大人になるコト 君といるコト  









   〜今日は成人式、街には振袖姿がちらほらと……



   ピっ。



   知ってますよう、そんなコト。
   知ってるもん、知ってるもん、知って……



   ぴろりろりーん



   『梨華ちゃん、今日は成人の日だよ〜。まあ、あたしは今日も
   スタジオなんだけどさ。梨華ちゃんは去年振袖着た?
   今日着れなくても、振袖の一枚くらい買っておこうかとも
   思ったんだけど、忙しくって結局………』



   プチっ。


   だから知ってるっつーの。
   思い出させないでよう、真希ちゃんのバカぁー。



   気を紛らわせようと雑誌を開いても。新聞を開いても。
   なにもかも、全て今日は着物づくし。
   成人式づくし。
   もうもう。
   だから知ってるってば!!


   絨毯の上に転がした携帯を拾って、受信メールを開く。




   『明日は色々あって連絡出来ないかもだけど、
   明後日にはそっち行くから』




   夕べ届いた、よっすぃーからのメール。
   解かってる。
   そんなの、ずっと前から聞いてたし。
   今日一日くらい連絡取れなくったって、不安になったりしないよ?
   いい子で、待てるもん。
   大人しく。
   1人で。



   今日は、成人の日。
   よっすぃーの、成人式の日。
   芸能人のよっすぃーは、お仕事もあるし、やっぱり会場の混乱とかも心配だし
   式には行かない。
   だけど、お仕事から帰ったら、家族が用意してくれた振袖を着て
   今日は、よっすぃーは家族と過ごす。



   こんなことはよくあること。
   例えば、そう、家族の誕生日とか。
   兄弟の入学式とか卒業式とか。
   家族が揃う1日。
   家族だけの1日。
   私は、そこに加わることは出来ない。
   勿論、私の誕生日とかクリスマスとか、お正月だって、そうじゃない日だって
   1年の大半は私と一緒にいてくれて。
   私の部屋で過ごしてくれる。
   2人っきりで過ごしてくれる。
   だけど。
   何年も付き合って。
   少しづつ大人になっていくと。
   こういうのが結構ツラいんだなって、思うようになる。
   私には、なんでもない普通の1日。
   だけどよっすぃーの家族には大切な1日。
   私には、関係のない1日。 
   だけどよっすぃーには関係する1日。
   その重みが、私に圧し掛かる。


   日陰モノの私。
   かわいそうな私。
   ひとりぼっちの私。


   ……ううん。
   だけど、もっとかわいそうなのは、家族想いの優しいよっすぃー。
   よっすぃーは私といる限り、恋人を家族に紹介出来ない。
   私と家族、どちらかを選び続けなきゃいけない。




   携帯を握って、うねうねとそんなネガティブな考えに落ちていく。
   だって。
   いつもいつもポジティブばっかじゃ、つらいんだもん。
   たまには、ネガティブに悩みたい。
   素で、落ちるトコまで落ちて考えてみたい。
   ……せめて、よっすぃーのいない、こんな日は。



   「男の子だったら、よかったのになぁ」



   男の子だったら、よっすぃーの家族に紹介とかして貰えて。
   家族行事とかにちゃっかり同席しちゃったりして。
   お父さんと仲良くなったり。
   お母さんにお料理教えて貰ったり。
   あ、お母さん、お茶なら私がやりますぅー…って、違う違う。
   私たちのことを知ってる人には


   「よっすぃーが男の子だったら良かったのにね」


   なんて物知り顔で言われるけど。
   実際は女の子っぽいのはよっすぃーで。
   サバサバしてるのは私の方。
   家事も全然出来ないし。
   やること大雑把だし。
   ……まあ、じゃあ男の子になるか?って言われたら嫌なんだけど。



   とにかく。
   私たちはお互いを親に紹介することも出来ない。
   日陰の恋人たち。
   まあ、そろそろ親たちも何か感づき始めているっぽいんだけど。
   だからこそ、よっすぃーのおうちになんて行けない。
   どんな顔して行ったらいいのか。
   それはきっと、よっすぃーだって同じ。
   うちに連れて行くのは簡単だけど。
   連れて行ったって、何もおもしろいことなんてある筈もない。
   その上、進展するコトもない。


   悲しいかな、日陰の恋。


   ……あ、コレをお題にして詩でも書こうかな?
   で、つんくさんトコ持ってって、曲にして貰って、次の美勇伝の新曲にして貰うの。
   きっと感情乗って、イイカンジに歌えると思う。
   名案じゃない!!?
   ……って、そんな曲、事務所が許す筈ない、かぁ。
   私とよっすぃーのコトは、事務所のトップシークレット。
   グループが分かれて、安心したのか注意の目は緩くなったけど。
   それでもまだまだ事務所内で私たちへの禁止項目『いしよしコード』は生きている。



   ああ、悲しいかな、日陰の恋。



   真希ちゃんに返信でもしよっと。





  * * *





   真希ちゃんに返信をしたり、柴ちゃんと電話したり、なんやかんやと
   しているうちに疲れてしまい。
   はっと気が付いたら、部屋はまっくら。
   寒い部屋のソファの上で、うたた寝している私がいた。
   あー……、1日を無駄に過ごしちゃったなぁ。
   ダメだなぁ、私。
   カーテンを閉めて、電気を付ける。
   時刻はもう夕方。
   はぁ、とため息をついて、暖房を付ける。



   ダメな私。


   よっすぃーがいないと、生活も儘ならないの?



   ヒーターの前に座り込む。
   手持ち無沙汰でTVを付けたら、また成人式のニュースが流れてた。
   まったく飽きもせずにまあ。




   〜色とりどりの振袖。今年の流行としましては……




   私も去年、家族が振袖を用意してくれたけど。
   結局、殆ど袖を通すことはなかった。
   当日はお仕事だったし。
   出来上がって、試着をしに行って袖を通したのと
   成人式を過ぎてから身に着けて家族に見せたのくらい。
   色をこだわって、赤から淡いピンクに変わっていく絞りにしたり
   帯の柄を大きな花柄にしたくて取り寄せたり
   すごく時間を掛けて選んだものなのに、結局今では箪笥の奥深く。
   よっすぃーにも、見せてないなぁ。
   あ、試着のときはしゃいで撮った写メは送ったけど。
   反応は薄かったし。
   実際着て見せたりはしてない。
   ……よっすぃーは、どんな着物にしたのかな?
   そういえば、よっすぃーの振袖の話、してないなぁ。
   色は何にしたんだろう?
   青かな?
   そんなイメージだよね。
   きっと、色白のよっすぃーには、着物、似合うんだろうなぁ。



   見たいな、って。



   そう思ったけど。



   見れないんだ、って。



   解かってた。



   きっと、これからも。
   こういうコトって沢山ある。
   こんな些細なコト。
   だけど、大きなコト。
   私はそのひとつひとつに耐えていく覚悟をしなきゃいけないんだ。
   薄暗い部屋で、ぼんやりとそんなことを思った。




   それが、よっすぃーを好きになること。




   それが、よっすぃーとずっと一緒にいるということ。




   絨毯に寝転がって、天井を見つめる。
   何度も見た天井。
   よっすぃーとじゃれあって、見上げた天井。



   お互いの誕生日が来るたびに、指輪を贈りあって。
   新年が来るたびに、今年もずっとずっと一緒にいようって約束しあった。
   抱きしめ合い、幾度も交わした誓いのキス。
   それは、不安だから。
   幾ら約束しても足りないくらい。
   不安で不安で。
   未来なんて見えなくて。
   どちらかが手を離したら、すぐにひとりぼっちになってしまう。
   そんな暗闇の孤独の中に私たちは立っていて。
   だから、繰り返し誓いあった。
   未来のない、約束を。
   無邪気に寄り添っていた子供の頃を、私たちは過ぎてしまったから。



   よっすぃーに、会いたかった。



   よっすぃーの振袖姿が見たかった。



   でも、電話なんて出来なかった。



   「よっすぃー……」


   呼んだ声が、ヒーターの無機質な音に掻き消されて。
   力なく、夜に落ちていく。



   いつか、こうして。



   私は力をなくして。



   落ちていくのだろうか。



   1人。



   1人きり……。



   「会いたいよう……」



   泣くのは嫌いだし。
   明日はお仕事だから目が腫れるのも嫌だったし。
   私はぐっと堪えて、目を閉じた。
   そうだ、柴ちゃんに電話して来てもらおう。
   うんと我が侭言って。
   柴ちゃんが来てくんなきゃ死んじゃうって。
   来てもらおう。
   で、2人でどっかへ遊びに行くの。
   もう、この際、中澤さんちでも保田さんちでも構わない。
   飲みに行こう。
   飲んだくれて、飲んだくれて、柴ちゃんを困らせるの。
   柴ちゃんだけじゃない。みんなみんな、困らせて。 
   ……唯一、困らせることのできないあの人のコト、今日だけは、忘れよう………。





  * * *





   気が付くと。
   私はまた、自分の部屋に寝転がってた。
   あー、私、またうたた寝しちゃったんだぁ。
   …あれ?
   柴ちゃんは?
   飲み会は?
   あれ?あれ?
   ……来ないと、死んじゃうって言ったのに。
   電話口で、あんなに駄々こねたのに。
   来てくれなかったんだぁ。



   「柴ちゃんの、薄情ものぉ……」



   「薄情なのは、オメーだろ」



   返ってきた声にびっくりして振り返ると、ソファにいる筈のないよっすぃーが座ってた。
   振袖姿のよっすぃーは、案の定、綺麗だった。



   「……な、なにしてんの?」



   「それもこっちの台詞だっつーの」



   綺麗な振袖の袖口をぐっと捲り上げて。
   よっすぃーは腕を組んで見せる。
   白くて長い、綺麗な腕。



   「いい?ひとつだけ約束して」



   よっすぃーの綺麗な目が私を睨む。 
   私は、石になったみたいに動けなくなる。



   「死ぬときは、あたしに言え」



   「……ぇ?」



   「死にたくなったら、柴ちゃんじゃなくって、あたしに言え。
   あたしに断りなく、死ぬの生きるの言うな」



   私を睨んだまま、白い腕が伸びてきて。
   あたしの肩をがしっと掴む。
   痛いくらい。
   ぎゅーって。



   「返事っ」



   「は、はいぃ」



   慌てて返事をしたら。
   よっすぃーの強張ってた顔が、緩んで。
   そして、ぎゅっと抱き締められた。



   「柴ちゃんから、電話来て。冗談だって解かってても、怖かった」



   押し付けられたよっすぃーの首筋からは、いつもの香水の匂いはしなくて。汗くさくて。
   よく見たら、結われた髪もボロボロで。



   「死ぬとか、言うな」



   よっすぃーの涙が、私の首筋を濡らした。



   「……ごめん」



   よっすぃーに、ぎゅっと抱き付いた。
   温かい、よっすぃーの身体。
   私を、心配してくれる、愛してくれる、優しい身体。



   「寂しかったの?」



   「……うん」



   寂しかったの。
   不安だったの。
   でも、よっすぃーには言えなかったの。



   「ごめん、そんなだったって、気付かなかった」



   ふるふると頭を振ると。
   よっすぃーはぎゅっと、強く強く抱きしめてくれた。



   「よっすぃー、好きだよぅ」



   「あたしだって、こんなに愛してっから、夜中にこんな格好で駆けつけてんでしょぉ」



   「てゆーか、なんでココにいんのよぉ」



   「オメーが泣いてるからだろ、バカぁ」



   「よっすぃーだって泣いてんじゃない、バカバカバカぁぁ」



   顔を、よっすぃーにぎゅっと押し付けて。
   よっすぃーの汗の匂いに包まれて。
   今日ずっと拭えなかった寂しさが、不安が、嘘のように消えていくのを感じた。



   そう、だよね。
   バカみたい。



   腕の中でふふっと笑った私を覗き込んで、よっすぃーは不思議そうな顔で
   優しいキスをくれた。



   ねえ、よっすぃー。
   2人で、考えよう。
   未来のこと。
   大人になるコト。
   君といるコト。
   きっと2人でなら、解決できるよね?
   よっすぃー、大好きだよ。
   愛してる。
   なにがあっても。
   どんなことになっても。
   ずっとずっと、一緒にいよう?



   そのために、少しづつ。
   私たちも変わっていこう?
   少しづつ、ゆっくり、大人になっていこう?



   「よっすぃー、好きだよぅ」


   「あたしも……梨華ちゃんだけが、好き」



   どんどん熱く、情熱的になっていくよっすぃーのキスを受けて。



   「よっすぃぃー」



   そのまま、絡まりあって。
   あたしたちは絨毯の上に転がって……そして…。



   「ヤバい」



   あたしの上に被さったよっすぃーの動きが止まった。


 
   「ふぇ?」



   「コレ脱いだら、あたし、自分じゃ着らんねー」



   た、たしかに……で、でも…。



   「着たままじゃ身動き取れないから…出来ねー…」



   だ、だよね…。



   「ぷっ」



   「わ、笑うよぉ」



   「だぁってぇ」



   固まっちゃって。
   可愛いんだもん、よっすぃー。



   「ふふ、可愛いー」



   起き上がって。
   頭を撫でてあげたら、むっとして。
   また伸ばしてきた手を掴んで元に戻した。



   「仕方ない。今日はオアヅケだね」



   「ええー」



   「しょうがないでしょぉ」



   折角着付けしてもらったんだから。



   「ちぇ。成人の日なのにさー」



   そう言って、頭をがしがし掻いて。
   そっぽを向くその横顔が愛しくて。
   愛しくて。
   幸せだった。
   多分、こうして。
   私たちは少しづつ、一緒に、大人になっていくんだと思えた。





   少しづつ。
   ゆっくり。
   私たちは、大人になろう。
   ねえ、よっすぃー?






                                      〜Fin