと二人で先行こうって言ってたトコなんですよっ」 そんな甘い幻想は一遍にさめた訳だが。   *** 「ね、石川さんっあれ、あれ食べましょっ」 「コラ、さゆ。お花見ってのは屋台を見るコトじゃなくってお花を見るコトがメインなのよ?」 「解かってますって。後で見ますよぉ。あ、ほら、あのわたあめ、ハム太郎ですよ!!」 石川の腕をひっぱって走り出すしげさん。 石川は石川で、困ったように、だけど満更でもないって顔でそれにひっぱられて歩く。 「道重、ちょっと落ち着きなさい。石川の腕引っ張らないで」 「あんまり大きな声出すなよ。周りにバレるだろ」 スタッフさんにいくら注意されても、しげさんはどこ吹く風ではしゃぎまくる。 あれ? もしかしてあたしって居る意味なくない? なんでココにいんだろ? てか、呼んだのお前らだろ、石川にしげさん!! 何、放置してんだよ? ったく。 あたしは付かず離れず、といったカンジに二人の後を付いて回る。 集合した時間が既に夕方近かったせいか、辺りはすぐに暗くなってきて。 屋台の灯りがまぶしく感じてくる。 今、石川としげさんは飴細工の屋台に興味津々。 二人して子供みたいな顔しちゃって。 石川さん、さっき屋台に夢中になってるしげさんになんて言ってましたっけ? 20歳になったんだよ、もう立派な大人だよ、って騒いでたのって アナタじゃありませんでしたっけ? 放って置かれる腹いせにそんな皮肉を考えて。 でも石川の横顔から目が離せない。 屋台を照らすオレンジ色の灯りに照らされた石川。 そしてその石川の袖をひっぱって笑顔を向けるしげさん。 その姿に、何故か急に辻と加護を思い出す。 なんでだろ。 しげさんの笑顔に応える石川の笑みが、なんてゆーか、お姉さんってゆーか …その、母性ってヤツ?を感じさせるからだろうか。 辻と加護。 あたしたちの二人の子供。 元気でやってるだろーか。 いや、勿論しょっちゅう仕事場で会うけど。 思えば今朝のフットサルの練習で、辻と話したけど。 だけど。 やっぱり、卒業する前と後では何か違って。 違ってて……。 「よっすぃー、見て♪」 石川の声に我に返ると、うさぎの飴細工を持った石川がすぐ横にいて、あたしに笑みを向けていた。 「はい」 と、あたしに反対の手に持っていた虎の飴細工を差し出す。 「よっすぃー、虎、好きでしょ?」 屈託なく笑うその顔は、初めて会った時の幼い笑顔の断片を残していて。 「石川さんっ」 しげさんに呼ばれて振り向いて見せた横顔は、あの頃とは比べようもなく大人びていて。 「ほら、よっすぃーも行こう?」 ぴょんぴょん飛んで手招きするしげさんの手に握られた飴細工が石川とお揃いのうさぎで なんかちょっとムっとしたけど。 「さゆ、口にさっきのわたあめついてるよぉ」 スタッフさんから貰ったウェットティッシュでしげさんの口元を拭う石川を見て。 まあ、3人目の子供って思えばいっか。 そう思ったら、なんだか途端にしげさんが可愛く見えてきた。 「吉澤さん、何してるんですか〜?」 少し離れたトコからしげさんの張り上げた声。 ばっか、周りにバレるだろぉ。 「よっすぃー、早く早く」 …石川まで。 脱力するあたしの代わりにスタッフさんがすかさず叱るけど。 どこ吹く風で二人は笑顔であたしに手招きしてる。 この二人、どっか似てるかも。 うん、やっぱりしげさんは、3人目の子供に決定かも。 「よっし、しげさん。あたしと金魚すくいでもすっか」 「ダメだよ、よっすぃー。金魚すくって帰ってどうするの?飼えないでしょ?」 「だいじょうぶだって。ほら、行くぞっ」 *** 時刻が夕方から夜へと移ろいで。 人がどんどん多くなってきた。 はしゃぐしげさんがはぐれてしまわないよーに、マネージャーさんが しっかりとしげさんの右手を掴んだ。 それに続くあたしと石川。 そのまた後ろにスタッフさん。 混んできたから、あんまり横に並んで歩けない。 コレって、さ…。 もしかして、もしかすると。 手とか、繋いじゃっていい状況? てか、手、繋ぐべき状況なんじゃない? いいや、むしろ繋がなきゃだよね? だってさ、ほら。 人が多いし。 はぐれちゃったら大変だよ? 石川ってしっかりしてそーでやっぱりどっか危なっかしいし。 ほら、自然に、自然にそっと…。 石川の手を握る。 そんなこと、全然初めてとかじゃないのに。 ごくごく自然なシチュエーションなのに。 なのに。 なんか、どきどきした。 ふっとこっちを向いた石川の顔にびくっとして。 だけど、嬉しそうにふわっと笑うから。 あたしは思わず石川の手をぎゅっと握る。 石川もそれに応えてぎゅっと返してきて。 あ、なんかちょっと、いい雰囲気。 ヤバい、なんかどんどんドキドキしてきたかも。 どーしよ、手、汗とかかきそー。 あたしが動揺し掛けた時。   うわーーー… 辺り一体がどよめいた。 なんだなんだ? 石川の顔を見て、その上げられた視線の先を見ると… 一陣の風に吹かれて、桜の花が上空を舞い散っていた。 「すっごぉい」 しげさんの声に 「うん、すっげー」 素直に同意してしまう。 と、その時。 「んん?」 石川が繋いだ手をぎゅっと引っ張って。 振り向くと、イタズラっぽい笑顔で口元に繋いだ手を持っていって。 しぃってポーズをしながら、そのまま歩き出す。 えっ?えっ? 何も意味が解からずに、あたしは石川についていく。 周りの人はみんなバカみたいに上を見上げてて。 誰も私たちに気付いてない。 勿論、マネージャーさんもスタッフさんも、しげさんも。 だけどあたしはそんなことよりも。 石川がさっき口元に手をやった時。 しぃって息遣いがあたしの手に当たって。 それになんだかまた意味もなくどきどきして。 ぼーっとして石川について行った。 多分、その時、あそこで何かを考えて行動していた人がいたとすれば。 それは石川だけだっただろう。 *** 「きゃー、すっごぉーい」 石川に手を引かれてやって来たのはその公園の奥の奥。 桜が群れを成して植わっているトコからかなり離れた深緑の中。 一本だけ離れて咲く桜は、だけどさっき見たのよりも濃いピンク色で。 なんだかすっごく綺麗だった。 「ココね、穴場なんだって。ケメちゃんに教わったの」 …なんか、圭ちゃんに教わったってトコがちょっとだけアレだけど。 でも、うん。 いいね、ココ。 まさに穴場。 「ホント、すっごいね」 だって、ホラ。 あんなにいた人がココには全然いないし。 「ねっ」 誇らしげに胸を張って微笑む石川の笑顔を、スタッフさんからもしげさんからも 独占出来るし。 「お花見って、久しぶりなんだぁ。よっすぃーは?」 「んー、そーだね。久しぶりかも」 「そっかぁ」 嬉しそうな石川を見て。 またどきどきする。 一端放した手を、石川がもう一度、さりげなく繋いでくる。       だからまた、一層どきどきして。       もう、心臓がありえないくらいどきどきばくばくしてる。       「今日、迷惑だった?」       「え?全然。なんで?」       「……よっすぃー呼ぼうって言ったの、私だから。迷惑だったら、悪いなって」       俯いた石川の髪を風が吹き上げて。       さらさらと揺れる石川の髪までもが、愛しいと思った。      「んなコトない。ぜってーない」       思わず力説してしまったあたしに、石川は顔を上げて。       可笑しそうにふふっと笑った。       「よかった」       「その、むしろ、嬉しい、よ…?」       肝心なトコで照れてしまって言えない。       それがあたしの弱点だって解かってる。       だから頑張って、思い切って口にするけど。       「私も嬉しい」       そう言ってさらっと流す石川に、なんだかちょっと腹が立つ。       なんだよ。       人が折角勇気出して言ってんのにさ。       もっとちゃんと、受け止めろよ。       もっとちゃんと、理解してよ…。       「よっちゃんと、桜を見れて嬉しかった」       何をさらっとそんな嬉しいこと口にしてんの?       しかもなんで過去形な訳?       「これで、またひとつ思い出が出来た」       なんで思い出とか、言うの?       「さ、戻ろっか。さゆたち、心配してるね」       だからあたしは、腹を決めて。       勇気を振り絞って、石川の腕を掴む。       「もうちょっといいっしょ?」       え?       そんなカンジの石川の顔に。       ええい、くそ、となけなしの勇気を奮い続ける。       「あたしは、もうちょっと石川とこうしてたい」       ぽっと石川の顔に石川の好きなピンク色が浮かぶ。       コレって、もしかして、イイカンジじゃない?       「いいでしょ?」       調子に乗って続ける。       こうなったらいくしかない。       「………うん」       うつむいた石川から、いつもみたいな勢いはなく。       出会った頃のような、か細く可愛い返事が返ってきて。       あたしもぼっと頭に血が昇る。       「い、いし、いしかわ…」       噛み噛みで言葉を続ける。       繋いだ手をぎゅっとして。       「その、そのさ、その…」       バカみたいにどもりながら先を急ぐ。       伝えるなら、今しかない。       ずっと先送りにしていた問題。       卒業する前にははっきりさせなきゃいけない答え。       あたしたちのコト、思い出になんてしたくないってコト。       あたしが石川を好きだってゆーコト。       そして、多分、おそらくは、石川も……。       「ふっ」       石川は上目遣いにふっとあたしを見上げて。       笑みを零す。        さっきみたいなイタズラっこみたいな笑みを。       そして       「今日はラジオの日だから。始まるまでだからねっ」       そう言って、あたしの手を解くと桜の木に向かって駆け出した。       「うぇ、ちょ、ちょぉ…」       急に置いてきぼりにされて。       固まり掛けてた決心がへにゃへにゃとしおれてく。       な、なんなんだよぉ。       今、絶対イイカンジだったよ?       なんで待っててくれないのさ、石川!!       「待てって!!」       掛けた声に石川は振り返って       「いいよ、焦らなくって」       時間は、まだ少しだけど残ってるんだから。       ふふっと笑って。       桜の木に抱きつく。       それって、ラジオのコト?それとも、あたしたちの関係のコト?       そんな野暮なコトは聞けなくて。       あたしはただ桜と戯れる石川を見つめ。       来年も、再来年も、卒業したって何年経ったって、ずっとずっと。       石川と二人、こうやって桜を見上げていけたら、と。       祈らずにはいられなかった。       「でも、早くしてくれないとどっか行っちゃうんだから」       「えっ!?」       「…なんでもない」       「………はい」       あたしたちの春は、もうそこまで来てるけど、まだ、厳密には……来ていなかったり。                            从*・ 。.・)< 石川さぁん、ドコーーーーーーーぉ!?                                      〜 FIN