『Summer moon』








   私たちは、幼くて。

   無邪気にじゃれあって。

   愛を貪って生きていた。

   ねえ。

   輝いていたあの夏は、もう二度と戻らないんだね。







   秘密の恋は、私たちに不思議な結びつきと安らぎを与えた。
   よっすぃーは深夜、人目を避けて私の部屋を訪ね。
   私を安心させるように、自分を安心させるように、強く強く私を抱いた。

   私は春も夏も秋も冬も、夜になると目を閉じて。
   静かに、彼女の訪れだけを待った。
   来れないと解かっている日でも、待つことを止められなかった。
   秘密の恋だったから。
   私たちはその結びつきにしがみつき。
   秘密の恋だったから。
   不安になる程に、わずかな安らぎに喜びを感じた。


   だから。


   いつからか、私たちがすれ違い始めても。
   それでも一緒にいた。
   手を離せなかった。
   それは意地だと人は言うかもしれないけど。
   でも、それもまた愛だった。
   それでも隣りにいたいと願った。
   この手に繋がったぬくもりを手放すことなんて出来ないと、月を見上げ祈った。


   だけど。


   だけど……。








   心優しいよっすぃーは、私を傷つけることを口に出来ず
   そのはけ口を求めるように……浮気をした。

   そうと解かっていても私は嫉妬して、酷いことを一杯言った。

   二人とも、心も身体も傷つき疲れきっていた。

   お互い、何度別れの言葉を口にしただろう。

   でもその度に必ずどちらかがそれを遮って。
   よっすぃーが私の口をキスで塞いで。
   私が泣いてすがってよっすぃーの言葉を飲み込ませ。


   そして、そのまま。


   なかったことにした。


   忘れるために、封印するために。
   抱き合った後の虚しさ。
   寄りかかったよっすぃーの湿った体温。
   そのぬくもりの切なさ。

   これじゃいけない。

   そんな警告音が私の中にも、きっとうつろな瞳でただ宙を見つめていたよっすぃーの中にも
   響いていた。

   だけどそれを、二人で遮断して。

   私たちは、お互いのぬくもりにすがった。

   私たちには、私たちしかいなかった。
   少なくともそう思い込む程に、私たちは私たちの愛を盲目に信じていた。


   そうして、いつしか私はよっすぃーの浮気に目をつぶることを覚え。


   よっすぃーは私のわがままを優しく抱きしめて聞き流し続けた。


   それで上手くいくなんて。
   そんなことを思える程大人ではないから。
   留まった感情が、どんどん私たちの内側を壊していった。








   死ぬの生きるのという話も、1度2度交わした。
   小娘二人が好きの嫌いので生死の話になるなんて、と笑われるかもしれないけど。


   その時は真剣で。



   1度は……








   いつものように。
   ただお互いがここにいることを確かめ合うためだけに、抱き合って。
   眠りについて。
   けれど、息苦しさに目を開けると。
   よっすぃーが私の首に手を掛けていた。








   いつしか、交わされる言葉は減り。

   交わされる視線も減り。

   私が涙を流しても、よっすぃーは理由も聞かずにただ抱き寄せるだけになった。


   二人で歩く時。
   そっと繋がれる手はもう、反射で。
   そこから伝わるぬくもりは、どこか空々しく。
   私を一層切なくした。
   それでも、そのぬくもりは私には必要で。
   手放すことなんて、出来ないと思っていた。








   このままでいいじゃん。


   悪魔なのか天使なのか。
   何かが私に囁く。

   このままでいいじゃん。
   目を閉じて。
   涙を一滴流したら。
   よっすぃーに抱かれて。
   二人でまたひとつ、封印する。

   よっすぃーはそれが何を封印するための儀式だったかなんて知らなくて。

   私もよっすぃーが何を封印したくてそうするのかも知らなくて。


   それでも、そうすれば。


   また、私たちは明日から恋人同士で。


   そっと人目を忍んで手を繋いで歩いていく。


   何も変わらない。
   それでいいじゃん。


   …そうだね。


   私は、目を閉じる。

   だけど。



   涙は、出なかった。








   ベッドから見上げる月は、青く。

   晩夏の生ぬるい風が開け放たれた窓から室内に流れ込み。

   私は、ただよっすぃーの白い綺麗な背を見ていた。


   焼き付けるように。


   じっと。


   愛してる。


   でも。


   もう、終わりにしなきゃいけないんだね。


   こうやって。
   あなたの温もりに。
   優しさに。
   変わらないこの日々に。
   甘えあっていたら。
   きっとお互いが駄目になってしまうから。
   目を閉じると。
   今度こそ、涙がこぼれた。








   月だけが知っていた、私達のこの恋は。


   いま、小さな花火みたいにひっそりと終るの……。




                                         END